INTERVIEW

信念を貫くということ。『日本一の斬られ役 』福本清三さんインタビュー

MOVIE 2017.03.22 Written By 肥川 紫乃

映画好きなら知らない人はいないであろう 『日本一の斬られ役 』『五万回斬られた男』として知られる福本清三さん。大部屋俳優としてスタートしたその役者人生は、初めから華々しいものではなかった。役者として生き方を見い出すまで10年。ひたむきに努力した折れない心を支えていたのは、誰にも負けない信念だった。

 

今年で74歳を迎える福本さんは、東映に入り役者を続けて59年だ。60歳の時に『ラストサムライ』でハリウッドデビューし、71歳で『太秦ライムライト』で映画初主演を飾った福本さんの役者人生とはどのようなものだったのか。表現者としての人生についてインタビューを行った。

インタビューが行われたのは東映京都撮影所・俳優会館4階の『道場』。壁には木刀や槍、薙刀が置かれていて、昔と変わらず今でもここでは”殺陣”や、”所作”の稽古が行われる、まさに歴代の名優の汗がにじむ由緒ある場所である。そこに現れた福本さんは物腰が柔らかく、『東映剣会』のロゴが入ったジャージを着たラフな姿であった。

皆さんは大部屋俳優をご存知だろうか?今でこそ無数の芸能プロダクションがあり役者もそこに所属しているが、福本さんが15歳で東映撮影所に入所した頃は映画全盛期で、東映、東宝、大映、松竹、日活と5つの映画制作会社が直属の役者たちを抱えていた時代だ。スターさん (福本さんはそう呼ぶ) になると名前付きの専用の個室が用意されるが、その他は大勢の役者が一緒に使う通称”大部屋”と呼ばれる控室があてがわれる。おおよそ400人が在籍する専属俳優部に福本さんは所属することになる。

映画なんて観たことなかった。

──

15歳で入所したということですが、やはり映画俳優への憧れがあったんですか?

福本

いやいやいや、芸能界なんて知らなかったし映画なんて観たこともなかったです。実家が兵庫県の日本海側の香住 (現・香美町) というところで百姓をしていまして、長男は家業を継ぐのですが、次男三男は自分で仕事を探さなければならなかったんです。 身内の紹介で京都の親戚のお米やさんに勤めたんですけど、京都まできてわざわざ米屋で働くのも身が入らず他の仕事を探そうと思っていた時に、撮影所と取引のある叔父に「東映行ってみるか?」と誘われました。初めは東映が映画会社ということも知らなかったくらいです。撮影所を訪ねると大部屋に連れて行かれて、明日から来るようにってことであっと言う間に決まりました。演技なんてしたこともないのに、流れでいつのまにか決まっていました。

──

入所してからは毎日どのような生活だったんですか?殺陣の稽古もしていたんですか?

福本

とんでもない!殺陣をやらせてもらえるなんてトップクラス (の仕事) ですよ。まずはキャメラにも映らないような通行人からです。あの頃は毎日撮影があって、スケジュールが掲示板に張り出されてるのを各自で確認して準備をするんですが、カツラの用意も着替えもメーキャップも全部自分でしなきゃならないんです。撮影開始の2時間も前から大部屋に入って準備をするんですが、手間取ってしまって初めのうちはいつもぎりぎりでした。やっと撮影現場に行ってもメークは左右合ってないし着物の着付もぐちゃぐちゃで、演出部には「あっちの方へ行けー!」って後ろの方に行かされてました。

──

初めてご自身がスクリーンに写っているのを観たときは、いつなんですか?

福本

当時は撮影が終わると”ラッシュ”といって撮りためたフィルムを定期的に試写していました。ある時こっそり同僚と試写室に観に行ったんです。あ、写ってる!って思ったら、16歳の坊主が侍の格好して、アホみたいな顔してぼーっとして立ってるのが写ってたんです。もう恥ずかしくなっちゃって、それからは二度と観たいと思いませんでしたね。

スタントマンとしての転機

──

通行人役の後は、どのように仕事の幅を拡げていったんですか?

福本

まずは”スタントマン”ですね。元体操選手の宍戸大全 (ししどだいぜん) さんが東映にスタントの指導に来たんです。それまでは”スタントマン”なんて呼び方すらなかったんですよ。飛び降りるのも土の上だったしジャンプ台も跳び箱の踏切台で、スポンジマットやトランポリンを使ったのはそのときが初めてでした。

 

ある時監督に「おい、ちょっとここから飛んでみてくれないか」って言われたんです。「はい!」って高い所から飛んだら、「なかなかいいじゃないか、ありがとう」ってお礼を言われたんですよ。それまで監督とこんな近くで話したこともなかったし、直接感謝されることなんてなかったんです。そこからスタントマンとして名前を覚えてもらって、監督と宍戸大全さんとアクションの演出について話し合いながら仕事ができるようになって、だんだん立ち回りにも参加出来るようになりましたが、それが20代半ばくらいですかね。自分でも撮影現場の役に立つんだって実感して、やる気が出てきた時期です。

──

そこまで来るのに10年以上かかっているわけですが、毎日どんな想いで取り組んでいたんですか?もっと映ってやる!という負けず嫌いな気持ちもありましたか?

福本

負けず嫌いというか……、あの当時は現場に出て〔出来ない〕では通用しません。何事も〔出来る〕ようになるのに必死でした。階段落ちも生身の身体だからケガもするけど、痛いなんて言ってたら次から呼んでもらえなくなるから、うそでも大丈夫です!って言ってやり続けましたよ。あいつは何やっても大丈夫と信頼してもらえたら、それが評価につながっていって、だんだん使ってもらえるようになるんです。

 

スタンドインっていう、スターさんの吹替えをする役があるんですけど、その時は衣装を着せてもらえるわメーキャップもしてもらえるわ、それまではアホって言われながら全部自分でやってたのが、ほんとにスターさんになったみたいな扱いで、有頂天になりました。そういう喜びを知った瞬間があったり、自分を使ってもらえる嬉しさがあったから続けて来られました。それに日給とは別に特別手当も貰えたし (笑)。

信念を貫いて見えてきた、自分なりの武器

──

福本さんが役者をするうえで大事にされていたことは何ですか?

福本

大部屋俳優は、400人もいるんですよ。その中からまずは殺陣師に名前を覚えてもらわないと立ち回りに呼んでもらえないから、少しでも目立って印象に残るようにとみんな必死でしたね。 ある人は自分の着物に名前を書いたり、映りもしないのに顔に傷描いてた先輩もいましたけどね。僕の場合は、いろんな国の映画のアクションを観て、痛みの伝わる、目立つ倒れ方というのを研究していました。ただ普通に斬られても目につかないから、斬られ方ひとつでもとにかく印象に残るようにと思って、そこは自分なりに大事だと思うこだわりを貫いていました。正しいやり方だったかはわからないけど、誰か1人でも見てくれるように自分の信念みたいなものを信じてずっとやっていました。

──

自分の信念を大事にして貫いてこられたからこそ、スタッフの目に止まり、監督の目に止まり、そして世間から『日本一の斬られ役』と呼ばれるようになったんですね。

福本

いやまあ、そうですね。そんな大層なことはしてないですよ。まがりなりにもやってたら日本一なんて呼んでもらえて、続けて来たことは間違っていなかったんだなって思えましたけど。一生懸命やるしかないですよ、やっぱり。どこの世界でもそうですよ、出世するタイミングだってバラバラだし、一生懸命やった人は出世するし怠けた人は遅いし。やっても伝わらないっていうのは一生懸命が足りないだけだし、やるしかない。他の人の意見を聞いてええとこどりも悪いことではないけど、自分で消化するまでちゃんとしないと、ただ真似事になってしまうから、自分の信念を貫かないと。偉そうなことは言えないけど……。

インタビュー中、幾度となく自分は大したことがないと謙遜されていた福本さんだが、その口から発せられる「信念、一生懸命」という言葉には十分すぎるほどの説得力と重みが感じられた。今の時代は、悩んだらすぐにでも本やインターネットで成功するための知恵やノウハウを調べられてしまう。先見者の良いところをもらって安全な道を行くことは賢いことではあるが、正解がわからない中で自分の信念を貫く福本さんの姿勢がとても格好良いと思えた。意志が弱ければ到底できることではないし、インタビューした私もどきっとする言葉が多々あった。カルチャーが好きで表現者も多いであろうアンテナ読者には、福本さんの言葉はどのように響くだろうか。福本さん、ありがとうございました。

『日本一の斬られ役』の福本さんが侍役ではなく老農夫役で出演する安田淳一監督の最新長編作『ごはん』が、京都では立誠シネマで2017年4月1日(土)より公開される。 映画の中では監督がぜひにとお願いした福本さんならではのセリフや、鎌さばきも必見である。 詳しくは、こちらから。

『ごはん』上映スケジュール

大阪 シアターセブン

2017年3月11日(土)~2017年3月24日(金)

*詳細はこちら⇒http://www.theater-seven.com/2017/movie_gohan.html

 

京都 立誠シネマ

2017年4月1日(土) ~ 2017年4月7日(金)13:10 ~ 15:08 / 2017年4月8日(土) ~ 2017年4月14日(金) 15:30 ~ 17:28

*詳細はこちら⇒ http://risseicinema.com/movies/20378

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