
ゆうやけしはすのロック遺伝子図鑑-第2回 すうらばあず
ゆうやけしはす&すうらばあずとして活動するソングライターによる連載、『ロック遺伝子図鑑』。「過去のあの時代の音が、最新のロック」という考えに立ち、登場する人物の音楽の系譜を、生き物の遺伝子を辿るように追いかけていく。その人にとって音楽がどう鳴っているか。どう変異し、どう受け継がれてきたのか、ゆうやけしはすが徹底解剖。第2回目は自身のバンドメンバーであるすうらばあずの音楽遍歴を掘り下げる。
すうらばあずのロック遺伝子
この第2回ではゆうやけしはすと共にバンド“ゆうやけしはす&すうらばあず”として活動するすうらばあず(牧野陽輝、弓場俊太郎、佐々木檀)の3人の音楽遍歴および経歴について、時代ごとの背景や本人の内面的変化にも目を向けながら、できる限り丁寧に整理・考察していく。単なる事実の羅列にとどまらず、どのような環境の中で音楽と出会い、どのような影響を受け、いかにして現在のスタイルへと至ったのか、その過程を一つの流れとして捉えることを目的とする。
牧野陽輝(ギター)

2004年生まれ。千葉県出身。Jimi HendrixやEric Claptonなどに影響を受けた左利きギタリスト。ゆうやけしはす主催のジャムセッションに参加し、現在はゆうやけしはす&すうらばあずのギタリストとして活動。THE SLIGHT RETURNSのギターボーカルとしても活動する傍ら、ソロ名義ではこれまでに2枚のアルバムを発表している。
弓場俊太郎(ベース)

2003年生まれ。広島県出身。ゆうやけしはす主催のジャムセッションへの参加をきっかけに牧野陽輝と出会い、すうらばあずを結成。ブラックミュージックをルーツとし、グルーヴを重視した演奏を持ち味とするベーシスト。ドラマーの佐々木檀とは大学時代からの仲で、別プロジェクト「brooks」でも共に活動している。
佐々木檀(ドラム)

2002年生まれ、宮城県出身。大学で弓場俊太郎と出会い、ロバート・ジョンソン研究会やロック研究会で活動。すうらばあず結成を機にゆうやけしはすと交流を深める。brooks、食堂ガールなどでも活動し、ドラマーとしてだけでなく映像制作や他楽器の演奏も手掛けるなど、幅広い表現領域を持つマルチプレイヤー。
今回は、3人それぞれの「音楽遺伝子」を探るべく、幼少期の原体験や音楽との最初の出会いを起点に、中学2年生、高校2年生、20歳(大学2年生)、コロナ禍、そして現在へと至るまでの変遷について話を聞いた。 各時期にどのような音楽を好んで聴いていたのか、どのような生活を送り、何に熱中し、何に悩んでいたのか。音楽そのものだけでなく、その背後にある日常や価値観の変化をたどることで、現在の彼らの創作や演奏を形作るルーツを浮かび上がらせていきたい。
幼少期の原体験から思春期の衝動、コロナ禍での孤独や発見、そして現在へと続く軌跡の中には、彼ら自身も気づいていなかった共通点や意外な分岐点が見えてくる。本稿は、その変遷を年代順に追いながら、ゆうやけしはす&すうらばあずというバンドの現在地を読み解く試みでもある。
第1章:音楽との出会い (幼少期)
現在の音楽性や価値観を理解する上で、最初に触れた音楽体験を知ることは欠かせない。誰しも自ら音楽を選ぶ以前に、家庭や学校、地域社会、友人関係、その時代に流行していた文化など、さまざまな環境から影響を受けている。本章では、3人の幼少期に遡り、どのような文化が身近にあり、何に惹かれ、どのようにして音楽という存在が日常の一部となっていったのかを探っていく。
牧野陽輝(ギター)
牧野は音楽一家の出身ではないという。しかし、幼少期の家庭は常に音楽が身近にある環境だった。母親がTUBEやサザンオールスターズといった夏を感じさせる明るく親しみやすいポップスを好んでおり、現在でも原風景として記憶に残っているという。
本格的に音楽を聴くようになったきっかけは、小学生の頃にMP3プレイヤーを手に入れたことだった。当時はGReeeeNなどのJ-POPを好んで聴いていたが、友人からTHE BLUE HEARTSを教えられ、転機となった。“リンダリンダ”や“終わらない歌”に強い衝撃を受け、それまでとは異なる音楽の魅力に触れることになる。
また学校では吹奏楽部に所属し、トロンボーンを担当。演奏曲として取り組んだ“Ob-La-Di, Ob-La-Da”を通じて、The Beatlesにも自然と親しんでいった。後年、クラシックロックやブルースロックへと傾倒していく牧野だが、その入口にはポップミュージック、パンクロック、そして吹奏楽という多様な音楽体験が存在していた。
弓場俊太郎(ベース)
弓場にとって音楽は、物心がつく以前から日常の中に存在するものだった。保育園の頃には『みんなのうた』をテレビでよく観ており、なかでもイラストレーター・アニメーション作家としても知られる安齋肇が手掛けた楽曲“ホャホャラー”が強く印象に残っているという。独特な映像表現や不思議な世界観は、幼い弓場の記憶に深く刻まれた。
音楽的な環境として大きかったのは、ベーシストとして活動していた父親の存在である。家庭では常に様々な音楽が流れ、特にブラックミュージックに親しむ機会が多く、James Brownをはじめとするファンクやソウルミュージックが自然と耳に入ってきた。現在の弓場のグルーヴ重視の演奏スタイルを考える上でも、この環境は大きな原点の一つといえるだろう。
一方で、音楽だけでなく漫画にも『ゲゲゲの鬼太郎』をはじめとする作品に強い関心を持ち、妖怪や空想世界への興味を育んでいった。音楽、映像、漫画といった多様な文化に囲まれて育った経験は、後の豊かな感性の土台となっている。
佐々木檀(ドラム)
佐々木にとって音楽は、幼い頃から生活の一部として存在していた。家族の車内ではTHE BLUE HEARTSやThe Beatles、Queen、ボサノヴァなどが流れており、ジャンルを横断した幅広い音楽に自然と親しんでいたという。なかでもTHE BLUE HEARTSは幼少期から認知しており、その存在は早い段階から記憶に刻まれていた。
転機となったのは小学2年生の頃。家族から与えられた音楽ではなく、自らの意思でThe Beatlesを聴き始めるようになる。当時はYouTubeで関連動画を次々と視聴しながら楽曲を掘り下げていき、特に『The Beatles / 1967-1970』(通称『青盤』)に収録されている中期から後期の作品群に強く惹かれたという。
サイケデリックな実験性と洗練されたポップネスが共存するこの時期のThe Beatlesは、佐々木にとって単なる「好きなバンド」を超えた存在だった。YouTubeを入口として過去の音楽を能動的に探求していく経験は、その後の幅広い音楽的関心の出発点となり、現在の柔軟な音楽観にもつながっている。
第2章:自我の形成 (中学2年生)
「厨二病」という言葉があるように、中学2年生前後は自我の形成が大きく進む時期。家族や周囲から与えられた価値観だけでなく、自らの意思で音楽や文化を選び始める年代でもある。
大人になった今振り返ってみても、この頃に出会った音楽や趣味を原点としている人は少なくない。本章では、3人が中学2年生の頃に何を聴き、何に惹かれていたのかを通して、その後の音楽観の源流を探っていく。
牧野陽輝(ギター)
中学時代の牧野は、当時流行していたRADWIMPSやONE OK ROCK、星野源などをよく聴いていた。友人との会話や学校生活の延長線上に音楽があり、同世代の多くと同じようにJ-POPやロックを自然に吸収していた時期だった。
そんな中、「少しイキって洋楽を聴いてみよう」と思い立ち、The Beatlesの『赤盤』『青盤』を聴き始める。ただ、当時は『青盤』に収録されているサイケデリック期の楽曲はあまり理解できず、むしろ親しみやすい初期のポップな楽曲や、円熟味を増した後期の作品を好んで聴いていたという。さらにQueenにも触れ、それまで親しんでいた音楽とは異なる魅力に惹かれていった。一方で、野球にも打ち込んでいた。野球部には音楽好きの同級生がおり、その影響で星野源を聴くようになる。卒業後も交流は続き、カネコアヤノなども紹介されるなど、牧野にとってその友人は新しい音楽との出会いをもたらす存在だった。また、漫画では『HUNTER×HUNTER』を愛読しており、音楽と同様に王道ながらも独自の世界観を持つ作品に惹かれていたことがうかがえる。
弓場俊太郎(ベース)
中学時代の弓場は男子校に通っており、気の合う友人数人と音楽や漫画の話をしながら過ごしていた。小学校高学年から聴き続けていたスピッツはこの頃も特別な存在であり、繰り返し聴いていたという。一方で、クラスではOne DirectionやSEKAI NO OWARI、クリープハイプ、B’zなどが流行していた。当時を振り返ると、音楽に強い関心を持っている生徒は体感として半数ほどで、現在ほど誰もが積極的に音楽を掘り下げて聴く様子ではなかったように感じるとのこと。
漫画では『ONE PIECE』を愛読しており、単行本のおまけコーナーであるSBSに掲載された細かな設定や裏話まで覚えていたほどだった。一方で、『寄生獣』のような少し大人びた作品にも惹かれており、幅広い作品に親しんでいた。
音楽面での大きな転機は、吹奏楽部でベースを始めたことだった。演奏を通じてCount Basieなどのジャズにも触れ、聴くだけではない音楽との関わり方を知っていく。また当時は東京事変を「この世で一番上手いバンド」だと思っていたという。カラオケでは友人たちと歌うだけでなく、どこまで低い声が出せるかを競い合うような遊びにも熱中していた。
また、この頃はYouTube文化が急速に浸透していた時代でもあり、はじめしゃちょーなどの人気YouTuberを日常的に視聴していた。動画を通じて広まった「ちんちん侍」などの遊びは学校でも流行し、さらに友人たちの間では独自ルールを加えた「ちんちんトロッコ」へと発展していった。インターネットと学校文化が地続きだった時代らしいエピソードである。
スピッツや東京事変といった音楽、『ONE PIECE』や『寄生獣』といった漫画、そしてインターネット文化や友人との遊び。それらが混然一体となった男子校での日常は、後の弓場俊太郎の感性を形作る重要な時期だったといえるだろう。
佐々木檀(ドラム)
中学時代の佐々木は、それまで親しんでいたThe Beatlesを入り口に、より幅広いロックへと関心を広げていった。特に夢中になったのがX JAPANである。YouTubeで初期のライブ映像を繰り返し視聴し、その圧倒的な演奏力やステージングに強い衝撃を受けたという。その他にもMr.Big、JUDY AND MARY、PUFFYなどを好んで聴いており、90年代から2000年代にかけてのロックやポップスに惹かれていた。
また、この頃から同級生とバンドを組み始める。演奏する楽曲もThe Beatlesだけでなく、Sex PistolsやGreen Dayなどへと広がり、聴く音楽と演奏する音楽が結びつき始めた時期でもあった。
カラオケでは友人たちと歌唱力を競い合い、どこまで高い声が出せるかに挑戦していた。低音を追求していた弓場とは対照的に、高音への憧れを持っていたというのも興味深い。同級生とのバンド活動、YouTubeでの音楽探求、そして学校生活の記憶が交錯するこの時期は、佐々木にとって音楽が単なる趣味から自己表現へと変わり始める時代だった。
第3章:制限された日常、拡張する価値観 (高校2年生・コロナ禍)
高校2年生という時期は、多くの人にとって価値観や将来像が具体的な輪郭を持ち始める年代である。しかし、3人の高校生活は新型コロナウイルスの流行と重なった。学校生活や部活動、友人との交流が制限され、それまで当たり前だった日常は大きく変化していく。
一方で、自宅で過ごす時間が増えたことで、音楽と向き合う時間もまた増加した。ライブ映像を見漁り、新たなアーティストを発見し、楽器の練習に打ち込む。閉ざされた環境の中で、それぞれの興味や関心はむしろ深く内側へと伸びていった。
本章では、高校2年生からコロナ禍にかけての時期に焦点を当て、3人がどのような日々を送り、どのような音楽に惹かれていたのかをたどっていく。
牧野陽輝(ギター)
高校時代の牧野にとって最も大きな転機は、高校1年生で野球を辞め、ギターを弾き始めたことだった。それまで打ち込んできた野球に区切りをつけ、音楽により多くの時間を費やすようになる。一方で、巻き髪にして友人たちとカラオケやボウリングに出かけるなど、ごく普通の高校生活も送っていた。
軽音楽部ではマカロニえんぴつなど当時人気だった邦楽ロックを中心に演奏していた。しかし、ときには「自我」を出してOasisを選曲することもあり、徐々に同世代の流行から少し外れた音楽への関心も強くなっていく。
そんな中、大きな影響を受けたのが映画『ボヘミアン・ラプソディ』だった。作品を通じてQueenに改めて魅了されると同時に、バンドの歴史やライブ文化そのものにも興味を持つようになる。そこから過去のライブ映像を熱心に観るようになり、The Who、Jimi HendrixやEric Claptonといったクラシックロックのアーティストへと関心を広げていった。
またこの頃から、みのミュージックの動画を視聴するようになり、ロックの歴史や名盤を体系的に知る機会も増えていく。東京事変などにも熱中しながら、現代の邦楽と往年のロックを往復するように聴き進めていた高校時代は、現在の牧野の音楽的な土台が形成された重要な時期だった。
弓場俊太郎(ベース)
高校時代の弓場は、ベースという楽器への関心をさらに深めていった時期だった。『ベース・マガジン』を読み始め、プレイヤーや機材について積極的に調べるようになる。特に強い影響を受けたのが、OKAMOTO’Sのハマ・オカモトだった。彼を入り口にThe Metersなどのファンクへと関心を広げていき、ベースラインそのものを聴く楽しさを覚えていった。
また、父親からも多くの音楽的影響を受けていた。Donald “Duck” DunnやJames Jamersonといった伝説的ベーシストの名前を自然と知り、そのプレイにも触れていく。幼少期から家庭に流れていたブラックミュージックが、この頃になって演奏者の視点から再び結びつき始めていた。
同世代の音楽仲間の間ではVulfpeckが流行しており、インターネットを通じて海外のファンクやソウルにもアクセスしやすくなっていた。引き続き東京事変やスピッツも愛聴し、吹奏楽にも取り組みながら、自身の音楽的な興味を広げていった。
またコロナ禍と重なった高校生活でもあった。修学旅行は中止となり、多くの学校行事が失われた世代でもある。自宅で過ごす時間が増えたことで、音楽だけでなくゲームや漫画、映画にも多くの時間を費やした。『大乱闘スマッシュブラザーズ』やWii Fitで遊ぶ一方、『鬼滅の刃』をはじめとする漫画を読み漁り、Amazon Prime Videoでは『パルプ・フィクション』など、それまで触れる機会のなかった大人向けの映画も観るようになったという。
音楽、漫画、映画、ゲーム。外出が制限された日々のなかで様々な文化に触れた経験は、弓場の価値観や表現の幅を大きく広げる時間となった。
佐々木檀(ドラム)
高校時代の佐々木は、それまで親しんでいたクラシックロックからさらに音楽の幅を広げ、より深く作品そのものを掘り下げていくようになった。特に大きな影響を受けたのがRadioheadである。なかでも“Fitter Happier”の、コンピューター音声による無機質な語りを暗記して暗唱していたというエピソードからも、当時の熱中ぶりがうかがえる。
その他にも羊文学やオルタナティブ・ロック全般、さらにはTom Waits、70年代のFleetwood Macにも強く惹かれ、同世代の流行とは異なる角度から音楽を探求していた。
高校では軽音楽部に所属し、オリジナル曲で全国大会への出場も経験する。進学校だったこともあり、周囲の流行は比較的分散していて、誰もが同じものを追いかけるという雰囲気ではなかったという。その中で佐々木は音楽に強い関心を注ぎ続けた。
高校3年生になるとコロナ禍と受験期が重なることになる。日中は受験勉強に取り組みながら、夜には友人たちと『Call of Duty』をプレイする日々を送っていた。一方で、自宅で過ごす時間の増加は音楽との向き合い方にも変化をもたらした。この頃からレコードを買い始めたのも大きな出来事だった。仙台駅で開催されていたレコードフェアに足を運び、最初に購入したのはQueenの『Queen II』。それまでデジタル環境を通じて聴いていた音楽を、フィジカルな作品として手に取る体験は新鮮だったという。ライブ活動、受験、ゲーム、そしてレコード収集。それらが同時進行していた高校時代は、佐々木の音楽的な探求心がさらに深まった時期だった。
第4章:表現への接近(大学2年生)
大学2年生頃は、それまで培ってきた興味や価値観に新たな幅が生まれ始める時期である。音楽においても、聴くことに加え、演奏や創作、人との交流を通じて、より多面的な関わり方になっていく。大学2年生頃、3人はゆうやけしはすと出会う。きっかけはゆうやけしはす主催のジャムセッションだった。それぞれ異なる音楽的背景を持ちながらも交流を深め、やがてすうらばあずの結成へとつながっていく。
本章では、大学2年生当時の3人がどのような音楽を聴き、どのような活動に取り組んでいたのかを振り返る。
牧野陽輝(ギター)
大学時代の牧野は、高校時代からの流れを引き継ぎながら、よりリズムやグルーヴといった要素に意識が向くようになっていた。Sly & The Family StoneやThe Band、Motownの作品などを好んで聴き、楽器単体よりもアンサンブルやリズムの感触に耳が向いていく時期だったという。
またこの頃、すばらしかやフーテン族といったバンドの存在を知り、ライブシーンへの関心を強めていく。そうした流れの中でゆうやけしはすの主催するジャムセッションに足を運び、そこで弓場俊太郎と出会うことになる。
活動の場は徐々にライブハウスへと広がり、埼玉や東京を中心に演奏機会を重ねていく。その中で逆鱗児と出会い、後にそのメンバーとTHE SLIGHT RETURNSを結成。さらにブルースセッションにも積極的に参加し、現場での経験を重ねながら演奏スタイルを確立していった。
一方で、音楽一辺倒というわけではなく、友人との飲み会に参加するなど、ごく普通の大学生らしい時間も過ごしていた。音楽と日常が並行して進んでいたこの時期は、牧野にとって活動の土台が広がっていく重要な時期だった。
弓場俊太郎(ベース)
大学入学後の弓場は、ロバート・ジョンソン研究会に所属し、ブルースのカバー演奏などを通じてルーツミュージックへの理解を深めていった。入学当初はオーバーサイズの服に短髪ワックスというスタイルで、いわゆる「大学生らしい」外見とともに新しい環境に馴染んでいったという。
大学生活の中で、佐々木檀と出会う。ベースとドラムというリズムセクションとして自然に噛み合い、セッションを重ねることで関係を深めていった。その後、佐々木とは「brooks」としても活動を共にするようになる。
こうした活動とは別に、すばらしかなどのバンドを知る過程でゆうやけしはすの存在にも触れ、ジャムセッションに参加するようになる。そこでの出会いが、後の音楽活動へとつながる重要な接点となった。
さらにこの頃から、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』をきっかけにその元ネタプレイリストでCanやSilver Applesといったクラウトロック、さらにはSantanaなどにも関心を持ち、ジャンルを横断しながらルーツを辿るように音楽を聴くスタイルが形成されていった。
佐々木檀(ドラム)
大学進学後の佐々木は、Jackson Browne、Karla Bonoff、Suzanne Vegaなどの70年代前後のソングライターポップスに傾倒し、楽曲そのものの構造や言葉のニュアンスに意識を向けるようになっていった。
大学ではロバート・ジョンソン研究会やロック研究会に入り、ブルースやロックのカバー演奏を通じて幅広いジャンルの音楽に触れていく。その後、弓場俊太郎と大学で出会い、ベースとドラムというリズムセクションとして自然に噛み合いながら関係を深めていった。さらに弓場とは「brooks」としても活動を共にするようになる。並行して「食堂ガール」というバンドにも参加し、こちらでは演奏だけでなく映像制作も担当するなど、表現領域を広げていった。
また、牧野陽輝と弓場がゆうやけしはす主催のジャムセッションで出会い、その流れをきっかけに「すうらばあず」が結成されることになり、それがきっかけでゆうやけしはすと関わるようになった。
弓場の影響も受け、Sly & The Family Stoneなどのファンクにも触れるようになり、グルーヴへの意識がより強まっていく。またStevie Wonderの「Superstition(迷信)」はオリジナルではなくJeff Beck・Tim Bogert・Carmine Appiceによるバージョンを好むなど、より演奏視点で楽曲を捉える傾向も見られるようになる。音楽活動の合間にはカレーにハマるなど、生活感のある一面も持ち合わせていた。
第5章:現在地 (現在)
本章では、現在の3人の活動と音楽的関心について整理する。各メンバーがそれぞれ複数のプロジェクトを並行させながら活動を続ける中で、どのようなバンドやアーティストに影響を受け、現在の音楽観を形成しているのかを見ていく。
また、現在気になっているバンド(近場・遠い存在)や、オールタイムベストといった選曲を通じて、各自のルーツと現在地の接続関係を明らかにすることを目的とする。
牧野陽輝(ギター)
大学以降の牧野は、「ゆうやけしはす&すうらばあず」としての活動を軸に、演奏と制作の両面で音楽に関わり続けている。今年からはボーカル曲も手がけるようになり、これまでのギター中心のスタンスから表現領域をさらに広げている。
また、ソロ名義「牧野陽輝」として2枚のアルバムを発表し、個人としての表現も並行して展開している。加えて、THE SLIGHT RETURNSとしてのバンド活動も行い、複数のプロジェクトを横断する形で音楽活動を続けている。
現在関心を持っているバンドとしては、身近な存在では先輩が活動するCosmic Mauve、遠方ではすばらしかや田中ヤコブなどを挙げている。シーン内外を問わず、独自の視点で音楽を追い続けている点が特徴的である。
オールタイムベストとしてはThe Beatlesを挙げており、ギタリストとしてのルーツにはJimi Hendrixを強く意識している。クラシックロックから現代のインディーまでを横断しながら、自身の演奏スタイルを更新し続けている。
弓場俊太郎(ベース)
現在の弓場俊太郎は、「ゆうやけしはす&すうらばあず」として演奏と制作の両面で音楽を展開している。また、並行して活動する「brooks」ではPヴァインより1stアルバムをリリースし、バンドごとに異なる表現を提示している。
現在気になるバンドとしては、近場ではJohn Tremendous’ Soft Adult Explosion、遠方ではマーマレードマウンテンなどを挙げており、ローカルからインディーシーンまで幅広い視点で音楽を追い続けている。
オールタイムベストとしてはCaptain Beefheartとスピッツを挙げており、実験的なアプローチとポップス的感覚の両方をルーツとして持ちながら、自身のベースプレイへと昇華している。
佐々木檀(ドラム)
現在の佐々木檀は、「ゆうやけしはす&すうらばあず」と「brooks」の活動を軸に演奏・制作を行っている。
現在気になるバンドとしては、近い存在ではTocagoや座布団忍者、遠い存在ではClairoなどを挙げており、国内外を問わずインディー以降の音楽シーンに広く関心を持っている。
オールタイムベストとしてはJefferson AirplaneとKarla Bonoffを挙げており、サイケデリック・ロックとソングライターポップスの双方をルーツに持ちながら、自身のドラムプレイへとつなげている。
まとめ — 境界のない時代と音楽
全員が20代前半である彼らの音楽的感性は、インターネット環境の中で形成されている点に特徴がある。過去と現在の音楽は時間的な序列としてではなく、同じ画面上に並列的に存在し、自由に行き来される。
その結果として、世代や文脈の異なる音楽同士が、個人の中で思いがけない形で接続される状況が生まれている。弓場がゲーム『トモダチコレクション』内で、Soft MachineのKevin AyersがPerfumeののっちに好意を持つ状態を作っているように、もはやジャンルや時代の境界は固定されたものではなく、軽やかに混ざり合う対象となっている。
そこには従来の音楽史的な「系譜」とは異なる、新しい意味での現在性が立ち上がっている。それは過去の引用でも未来志向でもなく、異なる時間軸が同時に成立してしまう感覚そのものとして存在している。
このような感覚は、単なる世代的特徴や一時的な嗜好の変化として片付けられるものではない。むしろそこには、音楽そのものの受け取られ方がすでに変質しているという前提がある。
過去の音楽は過去のものとして保存されるのではなく、現在の音楽と同じ速度で再解釈され、再配置されていく。その結果として、かつての音が「古いもの」ではなく、「今触れられる音」として再び機能し始めている。
本連載『ロック遺伝子図鑑』は、まさにこの感覚を出発点とする。音楽の系譜を固定された歴史としてではなく、現在へと継続する変異のプロセスとして捉え直し、今鳴っている音の背後にある遺伝子を遡っていく試みである。
次回以降はゲストを迎え、それぞれの「ロック遺伝子」を掘り下げていく。個々の記憶や嗜好を手がかりに、音楽の系譜と現在地を引き続き追っていく。
ゆうやけしはす&すうらばあず ワンマンライブ
| 日時 | 2026年6月28日(日) |
|---|---|
| 会場 | |
| 出演 | ゆうやけしはす&すうらばあず / みのミュージック(DJ) |
| 料金 | 前売り ¥3,000 / 当日 ¥3,500 / U22 ¥1,500(+1ドリンク) |
| チケット |
これまでの「ゆうやけしはすのロック遺伝子図鑑」
この連載について(過去の音が、最新である)
ロックは死んだ、とよく言われる。
しかしそれは正確ではない。ロックは死んだのではなく、時間から解放されたのだ。
かつては違った。1960年代、The Venturesの音を聴いて、日本中の若者たちはギターを手に取った。さらに数年後マッシュルームヘアーのThe Beatlesという若者たちが、世界の音楽地図を塗り替えた。日本も例外ではなく、その熱狂はグループサウンズという形で土着化した。70年代にパンクが出ればアンダーグラウンドの不良たちは飛びつき、80年代にヘヴィメタルが爆発すれば速弾きの美学が世界を覆い、90年代にグランジが鳴り響けばその轟音は数年遅れで渋谷や下北沢の路地裏にも届いた。当時の最新を真似ることが、最先端だった。ロックはつねに「今」に向かって走っていた。
その図式が崩れたのが、おそらく2000年代だ。
最後の共通語、という言い方をしてみるがそれは1990年代のNirvana、Oasisであろう。少しおまけをしてもThe Strokes、Arctic Monkeys。このあたりまでは、ロックを聴く人間ならば誰もが知っている「みんながわかる言葉」として機能していた。「あの曲」と言えば話は伝わった。
それ以降のロックは意義を失い、ポップスやヒップホップ、EDMに飲み込まれ、2020年代、グローバル化の波に乗ってBad Bunnyが世界を席巻しようともそれはスペイン語のラテン音楽であり、誰もその楽曲を口ずさむことすらできない。日本に目を向ければ、かつての共通言語であったオリコンランキングは秋元康にハッキングされ、もはや誰の羅針盤にもなっていない。米津玄師やMrs. GREEN APPLEのような存在をロックに含めない限り「みんながわかる」という意味での最新のロックは、もう生まれていない。
だが、ここで終わらないのが面白いところだ。
インターネットが、時間をフラットにした。YouTubeがあり、SpotifyやApple Musicがある。1967年の『The Velvet Underground & Nico』も、1971年の『風街ろまん』も、1977年の『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols(勝手にしやがれ!)』も、1991年の『Nevermind』も、2005年の『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』も、2007年の『空洞です』も、すべてが等距離に並んでいる。現在のYouTubeの音楽チャンネルの中では、おそらく最も共通言語として機能しているであろう『みのミュージック』の名盤ランキングを眺めれば一目瞭然だ。若い世代の「あこがれ」は、過去にある。過去の音こそが、今の耳には新しく聴こえる。
つまりこういうことだ。
過去のあの時代の音が、最新のロックなのだ。
この連載『ロック遺伝子図鑑』は、その前提に立つ。あの時代の音楽が現在どう鳴っているか。どう変異し、どう受け継がれ、どこで枝分かれしたか。音楽の系譜を、生き物の遺伝子を辿るように追いかけていく。今のバンドや音楽を解剖しながら、その血筋を過去へと遡っていく。そして何度も「終わり」を告げられながら蘇ってきたロックを、いま再び、我々の時代に呼び戻そうではないか。
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WRITER

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1960年代クラシックロックのサウンドに、現代的な視点の歌詞を重ねることで、“懐かしいのに新しい”音楽を生み出すプロジェクト、ゆうやけしはす。すばらしかのキーボードとして活動していた林祐輔が、ソロプロジェクトとして始動。
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最終的な目標は、ロックンロールそのものを現代において再定義し、その頂点であるビートルズを更新すること。なお、「ゆうやけしはす」という名前は、本名・林祐輔のアナグラムである。
