REPORT

映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶

映画『獣道』の上映に伴う舞台挨拶が先日9日、京都みなみ会館で行われました。

本映画は親の愛を受けることなく育ってきた主人公・愛衣が様々な境遇を転々としながら本当の自分の居場所を見つけようともがき続ける姿を中心に、地方都市におけるダークな人間関係を描きます。
――文字であらすじを追おうとすると、どうしても上のような文章になってしまいますが、ここで勘違いして欲しくないのはこの映画は決して後ろ向きで陰鬱な物語ではないということです。

 

 

時に物事のプロセスを大幅に省いたり、テンポよく話を転がすことで普通では澱んだ印象を与えてしまうようなエピソードにスピード感や、ある種の心地よさを感じさせてくれます。

リアルな描写の中にコミカルな演出をバランスよく混ぜ込むことで愛衣の数奇な半生を単なる非劇にさせない工夫が施されています。苦しい境遇の中でこそ見出すことのできた小さな光が、その境遇ゆえに消えそうになるというアンビバレントなシチュエーションが観客の心を掻き乱します。

 

そんなひとクセもふたクセもある物語の中で新興宗教の信者、金髪の不良ギャル、黒髪で清楚な少女、さらには風俗嬢など様々な境遇に順応する愛衣を、今注目の女優・伊藤沙莉がそれぞれの局面に応じて一個人としての一貫性を保ちながら丁寧に演じ通しました。同じく主演を務めた須賀健太や他のキャストも骨太の演技を見せてくれましたが、中でもやはり愛衣役は輪をかけて高い難易度だったのではないでしょうか。

内田英治監督(左)と女優の伊藤沙莉(右)

舞台挨拶には愛衣役の伊藤沙莉と内田英治監督が登壇。伊藤が山梨での1週間近くの撮影について「感慨深く、いろいろと考え方が変わったターニングポイントとなった」と語るのに対し内田監督は「それは初耳だ」と冗談交じりで返答するほか、彼女の出演するNHK連続テレビ小説『ひよっこ』が話題に上がった際には「僕は僕の映画の中のちょっと狂った伊藤沙莉しか知らない」という発言も。いかに『獣道』の制作にのめり込んでいたかが伺えます。

 

また内田監督曰くこの『ひよっこ』はプロデューサーのアダム・トレルもチェックしているとのこと。それを受けて伊藤は驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべていました。
内田監督は主演の2人の演技についても「しっかりし過ぎた演技をするのでは」と子役出身の彼女らの盤石なキャリアがかえって裏目に出ることを危惧していたようですが、そんな心配は無用で撮影は滞りなく順調だったと語ります。

 

須賀健太との掛け合いのシーンは難しくて大変なことも多かったと振り返り、ヤンキーを演じる際には「もうちょっと愛衣のキャラクターを崩さない程度にふざけても良かったのでは」と反省するような場面も。
伊藤は難しい役をこなしたとは思えない程フランクで軽妙。時折客席と雑談をするなど親しみやすい一面を見せてくれました。その一方で内田監督は波乱万丈な少女の半生を描ききったとは信じられないほど落ち着いた物腰でトークをしていました。

 

伊藤沙莉は2018年全国公開予定の『寝ても覚めても』の出演が決定しており、同じく主演の須賀健太は週刊少年ジャンプ連載中の漫画原作・演劇『ハイキュー!!』に日向翔陽役で出演。10月29日(日)には全国の映画館でライブビューイングも予定されています。

 

残念ながら『獣道』の関西での上映は終わってしまいましたが、一部地域では現在も上映中。イギリスのレインダンス映画祭、スペインのシッチェス映画祭、オランダのカメラジャパン映画祭などでの上映も決定しています。今後の興行や内田監督の次回作にも注目が高まります。

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
COLUMN
【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
COLUMN
【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
REPORT
超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校…
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
REPORT
『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけ…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
東京であぐねる一人の社会人による暮向の記録-砂の壁『都市漂流のために』

何かを期待して上京したある若者。数年過ぎて、東京での生活は慣れたもんだし、仕事に追われる毎日にすら何…

COLUMN
『まちの映画館 踊るマサラシネマ』 – 人生が上手く行かないあなたに贈る、映画館の奮闘記

〈塚口サンサン劇場〉はテーマパークのような映画館だ。スタッフや観客がステージで踊る。ゾンビメイクをし…

COLUMN
【2024年7月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年7月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…