INTERVIEW

揺るがない「好き勝手」でアップデートしていく Rock Communeの現在地

くるり、おとぼけビ〜バ〜、猫戦など、錚々たるミュージシャンを輩出してきた立命館大学の軽音サークルRock Commune(通称:コミューン)。入部当初からオリジナルで楽曲を制作することが他のサークルとの大きな違いだ。数あるサークルからここに集いバンドをする彼・彼女らはどのような想いで新たな音楽を鳴らし続けているのか。今回は学内の活動拠点の一つ〈衣笠キャンパス学生会館 練習場2H〉にて実際にバンド活動をしている4人に話を聞いた。

MUSIC 2024.09.02 Written By 竹内 咲良

「時代を表すサークルかもね」──Rock Communeの今

2019年の終わりに突如はじまった新型コロナによるパンデミックは、学生のサークル活動にも大きな影響を与えた。満足のいく活動ができずに卒業した人、手探りであらゆる可能性を模索した人……。コロナ禍以前の活動が不明瞭なままサークルを受け継ぎ、再構築・再出発をすることになった人もいるはず。かく言う筆者も今年大学を卒業したばかり。そんな渦中の1人であった。Rock Communeも例外ではなく、2020年当時は、春の新歓もままならない状況だった。

 

サブスク時代、SNSのインフラ化、音楽との関わり方の変化……。さらに新型コロナ禍の影響を受け、時代の変わり目に立つ現在のRock Communeで、学生たちは何を感じているのだろうか。そんな疑問をぶつけるべく2024年6月、筆者は3カ月ぶりに大学を訪れた。今回話をしてくれたのはコロブチカの平田歩(Ba)、北原圭悟(Gt / Vo)、THE HAMIDA SHE’Sの奏太(Gt / Vo)、ときめきポメラニアンのヤハ(Ba)の4人。全員がコロナの規制が緩和された2022年度入学生だ。まずは現状を探るべく、彼らが挑んだ今年の新歓の様子について尋ねた。

写真左から北原圭悟、ヤハ、平田歩、奏太
北原圭悟(以下、北原)

今年、1回生いっぱい入ってきたんです。

平田歩(以下、平田)

作曲やれますって子も。

北原

期待大だね!

──

では、今年の新歓は大成功ということで……。

ヤハ

めっちゃ頑張りました(笑)

北原

こんなに入るんだ!って、不思議なくらい(笑)

ヤハ

SNSけっこう効いたんじゃない?Twitter(現X)で見ましたって子ばっかりだったよ。

北原

曲を作るというのをあまり経験してない子も結構入ってきたりして、かなり人数が入ってくれましたね。

──

現在のRock Communeには、どのような系統の音楽が好きな人が多いですか?

北原

くるりを知っててっていうって人もいるよね。

奏太

(くるりを知っていたのは)今の1回生だと半々よりも少ないくらい?

北原

各々好きな音楽やりに来てるっていう感じなんで。最近の音楽好きな人とかも多いし……。

平田

インターネット系が。

北原

ボカロP経由の、ヨルシカとか影響でかいよね。

平田

俺らの代(現3回生)とかだと、インディーズ……。それこそ、上の代だと洋楽指向だけど、俺らの代だと完全に邦楽指向っていうか。

北原

確かにね。コロナ禍もあったから、音楽のあり方や聴き方も変わってきたりして。今、それをすごく実感している(笑)

平田

(Rock Communeは)時代を表すサークルかもね。

──

皆さんが影響を受けたアーティストを具体的に挙げるとすれば?

平田

UNISON SQUARE GARDENに一番影響を受けていて……。(自分は)曲は作らないんで、作曲の影響はあんまりないし、(ユニゾンを)イメージしてベースラインを考えたこともないんですけど、「かっこいいバンドとは何たるか」という意味で一番影響を受けてます。

奏太

僕は、銀杏BOYZと、銀杏から影響受けてるであろうインディーズのバンドが結構好きで。PK Shampooとか、tetoであったり……。僕の地元は札幌なんですけど、SULLIVAN’s FUN CLUBっていうバンドが一番、今活動してる中で根底にあると思ってます。

ヤハ

私、高校生から軽音をやっているんですけど、元々そんなに親があんまりバンド好きってわけじゃなくて。バンドは高校生から自分で聴くようになりました。最初にHump BackとかSCANDALを聴いて初めて「ガールズバンドってかっこいいんだ」って思ったので原点かなと思ってます。

北原

僕は、フジファブリックをきっかけに音楽を聴き始めて、サカナクションをきっかけに音楽をやり始めたって感じです。コロブチカっていうバンドを始めるにあたっていろいろ吸収した中で影響が大きいのは、LOSTAGEとか。あと、僕は愛知県が地元なんですけど……明日、照らすっていうバンドがいて、すごく大好きなんです。

影響を受けた音楽はそれぞれ邦楽がベースだが、それぞれ大きく異なる4人のバンド以外の経歴も訊いてみると、非常にバラエティ豊かな答えが返ってきた。平田は、中学でバスケットボールに打ち込んだのち、高校では山岳部。奏太は、小3から中3までサッカーのクラブチームに所属し、高校では軽音部(当時はBa / Vo)とラグビー部を兼部というハードな経歴。同じく高校から軽音部だったというヤハは、中学時代は美術部に加えてバレエを習っていた。北原は、中学校から高校まで吹奏楽部にパーカッションとして所属。大学までギターは弾いてこなかったものの、なんと作曲自体は小学生のころから行っており、『大合奏!バンドブラザーズ』や『太鼓の達人』などの音楽系ゲームもルーツにあるという。

「とっとと見切りつけて自分の得意なところに行けばよかったのに、10年間得意じゃないとこ(運動系)にしがみついてた」と奏太が言うと、「わかるわかる」と言うかのように他の3人も頷く。アウトプットとして形になるものの材料は、記憶の奥底に眠る”苦い経験”だったり、”ちょっと後悔していること”だったりするのかもしれない。

一から創ると何が起こる?オリジナルバンドだから経験したこと

Rock Communeで活動するバンドは、楽曲制作のみならず、バンドの根本的なスタイルや、メンバーの意識、役割のバランス、外部での人間関係の構築など、すべてを一から創り上げていく。より自立した活動が求められるオリジナルバンドならではの経験談を訊いた。

──

オリジナルバンドを始めて、最初にぶつかった壁について教えてください。奏太くんはバンド歴が長いですが、いかがですか?

奏太

(THE HAMIDA SHE’Sの)最初のメンバーのときは、音楽の趣味がバラバラというか。その擦り合わせ方が分からなかったんですよ。高校の時も(バンドを)やってはいたんですけど、今ほどこだわってはなかったので。もっと演奏であったりとか、ライブの時のパフォーマンスにこだわろうってなったときに、ちょっとした音楽性の違いがデカい差になっちゃうなっていうのを感じて。それはオリジナルバンドやってく上で一番大変だなと思いましたね。

──

コロブチカはどんな感じでした?

北原

最初は、デモを作るときに、とにかく表現したいことに技術が追いつかないっていうか。「何をやればこれが思い通りになるんだろう?」っていうのをずっと苦戦していて。

──

イメージとのギャップみたいな。

北原

そうっすね。僕がギターを始めたてやったもんで……。バンドの曲かつ、ギターの曲の作り方をあんまり知らなかったから試行錯誤して作って。どんどん練習して、今は自分でもギターの感覚を掴めるようになったとは思うんですけど、最初は本当に難しかったですね。

──

ライブハウスでの動き方や立ち振る舞いもそうですが、学生ではないバンドと共演することも度々ありますよね。その中で、暗黙の了解だとか、一筋縄でいかないこともあったのではないかと思います。誰かにアドバイス貰ったりしてましたか?

平田

タカノさん※がいちばん多いですかね。

※タカノ:Rock Commune所属バンドのサブマリンのメンバー(Gt)。コロブチカやTHE HAMIDA SHE’Sなどのサポートも務める。

北原

僕達コミューンっていうサークルの性質上、ライブハウスに出てる先輩がたくさんいらっしゃるんで。身近なところで情報を共有できる人がいることは心強かったりしますね。

平田

ライブハウスのモグラさん(livehouse nano)や安齋さん(京都GROWLY)、大阪だと住田さん(心斎橋Pangea)とかにも、すごくお世話になっていて。今は喋れるし相談もできるんですけど、最初ライブハウスに出た当時はやっぱ「コワイ大人」なんで。

北原

「見られてる感じ」がな(笑)

平田

今なら優しい人だと分かってるんですけど、最初は、雰囲気が「わ、怖!」って思って(笑)。……あと、ライブハウスごとに「音の作り方」っていうのが違ってくるんで。

北原

そうだね。

平田

そういうのは、バンド内で打ち合わせをしますね。それでも分からない時は、タカノさんに聞いたり。あとは、同期のバンド同士で「このライブハウスはこうした方がいい」「これで上手くいった」っていう話もします。

北原

いくら経験を重ねてもライブハウスごとに攻略していく感覚が強い。

──

最近、ライブハウスにデビューしたメンバーでいうと、ときめきポメラニアンですよね。〈西院SUBMARINE〉で初めてライブをしてみてどうでしたか?

ヤハ

〈西院SUBMARINE〉の方は、アサヒちゃん(ときめきポメラニアン Gt / Vo)が関わりが強くて。優しいというか、アットホームな感じで受け入れてくれたので、それがすごくありがたかったです。

──

オリジナルバンドをやってきた上で、勉強になったこと、気付いたことはありましたか。

平田

高校生の時に比べていろいろな音楽を知ったよね。自分の持っていたアンテナでは拾い切れなかった音楽たちを拾い切れるようになった。

北原

そうやな。

平田

自分がどんな音楽が好きで、どんな音楽が得意じゃないのかみたいなものが、どんどん明確化していくような感じがしました。

4人に今イチオシのバンドを挙げてもらうと、対バンで出会ったというHōsaku(関西)、CISSE(石川)、ザ・ダービーズ(愛知)などの名前が次々に出てきた。楽しそうに語る4人の様子を見ていると、他のバンドをリスペクトする姿勢はもちろん、新たな音楽との出会いを純粋に楽しみ、そこから常に何かを吸収しようとするハングリー精神も感じられた。

──

人間関係から学べることも多そうだなと思うのですが、いかがでしょう?

北原

メンバーもそうだし、レコーディングしてくださる人とか、ライブハウスの人とか、憧れてるバンドの人とか、人付き合いの面で事務連絡から、意識みたいな根本的な話までいろいろあったと思います。僕もバンドを始めるようになってからは、自分の音源を積極的に渡すようにしていて。それこそ憧れてるバンドがいるとするじゃないですか。これまでは聴いてただけですけど。今は俺もバンドやってるから、交われたらいいなって思う。そのステージに移る感覚なんですけど。恐れずに何でもやってみるようになったっていうのはありますね。

自分たちで好きなように辿った道筋が、勝手に“シーン”になっていく

──

Rock Communeは、京都の若手バンドシーンを今までずっと盛り上げてきた存在だと思っています。これからもっと盛り上げていくために、やりたいことがあれば教えてください。

平田

「京都のバンドシーンをどうしたいか」っていうより、「コロブチカとしてどうしたいか」なんですよね。自分たちが俄然こうしたい!っていう。自分たちの楽しい活動をした先に生まれるコミュニティがあると思ってるんで。

北原

俺がこうやって輝いたら、一緒に輝いてるみんながいて、なんかうれしいなって。独りじゃないなって感じやね。

平田

みんなが「楽しい!」ってなって、それを外から見たら、「あ、あのシーン盛り上がってんな」って見えるんじゃないかなと思っています。自分たちが辿った道筋が、シーンになっていくのかなって。

“Rock Communeらしさ”とカウンター

──

奏太くんが『by the sea』※のときのMCで少し「ハミダシはテンポ速くてコミューンらしくないって先輩に言われたことがある」と言っていましたが……。「Rock Communeらしさ」というのはあるんですか?

※『by the sea』:2023年12月に行われたRock Commune自主企画ライブ

平田

もう、この代になってからは(Rock Communeらしさは)だいぶ薄まってはいるけど……。

ヤハ

そんなにないかも。

奏太

伝統的に、京都の音楽性っていうものをコミューンが象徴していると思う。だから、逆にみんながそこに追随したら面白くないなと思うからこそ、コミュ―ンに籍を置きながら、それをぶち壊すようなことをするポジションでありたいなと思ってます。

平田

今まで流れてきたコミューンの系譜は大事にしながら、それに対するカウンターもしていかないと、やっぱ面白くないんで。

北原

それこそ今コロブチカで、その感じも大切にしつつ、「ただ俺がやりたいことやってたらこうなってました」みたいな音楽をやってるっていう。

平田

今の代だとハミダシがちゃんとカウンターしてるなって。ちょうど下の代で言ったら、インターネット上がりの子たちがいずれカウンターになってくれるのかなって思ってますし。その中でも、やっぱコミューンの系譜っぽくなりそうだなっていう子たちもいます。もちろん、その軸(系譜)が薄まるのは寂しいなって思うんですけどね。

──

大先輩でいうと、そもそもくるりもジャンルに囚われていないですよね。

北原

好きなことやりつつ「これがくるりや!」って思わせるっていうね。なにやっても「これが俺らや!」っていうのを皆さんに認識されるように自分たちもなりたいです。

平田

最終的には何やっても「俺らっぽいよなあ」って言われたいですね。

平田

この(練習場の壁にあるくるりのサイン)上からサイン書く感じで(笑)

全員

(笑)

──

古きから学ぶっていうのも大事だけど、みんな次々に新しいものを創っていっていますよね。

平田

くるりしかいないサークルじゃダメっすからね。

北原

この壁をね、見えなくするようにしなきゃって。俺らもこれに刺激を受けつつ、どんどん(上から)貼っていくのが、これからのRock Communeですね!

今回のインタビューで最も印象的だったのは、先輩の歩んできた道を同じように辿ろうとするのではなく、あくまで自分たちの好きなことを好きなようにやるという部員たちの姿勢。型にはまらない「好き勝手」こそが、Rock Communeの持つ独特でオルタナティブな魅力を世代ごとに創り出しているのかもしれない。

 

筆者は少し前に、元くるりDrの森信行から「くるりクソくらえ!くらいでええんやで!」と後輩たちへの期待を込めた一言を聞いたことがある。また、Rock CommuneのOBに限らず、京都の若手を気にかけている音楽関係者は少なくない。今年から上京した筆者は、4月にベランダの髙島颯心(立命館大学のアコギサークル出身)と話す機会があった。そのときの彼の一言目が、「今の京都の若手バンドはどうですか?」だったのが心に残っている。

 

京都の音楽を愛するあなたへ、新たな世代の辿る道を見据えるあなたへ、声を大にして伝えたい。今も、これからも、京都の音楽は繋がっていく。彼ら・彼女らの「好き勝手」が揺るがない限り。

平田 歩(ひらた あゆむ)

Rock Commune部長。所属バンド:コロブチカ(Ba)、発明クラブ(Ba)

Instagram:@korobushka_band、@hatsumei_band

X(旧Twitter):@korobushka_band@hatsumei_band

奏太(かなた)

Rock Commune副部長。所属バンド:THE HAMIDA SHE’S(Gt / Vo)

Instagram:@the_hamidashes

X(旧Twitter):@hamida_she

北原 圭悟(きたはら けいご)

所属バンド:コロブチカ(Gt / Vo)、koibumisystem(ソロプロジェクト)

Instagram:@korobushka_band

X(旧Twitter):@korobushka_band@koibumisystem

ヤハ

所属バンド:ときめきポメラニアン(Ba)

Instagram:@tokipome

X(旧Twitter):@tokimeki_pome

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