INTERVIEW

「対バンしたい!」を仕事で叶える。Nue inc. 松倉早星インタビュー

人が集まる場所には文化が生まれる。特集『文化の床(とこ)』の企画「#最高の集い方」では、今の時代にはどのような集まり方があるのかを探ります。「京都でなにやら面白いことが起きているな」という場所には、だいたいNue inc.の松倉早星(まつくら すばる)さんが関わっている。社名の“鵺(ぬえ)”は正体がつかめない、はっきりしない物事・人のことを指す。人はわからないものを怖がり、また同時にワクワクもしてしまうもの。彼らが取り組む相談事は難解なものばかりらしい。

OTHER 2020.12.30 Written By 肥川 紫乃

Nue inc.(以下:ぬえ)は松倉さんを中心に、現在4人の社員で構成されるコンサルティングファーム。企業や町が抱える課題にオブラート0で切り込み、根っこにある問題を解決するためのプランニングを得意としている。

 

その仕事内容は、大学の移転に伴って崇仁地区の空き地を活用した屋台村〈崇仁新町〉のコンセプト設計から、福井県の小学生と葡萄の果汁を使ったスイーツの商品開発まで多岐に渡る。商品開発では、シュークリームやゼリーなどの案が出る中「かまぼこ」と答えたチームがあり、その発想の柔軟さにドキッとしたと話してくれた。そういった嬉しい裏切りは、正解のないものを面白がれる松倉さんだから引き寄せられるのかもしれないと思った。

 

ぬえのクリエイションはチームメイクの時点で8割方完成すると言うが、120%の成果を形にできるのは、クリエイターの特性や「やりたい気持ち」を引き出せるから。彼らの作るものに感情が動かされてしまうのは、関わる人が血を通わせていることがわかるからだろう。なぜ、ぬえはそんな集まりを可能にするのだろうか?

『スイミー』のようにクリエイター同士が死なない仕組みを作りたい

──

ぬえの事務所がある〈共創自治区SHIKIAMI CONCON(以下、CONCON)〉では、ぬえメンバーの他にフリーランスの方と「今混コミュニティ」として場所とリソースをシェアされていますが、どのような狙いがあるんでしょうか。

松倉

CONCONはクリエイター同士の繋がりを作ってる。ぬえはそもそも外部のパートナーたちとクリエイションしているから、彼らはパートナーとか社員に近い。彼らが不幸せになるんだったらそれは多分正しい経営じゃないと思うし、彼らが死なないようにちゃんと儲かる仕組みを作って、どう行動したらいいかを考えてる。

──

それはこのCONCONに入居されている方も含めて全体として考えていることなんですか?

松倉

少なくとも俺らの事務所がある長屋2軒では考えてる。コンテナに入居しているクリエイターはお互いに一緒に商売するのが早いと思う。だけど今俺らが抱えてるクリエイターはコンテナを借りる前の人たちで。社員もまだいないし、このビジネスが成功するかわからないと思っている人もいて、でも自分たちが作りたいものを作っていきたいと考えている。そこをちゃんと守っていくことが大事。CONCONを作る時に絵本の『スイミー』のように、みんなで巨大な魚を作ろうと思った。

──

面白いことをしているけど、必ずしもそれがマーケットに受け入れられるわけじゃなくて、そういう寄る辺のない人たちとの間に立つ人や場所が必要なんでしょうね。ある種、汽水を作り上げるというか。メジャー、インディーと括るのではなく、その間。

松倉

何かをやろうとすると意味と価値と結果を求められるけど、「何も起きないよ」みたいなことを堂々と言えるようなクリエイションを意識的にしてる。前に〈HOTEL ANTEROOM KYOTO〉で遊びをテーマにした『Homo Ludens 〜遊ぶ人〜』という展示をしたんだけど、出展者同士がコラボレーションして遊びを発明するという決まり以外は全部自由にやってもらって。みんな結果も説明せず「やりたいからやる」をやっていて、俺の想像を軽く超えて、どんどん遊びを開発してた。それがすごく良くて、今最も俺らに足りていないのはそこだと思った。

──

俺らっていうのは、ぬえですか?

松倉

作る人全員かな。

──

一対一でわかりやすい結果が出るものを形にするのって職人的な仕事ですよね。でも本当はクリエイティブのチームに求められているのって、今は意味がわからなくても、作ったものが未来に役立つかもしれない。でも今なにかを撒いておくことなのかなと。

松倉

それがすごく大事だと思う。クリエイティブも結果が見えるものより、むしろ化学反応が起きるような「何が起こるんだろう」と思えるものがいい。

インターネットがPeople as Mediaの時代に突入して、文化の横断が減ってきた

──

クリエイションには、作る人の意志が重要なんじゃないかなと最近思います。クライアントを導いて課題を解決することももちろんなんですけど、そこで自分が何を面白がって、どんな問いを持っているのか考えるべきなんじゃないかと。

松倉

大学の時に授業を受けてた日本のジェンダー研究の権威だった鈴木みどり先生が、ある時飲みながら、「松倉たちが生きていく時代はPeople as Media=人がメディアそのものになってくるから、松倉がメディアになれ」と言ってくれてた。30,000部のフリーペーパーと同じくらいの影響力が個人に宿る時代だから、”自分”のメディアを作れって。

──

先見の明がありますね。そうする中で、ぬえのメンバーはメディアとしての松倉さんを見ていない人たちを集めていますよね。それはなぜなんですか?

松倉

ぬえのメンバーには、俺みたいになりたいと思っている人はいらなかったから俺のことを知らなくてよくて。みんな背景がバラバラで目的も違って、でも自分の価値観で物事を考えられる我のある人が集まった。

 

結局People as Mediaは現代のインフルエンサーを目指すことになるんだけど、そもそもフォロワー数とか、消費的な「いいね」の数を増やしても意味がないんだと途中で気付いて。本当に面白いと思ってくれる人が共感してくれる数が愛おしいなと。それが10人でも10,000人でも関係なくて、SNSでは多ければ多いほどいいとなったところが良くなかったのかも。俺らの時代はインターネットでいろんな人と繋がれるのが面白い時代だったんだけど、今はそれが破綻してきているのを感じてる。昔、「Path」っていう2,30人の友達としか繋がれないクローズドのSNSがあって、それくらいの範囲が面白かったのかもしれない。

──

今のSNSは、阻害されるものが何もない状態ですべてにコネクトできてしまいますが、逆に閉塞感がある感じがします。

松倉

SNSもリアルのコミュニティも全部一緒になっている気がして、今一番面白いコミュニティは木屋町学会なんですよ。誰かの提案に対して、飲み屋で飲みながら議論していくんだけど、学部の垣根もなくてそもそもアカデミックじゃない人もフラットな関係でいられる。本来は一つのコミュニティの中でコーヒーでも飲みながら政治の話とか最近自分が夢中なことを話していたはずなんだよね。

──

ラベルが貼られすぎたってことなんですかね。

松倉

文化の横断がなくなっちゃったというのが正直あって、俺が大学の頃は漫画の話したら急に演劇とか映画の話に繋がって話題が移動していたんだけど、今は漫画好きは漫画の話で完結してる。もっと垣根なんてなくて、隣の島へどんどん行って全く別の気付きになるかもしれない面白さがあったのに、それを一つの島にしちゃったのは、インターネットの良くなかったところかも知れない。

──

それをつなぐのは好奇心というものが一つのキーワードとしてある気がするんですけど、どうやったら手に入ると思いますか?

松倉

会社のメンバーもそうだけど、全員最初から持ってるものだと思う。特に俺らの世代は世界の綺麗な部分も汚い部分も見てきて、日常のすぐ裏側には非日常のような面白い世界があることを知っているから。

仕事をしたい人たちと一緒に向き合うための仕事をつくる

──

そもそも松倉さんがチームでの仕事を大切にしようと思った原点はなんだったんでしょうか?

松倉

新卒のときに、『HITSPAPER』という海外のクリエイティブ情報を掲載するメディアの立ち上げを一緒にやってて。今みたいに情報が入ってこない時代だったから、クリエイターたちが事務所にわざわざ会いに来てくれたりして反応があった。ちゃんと感度のよいクリエイターをピックアップしなきゃなみたいな想いもあったし、一緒に仕事したいなと思えたから、この人たちと向き合える案件を作ろうという姿勢になって、チームビルドのことを考えるようになった。

 

〈HOTEL ANTEROOM KYOTO〉で仕事をお願いしたtoeの山嵜さんとかもそう。山嵜さんにとってバンドは趣味で内装デザインの仕事をしているのを、元々自分が大学生のバンドマン時代からtoeを聴いていて知ってた。それで東京のお店に行ったらすごく良くて。対バンは無理だけどこの人と仕事はしたいなと思ったんだよね。

──

それは一種の対バンですよね。ぬえはクリエイターと同様にクライアントも仲間に引き入れて対等な関係を築いていますが、そうする理由を教えてください。

松倉

アルバイトが時給を固定されているのは、時間を売っているから。でも社会に出たら、企業が求めていることと俺が回答するべきものって、限りなくイーブンだと気付いた。アルバイトみたいに誰でも入れ替えが可能なものじゃなくて、「これはぬえの松倉にお願いしなきゃ無理だ」と思って相談に来るわけだから、お金を出してるから偉い、じゃない。それが経済原理ならその価値を上げるには、他ができないことを自分が得意とすれば絶対に儲かると気付いて。今はすごく難しい課題こそこっちに振ってと言っている。

 

そもそもそういう課題はクリエイターの努力だったり良いデザインで超えていけるわけじゃなくて、企業側も一緒に努力しなきゃ駄目。同じプレイヤーとしてその壁をどう超えていくかという次元で会話できていないと、スタートラインに立てていないと俺は思ってる。デザインの前に、会社に根深くある問題を第三者から見てオブラート0で指摘したりもする。オブラート在庫0なんですうちのチーム。

──

それってムっとされることはないですか。

松倉

合わないところには切られたりするけど、そのスタイルをずっとやってきたから、今めちゃくちゃ楽ですよ。数字を求めてる会社だったら、野生的に受けちゃうから難しいかもね。

──

そうですよね。その辺を飲み込んで仕事しちゃうというか。組織としてのスケールの違いは大きそうですね。

子どもが大きくなった時に残っているものがかっこいいと思うようになった

松倉

うちらにとってやりたい案件だったとしても「絶対やってほしいデザイナーがいるけど来年まで都合が合わないから、待てないなら他当たって」と言っちゃう。売上が欲しいだけなら他のデザイナーでそれなりのことをやればお金になるんだけど、それでも「持ち帰って相談します」と言ってくれるクライアントさんもいる。

──

へえ〜!クライアントと信頼関係が築けているからですね。

松倉

俺らが生きている間に作れるクリエイションの数はめっちゃ限られてるんですよ。1回計算した方がいい。なので、ちゃんと向き合っていいものを作ろうって人たちを俺らもしっかり見ていかなきゃ駄目。俺たちは今のお客さんがすごくいい人で面白いものを作るから、もっと一緒に良くしていきたいと思うし、軽くあしらうことはできない。どれだけ忙しくても、要望に対して真剣に応えたら、向こうもちゃんと聞いてくれる。お互いが尊敬し合ってて、クリエイションのことも理解しているから成り立つ関係だと思う。

──

それは個々人の特性を見てチームを組むということの一つとして、クライアントをきちんと見極めているというところが紐付いているんですね。

松倉

極論、この仕事は人との仕事でしかないから。

──

そうですよね。ディレクターの仕事はレールを敷いてそこを走る人を決めることで、そこをミスしなかったら、いいものは絶対出てくるはず。その見極めだけはしないといけないと強く感じます。

松倉

すごく大事だよね。割とプランニングからゼロベースで立ち上げるから、精度高いマッチングができる。走り出したら後はもう応援するしかないから、打ち上げの会場を予約する仕事に変わる(笑)。

──

お話を聞いていて、松倉さんが持つ時間の射程距離が長い気がしました。未来という言葉を使う時に2年後の話をしているのか、50年後なのか、それこそ1000年後なのか人によって違うと思っていて。そこの差が今やっていることに直結するんじゃないかなと最近考えています。

松倉

子どもができてから変わったけどね。

──

子どもですか。

松倉

ちゃんと遠くを見るようになった。昔はクリエイティブの足元を見続けている感じで、明日何が面白いかを考えていた。結果にも結びついたしアワードも取れて、売り上げも作ったけど、子どもが生まれたときに「今作っているものはこの子は見ないな」と思って。そのときに視点がクンと上がった。違う次元でプランニングしなきゃ駄目だと思ったタイミングで、〈HOTEL ANTEROOM KYOTO〉の話が来て。今までデジタルやってた人間が、ホテルという物質的なものになった瞬間に、ここが人気でかっこよくあり続ければ、子どもが大きくなったときに泊まるかもしれないと思った。かっこいいの種類が変わったかな。

 

この前サクラクーピー40周年記念で『クーピーペンシル24色+ぬりえ絵本「わたしだけのはらぺこあおむし」限定セット』を作った時は、喋れない子どもでも色を塗れて、俺の作ったものとインタラクションしているのにすごく感動して。大人になったときにその絵本をその子が読み聞かせする設計をしてたから、めちゃくちゃかっこいい仕事をしたなと思った。親になった世代のクリエイターたちが「すごくいい」と言ってくれて、こういう仕事のやり方か、みたいなのを再確認できたのは良かった。即効性はいらなくて、30年後に効力を発揮する時限爆弾みたいなやつを作りたい。

──

作るものの価値をはかる指標に時間が加わったんですね。WEBや広告の仕事は、たくさんの人にインパクトを与えられますが、瞬間的なものです。物質的なものは長く残りますし、時間をかけて想いが蓄積されてより作品の強度が増すのかなと思います。本日は、ありがとうございました!

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