ボロフェスタ2024 Day1(11/2) ‐ 収まり切れないからここにいる、次なる新星を生む街の底バースト
今年23年目を迎えた、京都のインディ・フェス『ボロフェスタ』が11月2日(土)〜4日(月・祝)の3日間に渡り〈KBSホール〉にて開催。2日には〈CLUB METRO〉にてナイトイベントも行われた。2014年から毎年ライブを追いかけてきたANTENNAでは今回も編集部あげて総力取材!ライター独自の目線で『ボロフェスタ』を綴っていく。本記事では初日である2日(土)の模様をハイライト。
『ボロフェスタ』には、毎年4つのステージが開設される。ステンドグラスのある立派なホールには、〈ORANGE SIDE STAGE〉、〈GREEN SIDE STAGE〉という大きなステージが2つ。入場してすぐのロビーには〈どすこいSTAGE〉。そして、決して目立つとはいえない階段を降りた先にある〈街の底STAGE〉。小さな休憩室に小さな舞台とPA卓を設けて、そのままライブハウスのように作り上げた会場で、出演者からは「まるでlivehouse nanoがここにあるみたい」といった声も。
このステージは、『ボロフェスタ』というイベントにおいて、どのような位置づけとなっているのだろうか?本稿では、そんなKBSホールの地下で生み出される「街の底バースト」に注目してレポートをする。
地下で始まる平行時空の『ボロフェスタ』
『ボロフェスタ』1日目、そのトップバッターを務めたのは初出演となるコロブチカ。若手アーティストの登竜門とも言われるショーケース・ライブサーキット『MINAMI WHEEL』への出演を果たし、今秋には愛知、大阪、東京、京都の4都市でのツアーを完走するなど、着実に実績を積み上げている彼ら。結成して2年程度ながら、今や関西の若手バンド界隈において心から頼れる存在になってきているバンドだ。
さて毎年の『ボロフェスタ』では、ホールにて行われるパーティー・ナビゲーターであるMC土龍(以下、土龍)によるオープニングが恒例行事となっているが、他の3つのステージから少し離れた位置にある〈街の底STAGE〉では、土龍による開会宣言が別途行われる。
土龍が登壇すると、早速コロブチカの北原圭悟(Vo / Gt)に「緊張してるんちゃうやろな!」と声を掛ける。すると北原が「してないです!」と親指を立てて見せた。2人は、普段〈livehouse nano〉でともに働く店長とスタッフの関係でもあり、師弟のようなやり取りにフロアの雰囲気も和らいだ。
そんなコロブチカの1曲目は先日リリースされたばかりの1st EP『ワンダーアラウンド』からの楽曲である“酔醒”。平田歩(Ba)の終始クールで確実な演奏をしながらも、可動域をいっぱいに使ったダイナミックなパフォーマンスでフロアを盛り上げる。また北原の持ち上げたテレキャスターのヘッドが天井に当たるという場面も。今にもこの小さな箱から飛び出してしまいそうな勢いのあるライブで、観客を一人残らず惹きこんでいく。
サポートメンバーである、さなこの力強いドラムから入った“アイデア”では、メンバー全員の息の合った演奏に釣られて、観客のリズムに乗る動きまでピッタリと合う。昨年までは観客として『ボロフェスタ』のステージ前でライブを観ていた北原が、今年は演者として「初めまして、KBSホール!」と叫ぶ姿には筆者の心が震えた。先駆けて活躍する他の同年代を横目に「悔しい」と言い続けて進んできたコロブチカ。その彼らが『ボロフェスタ』のトップバッターとして活躍している姿を見て、今までを見守ってきた先輩バンドたちがニコニコと顔を見合わせる場面も見られた。
ライブを重ねるごとに魅せ方やアレンジなどの新たな工夫が加えられている定番曲“ユーズド・ユース”は、観客がステージに熱い視線を送りながら歌詞を口ずさんでおり、コロブチカの音楽が多くの人々の生活の中で愛される存在になりつつあることが感じられた。
登場前の転換タイムからほぼ満員状態、最終的には入場規制まで叩き出したのは、今や関東のフェスやサーキットなどでも引っ張りだこのロックバンド、171(イナイチ)だ。
1曲目の“GO GO リトルカブ”では、田村晴信(Vo / Gt)の叫びと同時に大きな歓声が上がる。カナ(Vo / Ba)の、鼓膜を大きく震わせる存在感抜群な低音と、モリモリ(Dr / Cho)のパワフルで鋭い猛打から繰り出される演奏にフロアからは力強く拳を挙げる姿も見られた。同時にこの観客の熱量に呼応しながら、自分自身の演奏をヒートアップさせていく。
“タイムカプセル”では、関西弁混じりの歌詞を叫ぶ田村に、フロア前方から後方に至るまでの観客が頭を振って踊って応える。筆者のように今回初めて171のライブを観たという観客もいたはずだが、その場の誰しもが171のパワーの虜になっていることは一目瞭然であった。“グレーゾーンの私たち”では、田村がレスポールのボディを天井につくまで持ち上げ、ギリギリまでステージ前方に出てギターソロを披露し、会場を盛り上げる。最後の曲“俺の見たピストルズはスマホの中”の「この街の底か路地の裏か溜まってるはずの歪みを誰もマイクに乗せてくれやしない!」という歌詞の部分で、田村は自身の立つ〈街の底STAGE〉を指さす。
そのとき、『ボロフェスタ』開催前に行われたインタビューで田村が「(『ボロフェスタ』では思わぬところで)名前の知らないバンドに心を撃ち抜かれて、ライブハウスへの落とし穴にはまってしまう」と当イベントの魅力を語っていたのを思い出した。彼もそれを体感した一人であり、今年はその「街の底か路地の裏か溜まってるはずの歪み」を多くの観客に体感させうるミュージシャンの一人なのである。
イベントそのものや音楽に対して揺るがぬ真摯な姿勢を持ちつつ、自らの燃やすロックンロールを演奏に詰め込んですべて音で語ってしまう。そんな171の魅力が溢れるライブであった。
飛び出す準備はできている。街の底に満ちていく熱気と野望
「自分たちは大阪でライブをすることが多いので、京都のバンドってこと忘れられてるかもしれないんですけど……」と、登場してすぐに語ったのは3人組バンド、ポンツクピーヤ。
1曲目“喫茶店に蔓延る”では、中江亮太(Dr / Cho)の力強くアップテンポなビートで一気に惹きつけ、彼らの代名詞である「ハイパーキューティーウルトラポップ」なリズムを作り出していく。“いつかきっとなんて”から吉元裕貴(Ba / Cho)のソロ演奏で“こんばんは暗闇”へと繋げる。棘がありつつもメッセージ性のある歌詞を大石哲平(Vo / Gt)は観客一人一人を見て歌い上げてゆく。「ラブリーラブリーキュートな世界で……」とサビ始まりのアレンジからスタートした人気曲“19歳”では、まるで今にも外へ飛び出しそうなスーパーボールのように彼らの音が〈街の底STAGE〉を跳ねていく。
ラストは、今年8月にリリースした最新アルバム『俺の中の戦争なんて誰も興味ない』に収録された“リビング・スーサイダル”。「MY FAMILY MY FRIENDS 俺今日も生きのびたよ」と繰り返す大石の歌声のあと、吉元と中江のコーラスが美しく重なる。この時、彼らは暗い言葉も辛かった一日もポップな音楽で優しさに変える力のあるバンドだと強く感じた。このようなバンド独自の少し捻くれた温かさを持っているところは、くるりやベランダのような京都のバンドの系譜に繋がっているようにも思える。
大石はMCで「次は上のステージ(〈ORANGE SIDE STAGE〉や〈GREEN SIDE STAGE〉)に行きたい」と語っていた。フロアで「ポンツクピーヤ」と書かれたリストバンドを着けた腕がいくつも上がっていたが、その景色がさらに広がるところをきっと見せてくれるに違いないと感じた。
新潟発の4人組バンド、ザ・シスターズハイの出番が迫ると、観客がフロアに所狭しと詰めかけ、すぐに満員になった。当イベントに先駆けて夏の終わりに毎年開催される小型サーキットフェス『ナノボロ』には過去2回出演経験があるが、『ボロフェスタ』の舞台には初めて立つ。
人気曲“天使のごめんね”では、パンキッシュな演奏に渡邉九歳(Vo / Gt)のしなやかな歌声が乗る。彼らにしか作れないポップネスとロックのブレンドに会場の気分も熱気も最高潮になれば、“pink pink vibration”では、まさやんぐ(Gt)の背面弾きに歓声と拍手が湧きおこる。メンバー全員が最高に楽しそうな表情で演奏し、自由に思い切り動き回る姿は、一人一人がフロントマンのようだ。
最新EPに収録の“絶望MAQUIA”では、鼓面が破れるのではないかと感じるほどのパワーで繰り出される椿(Dr)のビートが腹まで響いてきた。最後は渡邉とまさやんぐのギターのヘッドが天井にぶつかるほどのパワフルなパフォーマンスを披露。その姿勢はMCで「メインステージに出ている人たちはもちろんカッコイイけれど、どこで演奏しても『カッコイイ!』ってなるようなことをできるのがバンドだと思う!」と真っ直ぐな目で語った渡邉の言葉にも象徴されているようにも感じた。
ステージなんか関係ない。思わず、この〈街の底〉というライブハウスを爆発させに来ているのでは……?と、そんなことを思わせてくれるライブであった。
会場いっぱいに響き震わせた、それぞれの炸裂の形
終演直後に前方で観ていた観客たちから同時に「うわあ……」と感嘆の声が上がったのは、京都の実力派5人組バンド降之鳥。3年前の『ボロフェスタ2021』を観た帰り道、河野圭吾(Vo)と岡田慶之(Gt)が「俺らでバンドを組もう」と話したことがきっかけで結成したという彼らもまた、この日が『ボロフェスタ』初出演だ。
11月の初めに配信とフィジカル盤でリリースされたばかりの“11月/November”では、山根慶祐(Dr)のビートと木村成(Ba)の余韻の残るサウンドが助走を始めたかと思えば、岡田、竹内陸渡(Gt)のツインで奏でられるエッヂの効いたリフが重なり、そのすべての音をまとった河野がセンターで両腕を翼のように広げながら歌う。彼らのさらなる覚醒を感じさせる絶好調な滑り出しに、多くの観客が目を丸くして早くも釘付けになっている。
河野が「大切にしている曲」と語って始まった“幸福のすべて”は、メンバーゆかりの神戸市西区を想って作られた楽曲。音源の語りかけるような演奏とはまた一味違った、〈街の底〉のすみずみに届く広がりのある演奏で彼らの描く抒情的な世界へと観客を惹き込む。同時に普段のライブでは感じないような〈街の底STAGE〉だからこそ生み出される爆発力も感じられた。
最後の一曲は、“憧れに別れを”。メンバー全員が今まで積み重ねてきた全てを振り絞るような表情で鳴らす演奏を浴び、目頭が熱くなる。かつて観た景色に魅せられて集結した若者たちが、「憧れ」を現実に叶えていく光景が、そこにはあった。
この日の〈街の底STAGE〉を締め括ったのは、現在は東京を拠点に活動する京都発のバンド、ベランダ。髙島颯心(Vo / Gt)が少し照れくさそうに「東京から来ました」と生粋の関西訛りで語る姿に、フロアには「おかえり」と言っているような温かな雰囲気が流れる。
1曲目の“Tide pool”の力強さがありつつも優しさも感じさせる音で、夜に差し掛かる時間にピッタリのサウンドだ。続く“in my blue”では全パートが合わさって生み出される力強い音のうねりがどっしりと耳に届く。さらに“Not Bad”では、中野鈴子(Ba / Cho)の綺麗なコーラスが、“オーバードライブ”では、田澤守(Gt / Cho)と髙島の歌うようなギターの重なりが、胸に心地よく響く。最後の“エニウェア”では、腕を組んで楽しそうに歌う観客の姿も印象的だった。
ベランダのライブは、その空気感も合わせて、まるで会場全体が朝焼けに包まれているかのような無限の暖かさを感じさせる。同時にわかっていてもしっかりとスパイスが効いてくるような油断ならない展開や歌詞も魅力的なバンドだ。
この日は〈街の底STAGE〉に出演した若手アーティストたちもいた。「始まったばかりで僕らは右も左もわからずに ハダカのままじゃいられないんだ Baby, don’t you know?」とベランダが〈街の底STAGE〉で語り掛けたそのフレーズは、次なる世代には違ったように聞こえたのではないだろうか。
そんなことを考えるくらい、ベランダは一筋縄ではいかない少し捻くれた気持ちにもフィットする音楽性だ。それは先ほどポンツクピーヤの時にも語った京都のバンドの系譜なのかもしれないと改めて感じた。
未来へ向かって叫び、希望の余韻を残す場所
この初日の〈街の底STAGE〉を観続けて、ひとつ気付いたことがある。それはここに出演するアーティストは〈街の底〉に収まり切るのではなく、地下の空間でそれぞれの音楽をいっぱいに膨らませてバーストを起こし、今にも飛び出していきそうなアーティストが配置されているのではなかろうかということだ。
コロブチカやザ・シスターズハイのようなステージの天井に何度もギターをぶつけるパワフルなパフォーマンス、ベランダの無限に広がる朝焼けのようなサウンドスケープ、今にも外へ飛び出しそうなスーパーボールのように弾けるポンツクピーヤのサウンド、降之鳥の爆発力のある演奏……。そのすべてが〈街の底〉に収まり切るアーティストという枠組みではなく、この地下空間をそれぞれの音楽・パフォーマンスでいっぱいに膨らませてバーストさせそうなアーティストが配置されているのではなかろうか。
そう考えると、2日目には熱量MAXの演奏と一級品の巻き込み力で超新星爆発を起こす若手バンドTHE HAMIDA SHE’Sや、終わりなき音楽の海原を旅する水平線が出演し、3日日には古き良きロックの香りを受け継いだサウンドで聴く者の魂を燃えさせるJoseが〈街の底〉でライブをする理由もわかる。
「この場限りでは終わらせない」そう言わんばかりのスケールのアーティストたちが勢ぞろいする〈街の底STAGE〉。そこでは、それぞれのアーティストにしか表現することのできない「街の底バースト」が起きることを体感した。同時に「自分たちはこんな音楽を鳴らしている」と、京都の大地を揺るがしながら叫べる、アーティストにとって特別な場所であるとも思った。
ここで、初日のレポート担当は筆を置き、『ボロフェスタ2024』2日目のライターにバトンタッチしたい。
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2001年梅雨生まれ。岡山→京都→東京。音楽の流れる景色を描くようなことばを紡ぎたい。
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