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「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!

軽妙洒脱、理路整然。悠々自適、唯我独尊。それぞれの正義、それぞれの流儀がぶつかり合うフリーペーパーのフリースタイルバトルマッチ。ルール無用の他流試合ことTake Out!!は信じられないほど円満に幕を閉じた。

と、ここまで抽象的な単語のパッチワーク。参加できなかった貴方は勿論、どころか半年後の自分すらもこれを読解できるのかは非常に怪しい。村上龍も面食らう限りなく黒に近いグレーだ。

反省はこのあたりにして(わかっているなら最初から書くなと呟いたそこの貴方、鋭いね!)この記事ではMTRL KYOTOで開催された、かの大盛況イベントTAKE OUT!! ~モテるフリーペーパーのつくり方~について具体的で詳細なレポを施したい。

 

 

 

写真:斉藤菜々子(只本屋)

イベント概要

まずはどのようなイベントだったのか大まかにお伝えしておきたい。

①新しいチームで編集会議

集められたのは8つのフリーペーパ団体と4名のデザイナー。
これらを綺麗に4当分して2媒体+デザイナー1名で1チームを形成。それぞれが新しいフリーペーパーを1から、いや0から考える。会議時間は2時間。

2時間も見ている方は暇なのでは?と思われるかもしれないがご安心あれ。
編集会議をよそに只本屋の山田さんとアンテナ編集長の堤がマイクを握り場をつなぐ。
フリーペーパ業界にまつわる問題について話したり、お客さんからの質問に答えたり。こちらもこちらで大忙しといった様子。

②プレゼン大会

中央:僭越ながら著者

それぞれが短時間ながらも自信を持って考案したフリーペーパー。今度はそれがどんなものか伝えるべくプレゼン。持ち時間は15分。

③投票タイム

プレゼン後、質疑応答の様子

どの企画が最も面白かったのか多数決でジャッジ。関係者は1人1票、お客さんは1人2票が与えられる。どこのどんなフリーペーパーが人気だったのか……どれが一番「モテた」のか?それはこの記事の最後にとっておく。

Aチーム:Chot★Better × フリースタイルな僧侶たち × 肥田布美子 =「間」(すきま)

京大生×僧侶、という組み合わせのこのチーム。社会のスキマ、スキマの人物、心のスキマなどをフィーチャーするフリーペーパが誕生。

なお、この冊子は「スキマの時間」にも読むことが出来るし創刊された暁には「只本屋の壁のスキマ」に挟み込むことも視野に入れているらしい。

第一回の特集は「キモくて金のないおっさん」。曰くこういうおっさんは世間から救済されないランキング1位、とのこと。そうした社会のスキマに埋もれた人物をピックアップするそうだ。ありがたい教えを説く僧侶とそれに即順応できた京大生らしいチーム。面白いだけの簡単なテーマではないが、決して難しい衒学的なものではなさそうだ。これだけは断言しておく。

 

また「デザイナーながらも企画に大きく踏み込んでしまった」と語る雑木林出版の肥田によるデザインで紙面はすっきりと洗練された仕上がりに。いかにもトップバッターに不足ない完成度の高いものだった。(まさかこの時間内に写真撮影までしているとは)

Bチーム:FASTNER. × おっちゃんとおばちゃん × 山本千加 =「兆」(きざし)

ビール、パン、映画などなど刊毎に異なる様々なジャンルをピックアップする「FASTNER.」と求人情報を得意とする「おっちゃんとおばちゃん」。両者が辿り着いたのはセンシティブな若者が本当に求めている働き方を提案するフリーペーパー「兆」(きざし)。

さらりとクールな若者世代とギラりとアツい奥様世代、という2018年らしい図式が表面化するプレゼンでもあった。ある種日本の縮図とも言えるこのチーム。日本の未来の一端を担うであろう情報誌を発信するに相応しいといえる。

 

こうした理念を追求すべくデザインも一旦は予算度外視で相当な気合を入れたいとのこと。白菜を抱えた写真が印象的だ。

年齢だけに終始するのは野暮だが、しかしやはりフリーペーパーという媒体でこのように世代が2極化することは稀有な例ではないだろうか。このイベントならではのゴールデンチームと言える。

Cチーム:アンテナ × 縄文ZINE × 工藤愁子 =「yasuyuki」

これも当日に0から作ったもの。そのドライヴ感を想像して欲しい。

アンテナからはひねくれ映画ライターのワタクシ川合裕之、一見ユルくてラフだが実はダンスも出来るおしの先生(こと、齋藤 紫乃)が参加。

 

「モテる」とは何か?という問いに真剣に取り組んだ結果、導き出された回答は「気取らないこと」「軽薄であること」だった。フリーペーパーはまず手に取られる必要がある。一番盗まれるのはビニール傘だ。格調やクールさは二の次で構わない。

 

そこで考え出されたのが「yasuyuki」という概念だ。決して特定個人のことを言っているのではないが例えば岡村靖幸。あくまで、あくまで例えばである。

 

「カーテンを開くようにスカートを脱がしたい」などよく考えたら気持ち悪い歌詞を世に生み出し続ける靖幸。本人は一生懸命だが、ある意味軽薄だし、けれどもそうした姿勢を僕らは愛している。岡村ちゃんと親しみを込めて呼び、彼の音楽を聴き続けている。

 

現代に足りないのはyasuyukiという概念(岡村靖幸的な許せちゃう軽薄さ)だ!これをもっと伝えよう!もっと浸透させよう!というのがこの雑誌のコンセプトだ。

 

奇跡的にチーム全員が岡村ちゃんのファン。特に90年代的なモノが得意な工藤さんとの相性は抜群。素敵なイラストで企画をパッケージしてくれた。

縄文ZINEの望月さんも軽快にトーク。どうやら縄文以外のことにも興味はあるらしい。正直ホッとした。

重ね重ねになるが、決して特定個人のことを指しているのではない。ましてや岡村靖幸専門の音楽誌やファンブックではない。概念としての「yasuyuki」にフォーカスしているのだ。

これについて語るべきことは多い。詳しくはまた別の機会で記事にしたい。

Dチーム:SHAKE ART! × バッテラ × 木村香織 =「Nice to meet you. 畑中さん。」

https://twitter.com/SHAKEART/status/955035769193734145

アートと短歌という掛け合わせから生まれたのがこの「Nice to meet you.」だ。架空の人物を作り上げ、その人が好きなものや好きな場所が知ることが出来る。
実在しない類型の人物が入り口だが、その先にある情報はイベント告知やカフェ案内など実際のものを想定している。

最も特徴的なのは1月号、2月号というような括りではなく「畑中さん。」「野田さん。」「村嶋さん。」など固有名詞がその刊のタイトルとなる点。長期的なコレクター心をくすぐる演出だ。アンテナ編集長堤からは「畑中さん。」は畑中さんのよく行きそうなカフェに、「野田さん。」はまた別の野田さんらしい場所に設置すれば読者の行動範囲も拡がるね、というアドバイスも。

その人物のバックボーンや趣味嗜好を理解するというコンセプト。これをキャラの後ろ姿を割って観音開きする、というデザインに落とし込んで表現している。またそのボリュームの薄さ、詰め込まないコンパクトさもポイントだろう。31文字で世界を作る短歌という領域の妙技と発想が活かされている。なお「靖幸くん」の創刊予定は無いらしい。非常に残念だ。

栄えあるグランプリは……

畑中さん。こと「Nice to meet you.」だ。おめでとう。
……と、かなりあっさりとした結果発表となったが、当日の発表もこれくらい淡白だった。そっくりそのままのレポートとして受け取ってもらいたい。

 

 

とはいえ「カレーライスと松田龍平とUSJと電子辞書、どれが好きか?」と聞かれているようなものでとても同じ尺度では比べることの出来ないものばかり。一体どれが選ばれるか、あるいは選ばれないかは時の運次第といったところだろう。したがってさして引っ張る理由もない。簡単ではあったがこれが先日開催されたTAKE OUT!!の全容だ。お分かりいただけただろうか?

 

 

軽妙洒脱、理路整然。悠々自適、唯我独尊。それぞれの正義、それぞれの流儀がぶつかり合うフリーペーパーのフリースタイルバトルマッチ。ルール無用の他流試合。それがこの「TAKE OUT!!」だ。くどいと思われることを承知で敢えてもう一度書かせてもらったが、この無為な言葉の自由遊泳の真意は汲み取っていただけただろうか。

まとめ

最後にその場の空気を直に吸った者の立場としてコメントを添えさてもらう。

「まず最初に風呂敷を拡げる」という、ものづくりにおいて最もクリエイティブな瞬間を4つ同時にリアルタイムで体感することのできるという点で非常にすぐれたイベントだったのではないだろうか。

実際に紙面の制作に取り掛かるとなると決して楽しいことだけではないだろう。産みには苦しみを伴うが、我が子を育てるにはそれ以上の辛抱と手間が必要だ。特に紙媒体では納期や文字数がWebよりもシビアだ。そのような実質上の制約に縛られることなく各人が自由に走り回ることができたのではないだろうか。

しかし、かといって行われたのは全くの無秩序で冗長な雑談の応酬ではない。各チームは限られた時間の中で確実にゴールテープを切った。「形にする」というクリエーターとしての最低条件――決して簡単ではないハードル――をきちんとクリアしているのだ。

そして企画の内容は勿論のこと、与えられた時間の費やし方も様々。実際の紙面の完成度を高めようとするチーム、実物の紙面サンプルを作り上げるチーム、プレゼン発表の精度に拘り短時間でコンセプトを最大限伝えようとするチーム。

この事実から言えるのは以下のこと。新企画とその成長過程を楽しめる場所であったと同時に、それぞれの既存のフリーペーパー団体の「色」――コンテンツ以外の団体の特徴――が明瞭に可視化されるイベントでもあった、ということだ。このようにメディアの普段の顔を垣間見ることが出来るのも生のイベントならではだったといえる。

 

軽妙洒脱、以下省略。このイベントは信じられないほど円満に幕を閉じた。

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