
京都のニューフェイスが織り成す、超展開フィジカルアート
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結成して1年とは思えない密度と跳躍力を備えた、砂場泥棒の2曲入り1stシングル『花 / 骨』。容赦なく変化していく曲展開には、体をキャンバスにした立体的な表現の連なりのよう。浮き沈みの激しい演劇や、想像の余白を残した彫刻作品などを眺めている気分になる。
「小さな乳房が揺れていた いつかは消えるかな この記憶の隅で ほつれたシーツの白さ」
「治らない傷をつけてくれよ 背中に 治らない傷をつけてやるよ ほくろの隣に」
体の一部分を生々しく、かつ幻想的に描く“花”の歌詞は、いわゆる自動筆記(オートマティスム)に近い書き方で紡いでいったという。頭に浮かんだ言葉や景色を直感的にそのまま転記していくことで描かれたこの楽曲の世界は、あらゆる場面をランダムに切り取りながらも、動き一つ一つのターンを終始細やかに捉えている。
ダイレクトで艶かしい歌詞が、微かに聴こえるギターの音やシンバル、スネア、コーラスで、一層その存在感を増していく。中盤にかけて少しずつ演奏が盛り上がっていき、ハリのあるギターサウンドが、美しい輪郭を保ったまま一音一音を長く響かせる。ところが、後半に差し掛かると、ここまでに整然と並べられたすべてを一掃するハイテンポなうねりが突風のように襲いかかってくる。まるでQueenの“Bohemian Rhapsody”の如く、曲の中で一つのオペラ演劇が繰り広げられていく壮大さと急展開。
作詞作曲の加藤仰明(Gt / Vo)は、この切り替わりのイメージとして、Andrea Arnoldが監督を務めた映画作品『嵐が丘』(2011年)を挙げていた。絶妙なスピード感で画角や被写体が移り変わっていく映像が、脳内を駆け巡るあの感覚。聴覚だけではなく、視覚まで刺激してくるような不思議な楽曲である。
続く“骨”は、より日常生活に近い場所から生まれた。ある日、加藤がスーパーマーケットの駐輪場に停めていた自転車を店員に注意され、「そんなに怒らなくても……」と思いながら、申し訳なく思って少し高めのみかんを買った。そんな自分が情けなくなった帰り道、ふと脳裏に浮かんだのは、2024年に観に行ったThom Yorkeのライブ。背景に映し出されていた映像で、一体の骸骨がストロボのような演出の中で踊る不思議な映像を思い出した。そして「こんなときでも踊れたらそれでいいか」と思えてきたという。その経験から着想を得て作ったのが“骨”とのこと。
そんな少し妖しいユーモラスとアイロニーの詰まったこの曲は、繰り返されるリフとリズム、加藤の振り切ったボーカルでより底上げされた中毒性に要注意だ。小気味のいいリズムで踊らせるサウンドから急にレゲエのような裏打ちのリズムが始まるなど、豊かな切り替えが相変わらず耳を離してくれない。さらに、SuperBack丹野からの影響を感じるリズミカルでしゃくり上げるような歌い方が、加藤仰明および砂場泥棒の持つ「読めないミステリアスさ」と「コミカルな親しみやすさ」の両方を実現させている。何度も「踊れ」と歌われるうちに、心身が自然と揺れてくる。音楽が身に染みるどころか骨まで届いてくると、人間はこうも踊りたくなるものなのか。
人間の衝動や一挙手一投足の美しさやエンタメ性を立体的に描いた、フィジカルアート作品といえる初音源。その描線がどこへ向かうのかは、まだ誰にも分からない。
花 / 骨

アーティスト:砂場泥棒
仕様:CD / デジタル
配信:2025年8月1日
発売:2025年8月10日
価格:¥600
収録曲
- 花
- 骨
砂場泥棒

加藤仰明(Gt / Vo)
渡邉小春(Gt)
松橋亮(Ba)
矢島臨(Dr)
新世代のエモーションをプログレッシブに構築する4人組ロック・バンド。 2024年10月ごろに〈京都大学熊野寮〉にて結成。自主企画『第一公園』を皮切りに、24年末から京都市を中心にライブを開始。大学の学生自治空間から関西・中部のライブハウスに至るまで、幅広く活動中。テクニカルな変拍子、ヘヴィなユニゾン、轟音といった多彩なサウンドと、グッド・メロディによる詩情に満ち溢れた楽曲が現在進行形で多くの注目を集める。
Instagram:@sunadoro_band
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WRITER

- ライター
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2001年梅雨生まれ。音楽の流れる景色を描くようなことばを紡ぎたい。
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