INTERVIEW

100年続くフェスティバルへ「京都国際ダンスワークショップフェスティバル」創設者・坂本公成インタビュー

今年で22年目を迎える『京都国際ダンスワークショップフェスティバル』(通称:京都の暑い夏)が、今年も世界各国から多彩な講師を招いて京都芸術センターで開催された。

 

1996年に有志数名で始めたこのフェスティバルも、今では全国各地から毎年のべ200名以上のダンサーが集まる大規模なイベントとなっている。京都の文化として根ざしつつあるこのフェスティバルの、今日までの経緯と今後の展望について、創設者の1人であるコンテンポラリーダンス・カンパニー Monochrome Circus代表の坂本公成さん(以下、坂本)にインタビューを行った。

 

参考資料としていただいた『京都国際ダンスワークショップフェスティバル<京都の暑い夏>15周年記念ドキュメントブック』を拝見しながら

きっかけは数名の有志から

──

『京都国際ダンスワークショップフェスティバル』(通称:京都の暑い夏)の始まりは、坂本公成さんと数名のダンサーがサンチャゴ・センペレ(フランスの振付家・ダンサー)さんのWSに参加したことがきっかけだったんですよね?

坂本

そうですね。1994年にサンチャゴ・センペレが「ヴィラ九条山」のレジデンスアーティストで滞在していたんですけど、週に1回WSを無料で開放してくれていて、そのとき受けていたメンバーで「もう一度呼びたいね」ってことで、1人2万円ずつを5人で出し合って10万円の資金を作って、呼んでみたんです。WSを開いてみたら、なかなか好評で。 次の年も呼びたいねと話をしていたら、創設メンバーがこの人もあの人も呼びたいってなって、それならフェスティバルみたいにプログラムを組み立ててやろうと始めたのが、1996年です。

 

2000年に京都芸術センターがオープンして会場を支援する発表支援事業が始まったので、申請してある程度安定して借りられるようになったんですが、それまでの最初の3〜4年は関西日仏学館とか東山青年の家(現・東山青少年活動センター)とかで開催していました。1998年までは7〜9月にかけて、クーラーも無い環境で、夏場に実施していました。今考えると恐ろしいですね……(笑)その頃の名残で、今も一部では「京都の暑い夏」と呼ばれているんです。

その頃はいっぺんに講師を呼ぶ環境が整っていなかったので、3ヶ月に渡って毎週1人ずつ講師を紹介していくという感じでしたね。 1999年からはGW開催にしたんですけど、その方がまとめた休みがとれるからみんなが来やすいみたいですね。京都の暑い夏はどこにいっちゃったって感じなんですけど……これから(暑い夏が)やってくる!というニュアンスです。

──

「京都の暑い夏」はそういう意味だったんですね!有志で始めたフェスティバルも今年で22年目を迎えますが、近年で一番変わったことは何ですか?

坂本

一番大きく変わったことは、20周年を迎える2年前までは「一般社団法人 ダンスアンドエンヴァイロメント(以下D&E)」主催でインディペンデントで開催していたわけなんですけど、2年前から京都芸術センターとの共同主催という形になりました。

将来的には100年くらい続いたら良い

──

なぜ共同主催という形に展開していったんでしょうか?

坂本

僕ら(D&E)としても都市にちゃんと埋め込まれたフェスティバルになっていけば良いなと思っていたところに、京都芸術センターが、フェスティバルが安定して開催されることのコンテンポラリーダンスのシーンへの重要性を感じて、共同主催に参加してくれたという形です。公共機関が共同主催としてやることによって会場や財源がある程度安定したので、継続性という意味では大きなメリットになったんじゃないかな。 最初にフェスティバルを始めたメンバーで残っているのは僕と森裕子だけになるんですけど、仮に僕らが手がけなくてもフェスティバル自体が続けていける状態になっていけば良いなと思います、将来的には。100年くらい続いたら良いですね。

──

続けるってすごく大変だと思うんですが、20年以上続けてきて何が大変でしたか?

坂本

やはり資金繰りが大変でしたね。あとは、講師を探すことですね。ここ数年でもだいぶ顔ぶれが入れ替わっていると思うんですけど、(歴代講師の資料を見て……)エリック・ラムルーとかずっと来ているけど、去年は呼んでいなかったり、チョン・ヨンドゥさんは呼んだり呼んでいなかったりですが、関わりが長いですね。

──

講師は、毎年のテーマによって変えたりしているんですか?(今年のテーマは『Inter-Action!!』)

坂本

だいたいテーマに寄り添いつつ、一方であんまりごろごろ変えたりしたくないという想いがあります。というのも、今年受けた人がまた来年も受けて、自分の身体の変化とか深まりを計り直すというか、体験し直す機会でもあってほしいし、ひとつのテクニックが身に付くまでだいぶ時間はかかるだろうと思うので、入れ替えるにしても少し長いスパンで考えるようにしていますね。 過去のプログラムからの流れを組んで決めている部分もありますし、テーマに基づいて決めている部分もあるので、時間軸とテーマの両方を加味して判断しています。また、D&Eと京都芸術センターのフェスティバルスタッフで反省会を設けて、次はどんな人が呼びたいかとか話して新しい人を呼んだりもしているので、単純に僕の一存では決まらないようになっています(笑)。15周年のときは懐古的な意味も含めて昔呼んだ人を呼んでいたりもしましたね。

──

スタッフの皆さんで作り上げているんですね。一度体験した講師を次の年も受けられて自分の学びがより深まるのも、このフェスティバルのひとつの特徴であり魅力ですね。毎年受けている方もいらっしゃいますし、そういう魅力もあって受講者も通い続けていると思うんですが、長い方でどれくらい受けられているんですか?

坂本

リピーターが多くて、長い人だと8年くらいでしょうか。参加者からフェスティバルの運営スタッフになった人もいます。

コンテンポラリーダンサーのために必要なプログラムを

──

プログラムについて質問があるんですが、このフェスティバルのビギナークラスはダンス初心者も上級の経験者も関係なく受けている事が印象的だなと思いました。 このフェスティバル自体が初めの立ち上げ当初は、ダンサー自身が呼びたい講師を呼んで、自分たちの興味と探求、スキルアップのために始めたとお伺いしましたが、このビギナークラスを2000年に開設していますよね。初心者の方にもクラスの間口を広げよう広めようと思ったきっかけは何だったんですか?

坂本

もともと僕らもフェスティバルを始めた時点ではコンテンポラリーダンスを詳しく知っているわけでもなかったし、フェスティバルとともに育ってきたと思うんです。京都芸術センターと共同主催になるまでは、基本的にはダンサーによるダンサーのための探求の場所としてプログラムを作っていたんですけど、そんなに踊りに深く突っ込んでいない人にもイントロダクションのような形で関心を広げてもらいたいと、スタッフの1人が提案してくれました。ビギナークラスはスタッフ発信で、僕の考えではないですけれども。

──

現場を知っているスタッフの方の提案だったんですね。ビギナークラスを設立してから、何か変わったことはありますか?

坂本

フェスティバルを始めたばかりの頃は「コンテンポラリーダンスって何?」と問われることも多かったんですけど、ビギナークラスを作った2000年くらいから、コンテンポラリーダンスというものがだんだん認知され始めたように思います。

──

その次の年からコンタクト・インプロヴィゼーションのクラスが増えているんですが、それも新しい試みだったんですか?

坂本

コンタクト・インプロヴィゼーションについては、その時期まだ日本のコンテンポラリーダンスに導入されていなかったというか、日本でまだやっている人がほとんどいなかった状態だったので、ワークショップの企画や指導を実践する人が少なかったんです。2001年以降はコンタクトのクラスは1〜2つは入れるようにしていますね。 今年は僕と森のクラスと、カティア・ムストネン(フィンランド出身のダンサー、教育者、ダンスメイカー)が教えてくれています。

──

このフェスティバルの大きな特典の1つだと思うんですが、今年も開催している交換研修制度は海外のカンパニーや施設との交換留学ができる仕組みなんですよね?

坂本

今年はUSAの「ノースキャロライナ芸術大学」とスウェーデンの「Vitlycke – Centre for performing arts」と、エリック・ラムルーが芸術監督を務勤めている「ベルフォール国立芸術センター」という3箇所について、それぞれの講師がオーディションを実施していて、それぞれ1〜2名が参加できます。こちらのフェスティバルでも向こうの生徒を受け入れています。

──

交換留学制度はいつから取り入れたのですか?

坂本

エマニュエル・ユインが芸術監督を務める「アンジェ国立現代舞踊センター(CNDC)」との交換留学が最初で、2006年に始めました。 フェスティバルの期間だけ盛り上がって雲散霧消していくよりも、フェスティバルを通じて海外の人々との交流をして、その後の展開もできるような通過地点みたいなフェスティバルになればいいなという想いもあって、こういうふうに交換留学制度を設けるようにし始めたんです。 アンジェは残念ながら、エマニュエル・ユインが2014年にディレクターじゃなくなったので終わってしまって……。USAはおそらく5年前くらいからで、スウェーデンとは3年前からやっています。

──

どんどん受け入れ場所が増えているんですね。

坂本

講師側が受け入れる場を持っているかどうかでできることが変わってくるんですが、講師に大学の講師や施設の芸術監督など、それぞれの拠点で中心的な活躍をしていたり指導したりしている人が多いので、実現できています。そこに旅立つ若者たちを通じて、その後の展開が広がっていくと良いなと思っています。

京都という都市の中でちゃんと息づくフェスティバルへ

──

さらに大きなフェスティバルになる予感がするんですが、今後の展開を教えてください。

坂本

今はある意味飽和状態で、ほぼすべてのクラスが定員に達してしまう感じなんです。これ以上規模を拡大して行く方向ではやれることがないなと感じるので、どれだけ人にアピールするかではなく、どういうふうに講師陣を若返らせるか、スタッフもどう若い人材を入れていくかなど、内部の改革が重要になってくると思いますね。新しい若い講師を見つけてこないといけないんですが、今の講師が神様みたいな人たちなので、代え難いです……(笑) 僕も若いダンサーのリサーチのためにもっと海外に出られたら良いんですけどね。たとえばヨーロッパとか行きたいんですけどね。

──

ヨーロッパが盛んなんですか?

坂本

盛んですね。アメリカよりはヨーロッパ。ベルギー、フランスあたりが元気が良くて、韓国も元気があります。

──

京都もコンテンポラリーダンスが盛んなイメージがありますね。

坂本

京都は都市の規模のわりには大きなシーンがあるイメージ。そのイメージには、僕たちもこのフェスティバルも貢献できていると思っているんですけどね。

──

100年続くフェスティバルになったら良いとおっしゃっていましたが、この22年を振り返ってどうですか?最後に、今の想いをお聞かせください。

坂本

最初の動機は自分が学びたいという部分が大きくて、その後メソッドとか方法論とかできてくると、社会貢献というか文化的な意味で自分の責任も感じるようになりました。京都という都市の中でちゃんと息づいているフェスティバルというか、必要とされ続けるフェスティバルとして存続していけばいいなという想いで今は続けています。

──

次世代に繋いでいくという想いですね。このフェスティバルが京都の文化として息づいていくと、京都という都市がもっとおもしろくなりそうです。 坂本さん、本日はありがとうございました。ぜひドキュメントブックも22年目の分も作ってください。

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