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壬生モクレン

FOOD 2019.03.28 Written By 肥川 紫乃

河原町から西に3駅行ったところにある阪急西院駅。駅前通りの東側に位置する西新道錦会商店街を入り口から10分ほど南に下ると、2019年3月3日でオープン1周年を迎えたカフェバー、壬生モクレンがある。常連さんをはじめネオンサインに誘われるようにふらりと訪れる一見のお客さんで賑わいを見せるお店からは、楽しそうな話し声や笑い声が漏れ聞こえる。

 

壬生モクレンの魅力は、ランチはもちろん夜でも注文できる和食を基本としたやさしい家庭料理と、誰にでもフラットに飾らない接客をしてくれる店主・まり絵さんの存在だ。まり絵さんの作る季節のおすすめメニューや、いつでも飲めるようにと毎日欠かさず用意してくれるお味噌汁、レモンチューハイは2杯目からはおかわり価格の400円となっていて、お客さんの心と胃袋を鷲掴みにしている。1人で飲みたい日にも、2階のお座席で友人とワイワイしても、カウンターでまり絵さんと楽しいおしゃべりでも。壬生モクレンは多様な用途で訪れたくなるお店だ。

 

取材をしたこの日も、木屋町時代からの常連さんや友達など、まり絵さんに会いに次から次へと人が訪れていた。なぜこんなにも通いたくなるお店なのか。今回は、まり絵さんの魅力を紐解くべく、大切にしていることについてお話を伺った。

住所

京都府京都市中京区下溝町60-15

営業時間

営業時間11:00~15:00/17:00~23:00

定休日

日曜・月曜

TEL

090-2039-4774

HP(公式Instagram)

https://www.instagram.com/mibu_mokuren/?hl=ja

1人対100人の接客はしない。スナックとバーの経験を通して学んだ心遣いの大切さ

──

まり絵さんがスナックで働き始めたのはいつ頃からですか?

まり絵

大学3回生の21歳の時です。卒業して就職せずに23歳まで祇園のスナックでアルバイトをしていました。昼間は靴下屋で、夜はスナックか、きゃばぁの1号店の立ち飲み屋きゃさで働いていて。その後きゃさのオーナーが「2号店しようと思ってるから、やる?」って言ってくれて、6年間きゃばぁで店長として働きました。

──

21歳からスナックを続けているとは、結構長いんですね。スナックが楽しくて続けてきたのでしょうか?

まり絵

いや、スナックもけっこう大変で、楽しかったかと言われればそうでもないんです。きゃばぁは街中にあって夜遅くまで営業していたので、泥酔して来る人が多くて。私は毎日怒っていましたね(笑)。

──

毎日怒るようなことが起きていたんですか?

まり絵

タバコ持ちながら入ってくる人とか、立ったままずっと座らない人とか、まるで幼稚園みたいな感じで色々なお客さんがいました。他の人からすればどうでもいいことかもしれないんですけど、私は「行儀が悪いからイヤだ!」って思って。すごく酔っ払っている人には強いお酒を出したくないから、注文されても「帰ってください」って言ったり(笑)。常連さんからは「また出たー」って思われていただろうけど……。

──

お客さんに怒れる人もなかなかいないですよね。

まり絵

私が店長のお店で、お客さんには楽しく過ごしてほしいと思うんです。そう思ったら、私がイヤと思うことにははっきりイヤと言えましたね。そんな考えはアルバイト時代のお店のママから学んだように思います。

──

どんなママだったのですか?

まり絵

ママはお客さんが「いらない」って言ってるのに、おしぼりとお水を出しなさい、って私に言うんですよ。当時はお客さんは「いらない」って言っているのに、なんで……?って思っていたんです。そのお店を辞めてきゃばぁで働き始めてから、きっと「私のお店には、私のルールがある」って意味だったんだなと気付いたんです。それがかっこいいなと、純粋に思えたんですよね。だから私も自分のお店を守る意味でも、お客さんに言う時はきちんと言います。

──

芯のあるママの精神が、きちんとまり絵さんに引き継がれているんですね。

まり絵

そうかもしれないです。4年前くらいから「◯◯スナック」が流行っているけど、私にとってはママって言葉が特別すぎるので、簡単に使って欲しくないなとは思っています。単純に女の子がカウンターに入っていたらママというわけじゃないかなと。

──

まり絵さんが思うママはどんな存在ですか。

まり絵

時にお母さんのように叱ったり、恋人のように甘えられたり、またある時は姉のようで妹のようであったり。お客さんの気分によってどんな役にも回れて、ママの前では自由な自分でいられる居場所のような存在ですかね。だからスナックに行くというか、ママに会いに行くっていうのもあるだろうし。

 

アルバイト時代のスナックのママは、来てくれた人にお礼の手紙を書いたり、お客さんのお誕生日を絶対に覚えていて。お客さんのお誕生日にはネクタイとか好きなお酒を買っておくんですよ。当日は来ないかもしれないけど、1年以内に1回は絶対に来るから、「こないだお誕生日おめでとうございました」って渡してたりするの。そういうマメさが見ててすごいなって思いました。1日でできることじゃないですよね。

 

それと、今日アルバイトで入ってくれているYOTTU(よっつ)さんはきゃばぁの時からの友達でDJなんですけど、彼女もマメで、イベントのお誘いの時は絶対にコピペじゃない文章をくれるんですよ。それを何百人っていう友達にも送っていて。その話を聞いて以来、私もより細かく御礼を送るようになりましたね。

──

今日もまり絵さんに会いにきているお客さんが多くて、まり絵さんがいいママで、日々の積み重ねがお店のファンを作っているんだなあと感じました。

まり絵

私、自分のことは別にママとは思っていないんですよ。言われたら嬉しいですけどまだまだそんな存在になれていると思っていないんです。

 

カウンターの中の私から見ると1人対いっぱいのお客さんなんですけど、来てくれる人からすると私とお客さんは1人対1人の関係なんですよね。こっちが1人対100人の接し方はしてはいけないし、一人一人を大事にできるように丁寧に接客をしたいなと思っています。

壬生にお店が増えるのが夢。周りのやさしさで成り立ったオープン1周年

──

いつから独立しようと考えていたのですか?

まり絵

きゃさのオーナーには恩があるので、辞めるつもりもなく、辞めるとしてももっと先だと思っていたんですけどね。きゃばぁで働いて5年が過ぎた2016年頃から考えていました。

──

お店を辞めよう、と考え始めたきっかけは何かあったのですか?

まり絵

なるべく朝起きて、昼間から夜にかけてお店をやって、夜みんなが寝るくらいの時間に寝たいなって思ったんですよ。恋人が土日休みなので、土日に休みをとりたいし、じゃあ自分でしようかなと。

──

夜の仕事から、昼間の仕事にシフトしたいと思うのはライフステージが上がる時に考えることですよね。その後、独立しようとなってこの壬生に場所を構えることを決めたのはどんな理由があったのでしょうか。

まり絵

街の中心地以外で探していました。街中でやってもまた来る人も一緒だし、せっかく6年間も働いて知り合いが増えたから、可能性がどれくらいあるか試したいっていう気持ちもあって。五条か西の方か丸太町あたりで探してて、予算内だったこの場所に決めました。

──

可能性を試してみたかったっていうのは?

まり絵

中心地から離れたところでやっても人が来るのかということと、まだ誰も注目していないエリアでお店をやってそこを盛り上げられるか、その2つの可能性を試してみたいと思ったんです。

──

あえて注目されていないエリアを選んだと。

まり絵

京都は1つ良いお店ができたら、それまで誰も注目していなかった場所でもその周りにお店が増えていくんですよ。五条もソリレスができて西冨家ができたくらいから、Lenもできてって拡がっていったんですよね。それまでは三条〜四条までが中心だったのに、今は三条〜五条までが街中って認識されているのがおもしろいなと思って。

 

壬生でお店をやって「モクレンがあるから、壬生でお店をやってみようかな」って人が出てきたらおもしろいなと思っています。壬生にお店が増えるのが夢ですね。私的にはパン屋かカレー屋かコーヒー屋が増えてこの商店街を活性化できたら良いなって。

──

街の中心地から離れたところにお店を作るにあたって不安はなかったですか?

まり絵

やってみてダメだったら、借金も返せない額でもないし、その時考えようって感じでした。やってみると、常連さんもついてきてくれて、木屋町の人も半年に一回くらい来てくれたり、京都以外からも他に行くお店いっぱいあるけど「今日寄るわ」って言ってくれる人もいて。みんなの優しさで成り立っていますね。

──

壬生モクレンを始めてそろそろ1年ですが、どんな1年でしたか?

まり絵

思ったより良い1年でした(笑)!近所の飲んだくれのおじちゃんとかが月に1回潰れてないか見に来てくれたりするんです。なんだかんだ言いながらお酒を飲みに来てくれたり、商店街の人たちともお店を通して交流できているのもいいなと思っています。隣のおうちの人としゃべるような感じでご近所付き合いができていますね。

──

モクレンはメニューの値段が安いですよね。お味噌汁とごはんセットで400円とは。

まり絵

夜にごはんだけでも食べに来られるようにと思って値段は設定しました。今年の目標は普段使いしてもらうことです。

──

今年は、ということは去年は普段使いしてもらっている感覚がなかったということですか?

まり絵

そう思いだしたのは、お店を始めてから「お味噌汁を飲めるお店がない」とか「おうち帰って何か作るのが大変だ」ってお客さんの話を聞いてからです。自分でも、久しぶりにお弁当屋さんのお弁当を買ったんですけど、野菜が全然入っていないなと思って。お弁当を買うくらいならモクレンにぱっと寄ってお味噌汁とごはんだけ買って帰るとか、もうちょっと気軽に持ち帰りできるようにもして、みんなの胃袋を支えられたらと思っています。夕方17:00に10人くらいがお味噌汁とごはんをここに食べに来てくれるのが今の夢です。生活や町の一部、恋人のようにいたいですね。

──

今日の一品料理も、ちょっと他の店では見ないような料理ですよね。料理でこだわっている点はありますか?

まり絵

派手ではない日常の中に当たり前にあるごはんがいいですね。モクレンはたまごサンドと餃子が美味しいってよく言われるんですけど、季節のおつまみもおすすめです。土井善晴先生が好きで、すごく参考にしています。

<季節のおすすめ料理>
左から時計回りに、大人のポテトサラダ(450円)、豚スペアリブと筍の中華煮(600円)、サバと人参のしりしり(380円)

場所としての可能性を広げる、これからの壬生モクレンが目指す姿

──

今後、壬生モクレンをどういう場所にしていきたいですか?

まり絵

お菓子とか雑貨とか、何か持って帰れるものを作りたいなと思っています。ここに来たらなんでも揃うっていうセレクトショップみたいな感じですかね。モクレンに来て、ごはんを食べて帰っても良いし、飲食しないで何か買って帰るだけでも良いし。

──

なんでも揃うお店ですか。

まり絵

展示会とかイベントはよくしているんですけど、やっぱりイベント事は終わりがあるのでもっと継続的な何かをやりたいとは考えています。モクレンに来ることで欲しいものと出会えるっていう状況を一時ではなく、ずっと続くような仕組みを作りたいです。

 

セレクトという視点でだと、VOUはどんなに人気があるお店になってもずっとフラットな姿勢なのがすごいと思っています。全然調子に乗らない(笑)。 店主の川良くんのそういうところが本当に素敵です。VOUに行ったら何かしらかっこいいものがあるって思って行くので、モクレンに来る時もそういう風に思ってもらえるようにしたいですね。飲食だけにとらわれず、場所としていろんな可能性があるだろうから、いろんなことにチャレンジしたいです。

──

最後に、まり絵さんが目指す姿を教えてください。

まり絵

私も、周りの尊敬する人に影響を受けている部分があるんですけど、人の背中を押せる存在になれたらなと思いますね。

 

例えば、お味噌汁も昆布からお出汁をとっているんですけど、前の晩からつけておけなくても、作る時に入れて弱火で香りがついたら出したら良くて、あんまり難しくないことなんです。先入観で難しいと思うようなことも、実際にやってみたら「難しくなかった」って言ってくれたら嬉しい。自分にはできないことに思えても、あの人がやっているなら自分もできそうと思ってもらえるように今後もいろいろやってきたいと思っています。

 

あと、お店とは恋人のような気持ちで接していきたいです。やっぱり気に入っていないところがあると一緒にやっていけないから、お花を飾って、良い空間を演出して、お店と私でコミュニケーションをとって、一緒にやっていきたいです。

──

ありがとうございました!

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