このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューの中心となる1枚です。
企画詳細はこちらをご確認ください。
話せない言語で歌うということ
今年で結成37年目となる大阪出身の3ピース・ガールズ・バンド、少年ナイフ。デビュー作『BURNING FARM』(1983)がシアトル郊外のレーベル・Kレコーズに見初められたことから日本より先に英米で人気を博し、ニルヴァーナの前座としてUKツアーを回るなど異色の経歴を歩んできたバンドだ。本作はそのメジャー3枚目のアルバム。パンクバンドである彼女らにしては珍しく、「WIND YOUR SPRING」や「FRUITS & VEGETABLES」など、ギターのストロークやコード・ワークにネオアコの空気を持つナンバーが多い。そして彼女らの他のアルバム同様、US盤では日本語の曲がすべて独特のカタカナ英語で歌い直されている。
Homecomingsの特徴として畳野彩加(Vo./Gt.)のカタカナ発音のボーカルは外せないだろう。畳野や(少なくとも当時の)少年ナイフのように一聴して英語話者ではないとわかる英語詞のヴォーカルは、英語が自由に使える者や、ネイティブの発音に寄せて歌う者のそれにはない役割を担っている。歌っている本人にはダイレクトに訴えかけてくることのない歌詞、ネイティブの発音を辿ることをしない歌いまわしは、本来歌詞が歌い手に少なからずもたらすであろう感情の振れ幅を、かなり平坦な形に抑えているのではないだろうか。舌足らずな印象とともに強く立ち上ってくる、あらゆる感情から距離を置いたその淡白さは、「Songbirds」の叙情的なメロディや本作の衝動的なプレイに絡み合うことで打ち水のように曲を引き締める。Homecomingsや少年ナイフのそのコントラストに、私達は惹きつけられているのかもしれない。
第三回【3×3 DISCS】:Homecomings『Songbirds』を中心とした9枚のアルバム
You May Also Like
WRITER
-
'92年新潟生まれ岡山育ち。大学卒業後神戸に5年住み、最近京都に越してきました。好きな高速道路は北陸道です。
OTHER POSTS