COLUMN

千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけど、これだけ言わせて!

MOVIE 2018.04.13 Written By 川合 裕之

画像:(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

『ちはやふる 結び』、面白かったですね。

 

派手なアクションや緊迫のミステリー要素なんてものは皆無。それなのにずっと見ていられる。ず~っと見てたい。終わって欲しくない。そんな映画でした。まるで常にアロマオイルでマッサージをされているような気分になる作品でしたね。(いやマッサージされたこと無いんだけど)

 

筆者の推しである森永悠希くん演じるか弱くも強い机くんの可愛いさは今作でも健全でしたし、初登場の賀来賢人の塞ぎこんだクールな役にも引きこまれました。もう大満足。

 

もう言うことないです。映画としてはもう言うことないのだけれど、ひとつだけ言わせてください。「千早の選択」は合ってますか? 僕は彼女の選んだ道が引っかかってならないんですよ。今回はそんな僕のモヤモヤにお付き合いいただきます。張り切ってどうぞ。

 

注意:このコラムでは『ちはやふる 結び』のネタバレが含まれます。

 

この映画のテーマは「脈々たる系譜」。これは間違いないでしょう。

千年以上も謳い継がれる百首の短歌、そしてそれとパラレルに重なるこれから歴史を刻む瑞沢かるた部。この二つがこれからも気が遠くなるほどの時間をかけて受け継がれ続けるであろう、という開かれた未来が描かれています。

 

また、これを映画という記録メディアで鑑賞していることからコンテンツそのものの在り方へと置き換えて考えることもできますね。素晴らしい!

 

これを象徴するような印象的なエピローグで映画が締まります。

 

それはあの決戦を繰り広げた数年後、母校のかるた部の顧問として再び近江神宮で部員を取りまとめる千早の姿が!……という着地。

 

次の世代へ想いを託す立場へと転身した千早。部員の数はかつてとは比べ物にならないほどで、たしかにあれからかるた部が大きくなってきたことを予感させます。

 

…………あれ?

 

いや主導権わたしていないじゃん。広瀬すず、まだ主役なのかよ。

 

顧問としての指導者が優希美青の演じる花野(結びで初登場する新入生女子)なら僕も納得したんですけどね。千早がバトンを渡し、さらに次の世代へと受け継いでいく……というような綺麗な構図が成立したはずです。しかしそうではなく、あくまでも千早が主人公としてかるた部の主役の座をキープしているんですよ。

 

千早、そこにいちゃダメじゃない?

 

不可逆で不断な川の流れのような世代の移り変わりをせき止めるような真似しちゃいけないんですよ。同じ川なんて1秒も存在しないんだよ。方丈記を読めよコノヤロー。

 

僕は組織を引っ張ることと、組織を持続可能に育てることは全くの別だと思うんですよ。飢えた人には魚を与えるのではなく魚の釣り方を教える必要がある。まあ50年くらいは良いとして、その後どうするの?この映画が相手にするテーマの時間は最低でも1000年ですよ?三十六万五千日以上の膨大な時間を通してかるた部の精神を持続させていく必要があるのに。よしんばかるたのスキルは伝えられたとして、「部員だけで団結してレベルアップしていく」という瑞沢かるた部の本質は完璧に失われてしまわないかなあ。

 

千早が教員として部活に戻ってくることで『ちはやふる』シリーズのテーマたる「受け継ぎ、脈々と続く」というテーマを水で薄めるような形になってしまうんですよ。賀来賢人演じる周防はかるたを辞めてしっかり野村周平演じる太一に意思を受け継いだのにさ。

 

とまあそんな所に引っかかってしまいましたが、他は文句なく満点。冗談抜きでまた見たい映画でしたね。なんか変なこと言ってごめんね?まずはディスクを買って、それを息子なり娘なりに見せないといけませんね。

 

***

 

**

 

 

そして数年後、そこには若手ライターの書いた陰湿で陰湿を煮詰めたようなろくでもないコラムに目を通すある男の姿が。そのコラムは以下のように結ばれている。

 

「――そんなわけで川合さん、そろそろアンテナ編集長の座を譲ってくれませんかね?」

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
COLUMN
【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
COLUMN
【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
REPORT
超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校…
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
REPORT
『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
REPORT
映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
東京であぐねる一人の社会人による暮向の記録-砂の壁『都市漂流のために』

何かを期待して上京したある若者。数年過ぎて、東京での生活は慣れたもんだし、仕事に追われる毎日にすら何…

COLUMN
『まちの映画館 踊るマサラシネマ』 – 人生が上手く行かないあなたに贈る、映画館の奮闘記

〈塚口サンサン劇場〉はテーマパークのような映画館だ。スタッフや観客がステージで踊る。ゾンビメイクをし…

COLUMN
【2024年7月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年7月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…