REPORT

「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポート⑤流通編

ART BOOKS 2019.07.31 Written By 川合 裕之

フリーペーパーとZINE を作りたい人のための言志の学校の第2期が開講しました。

フリーペーパー専門店只本屋とわたしたちアンテナが共同主催する『言志の学校』というこの学校では、ライティングやデザイン、印刷や流通といった紙モノの製作に関わるエキスパートを毎回ゲスト講師にお迎えします。講師陣の授業を参考にしながら、全4回の期間内に1冊の作品を自分で作り上げて流通させるまでがゴールです。

 

この日は、京都ではお馴染みの書店・大垣書店で総合企画部に在籍する大垣 守可さんに流通のお話を伺いました。本の流通をお仕事にされている人の視点から様々なお話を伺うことで、いまから制作するZINEやフリーペーパーを後世に残して「見つけてもらい続ける」ためのヒントをいただきました。

講師紹介

 

株式会社大垣書店総合企画部課長代理。京都市生まれ。佛教大学卒業後、東京の出版社に就職し雑誌編集などの仕事に携わる。約3年半の勤務後、株式会社大垣書店に転職。アルバイトから始め、ステップアップの試験を受けて現在に至る。主な業務内容は様々な企画立案、運営と「堀川アートアンドクラフトセンター(仮称)」プロジェクトのリーダー。

減っている本、残っている本

まずは自己紹介もかねて出版業界の昨今の事情・書店の今を語っていただきました。

 

「人前でトークをするときは毎回この話をして胃が痛いのですが、この業界の現状について」と、大垣さんは本や出版にまつわる様々なデータを見せてくれました。

 

「20年間で本の数は減り続けています。ターニングポイントは96年ごろ。というのも、情報の速さでネットが新聞を追い抜いたんです。塵も積もればでやってきた書店ですが、その塵がインターネットに吹き飛ばされたというか」

 

現場のプロが、結果だけでなく原因にまで切り込んだ分析を教えてくれました。しかし、原因があるとうことは、解決策もきっとあるということ。

 

「じゃあ、気になるのは “どんな本が売れているか?” ということですが、常から実感するのは消費される情報ではなく、ユニークな切り口がある本が残っているなということです」

 

最近だとWIREDなどがこれにあたるとのこと。消費される情報ではなく、斬新な視点。生き残っていく鍵は、消費されずに「残る」ものをつくることでした。そういえば、この夏リニューアルされて異例の重版となった雑誌「文藝」などがこれに当たりますね。

本屋さんは本を読まない?

と、このように書くと語弊があるかもしれませんが、大垣さんは「とにかく選書に時間をかけている」と語ります。すべての本を読むことはできない。書店に携わっていれば余計に視野に入ってくる選択肢は広がるので、読む前に吟味する時間を非常に重視しているのだとか。

 

「インディージョーンズじゃないけど、ハズレ引いたら骨になって散るみたいな覚悟で本を選んでいます(笑)」とまで力説します。

 

そんな大垣さんが、本と出会って買うか/買わないか、読むか/読まないかを判断するためにチェックするポイントを教えてくれました。これから本を作る人はもちろん、そうでなくとも書店で本を選ぶときにも役に立つポイントです。フリーペーパーもZINEも、基本的にはどこかに置く(置いてもらう)ものなので、こうした視点を持っておくとよいでしょう。このような細かいところにまで気を配れると、作品をより多くの人に届けることができるはずです。

前書きと奥付が大切!

「みなさん読んでますか?僕はめちゃくちゃ読んでます!」

 

前書きと奥付。この2つをとにかく熟読することから大垣さんの読書ははじまるといいます。それぞれ、どのような意味があるのか教えてもらいました。

前書きとは?

その名の通り本編の前に記されたものです。ときにこれは本の要約だけでなく問題意識や課題が書かれています。この問題意識や課題に共感できれば、それはきっとその人にとって良い本になるはずです。

奥付とは?

巻末に印字された本の情報。題名や著者名はもちろんのこと、編集者や訳者のクレジットもここに載っています。極めつけは「いつ発刊されて、どのくらい重版されたか?」という情報。何年にもわたって重版されているロングセラーかどうかは、ここで知ることができます。

「いまから本をつくるみなさんには、是非この「奥付」と「前書き」を用意して欲しいなと思います」と大垣さんは説きました。

見つけてもらうためのアピールが大事

自分で制作をするとなると、特に前書きは「恥ずかしいから」「こんな私が」と委縮して書かずに済ませてしてしまいがち。けれどもどうか恥ずかしがらずに書いて欲しいと大垣さんは受講生を促します。

 

「ちなみに僕は “あとがき” もよく読みます。本との距離感がわかるんですよ。いつ、誰が、どんなタイミングで書いた本なのかということがわかります。要約という意味では目次も重要ですね。逆に目次だけで内容が全部予測できてしまうような情報だけの本は僕は読まないように心がけています」

 

とにかく本は読んでみないと中身がわからない。表紙や扉、触った瞬間に目に飛び込んでくる文章。そうしたものに惹かれないとすぐに棚に戻されてしまうのだとか。また読者のことを意識するのはもちろんですが、こういうアピールがないと、書店員もどこの棚に本を置いてよいのかわからないので、やはり前書きや奥付は本づくりには必須の項目とのことです。

生まれてから死ぬまで、10冊作るのが当たり前の世界へ

大垣

ここ数年で「本は自分で作ってもいいんだ」とみんなが気付き始めたんですよね。本の良いところは沢山ありますが、私が大切に思っているのは独立していること、体系だっていることです。

 

電子書籍は端末やサービスに依存していますが、紙の本は最悪太陽さえ出てくれていれば読むことができます。本には終わりがあります。完結しないといけない。それはつまり体系があるということです。

 

そもそもどこにも答えはありませんが、このような「本」を作ることは生活を豊かにしてくれることだなと。

目じりを落として大垣さんはそう語ります。

大垣

自分で考えて自分で書く。そういう行為が、もっと一般的になっていく世の中になればよいなと思います。人がひとり生まれてから、死ぬまでにその人が10冊は本を作るのが当たり前。そんな世界があると面白いなと感じています。みなさん是非これからも頑張ってください。

最後に、力強い励ましの言葉をいただいて大垣さんの講義は終了しました。流通のプロ視点からのお話を伺うことで、いま私たちが制作に必要なヒントを垣間見られたような気がします。

最後に、もう一度デザインを学びます!

ともあれ作品を届ける前にまずは完成させないと。作品の最終調整を目前とした受講生の背中を押すようなデザインのマインドを後藤多美先生に教えてもらいます。

 

※後藤先生の講義レポートは近日公開となります。

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