COLUMN

【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり

(C)2008 WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

泣くよ!!!!!

 

いきなりすみません。いやでもね、そりゃあ泣くよ、悪いかよバーカ。トイ・ストーリーは全人類が泣くようにできてる。もはや反射。人間の体はそうやって出来てるらしい。

 

いやあ、『トイ・ストーリー4』は本当に良かったですね。「蛇足だ」とか「 “それ” を言っちゃあおしまい」という批判の声もありましたが、でもそうやって不満の声を漏らした人だって絶対に泣いている。

 

泣くよ。そりゃ泣くよ。

 

でも今日は『トイ・ストーリー3』のお話をさせていただきたく。

『トイ・ストーリー2』以降の曖昧な記憶をゲオで取り戻す

(C)2008 WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

「1」の内容は覚えてる。お気に入りのウッディが、新入りオモチャのバズに嫉妬して大喧嘩。なんやかんやで仲直りして、お互いが良いバディになって結託。そんでもって悪ガキのシドを撃退する。それだけは強烈に覚えています。

 

じゃあ「2」と「3」はどうだったっけ? あんまりちゃんと覚えてない。妹が出てくるのは「3」だっけ? 曖昧な記憶を取り戻すべく、近所のゲオで「3」を借りてくる。

 

ああ、なるほど、そんなだった。

 

オモチャの持ち主のアンディが、やっとこさ大人になる。大学進学を機にオモチャを整理しないといけなくなるわけです。幼稚園に寄贈されたオモチャたちは「これでまた遊んでもらえる!」とまんざらでもない気分でしたが、幼稚園のオモチャたちはお世辞にも「いいやつ」とは言い切れずにひと悶着……。

 

なるほど、この冒険でボニーという幼女に出会って、それが「4」に繋がるわけだ。また「4」で大きなテーマとなった「遊ばれないと俺たちオモチャの存在意義がない!」みたいな焦燥感は実はここから既にはじまっていたわけですね。

そんなことより、育児の終わり

いやいや、そんなことより。

 

「そんなこと」呼ばわりするのは彼らとしても不遜でしょうが、敢えてこう書こう。そんなことより。そんなことより僕が一番泣いちゃったのは、アンディのオカンが自分の息子を見送るシーンなのです。

 

それはほんの一瞬の出来事でしたが、あの手この手でピクサーのジャブを受け続けて弱っていた僕の涙腺は、あのシーンで見事に決壊しました。

 

大学進学を機に家を出るアンディ。子ども部屋を整理して、すっかりがらんとしてしまった部屋を目撃したアンディのオカンが感極まってしまうのです。

 

ほら、例えば引っ越しして退去するとき。なんにも無くなって素っ裸になった部屋を見て「ここに3年とか4年住んでたんだよな」と感傷的になるじゃないですか。多分あれの進化系です。この部屋に18年間息子がずっと暮らしていて、小学校に上がり、声変わりして、PCもねだられて……それで今に至るわけです。[注1]

育児の終わりのその瞬間を自覚した途端に、いままでの子育ての思い出が一瞬で全部フラッシュバックして「oh…」と感情が溢れてしまう。わかる!わかるよ!いや、僕子どもいないけど!でもわかる!わかってないとしたらこの涙は一体なに?!

 

息子の前でも涙を隠しきれないアンディのオカン、家で一人だから一切涙を隠さない僕。心配する息子のアンディ。誰にも気にかけられることなく一人で涙を拭う僕。カットは切り替わり、再びオモチャたちの世界へ。バズもウッディもそっちのけで泣き続ける僕。再生を一時停止されたため一旦動かないウッディ、一旦落ち着こうと水を飲む僕。

 

なぜだろう。2010年の公開当時15歳の僕はなんとも思ってなかったのに。今の今までこんなシーンあるなんて覚えていなかったのに。とにかく、僕はもう泣くこと以外は何もできない。

[注1]なおアメリカでは子どもと一緒の布団で寝る、みたいなこともほとんどありません。赤ちゃんの時からずっとベビーベッドです。だから本当に生まれてすぐからあの部屋はアンディの部屋だったのだと思います。

映画『6才のボクが、大人になるまで。』でも同じように泣かされたのを思い出す

(C)2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

そういえばリチャード・リンクレイター監督作の『Boyhood』(2014)[注2]でも同じようなシーンがありました。これはある少年が青年になるまでの物語。役者を変えずに12年間かけて作った快作です。ドキュメンタリーではないフィクションの劇映画ですが、その画面は本物。子役が、本当に成長しているのです。

そんな最強センチメンタル映画『Boyhood』の終盤、先の『トイ・ストーリー3』と同じようなシーンがあります。巣立つ息子を前にして感情が溢れてしまう母親(パトリシア・アークエット)の姿です。彼女もまた育児の終わりを嘆き悲しむのです。[注3]

 母

This is the worst day of my life.
  「もう最悪やな」

息子

What are you talking about?
  「オカン何いうてんねん」

 母

…sending Samantha off to college, sending YOU off the college…
  「(中略)お姉ちゃん大学やって、ほんでアンタも大学いかして、」

 

   You know what’s next?
  「ほんでアタシの人生、このつぎは?」

 

   Huh? It’s my fuckin’ funeral!
  「なに?しょーもない葬式あげるだけやわホンマ!」

そういえば当時もこのシーンに盛大に泣かされたのだった。映画館を出禁になるかもしれないと心配するほどに泣いた。この当時筆者は19歳。『トイ・ストーリー3』の例のシーンに何とも思わない15歳の川合少年はもう居ません。なるほど、歳をとるにつれて「子育て」への琴線が敏感になるらしい。

僕のこの涙が子ども視点の共感なのか、親に憑依して流れたものなのかはいまだにわかりません。なんだろう、よくわからないけれど「そこに人がいて、そこに生活があって、そこに感情がある」という目に見えない存在そのものを愛おしく感じるのです。

(C)2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

『Boyhood』の場合は台詞もあって長尺でわかり易かったけれど、『トイ・ストーリー4』のあのシーンは違います。あくまでも主役はオモチャ、その次は強いて言うならアンディ。だから彼女の出番はほんの少しだけで、言葉もほとんどありません。しかし、あの一瞬の涙の裏にこそ、彼女の18年の歳月がたしかに隠れているのです。それはほんの微かな星であってもその光が届くまで何百年も時間をかけていることに似ている。むしろ一瞬だからこそ、高密度の感情が襲い掛かってくるのやもしれません。

[注2]邦題は『6才のボクが、大人になるまで。』です。ものを伝えるライターという職業としては「決して悪くないタイトルだな」と思う反面、映画ファンとしては「おい!なんだよそれ!」という気もする。

[注3]ちなみにこの母親を演じるパトリシア・アークエットは奇しくも『トイ・ストーリー4』にも出演。あのアンティークショップの孫娘のハーモニーの母親の声を演じました。

自分にも息子ができたとしたら

映画を観ながら、この原稿を書きながら、『Boyhood』の台詞を音読して書き写しながら、もう涙が止まらない。

 

自分にも息子ができたとしたら、いつか僕にも「人生最悪の日」が訪れるかもしれない。その日が来ても僕は彼を祝福できるだろうか。一緒にゲームしたり、母の日の準備を一緒にやったり、そういう日々はもう戻ってこない。でもそれは僕の記憶の中でだけで十分。そう割り切って息子の門出を誇らしく祝福できるだろうか。いいや、するべきだ。弱気になってちゃいけない。泣くな。

 

架空の息子に思いを馳せる。しっかりやれよユウスケ。金に困ったら頼れよ。あと俺の子なんだからお前も酒は絶対弱いぞ。気を付けろ。まあとにかく、しっかりな。困ったら言えよ。

 

ひとしきり泣いて呼吸を整える。まあいい。空想の息子に思いをはせてもキリがないからやめよう。そうだ、自分だって息子だ。自分を育てた親はどうだったろうか。平気な顔をしていたけれど、やっぱり寂しいのかもしれない。

 

そう思い立って母親にメールをしてみる。元気にしているだろうか。「来月くらい帰れたら帰ろうと思うけど、予定どうやろう」と、僕。すぐに携帯が鳴る。返事はこうだ。

 

「アンタはよ年金払わな知らんで!!!!」

 

ユウスケ、お父さんな、今月の年金払ってなかったみたいだ。

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
COLUMN
【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
REPORT
超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校…
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
REPORT
『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけ…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
REPORT
映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…

INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催者・老諾さんインタビュー

2024年2月24,25日の土日に、台中〈清水鰲峰山運動公園〉で音楽フェス『浮現祭 Emerge F…

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…