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集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート⑥ デザインの考え方編

DESIGN BOOKS 2019.08.20 Written By 川合 裕之

フリーペーパーとZINE を作りたい人のための言志の学校の第2期が開講しました。

フリーペーパー専門店只本屋とわたしたちアンテナが共同主催する『言志の学校』というこの学校では、ライティングやデザイン、印刷や流通といった紙モノの製作に関わるエキスパートを毎回ゲスト講師にお迎えします。講師陣の授業を参考にしながら、全4回の期間内に1冊の作品を自分で作り上げて流通させるまでがゴールです。

最後の講義に、鬼門のデザインをもう一度学びます。弊誌アンテナでも活動するほか、某ゲーム会社でデザイナーとして勤務する後藤多美さんにデザインで迷わない秘訣を教わりました。

後藤多美
1992年京都生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。学生時代よりアンテナや個人でデザイナーとして活動を開始し、現在はゲーム会社の2DCGデザイナーとして勤務。

前回講義してくれたグラフィックデザイナーの赤井さんの講義が素晴らし過ぎて、私は何を話そう。あの授業でもうほとんど言うことないですよね(笑)そう考えて、今度は技術とは離れてデザインの「マインド」に特化したお話をしようと思います。少し「スピリチュアル」な話になるかもしれません。

 

そんな風に嘲て笑いながら後藤先生の講義がスタートしました。

 

作品の裏側で人が何を考えているか?という意外にもブラックボックスに隠れた製作の裏側を伺います。

軸はぶらさない

あれも良い、これも良いなと目移りしていては作品は決まりません。しっかりと作品の軸を設定してあげることが重要です。後藤さんが協調したのは「本当に好きなもの」を決めることでした。

 

「キャラクターが勝手に動いて話してくれる」なんて語る作家さんもいますよね。それはきっとキャラクターや物語が事前にしっかりと作り上げられているから。絶対に譲れないものをしっかりと設定しておくと衣装や台詞、話の展開もとんとん拍子に決まっていくのだと思います。この論を後藤さんはデザインにも応用します。

フォントであったり、文字のつまり具合であったり、自分の作品の持つ「キャラクター」であったり。そういったものを決める順番を誤らないことが大切なのだとか。

 

そのために、何が好きかを見極める必要があります。

 

「私の場合はずっと絵を描いてきました。しかし、ある日突然「そんなに絵が好きじゃないな?」と気付いてしまったんですよね」後藤さんは過去を振り返って苦い経験を吐露します。

司会

「絵」って一言でいっても人物がから風景画まで対象はそれぞれだし、水彩から油絵まで幅広いですよね。「絵」と広くくくってしまうことが原因だったのかもしれませんね。

頭の中にあるイメージを取り出したときに、それがどんな形をしているのか。手段と目的を混同せずに、しっかりと自分の「好き」に向き合うことが大切です。

好きを具体的にするための練習方法

とにかく、「なんとなく」から脱出して具体的に、純度の高い「好き」を持つことが重要みたいです。でもそれって、どうすればいいのだろう。それはきっと人それぞれ。特に定型の方法はありませんが、今回の講義で挙がった具体的な方法をご紹介します。

たくさん作品を作り続ける

やっぱり作るのが一番。作品をつくって、自分でフィードバック。それを次の作品にも反映させる、というサイクルを回していく方法です。

自分の「不快」に敏感になる

なんか違うな。そう思った作品やデザインを流して逃さないようにしましょう。自分がなぜそう思ったかをその都度言語化して確認してみてください。

 

そういえば、とにかく作る。これは前回授業をしてくれた『Maybe!』の小林さんはクリエイティブな人は「悪口がうまい」ともお話しされていました。

 

編集とは決断すること!小学館「Maybe!」編集長の小林由佳さんに聞く良い企画を生み出す秘訣

とにかく思っていることは全部言葉で書き出してみる

さあ、練習しよう!と意気込んでいるけれど何をして良いかわからない時にはこの方法がよいかも。手を動かして言葉にしてみることは有効な手段です。

ツリー表示にして細分化していく

上の「全部言葉に書き出してみる」の応用編にあたるのがこの方法。書き出した文言を、さらに細かく砕いていきます。

上に挙がったのはあくまでも一例ですが、このようにして不断に自分の好きを磨き続けることが「自分の頭の中をすぐにそのまま取り出す」が自由自在なクリエイターへの鍵です。自分の好きと向き合う。これは第一回の森岡さんの講義にも繋がりますね。

 

超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ

WORK:自分の作品を擬人化してみよう!

ここで後藤先生から出されたワークに取り組みます。それは「今作っている自分の作品を擬人化してみる」というものです。自分の個性や感性を明確に具体化するための訓練として有効なのだそうです。

 

例えば性別。男性?女性?それ以外?声は高い?低い?どんな服を着ている?これもできれば具体的に、ブランドや買った場所なんかまで突き詰めていきましょう。その人は何が好きで、普段どんなことにお金や時間を費やしている?そうしたことを事細かに想像してみましょう。

とにかく手を動かして、自分と向き合うことが大切です。

まとめ

デザインに必要な発想は一日にしてならず。自分と向き合って、知ったことを日々蓄積しておく必要があります。

 

集めて、分解して、理解する。普段から自分の好き嫌いを頭の中にストックしておいて、その好き嫌いの根拠を細分化して理解する。そうして理解した自分の「好き」のエッセンスをアウトプットに繋げることが重要です。

いよいよ完成間近!!

さて、今回の後藤さんの講義では、デザインひいては制作そのものの根幹にまつわる好き・嫌いの「制作マインド」をお伺いしました。

 

6月から始まったこの言志の学校も、講義を重ねて気付けば8月目前。TAKE OUT!! vol.3 Kansai Art Book Fair へ作品を出すべく、それぞれゼミの先生とも相談をしながら急いで作品を仕上げていきます。どんな作品ができあがるのでしょうか?! 

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