つくる歓び、あたらしい野心 – 中村佳穂 2nd Album『AINOU』リリースインタビュー –
聴き比べていると、同じようなビートでもかっこいいものとかっこよくないものの違いがわかってくる
仲良くなったあとの制作で苦労したことはありますか?
今作のメロディはみんなで決めていったものが多いんですけど、ビートミュージックに乗るメロディラインって日本語が全然はまらなくて。“きっとね!”とか、今聴くと簡単に聴こえるんですけど、最初は苦労しました。楽譜の横に五十音を全部書いて、あいうえおを順番にはめながら考えたりしていました。あと、そうやって作った曲が身体に馴染むまでにすごく時間がかかったのも辛かったですね。今まではメロディラインからじっくり考えていくことがなかったので。
これまではどういった作り方をされてきたんでしょう。
まず、一人で2時間くらいピアノを弾きながら自由に歌って。移動中とかにその録音を聴いて、良いと思った部分を覚えておくんです。で、ライブ中にそれを歌いたくなったら歌う。すると頭の中で勝手に膨らんでいくので、それを元に曲全体を決めていました。
コードとメロディを同時に作って、ライブで発展させていたんですね。
今回作ったメロディは頭では納得していたんですけど、実際演奏してみるとちぐはぐすることもあって。「自分は今こうやって歌いたいのに、ビートがずっと単調だな」ってずっとモヤモヤしたりもしました。一番しっくりするのに時間かかったのが“SHE’S GONE”かな。
それはどのように解決したんですか?
半年くらい向き合っているうち、急に良くなってきたんですよ。自分でも腑に落ちた感覚があって、人にも褒められるようになって。自分の身体に入ってくるまでに時間がかかる曲があるってことを初めて知ったので、その時はかなり安心しました。
それって、デモ合宿とライブを交互にしていたからこそっていう部分もあるんでしょうか。
絶対あると思います。一緒にレコーディングしたのも大きいですね。デモの時点で徹底的に作り込んでおくというみんなの信念があって。シンセの音はレコーディング前に完成させて、ドラムのマイキングにもかなりの時間をかけました。荒木さんが「録音の仕方を今ちゃんと決めておけば、いざレコーディングに入った時にもっと突き詰めた考え方ができるはずだ」と言っていて。
ものすごく綿密ですね。
あくまで中村佳穂BANDじゃなくて中村佳穂のアルバムだから、ちゃんと歌が生々しく聴こえるようなバランスを組んでくれてたんです。「ドラムの音があと一個ここらへんで「カッ!」って鳴れば、佳穂ちゃんが軽く歌ってもしっかりボトムが出るからかっこよく聴こえるんだよ」っていう風に、経験で培った感性が彼ら(レミ街)にはあって。それを聴き比べていると、同じようなビートでもかっこいいものとかっこよくないものの違いがだんだんわかってくるんです。「あっ、彼らはあのビートがかっこいいと思ってるのか。本当だ、めっちゃカッコいい!」って。それを経てライブをするとビートに歌を乗せる感覚が全然違うし、だんだん声も楽に出せるようになりました。ライブ、合宿、レコーディングのルーティンがあったからこそですね。
レコーディングは別の場所でされたんですか?
はい。録音をお願いしたエンジニアの奥田泰次さんに勧めてもらったスタジオで。東京に一軒家を借りて、メンバー6人でそこに暮らしながらスタジオに通っていました。
一軒家でみんなで暮らすことにこだわりがあるんですか?
みんなで寝食を共にして、出来るだけ長い時間話し合っていたかったんです。きっかけになったレミ街の謎の感動の解明っていうのも、会話でないと出来ない部分があると思ってたので。
会話も生活も込みでないと見えてこないだろうと。
単純に彼らのことが知りたかったので、わざわざホテルに泊まって通うよりは、その人にお願いして住み込ませてもらうのがいいなって。すると案外居心地がよくて、運良く東京のお家も安く借りられたので、そのまま環境を持ってきたって感じです。
小難しく聴こえてほしいとは思わない。音楽って簡単に聴いてほしいと思うから
6月のワンマン(SING US @三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON)では、あらかじめ“忘れっぽい天使”と“そのいのち”のデモをお客さんに送っておいて、ライブで一緒に歌うという企画をされていましたよね。アルバムに入っているコーラスはその時の録音ですか?
そうです。私、多重コーラスが大好きなんですけど、今作はバンドメンバーが全然ハモらせてくれなくて(笑)。
確かに、これまでに比べたらだいぶ少ないですね。
「一本の良さがある」って(バンドメンバーに)言われてそうなったんですけど、特に今作は自分たちで籠もって作った作品なので、なにか広げてくれるものが欲しいなとも考えていて。
自分たち以外の要素も欲しいと。
そう。それはきっと聴いてくれる人だって思ったんです。小難しく聴こえてほしいとは思わない、音楽って簡単に聴いてほしいと思うから。高校生の時の私は王道なポップスしか聴いてなかったので、その頃の私でもいいなって思える曲でありたいって常に思ってるんです。だから、私達の曲をいいなって思ってくれるお客さんの声が欲しいってスッと思いついて。
あのコーラスがあるかないかで、アルバムの間口の広さはかなり変わってくる気がしますね。
入れられて本当によかったなって思ってます。ついでにティーザー用に録画もバッチリしておいて、けどお客さんには楽しく過ごしてもらいたい、そして投げ銭ももらうっていう欲丸出しの企画(笑)。
ワンマンの構成は毎回そのくらいしっかり組まれるんですか?
5分前まで何をするか決めていなかった時もあります。元々、その場のお客さんの雰囲気を見てからじゃないと曲が決められないんです。
今作は“FoolFor日記”をはじめ複雑なリズムの曲もありますが、歌詞の内容は一貫して実直ですよね。日本語のR&Bって、リズムや単語の制約が多いのもあって比喩的な言葉遣いの曲も多いと思うんですが、元々技巧的なことはあまりされないんですか?
そうですね。ほとんど日記の延長線上で書いてるので。音楽を始めた時から、すごく前向きな意味での諦めがあるんです。
前向きな意味での諦め?
「私の曲を聴いてすぐに良いって思ってくれる人は少ないだろうな」っていう諦めです。1回聴かれた時に縁がなくなる人はたくさんいるだろうから、一聴して分かりにくいものにはしないでおきたいって思っています。
先ほどの、観客のコーラスを入れたいっていうお話と通じるものがありますね。そのあたりのバランス感覚で佳穂さんの間口の広さが保たれているような印象を受けました。
そう言われたらそうかもしれませんね。キャッチーさは残していたいというか。今作は2年以上制作している間に自分の耳にはもう馴染んでしまってるので、みんながどう思うかすごく気になってます。少し前にハイエイタスのNai Palmちゃん(Hiatus Kaiyote, Gt / Vo)と仲良くなれたので、頑張って送ってみようと思います。
3月にソロで来日したNai Palm とメトロの上にあるバー(NICE SHOT COFFEE)で偶然会ったというエピソードですね。
メトロで来日公演を見たあと、上でライブをしていた尾島隆英くんとピアノで遊んでいたら彼女がやってきて、「リハーサルの時から音が聴こえて気になっていたの」って。尾島くんのおかげですね。
彼女たちに聴かせるつもりで作った部分もありますか。
絶対大きいと思います。最近は海外の方とご一緒することも多かったんですけど、やっぱりみんなオープンで、リハの時から拳を突き上げて盛り上がってくれたりして。そのくらい音楽が好きって思っていたいですね。けど、今作はそのくらい真摯に向き合って作れた気はしてます。
作品情報
アーティスト:中村佳穂
タイトル:AINOU
発売日:2018年11月7日(水)
価格:¥2,800+tax
品番:DDCB-14061
『AINOU』
01 You may they
02 GUM
03きっとね!
04 FoolFor日記
05 永い言い訳
06 intro
07 SHE’S GONE
08 get back
09 アイアム主人公
10 忘れっぽい天使
11 そのいのち
12 AINOU
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「彼女が自由に歌う時、この世界は輝き始める。」
1992年生まれ、京都、ミュージシャン。20歳から本格的に音楽活動をスタートし、音楽その物の様な存在がウワサを呼ぶ。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。ひとつとして同じ演奏はない。見るたびに新しい発見があるその姿は、今後も国内外問わず、共鳴の輪を広げていく。
2016年『FUJI ROCK FESTIVAL』出演。2017年tofubeats『FANTASY CLUB』コーラス参加。
imai(group_inou)『PSEP』コーラス参加。
ペトロールズ『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ?? -EP』参加。
2018年 アルバム『AINOU』発売。
HP:http://nakamurakaho.web.fc2.com/
Twitter:https://twitter.com/KIKI_526
ライブ情報
中村佳穂BAND presents. 2nd album 「AINOU」 release party
2018年12月04日(火) 京都 磔磔
2018年12月06日(木) 名古屋 得三
2018年12月22日(土) 下北沢 club251
出演:中村佳穂BAND
中村佳穂 presents. 2nd album 「AINOU」 release party ~好きな人の音楽で旅立たせるの巻~ at下北沢440
2018年12月22日(土)下北沢440
出演:中村佳穂SOLO+ゲスト
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WRITER
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'92年新潟生まれ岡山育ち。大学卒業後神戸に5年住み、最近京都に越してきました。好きな高速道路は北陸道です。
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