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【和島咲藍の見たボロフェスタ2018 / Day3】バレーボウイズ / わたなべよしくに / CAR10 / チーターズマニア / Hello Hawk

2018年10月28日午前11時、前日の興奮と疲れであまりぐっすり眠れなかった鈍い頭を引きずりながらも、新たに出会うアーティストたちへの期待で胸をいっぱいにして、再び京都KBSホールにやってきた。いよいよボロフェスタ最終日だ。

 

バレーボウイズ

ボロフェスタ2018最終日の一番手を飾るのは、京都精華大学で結成され、FUJI ROCK FESTIVAL 2017にROOKIE A GO-GO枠で初出演を果たすなど、注目を集めているバレーボウイズ。

「一番手やりますよろしくお願いします!」という挨拶とともに始まったのは“あさやけ”。花がほころぶ姿を彷彿とさせる重層的なコーラスに合わせて真っ赤なワンピースを着たVo.オオムラツヅミが気持ちよさそうに踊り、浮遊感と多幸感が客席を包む。

 

“ひがしのまち”ではずっしりした拍を刻むドラムとベースが曲の雰囲気を掌握し、だんだん圧を増す音と、それに呼応するヴォーカルに高揚し、観客は思わず足踏みしながら体を揺らしてしまう。

全体を通してノスタルジックで歌謡風の曲調ながら、時折スピーカに足をかけて目を見開き、客を睨みつけながら歌うVo./前田の姿がとても印象的で、ボロフェスタ最終日キングSTAGE一番手としての、そして彼なりの「音楽を止めるな!」に対する覚悟を感じずにはいられなかった。

 

Photo:Furuhashi Yuta

わたなべよしくに

続いてはホールを出てすぐのジョーカーSTAGEへ。始まったわたなべよしくにのステージは、弾き語りのようなポエトリーリーディングのような、告白のような慟哭のような、歌を聴いているようで世界をみせられているような、既存の枠を当てはめることのできないものだった。

 

なかでも異様だったのは拍手が起こらないこと。透き通った声で語られる潔癖性や生きづらさ、思春期のひりひりした感覚、そして彼の豊かな表情によって(彼は、ひた、と遠くを見据えたと思ったら目の前の客に微笑みかける。文字どおり、笑いながら泣いている。声を震わせたり怒ったりする)すっかり彼の紡ぐ世界に没入してしまい、曲が終わったところですぐにはこちらの世界に戻ってこられないのだ。メインホールや地下のステージ、飲食ブースなど、すべての動線となるこのせわしない空間を自らの世界に塗りかえてしまった彼のステージの30分間はまさに至福の時間だった。

 

Photo:ヤマモト タイスケ

CAR10

地下の街の底STAGEに降りて行くと、栃木県足利を拠点に活動するパンクバンドトリオ・CAR10のリハーサルが始まっていた。この段階から揺れる客席、ひっきりなしに聞こえる「前の方へお願いします!詰めて下さい!」との係員さんの声に、期待度が高まる。ステージが始まると、観客の興奮に応えるように、彼らも激しく心のこもったプレイを見せる。Ba. / Vo.河田は恍惚とした表情で優しく艶のある、しかし野太い声で歌い、うねるギターソロが会場を満たし、Dr.ナガイは踊るようにドラムを叩く。シンコペーションを重ねるたびに歓声が上がり、熱気が立ち上る。

 

下から彼らを照らす照明が夕焼けのようで、彼らの率直で骨太な演奏にすごく似合っていた。彼らの演奏の途中で係員が客席を奥に押しに来るような集客の中、最後にはCAR10と観客が一体となって合唱し、鳴り止まない拍手が会場を包んだ。

 

Photo:Yohei Yamamoto

チーターズマニア

次は小学5年生のVo.共鳴が率いるハードコアパンクバンド・チーターズマニア。率直に言うと、ハードコアやパンクの門外漢である私は、「マニア!マニア!マニア!」とコールする、どこか獰猛な雰囲気のある客席に腰が引けていた。しかし、ひとたびステージが始まると、チーターズマニアが作り出すフランクで情熱的な、そして華のある世界に引き込まれ、緊張や偏見が吹き飛んで行ってしまった。

 

フロアの真ん中に降りてきて小さな体で大人たちを煽り、手玉にとるVo.共鳴と、それを裏で支えつつも存分に暴れる楽器隊の大人たち。「戦争反対!」から「おしっこもれそう」まで、まっすぐで、それゆえにおかしみのある歌詞が会場を沸かす。躍り狂うフロアに風船が浮かび、ヤジが飛び交う中、最後にはモッシュやダイブまで巻き起こる激闘のステージだった。

 

Photo:ヤマモト タイスケ

Hello Hawk

チーターズマニアが残した真夏のような熱気と湿り気のなか、次に登場したのは爽やかなソング・ライティングと独特の世界観の歌詞で多くのインディ・ファンを虜にしているHello Hawk。ボロフェスタには7年ぶりの出演だ。

 

演奏が始まると、クリスプなちゃきちゃきしたギターにハーモニカ、ピアニカ、ベースの和音に透き通った歌声が我々を一瞬で地下のライブハウスから連れ出し、気持ちのいい風が吹く草原にいるかのような錯覚を起こさせる。しかし、彼らはただ爽やかなだけではない。Ba ./ Cho.ナカツカサトシが「ここ最近で一番ハッスルしています」と語ったとおり、メンバー間で目を合わせて笑い激しく体を揺らし、Vo. / Dr.オカダワタルが絶叫すればGt. / Cho.タカヒロイトーが情感たっぷりのギターソロで応える。

 

だんだん分厚くなるサウンドに何度も歓声が上がるなか、ちょうど彼らの裏で演奏しているサニーデイ・サービスを意識して作ったという“確かめに”では京都のアートパンクバンド・my letterのBa.おざわさよこをゲストコーラスに迎え、重層的で広がりのある叙情的なサウンドが我々の心に熱く優しく寄り添った。

 

Photo:Machida Chiaki

最後に

さて、2日間にわたって参加したボロフェスタだが、やはり印象に残っているのは「音楽を止めるな!」というコンセプト、そしてそれを受け止め、それぞれの形で体現したアーティストたちである。

 

今年ボロフェスタが掲げたテーマは“サーカス”。災害が多発し、様々な音楽フェスが中止を余儀なくされるなか“こういう時だからこそ、音楽にのめり込んで泣き笑いすることを肯定する場を作ろう”という想いとともに、多くの手によって作り上げられたこのフェスは、私に伊坂幸太郎の長編小説『重力ピエロ』を思い出させた。

 

そこには「ピエロがブランコから飛ぶ時、みんな重力のことを忘れている」 「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんかなくなる」という台詞がある。

 

大好きなバンドが目の前で全身全霊をかけて演奏しているとき、大好きな音楽を聴いているとき、我々は一瞬だけでも確かに、日々の悩みや世の中のままならなさを忘れ、解放されて、自由になっている。辛いことがあっても、大変なことが起きても、音楽を聴き続ければ、楽しそうに生きていれば、地球の重力なんかなくなってしまうのだ。

 

もちろんいつまでも無重力でいられるわけはない。それでも、無重力のその一瞬が、長く険しい現実を生きる我々を支えている。役に立つ・役に立たないで物事が二分されがちな今、ボロフェスタ2018は『そういう問題ではない、音楽は“必要”なんだ』ということを我々につきつける、まさに祝宴だった。

 

【和島咲藍の見たボロフェスタ2018 Day2】アイアムアイ / ベランパレード / Polaris / OGRE YOU ASSHOLE / ワンダフルボーイズ

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