INTERVIEW

sa/wa 改め Sawa Angstromが語る、エレクトロニック・ミュージックの楽しさと海外ツアーの景色

拍手と歓声がすごかったです。最初はその騒ぎようが信じられへんかった(吉岡)

海外ツアーのフライヤー
──

ここからは、ヨーロッパと台湾を回った海外ツアーについてお聞かせいただければと。今回、5曲入りの会場限定EPを制作されていますよね。SoundCloudにデモがあがっている曲もありますが、EP自体は海外に行くことを前提に作られたんですか?

吉岡

そうですね。

──

海外ツアーには、どういった経緯で行くことになったんでしょう。

浜田

今年の春ぐらいに、「ヨーロッパ行きたいなあ」くらいの話をなんとなくしていて。飛行機のチケットの値段を調べたら思いのほか安かったので、じゃあ行こうか、と。

吉岡

ギタリストの山内弘太くんが元々外国人の友達が多くって、英語も喋れるので。彼にヨーロッパ方面でブッキングをお願いできる人を紹介してもらって、組むことができました。

──

quaeruやpumaなどで活動されている方ですね。

浜田

はい。山内くんもソロで一緒に来てくれることになったのと、最初に話した井上理緒奈ちゃんも山内くんのライヴでよくVJをやっているので、その2人と一緒に回りました。

──

中国や台湾に遠征するバンドは増えてきていますが、なぜヨーロッパだったんでしょう。

吉岡

エレクトロニック・ミュージックの本場を見てみたかったんです。ヨーロッパでは歴史も長いし、カルチャーとしてずっと根付いているような印象があったので。

──

その点、実際に現地に行ってみていかがでしたか?

吉岡

現地での移動のとき、Uber(ウェブやアプリから利用できる自動車配車サービス)の運転手と雑談をしたんですけど。「どんな音楽やってんねん」って聞かれて、「エレクトロニック・ミュージックに歌が乗ってる感じや」って答えたら、それだけで「おおすげえ!最高じゃん!」みたいなリアクションが返ってきたんですよ。Uberの車内で流れてる曲もエレクトロニック・ミュージックが多かったです。

浜田

それが一番分かりやすいエピソードかな。他に知り合った人たちも、「エレクトロニック・ミュージックに歌が乗ってる」って言ったら、みんなだいたい「絶対ええやんそんなん、パーフェクトや」って。ポップスの一つとして自然に聴かれてるような印象でした。自分の回りではそういう人が少なかったから、いいなあと思って。

──

ツアーの中にはフェスのような会場もありましたよね。

児玉

ありました。ヨーロッパツアーの最終日が、ベルギーのお城みたいな大きな廃墟でやっていたフェス(11/23 George’s Night #8 @Brasserie Atlas)でしたね。ライトアップがすごくきれいで、お客さんもたくさんいて。

──

ライヴ中、お客さんの様子で特に印象的だったことはありますか?

吉岡

拍手と歓声がすごかったです。(エレクトロニック・ミュージックの)歴史が長いぶん、厳しい目で見られるかなと思ってたんですけど、全然良い反応で。行く前に「日本人はお愛想で拍手するけど、海外の人はしないよ」っていう話も聞いてたから、最初はその騒ぎようが信じられへんかった(笑)。

児玉

でも毎回それだったから、本当に喜んでくれてるんだって。長く続くし、声量もすごいし。「フーフー!」って言ってくれてるし。

浜田

直接話した方からは、「インプロセッションの合間に歌ものの曲が入ってるのが新鮮」みたいな感想をもらうことが多かったですね。どっちかしかない場合が多いらしいです。

児玉

それと、気軽にライヴハウスに来てる若い子たちがたくさんいたのが印象的でした。そこまでマニアな音楽好きでもなくて、ライヴを見るために来るっていうより、ただ遊びに来てお喋りしているような。そういう子たちって、現金を持たずにカードだけでお酒もチケットも支払ってるんですよ。

浜田

カード文化がすごく進んでましたね。現金をマジで1円も持ってへん人がいっぱいいて。物販でカード決済できるようにしてたら倍は売れたなっていう。

児玉

その悔しさはありますね。

──

中国や台湾のバーコード決済の話はよく聞きますけど、ヨーロッパではカードなんですね。

児玉

一人、わざわざATMまで下ろしに行ってくれた子がいて。嬉しかったですね。

ヨーロッパでは、いろんなジャンルの芸術が並列に受け入れられているような印象がありました(浜田)

──

ほかの出演者で印象的だった方はおられますか?

浜田

コペンハーゲンで山内くんと一緒にやっていたAnders Bachがすごく面白かったです。自作の楽器やモジュラーシンセでセッションしていて。

吉岡

向こうの他のバンドを見ていて思ったのは、エレクトロニック・ミュージックではない日本のかっこいいバンドでも同じようにウケるんじゃないかなってことで。もしかしたら、ジャンルの垣根みたいなものが、そこまで無いのかもしれない。だから日本のバンドでも、もっと気軽に行ける空気が出来たらいいのになと思いましたね。日本で売れてても売れてなくても、多分向こうではスタート地点は一緒やから。行ってみたらもう、楽しいことしかなかったし。

──

まだ距離を感じてるミュージシャンも多いかもしれませんね。滞在中の生活はいかがでしたか。

浜田

僕らはタイトなスケジュールで組んでたので、移動時間も長くて、よく寝れへん日も結構あったんですよ。で、体力がどんどん無くなっていくんですけど、ライヴの状況がテンションが上がるようなものばっかりで。テンションはMAXやのに体はボロボロっていう、めっちゃおかしな状態で生活してました(笑)。

児玉

2人とも途中からめっちゃ噛みだして、何言ってるか全然わからなくて(笑)。それが面白かったです。

──

これからも折に触れて行きたいと思われますか。

浜田

そうですね。声かけてもらってる所もあるので、正式に決まったら、また来年も行きたいなって思います。

──

それではまとめとして、今回のツアーの感想を、お一人ずつお聞かせいただけますか。

浜田

ヨーロッパって、いろんなジャンルの芸術が並列に受け入れられていた印象があって。ノイズ音楽も、美術館の絵画も、ボウリングとかバーの文化も、シームレスに精通している人が多いなと思ったんです。美術館で絵を見ている人が、家に帰ったら料理しながらアヴァンギャルドな音楽を聴いてる、みたいな。昔そうあれたらいいなと思っていたその感覚を、久々に取り戻せたのが大きいですね。これからもそれを日本で見失わないまま音楽を作っていけたらいいなって。京都でも、そういう感覚がもっと広まったら面白くなるんちゃうかなって思いました。

──

吉岡さんはいかがでしょう。

吉岡

そうですね……僕は元々感情のアップダウンが少ない方で、普段の活動に慣れていくにつれ、さらに平坦になっていくような感覚があったんですよ。でもヨーロッパで感じた刺激で、その振れ幅が大きくなったような気がしています。生きてるって感じですね。

──

最後に児玉さん、お願いします。

児玉

私は吉岡さんと逆で、日頃の感情の起伏が激しいほうなんです。でもヨーロッパのお客さんたちを見ていたら、みんな受けた刺激に対して自然にテンションを上げていて、それが心地よかったんですね。今まで「じっとしてなさい!」みたいなことを自分に言い聞かせて過ごしてきたから。なので、すごく開放された感じがしました。で、日本に帰ってきて元に戻ったかというと、そうでもなくて。あの心地よさを引き連れて帰って来れたなっていう実感を持てているのが嬉しいですね。

──

バンドとしてはいかがですか。

吉岡

まだ詳しくは話し合ってないけど、日本にいたままだと、今の流行に沿ってブラック・ミュージックにエレクトロニック・ミュージックが入ったものを強く意識することになっていたのかなと思うんです。でもその流行りも、ある意味では限られた範囲のものでしかないっていう実感があって。もっと自由に模索していけるのかなって思っています。

浜田

行ったことないとこに行くのはやっぱり面白いから、死ぬまでに全部の国をSawa Angstromで回れたらええな、みたいなことは思いますね。シンプルに楽しかったから。

プロフィール:Sawa Angstrom(サワ・オングストローム)

京都を中心に活動するエレクトロニック・ミュージック・ユニット。児玉真吏奈、浜田淳(Lainy J Groove, TAKANA OF THE HAMADA)、吉岡哲志(LLama)の3名により2017年に結成。声とシンセとサンプラーを用いて、ユースホステルやアートギャラリー、ビアバーなどのユニークな場所でライブを行っている。彼らのミニマルで即興性の高い演奏やメランコリックな歌は、デザイナー、映像作家、空間芸術家などのアーティスティックな人々から高い評価を受けている。

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メンバー:

浜田淳

アーバンソウルファンクバンド・Lainy J Grooveのメンバーとしても活躍中。YeYeのサポートベーシストを務めるほか、映像作家として数多くの動画を制作しており、幅広く多才な活動を行っている。

 

吉岡哲志

LLamaのメンバーとしてRallye Labelやwondergroundから作品をリリース。和田直樹(空中ループ)とともに京都・今出川堀川のレコーディングスタジオ・studio INOを運営し、エンジニアやアレンジャーとしても数多くのアーティストの作品を手掛ける。

 

児玉真吏奈

ソロ・アーティストとしても活動中。2017年にP-VINEから『つめたい煙』をリリース。シンセサイザーによる弾き語りや宅録楽曲、即興曲などからなる同作は、独特のアシッドな佇まいも相まって七尾旅人や豊田道倫らから絶賛を受けた。

日時

2019年1月30日(水)

開場19:00 / 開演19:30

会場

木屋町UrBANGUILD

出演

Hanging Up The Moon
林以樂 (skipskipbenben, 雀斑freckles)
Sawa Angstrom (ex.sa/wa) × 井上理緒奈 (VJ)

料金

前売2800円 / 当日3300円 ドリンク代別

予約

UrBANGUILD イベント予約フォーム

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