REVIEW
ska song / Apple
bulbs of passion / メシアと人人
MUSIC 2017.11.09 Written By 山口 将司

昨年リリースした1stアルバム『最後の悪あがき』が大傑作。以降も怒涛のライブ活動でじわじわと各地へ支持を広げ続けているfrom京都の2ピースバンド、メシアと人人。ライブ音源を収録したカセットテープに引き続いてのリリースとなるのは東京の4ピースバンドbulbs of passionとのスプリット7inchだ。

 

メシアと人人はGt/Voの北山とDr/Voの福田という2人組。元々はベーシストも含めた3人編成だったが突如ベースが脱退してしまい、既に決まっていたライブを乗り切るためにもとにかく2人でやってみたところからここまで来たというのだから面白い。北山はギターアンプ2台にベースアンプまで1人で鳴らし、福田は堅実ながらも随所に味と歌心のあるドラムを叩く。2人の声の相性も抜群で、各自がメインで歌い分けが出来るのはもちろん、上下のユニゾンで声が合わさった時の気持ち良さは特筆すべきものがある。

 

ライブでは北山の爆音ギターに、地を這うような福田のドラムが合わさり、ノイジーながらも確かにPOP、しかし一つ間違えば崩れ落ちてしまいそうなギリギリのバランス感覚、危うさも内包しているのが特徴で、それ故に見ている者も目が離せなくなる。だからこそ常にフレッシュ。北山は2リットルのペットボトルの水をぐびぐび飲みながらギターを自らの身体の一部のように操り鳴らしたかと思えば時にはギターと喧嘩するようなハラハラするパフォーマンスも見せる。彼らが幅広い世代、バンドから支持されるのはそういったロックバンドならではの魅力である危うさと表裏一体の美しさを常にまとい、こちらが思わずのめり込んでしまう音風景を見せてくれるからに違いない。

 

時に“シューゲイザー”的とも言われることもある彼らのサウンドだが、実際はそのワードから想像される広がりのある爆音とは少し違っていて、ギターPOPとも呼ぶべきコード感やフレージング、90年代USインディーのような音運びとメロディーセンスが何よりの武器であると僕は思っている。特に音源においてはそういった彼らのPOPセンスの部分が遺憾なく発揮されている。ライブでは爆音の奥にその音の存在が浮かんでは消えていき、それを捉えようと耳を凝らすと確かに聞こえてくる、というような非常にセンシティブなフックとなっている部分が、音源ではより分かりやすく聞き手に伝えられている。

 

『Apple』はそんなメシアと人人のPOPセンスがストレンジにも炸裂する、間違いなく彼らの現時点での代表曲の一つであると言える名曲だ。

 

少し跳ねたドラムビートと潰れたように歪むギター、裏で福田のコーラスが色を添えてサイケデリックな印象すら与える音像。前作『最後の悪あがき』でのソリッドでスッキリとしたサウンドからはまた少し形を変え、Llamaの吉岡哲志によって彼の運営するstudio INOで録音された本作は全体像としては少し丸みを帯びながらも耳への引っかかりは強烈に残す仕上がりとなっている。

 

寓話性の高い歌詞世界は散文的でありながら空耳度は低く、しっかりと聞き手に歌詞が入り込んで来るのは北山による職人的と言っても良いようなメロディーラインがあるからこそだろう。

 

「白く濁ったリンゴ」「白く腐ったおばけ」

 

といった対比や、

 

「重く汚い本、物が存在しない部屋で」

 

というパートの歌い回しの妙でどこかチャイルディッシュとも言える風景を浮かび上がらせるのも見事だ。前作にはそのもの『おばけ』という曲が収録されているように、ゴースト/おばけというモチーフは彼らにとっては普遍的なテーマであり日常的な景色なのかもしれないし、ダニエルジョンストンを例に挙げるまでもなくストレンジでありながらどこまでもPOPという構造からしておばけとメシアと人人の相性は抜群であると言えるかもしれない。

 

他方、bulbs of passionは『ska song』というタイトルの名の通り裏打ちのギターリフを主体としたアップテンポな曲を収録しているが、こちらもストレートなskaでは収まらず、裏打ちコードバッキングをカラッと落ち着けることのない残響を強く残した空間の強いサウンドメイキング。ハイトーンと脱力感が印象的なボーカルで歌われるのは「僕はずっと死に続けているんだ」という、退廃的な匂いの漂うフレーズであり、こちらもストレンジでありながら強烈な印象を残す曲に仕上がっている。メシアと人人、bulbs of passion共にサイケデリックな音像やストレンジなサウンドに彩られながらもPOPに着地させることの出来るバンドであり、双方の魅力が詰まったスプリットだ。

 

データのみで聴けるお互いのカバーではそれぞれのバンドの持ち味を活かしたアレンジを披露している。ローファイベッドタイムミュージック調に仕上げたメシアと人人による『samething』に対し、bulbs of passionによる『待って』はビートやコードの再解釈、

 

「人は死に易い すぐに人は死ぬ 人は死に易い 人も動物だから」

 

というフレーズのシンクロ率も見事に仕上がっていて聴きごたえ抜群だ。

 

地元を中心としながらも積極的なライブ活動で各地を飛び回り、力をつけまくっているメシアと人人の快進撃はこれからもまだまだ続いていくだろうし、彼らの持つストレンジなPOPセンスがこの先どのような方向へ向かっていくのか楽しみで仕方がない。知っている人はもうとっくに知っている、まだ知らない人は絶対に損をしている。一聴しただけで分かるフックと、聴き込むと見えてくる奥行き、観客がそれを自ら探し当てたりぶちまけられたりするライブも含めてとにかくチェックしておくべきバンド、作品だ。

 

しかしまだ20代も半ばくらいである彼らはなぜこんなにも「死」やそれにまつわる事柄(おばけとか)を歌うのだろうか…と思いながら『最後の悪あがき』の帯をふと見たら「絶対に死なない!」と大きく書かれていた。このアンビバレンツ感…!僕はこのバンドから目が離せそうにない。

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