【SXSW2020私ならこれを見る:出原 真子】Roan Yellowthorn:流麗な調べに潜むスリル
コロナウィルスの影響でキャンセルが決定したSouth by Southwest 2020(以下:SXSW)。彼らが掲げる「The show must go on」の精神にのっとり、ライティングワークショップ(音楽編)の受講生が注目していたアーティストのレコメンド記事を掲載します。
今年のSXSW出演バンドの中で、Roan Yellowthornを観たい。そして彼らの流麗なメロディに潜む“スリル”を肌で味わいたい。
Roan Yellowthornとは
ジャッキー・マクリーン(vo)とショーン・ストラック(inst)の夫婦から成るRoan Yellowthorn。2015年に結成し、現在はニューヨーク州北部を中心に活動している。ポップ、ロック、インディー、フォークと多彩なジャンルにまたがる楽曲を手がけ、2018年にBlue Elan Recordsと契約。アメリカのインディーズシーンで着々と知名度を高め、2020年のSXSWに出演することとなった。
各メディアからは、ジャッキーの力強くも悲しげな歌声と文学的な歌詞で高い評価を獲得している。大学で文学を専攻し、小説や詩を創作していたジャッキー。彼女が生み出す歌詞は韻を巧みに盛り込んだものから、人生のワンシーンを情緒的に描いたものまで実に様々。歌詞には平易な言葉が多用されているがゆえに、流麗なメロディとともに聴き手の心にすーっと入り込む。しかし、ふとした瞬間に人間が持つ光と混沌とした闇、答えのない問いが示される。そのたびに、はっと目を覚まさせられると同時に、推理小説を読み解くような“スリル”が生まれるのだ。
どちらが美しいのか、どちらも美しいのか、そうでないのか。
アルバム『Indigo』(2018)に収録された「Factory Man」を例に挙げてみよう。同曲では、工場で働きながら絵の創作活動にいそしむ一人の男性が登場する。
He has the heart of an artist
The soul of a poet
In the factory break room
He sketches portraits
Of tired men
Sitting down
He sees beauty
All around
(中略)
In the factory break room
He’s a tired man
Sitting down
Who sees beauty
All around
曲の冒頭で彼は工場の休憩室で“疲れて座り込む男性の絵”を描きつつ、その絵に対して彼なりの美しさを見出している。心地よいサウンドとコーラスで盛り上がる曲の終盤、再び男性が登場する。今度は工場の休憩室で疲れ果てて座り込んでしまっている。そこで男性が冒頭で描いていたのは、自分自身の姿であったことに気づかされるのだ。締めくくりの「Who sees beauty All around(誰が美しさを見出すであろうか)」という一文で、自分と他者がそれぞれに見出す美しさが対比される。どちらが美しいのか、どちらも美しいのか、そうでないのか。答えは哲学のように聴き手に委ねられる。
さらなる’’スリル’’を感じてしまう
人間の上辺だけをなぞらないRoan Yellowthornの音楽。日本のグループでは、どこかハンバートハンバートを彷彿させる。夫婦デュオという共通点はもちろん、心地よいメロディとともに人生の闇や皮肉、悲喜こもごもを紡ぎ出す。そんな両アーティストのメロディと歌詞が生み出すギャップにも、さらなる“スリル”を感じてしまうのは私だけであろうか。
SXSWの出演アーティストの中で、Roan Yellowthornの第一印象はビジュアル面でも音楽面でも少し控え目に映るかもしれない。しかし彼らのステージに出くわしたら、絶対に油断してはならない。どこに“スリル”が潜んでいるか分からないのだから。
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91年生、岡山出身、京都在住。平日は大阪で会社員、土日はカメラ片手に京都を徘徊、たまに着物で出没します。ビール、歴史、工芸を愛してやみません。
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