REVIEW
Brand New Knife
少年ナイフ
MUSIC 2018.08.23 Written By 吉田 紗柚季

このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューの中心となる1枚です。

 

企画詳細はこちらをご確認ください。

話せない言語で歌うということ

今年で結成37年目となる大阪出身の3ピース・ガールズ・バンド、少年ナイフ。デビュー作『BURNING FARM』(1983)がシアトル郊外のレーベル・Kレコーズに見初められたことから日本より先に英米で人気を博し、ニルヴァーナの前座としてUKツアーを回るなど異色の経歴を歩んできたバンドだ。本作はそのメジャー3枚目のアルバム。パンクバンドである彼女らにしては珍しく、「WIND YOUR SPRING」や「FRUITS & VEGETABLES」など、ギターのストロークやコードワークにネオアコの空気を持つナンバーが多い。そして彼女らの他のアルバム同様、US盤では日本語の曲がすべて独特のカタカナ英語で歌い直されている。

 

Homecomingsの特徴として畳野彩加(Vo./Gt.)のカタカナ発音のボーカルは外せないだろう。畳野や(少なくとも当時の)少年ナイフのように一聴して英語話者ではないとわかる英語詞のヴォーカルは、英語が自由に使える者や、ネイティブの発音に寄せて歌う者のそれにはない役割を担っている。歌っている本人にはダイレクトに訴えかけてくることのない歌詞、ネイティブの発音を辿ることをしない歌いまわしは、本来歌詞が歌い手に少なからずもたらすであろう感情の振れ幅を、かなり平坦な形に抑えているのではないだろうか。舌足らずな印象とともに強く立ち上ってくる、あらゆる感情から距離を置いたその淡白さは、「Songbirds」の叙情的なメロディや本作の衝動的なプレイに絡み合うことで打ち水のように曲を引き締める。Homecomingsや少年ナイフのそのコントラストに、私達は惹きつけられているのかもしれない。

第三回【3×3 DISCS】:Homecomings『Songbirds』を中心とした9枚のアルバム

Teenage Fanclub - Bandwagonesque
Easycome - お天気でした
原田知世 - music & me
Julien Baker - TURN OUT THE LIGHTS
Homecomings - Songbirds
少年ナイフ - Brand New Knife
Laura Gibson - Empire Builder
相米慎二 - 台風クラブ
NYAI - OUT PITCH

これまでの【3×3 DISCS】

WRITER

RECENT POST

COLUMN
死を想い生を見つめる、残された者たちのポップソング|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
バンドでも1人でも、パレードみたいに楽しくしたい! ― さとうもか、加速する活動の手ごたえを語る
REPORT
『御影ロマンス』ライブレポート
INTERVIEW
sa/wa 改め Sawa Angstromが語る、エレクトロニック・ミュージックの楽しさと海外ツア…
REPORT
中村佳穂 2nd album「AINOU」release party 京都編
INTERVIEW
つくる歓び、あたらしい野心 – 中村佳穂 2nd Album『AINOU』リリースインタ…
REPORT
【吉田紗柚季の見たボロフェスタ2018 / Day3】Special Favorite Music …
REPORT
【吉田紗柚季の見たボロフェスタ2018 / Day2】The Chorizo Vibes / CAS…
REVIEW
千紗子と純太 – 千紗子と純太と君
REPORT
ナノボロフェスタ 2018 ライブレポート
REVIEW
Welcome Interstate Managers – Fountains Of W…
REVIEW
Wanderlust – Little Big Town

LATEST POSTS

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパネルディスカッション

2024年9月9日(日)、台北ミュージックセンターで開催された東・東南アジアのイノベーション×音楽の…

REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY TAIPEI 2024前編

2024年9月8日(土)、9日(日)に都市型音楽イベント『JAM JAM ASIA』が台北ミュージッ…

REVIEW
今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティーゆうやけしはす『ロックンロール教団』

ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、…

COLUMN
【2024年9月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…