研究・批評グループ 極セカイ研究所が批評誌『P2P』を発刊
京都を中心として活動する研究・批評グループ「極セカイ研究所」は、3月に「南極」をテーマとした批評誌『P2P』を発刊した。
「極セカイ研究所」は、京都の批評家・黒嵜想がアートマネージャーの沢田朔とともに立ち上げたインディペンデント・プロジェクトで、南極を中心とした「極域」についての歴史的・文化的考察を目的としている。
プロジェクトの発端は、『京都・まちじゅうアートフェスティバル』の一環として〈ローム・スクエア〉で開催されたイベント「光冠茶会 国際人類観測年」(2021年3月)にまで遡る。このイベント以降、黒嵜はとりわけ南極を中心とした領域における文化的な活動に興味を持ち、三年にわたって、きわめてユニークな視点からこれに取り組んできた。そのひとつの成果が、『P2P』である。『P2P』というタイトルには、polarからpolarへ、pinからpinへ……といった複数の意味が込められている。
『P2P』初版は、公刊の告知からすぐに予約フォームに注文が殺到・完売。すぐに増刷が決まり、まもなく第二刷の発送がはじまる段階だそうだ。
「南極」と急に言われても、突飛な印象をもつ読者が多いかもしれない。『南極物語』をイメージする向きもあるだろう。しかし、一般にどの国の領土でもない空白の地域とされている北極および南極は、実際には、この社会の歴史のなかで独特の位置をもち、また政治的な緊張が走ってきた場所でもある。 この極端な場所についての検討は、いままで一般的には科学や地理学の領域でなされてきた。
しかし、黒嵜と沢田の取り組みが目指すのは、第一に、この場所がきわめて文化的、芸術的、歴史的、政治的な含みを持っている事実を再提起することだ。とりわけ、『南極ビエンナーレ』の企画を進めてきたロシア人アーティスト、アレクサンドル・ポノマリョフ(彼の経歴や『南極ビエンナーレ』については、ゲンロンカフェで開催されたイベントのページがもっともよくまとまっている)へのインタビューは、「アート」「地域」、「カルチャー」といった問題に関心がある人々にとって必読の内容となっている。
「極域」を今、あらためて批評的にまなざすことは、「グローバリズム」が進行したと言われるこの社会のなかで、あらためて「球(グローブ)」としてのこの星の地形を考察することにつながる。この生々しく荒々しい極寒の地形を再考することは、まさに「グローバル」/「ローカル」の対立を打ち破り、人類史という壮大なパースペクティブから、「域=エリア」を捉え返し、あらたな線を引き直す貴重な試みだと言えるだろう……。
というと、なんだか堅苦しい本のように思えるかもしれない。しかし、実際の『P2P』はバラエティに富んだ、とても冒険心をくすぐられるテキストばかりから構成されている。敷居が高く感じられる読者には、『P2P』に収められた北田克治の貴重なエッセイ「南極で料理をする際の心得」を先に一読することをお勧めする。
第38次・45次南極観測越冬隊において料理人として南極に派遣された北田(現在、国際日本文化研究センター内「レストラン 赤おに」料理長)のエッセイは、南極で料理をすることがいかに過酷か、また調査隊のメンタルや人間関係にとって最重要のケアであったかを、ユーモアたっぷりの天然じみた文体で伝えている(なんと、南極で料理する人用のレシピ「超簡単!南極用レシピ」までついている!)。これから南極で料理をする予定がある人は、ぜひ参考にしてほしい。
※ 入手希望の方は、黒嵜想氏のX(旧Twitter)をフォローし、続報をお待ちください。
※『P2P』のプレスリリース文章はこちら。
目次 | 森下翔「「南極の人類学」のスケッチ」/北田克治「南極で料理をする際の心得」/黒嵜想「極論」/大石侑香「極北の時空」/アレクサンドル・ポノマリョフ インタビュー「動中の動、新しき道」/鴻野わか菜「南極ビエンナーレの未来」 |
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発行 | 極セカイ研究所 |
発行日 | 2024年3月31日 |
編集 | 極セカイ研究所(黒嵜想、沢田朔)/編集協力:長谷川新、福尾匠、藤村南帆、布施琳太郎、米澤柊 |
デザイン | 中家寿之 |
アートワーク | 梅沢和木 |
協力 | 山本麻友美 |
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WRITER
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1995年大阪生まれ・大阪在住。批評家。現代フランス哲学の研究者でもあり、現在博士論文執筆中。主に京都で活動しています。何か驚かせてくれるようなものに出会いたいというのが活動の基本的な動機です。
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