美しさと激しさが絡まり生まれたサウンドは、私たちの日常を描き彩る
東京を拠点に現在は3人体制で活動するPOINT HOPEが、2018年にリリースした作品『Houi』。本作は6人体制で制作されたアルバムで、メンバーによるライナーノーツをまとめた作品は、WAV音源とMVをダウンロード形式で付属した詩集としても発売された1枚だ。聴き心地の良いシンセサイザーとボーカルに絡まる柔らかなコーラス。そんな美しく情緒的な世界に現れる、激しいギターの歪みと腹の底に響くバスドラム。一見相反する2つの音楽を、POINT HOPEは対立することのない、絡み合うものとして表現している。
M1“トンネルを抜ければ”は波打つ緩やかなシンセサイザーではじまり、やがて一定のリズムを刻むドラムはおとずれる夜明けを思わせる。感情をそっと揺さぶるメロディアスな音色は、中村のソロプロジェクトAyumi Nakamuraの1stアルバム『Strata』(2022)と重なる部分を感じさせる一方で、リフレインの中から唐突に現れる歪みには、加藤(Vo / Gt)、中村(Gt / Syn)、中川(Dr)が所属するバンド、クレイマン・クレイマンにも通ずるポストロックの気配を強く意識させる。
“トンネルを抜ければ”でドラムがやってくる夜明けを感じさせたように、M3“東を向く”、M4“文脈”にもその表現方法はみられる。Ayumi Nakamuraが織りなすポップミュージックを感じさせる“東を向く”では、思わず踊り出したくなる明るいサウンドに胸が弾む。M2“黎明”では淡々と歌われた石川(Pf / Cho)のコーラスも装いを変え、公園ではしゃぐ少女のような愛らしさをのぞかせる。“東を向く”に、石川が客演で参加した音楽ユニット・phaiの“I’ll do”で見せた艶っぽさはない。彼女は楽曲によって、様々なキャラクターを演じ分けているのだろう。
“文脈”は、”東を向く”から続く明るさから、徐々に哀愁を漂わせる展開が特徴だ。「まだ話していなかったことが 少しだけ残っていた」、「今日の日が終わるまでに 君がわかる気がした」と、別れにうしろ髪を引かれながらも、1日の終わりを受け入れる様子を強かな声で歌う加藤。”東を向く”でコーラスとハモる歌声が楽しげなだけに、加藤のエモーショナルな揺らぎのある声が、夕暮れの寂しさを物語っている。中盤から奏でられるギターも、暮れてゆく空の物悲しさを表しているかのようだ。そしてシンセベースの無機質な音色が表現する、刻々と夜が迫りくる冷酷さ。夕焼けはただ美しいだけではなく、終わりや別れも示すのだと、ギターとベースが静かに訴えかけている。
サウンドによる情景描写はクレイマン・クレイマンの『Good News』(2013)でも見られる一方、M5”次はどこへ行こう”にギターの歪みやドラムの激しさはほとんどない。フォークやポストロック、インディーやポップといったジャンルの垣根を取り払い、「夜に寄り添う音楽」を構築した結果だろう。愛おしさや喜びをすくい上げた繊細な言葉遣いが、柔らかなギターの音色にのってそれぞれの過ごす夜に寄り添うのだ。
全編を通して、等身大の日常を歌にしている本作。それは人それぞれ悲しいことも楽しいこともあるけれど、おとずれる毎日を生きていくという、優しく力強いメッセージだ。メロディアスなサウンドに心の奥底の感情を揺さぶられ、心地良さの奥に潜むロックの激しさは、目覚めた意識で自身と向き合うきっかけとなる。そして情景描写に優れたサウンドは、私たちの毎日に華を添える。様々な音楽の素材を持ち寄ってつくられた楽曲は、聴くものの日常に寄り添うものとして、そばにあり続ける。
Houi
アーティスト:POINT HOPE
仕様:デジタル
発売:2018年7月1日
レーベル:ungulates
収録曲
1.トンネルを抜ければ
2.黎明
3.東を向く
4.文脈
5.次はどこへ行こう
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WRITER
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97年生、大阪の田舎ですくすく育った行動力の化身。座右の銘は思い立ったが吉日。愛猫を愛でながら、文字と音楽に生かされる人生です。着物にハマりました。
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