GROWLY children pre. FOREVER-この夜が明けてもGROWLYとともに。音楽を愛する若者たちと「育てのライブハウス」の絆
2024年12月をもって閉店したライブハウス〈京都GROWLY〉。2012年4月の開店以来、京都のミュージックシーンにおいて重要な拠点であり、ミュージシャンはもちろん、音楽を愛するすべての人々にとっての大切な居場所であり続けてきた。閉店直前の2024年12月20日(金)、関西を中心に活動する若手バンド10組が結束し、オールナイトイベント『GROWLY children pre FOREVER』が開催された。本記事では、〈京都GROWLY〉というかけがえのない居場所に捧げる若者たちの一夜を徹底レポートする。
来年から俺達がどうなるか正直見えないし、考えてもいない。GROWLYという平和都市二条に集まった我々は2025という数字の中をどのように進むのだろうか。2024年12月20日(金曜日)は馴れ合いでも身内ノリでもない。ただそこで音が鳴り続ける。血液が沸騰する感覚。魂を燃やす。感情が高まる。涙を流すかもしれない。そして朝がやってくるだろう。
その後の俺達は、船を失った優しい海賊そのもの。GROWLYは形を失い概念として心の中に宿り、根を生やし、口承伝達され、そして伝説になるだろう。GROWLY CHILDRENの結束は形が消えたくらいではほどけはしない。
中村響太郎(モラトリア厶、Gt / Vo)note『FOREVER1』より
恩はすべて音楽で返す。前進を続ける京都の新鋭たち(THE HAMIDA SHE’S、To Be Honest、コロブチカ)
奏太(Gt / Vo)が「やれんのかFOREVER!」という雄叫びを上げ、この日のトッパーTHE HAMIDA SHE’Sが走り出す。“BOYS DON’T STOP”からの“サイケデリックな彼女”というエネルギッシュな流れでフロアの熱気を急上昇させる。
彼らのライブハウスデビューは、2023年2月16日の〈京都GROWLY〉。「京都純情」をバンドのテーマに掲げ、今や関西を飛び出して東京、愛知にも活動の幅を広げる彼らの物語は、ここから始まったのだ。
奏太が「僕たちが前に進み続けているということを伝えるのが(GROWLYへの)感謝だと思う」と語ると、来年2月リリース予定の2nd EPに収録される新曲“雪の朝”を披露。そして「これで終わるはずがないと思っている。GROWLYの魂を受け継ぐ場所で再会しましょう」というMCに続いて始まったのは“十九”。曲の最初から途中まで続いていた抒情的な空気が一変し、一気にテンポが上がって叫ぶような演奏に豹変する。
勢いそのままにTHE HAMIDA SHE’S初期からの楽曲である“銀河大衝動”、ラストは〈GROWLY〉でいちばん最初にやった曲だという“はみ出し者の唄”を披露。奏太が前方の柵に足をかけ、フロア、PA卓、その外にあるバーカウンターまで見えているかのように、広く広く見回しながら歌う。いつもは誰一人置いていかないとばかりに観客一人ひとりの顔を見て演奏するTHE HAMIDA SHE’S。しかしこの日の彼らは、観客はもちろんのこと、〈GROWLY 〉という存在に向けて、建物全体にまではみ出してしまう勢いで「京都純情」を叫んでいた。
リハーサルからマイクに絶好調の伸びやかな歌声を乗せていたのは、To Be Honest の宮島孝輔(Gt / Vo)。彼はイベント前日、「愛により鳴らす音楽は本当に美しい。明日To Be Honestはソレを証明します」と自身のX(旧Twitter)にてポストしていた。その言葉の通り、彼らは愛に溢れた温かいステージを見せてくれた。
寺澤奎音(Gt)の弾く気持ちのいいイントロと、宮島の伸びやかな歌声が重なる“君のせいだよ!”から始まり、“ポケット”では宮島と寺澤が向かい合って演奏する場面があった。後のMCで、2人はTo Be Honestが初めて〈GROWLY〉に出演したときにも全く同じ演出をしたと感慨深そうに話す。宮島は、「僕らは(GROWLYに)歌で恩返しするだけ」と語った。その言葉を聞き、今回の『FOREVER』には、その場で鳴らす音楽で気持ちを伝える力のあるバンドが勢揃いしているのだと改めて実感した。
4曲目の“昼下がりの僕は”では、京都の街で過ごした青春の記憶を描いた歌詞と、その景色を映し出すような情緒的なギターサウンドが絶妙にマッチ。同じく京都の街を想った楽曲“この街は君を守るよ”で宮島が曲中の「いつでも帰っておいでよ」という印象的な言葉を間奏中にも呟いた。大切な場所を想うこの2曲から、音楽を愛する人々の居場所であり続けてきた〈GROWLY〉を連想した人も少なくないのではないだろうか。
「今までGROWLYで得たものを詰め込んだ曲」と紹介されたのは“evergreen”。4人のメンバー全員が、満面の笑みを浮かべて楽しそうに演奏する。最後は、ブレない芯のある声で宮島が「京都GROWLYー!」と叫び、To Be Honestの純粋な愛を感じるステージは幕を閉じた。
次にバトンを受け取ったのはコロブチカ。まずは“プラネタリウム”で穏やかに進み始め、メンバー全員の軽快な音の重なりが耳に残る“アイデア”、コロブチカの新たな代表曲になりそうな香りがする“永遠みたいな”と、前半はまだライブでしか聴けない新曲が続く。
北原圭悟(Gt / Vo)は、MCでこの日の寒さについて話し始めた。気がつけば、間もなく日付が変わる時間帯。夜も更ければ気温も下がる。「僕たちのライブで温まってください!」と呼びかけて始まったのは“夜のせい”。乗りやすいリズムと何度も繰り返す「夜のせいに 夜のせいに」というフレーズが心地よく、自然と体が揺れる。
定番ゆえにライブごとに変化と進化を重ねている常にホットな名曲“ユーズド・ユース”は、歌い始めの北原の声に、まるで訴えて聞かせるような強い力を感じた。この日、この瞬間だからなおさらなのかもしれないが、その歌い始めは、筆者がコロブチカと出会った昨年の12月から、見る度に惹きつける力が増していると思う。
現在のコロブチカのアンセム的楽曲となった“Teenage Riot”では、彼らと同じ立命館大学の軽音サークルRock Commune所属の奏太(THE HAMIDA SHE’S)がステージへ。北原のテレキャスターを奏太が弾き、北原はマイクを手にステージ前方の柵に片足を掛けて歌う。「Teenage Riot」と繰り返し歌う部分では、奏太と平田歩(Ba)が一つのマイクに向き合って叫ぶように歌い、いっぱいのフロアではシンガロングが起きた。演者がステージに横並びで立ち、熱い想いをすべて音楽に乗せて飛ばす。その姿に、観客も同じ熱量で歓声を上げて応える。それは心做しか、〈GROWLY〉とゆかりの深い11人組バンドNo Funの作り出す革命的な景色にも通ずる迫力を感じた瞬間であった。
北原およびコロブチカは、出番の最後まで「〈GROWLY〉が閉店すること」について一度も触れなかった。募る気持ちは、すべて彼らの愛してやまない音楽に乗せられていた。そんな「音楽の持つ力を信じる」という彼ららしい姿勢を見せたことも、〈GROWLY〉という居場所への最大の感謝であるに違いない。
「GROWLY育ち」の勇姿と誇り(サリバーン・モラトリアム・オートコード・降之鳥)
今年の春に惜しまれながら、活動を休止していた4ピースバンド、サリバーン。正規ドラマーである肥前翔太郎の参加は叶わなかったが、盟友のAkane Streaking Crowdから立本純嗣をサポートに迎えて再集結をした。
“街頭のワルツ”が始まると、観客の視線がステージに吸い寄せられるように向けられる。ドラムで間をつなぎ始めたかと思いきや、次の曲のイントロを匂わせるアレンジの加わったリフ。それが徐々に人気曲“ニュートリノ”のイントロに変わり、フロアから待ってましたと言わんばかりに歓声が上がった。演奏後、「ここでMCする予定はなかったんですけど……楽しい!最高!」と鏡堂章太(Gt / Vo)が満面の笑みを零して叫ぶと、観客から口々に「おかえり!」という声が上がった。続く“アネモネ”では、福山康成(Gt)、鳴嶋頼(Ba)と笑顔で顔を見合わせる場面も。さらに、重低音が響く“木偶の坊”では表現の幅の広さを見せ、観客を虜にしていく。
バンド活動休止後も時折ライブハウスで弾き語りをするなど、歌うことをやめずにいた鏡堂。“不明瞭な体温”で優しく強く語りかけるように詩を届ける彼の姿からは、歌い手として積み上げた貫禄も感じられた。
また、鏡堂の弾き語りとなっている“ホームタウン”だが、今回はサビ部分をメンバー全員で歌う形で披露。バンドとしてのブランクを一切感じさせない聴き応え抜群のステージを披露するサリバーン。メンバーの進路が分かれたことによる活動休止ではあるが、このバンドにはどうしても先に続く未来を感じてしまう。
鏡堂は、MCで〈GROWLY〉に対する想いも語った。「この寂しいとか悔しいとかいう気持ちを持ったままでも、僕たちは踊れると思う」。それは、色々な想いを抱えながらも「どう表現していいか分からない」「気持ちをどこに落ち着かせればよいのか分からない」という、〈GROWLY〉を愛する我々の気持ちを救い代弁するような言葉だった。
今回の『FOREVER』開催を提案したのは、モラトリアムの中村響太郎(Gt / Vo)である。彼は、高校時代からバンドで〈GROWLY〉に出入りしており、そのバンドの解散後「バンドがやりたい。バンドがやりたい」といつも言っていたという。その後、新型コロナ禍を経て平田(Dr)、中野(Ba)と出会い、2021年にモラトリアムを結成。初舞台はもちろん〈GROWLY〉だった。モラトリアムおよび中村響太郎は、まさに〈GROWLY〉に育てられたミュージシャンである。
“陽炎”が始まった瞬間、ステージという画面から一気に押し出されて迫ってくる分厚い轟音のパワーに圧倒される。何重にも重なって聞こえる迫力満点のサウンドに、つい「何人で鳴らしているのだろう?」と感じてしまうが、ステージ上にいるのは間違いなく3人だ。改めて、なんて壮大で神秘的な魅力を持ったバンドなんだと思わされる。薄暗いはずのライブハウスに太陽の照る大空が広がるような、唯一無二の音楽空間を生み出す“SKY”では、平田の稲妻のような力強いビートが会場の空気を揺らした。さらに“黎命”では、中村の声がダイレクトに鼓膜を震わせる。独特のビブラートがきいた歌声とずっしりしたサウンドの重なり、そして最後に鳴らされた3人の完璧に息の合った音が、我々の全身に強い余韻を刻んだ。
MCで、中村は改めて『FOREVER』開催までの経緯を語り、前を真っ直ぐに見つめて「ここにいる皆さんは、それぞれが歴史を作っている一人です。それを、みんな誇りに思ってください」と語る。生粋の〈GROWLY〉育ちである彼の言葉に、その場にいたすべての観客が動きを止めて聞き入っていた。
この日に集まったすべての人々は、同じ居場所や同じ音楽への想いを持ち寄り、ともに『FOREVER』という夜を作っている。それは、〈GROWLY〉がこれからもどれだけ人々に愛され続ける存在かという証明にもなるだろう。
この日を彩ったのは、音楽だけではなかった。それは、イベント開催にあたって用意されたフードだ。
〈ナノうどん〉で提供されていたのは、ペペロンチーノ風にアレンジしたうどん。ガーリックのパンチがきいた味と、ちくわの食感のアクセントが好評。観客に留まらず、出演者陣も美味しそうに頬張っていた。
おでんは、幼いころから料理に慣れ親しんできたサブマリン・笠浪悠生(Gt / Vo)による手作り。店名を彼らのEPタイトルをもじって〈潜水亭〉としたのも、笠浪らしいユーモアだ。冬のオールナイト公演で冷えた体を温めてくれるナイスな逸品であった。
おでん、うどんとも大盛況で、終演を待たずにソールドアウトとなった。
「ヤバい長いつらいさばいぶ 烏丸は今日も雨が降る」
4ピースロックバンド、オートコードは、1曲目の“京都”から観客の大合唱を起こす。“ビバ!俳句クラブ”では、鼓膜を大きく震わせる重たいロックサウンドを展開。楽しそうに演奏するメンバーを見て思わずこちらも満面の笑みになってしまう。純粋でハイクオリティな音楽性と、裏表のないメンバーの人柄がにじみ出ることによって自然に生まれるエンターテインメント。それはまさに、彼・彼女たちだからこそなせる業である。
イントロが始まった瞬間にフロアから「わあ!」と歓声が上がったのは、ファンの間でレア曲と囁かれることがある“BAD TUNING SHE”。ジュンジュニオール(Gt)の華やかなソロも相まって、順調に盛り上がりを増していく。アップテンポかつ、ミナ(Ba)のベースラインが際立つ新曲では、バンドとしてまた新たな化学反応を起こしたようにも感じられ胸が躍った。
続く“少年と月”では、大島匠冬(Dr)の絶妙な強弱をつけたリズムが独特の情緒を生み出し、穏やかな夜風に吹かれるような落ち着いた雰囲気に塗り替わった。
轟龍二(Gt / Vo)が曲中最後の「まずは起きなくちゃ」という歌詞を「まずは生きなくちゃ」とさり気なく変えた。その瞬間、「もうすぐ〈GROWLY〉がなくなる」という事実に対して戸惑いのまま漂っていた気持ちの輪郭が、ようやくはっきりと見えた気がした。
この日に会場入りして轟が気付いたのは、建物のあちこちに貼り残されていた歴代出演バンドのパスがほとんど剥がされていたことだったという。そんな様子に轟は「ヤバいですね、感情がね。非常につらいですね」と、“京都”の歌詞にかけて正直な気持ちを口にしつつ、いつもの明るい笑顔を見せながらステージに立っていた。
そして、最後は“若葉”。「暗中に活を見る この先は全部僕次第」と歌う轟の表情は、頻繁に見せていた笑顔とは打って変わって、言葉の一つひとつを余すことなく伝えようとする真剣な眼差しそのものだった。
人々を笑顔にしながらも、曖昧な気持ちに気付きを与え、生きていこうと背中を押す。そんなオートコードの音楽は、これからもさらに多くの人々の心の支えとなるに違いない。
リハーサルでフロアから楽器隊の音を確認していた河野圭吾(Vo)がステージ正面から上がり、「よし、やろう」と言うと、メンバーがそれぞれに笑顔で頷く。
そうして始まったのは“24”。動きのあるダイナミックな演奏で、早速すべての観客を釘付けにする。続く“シアメ”では、5人全員で発する咆哮のようなサウンドが、フロアの熱気をさらに上げていく。“幸福のすべて”では、まるで言葉と感情をそのまま乗せて心にダイレクトに飛ばしてくるような岡田慶之(Gt)のギターソロに涙腺が緩んだ。この曲はメンバーの故郷に向けた楽曲ではあるが、今回の演奏は降之鳥というバンドのホームである〈GROWLY〉に向けられているようにも感じた。
「本当に本当にありがとう」マイクに向かって囁くように言った河野。次は、「ここ(GROWLY)の曲を」とステージの床を指さす。そうして始まった新曲は、メンバーの表情にも目がいってしまった。彼らにとって、最後の〈GROWLY〉出演という特別な日。5人それぞれが見せる表情は、曲が進むうちに何度も移ろっていった。この日は間違いなく、ステージを完璧に作り上げる演者としての彼らと、この場所を愛する人間としての彼らが舞台上で共存していた。
そして映画のエンディングのように壮大に始まった、“憧れに別れを”。最後はメンバー全員で向かい合い、分厚く重なる音を綺麗に完結させると、河野が正面を向いて深く頭を下げた。5人のメンバーは、ステージに残る余韻を噛み締めるような表情を見せながらも、振り返ることなくステージを後に。
その姿は、長旅へ飛び立ち進んでいく姿を人々の記憶に刻む美しいコウノトリのようだった。
夜が明けても響かせ続ける、永遠の共鳴(Akane Streaking Crowd、サブマリン、ZOO KEEPER)
実は、今回のタイムテーブルを考案したのは〈GROWLY〉店長の安齋智輝。Akane Streaking Crowdの北里有(Ba / Vo)は、どうして自分たちが8番目に配置されたのか安齋に尋ねたという。
「僕たちは『眠気覚まし』だそうです!」
北里がそうMCで伝えると、演奏を期待する観客たちから温かい笑いが起こった。
時間は朝4時前。立本(Dr)のシンバルから1曲目の“2001”のイントロが始まり、ゆっくりと駆け出していくように北里が歌い始める。「愛してるよ、ありがとう、それじゃまたねなんてまだまだ言わないでいて!」という歌詞で終わるこの楽曲を自分たちの幕開けとしたところは、〈GROWLY〉と観客たちへの彼らなりの餞の言葉にも感じられる。
“それだけだった”では、複雑なベースラインとボーカルを両立させる北里の人並み外れたリズム感覚と高い技術が光る。次には、各パートの変則的な旋律とリズムの重なりが絶妙な新曲も披露。“さよならハングオーバー”でさらに観客をAkaneワールドに引きずり込むと、“KARATE!”では「空手を習って僕は強くなろう」の部分で小さく正拳突きをしながら踊る観客の姿も。続く“Entertainment”のリズムに乗せられて踊る観客でいっぱいのフロアには、もう夜が明けつつあることを忘れてしまうほどの活気が生まれていた。
最後には、“深夜特急”からの“新快速”という流れで、スピード感がありつつ曲も歌詞もしっかりと聴かせるAkane Streaking Crowdらしい演奏を披露した。会場の眠気どころか疲れも吹き飛ばすような勢いで、明け方の30分を駆け抜けていった。
京都生まれの我らがAkane Streaking Crowdは、これからも期待のさらに斜め上をどこまでも行ってくれるに違いない。
2022年11月15日、〈GROWLY〉にてライブハウスデビューを果たしたサブマリン。彼らが今も背中を追い続ける兄貴分である水平線との初対バン、1st EP『潜水艇』リリースパーティーなど、バンドとしての大切な節目や出会いを、この場所でいくつも重ねてきたバンドだ。正規メンバーの笠浪悠生(Gt / Vo)、タカノ(Gt)に、サポートとして降之鳥から木村成(Ba)、Redhair RosyからYu Ando(Dr)を迎えた4人編成。そんな彼らのライブから伝わってきたのは、「いつも通り」を貫く誠実さと、〈GROWLY〉で育った比類なき強かなロックンロールだった。
まずは1曲目、“メランコリー公園”の耳触りのいい滑らかなギターサウンドがフロア全体に溶け込み、さりげなく観客の呼吸を整えてくれる。次に、歪むベースから始まった“旅人”では、短いスパンで高低を繰り返す独特なサビ部分のメロディーを、笠浪が完璧に歌い上げた。何にも染まらない真っ直ぐな彼の歌声は、この1年ほどでさらにパワーアップしたように感じられる。
続く“のらりくらり”では、笠浪のボーカルと同じくサブマリンの代名詞ともいえる、タカノのギターソロが会場を釘付けにする。音が全身を巡って鳴らされているような圧巻のギターサウンドは、観客のみならず彼の実力を知る他の出演者たちも目を輝かせて聴き入っていた。
そして午前5時を迎えるころに始まった最後の曲は、仄暗い明け方にも似合う楽曲“イメージ”。笠浪は終始、抑えた感情をすべて振り絞るような表情で遠くへ声を飛ばしていた。
演奏を終え、フロアが少しばらつき始めるかというタイミングで、ステージ中央にいたタカノが正面を向いて深く一礼。その少し後について、笠浪も一礼する。2人の姿を見て、昨年8月に安齋店長がANTENNAの記事でサブマリンを紹介したときの言葉がふと蘇った。改めて、ここに書き残しておきたい。
昨今の京都のライブハウスシーンをざわつかせている注目の新星ロックバンド、ZOO KEEPERがトリとあって、フロアは超満員。ふと後ろを見ると、ステージを温かい表情で見つめる安齋の姿も。
実は病み上がりで会場に来たというセイカ(Ba / Vo)。大事を取ってギリギリまで家で休息する予定だったが、SNSでトッパーのTHE HAMIDA SHE’Sの映像を見て、いても立ってもいられない勢いで会場に予定よりも早く来てしまったという。
そんな彼らのステージは、“ハルカゼ”の悠々としたイントロから始まった。セイカの穏やかかつ力のこもった歌声に、同じ温度感のコーラスが美しく重なる。徐々にテンポアップするアウトロに続いて、次の楽曲は“Television”。疾走感と緩急のある展開にポップなボーカルが乗り、会場の空気を確実に自分たちのものにしていく。
腹の底まで響いてくるような 石田(Dr)の力強いドラムが際立つ“No Title”、“mother”ときて、再びセイカのMC。「本当は僕たちもシンガロングとかやりたいんですけど、サブスクがまだないから、みんな歌えないんですよね……。来年には配信もリリースする予定なので、聴いてください」。関西の若手バンドの精鋭が集う8時間にも及ぶイベントのトリにも関わらず、2003年生まれで最年少の彼の声は常に落ち着いていた。
耳馴染みのいいメロディに少し懐かしさも感じる“雛菜”で再び心を掴まれたかと思えば、“ハルカゼ”の雰囲気にも通ずるような心地よい温もりを感じる“サクラ”でさらに惹きつけられる。
メンバー全員で歌う一体感と大きく優しい音の包容力を感じる“PAST”の最後には、セイカが「ありがとうGROWLY!」と叫び、ベースを投げて降壇。すかさず、フロアからはアンコールの手拍子が始まる。3人が再びステージへ上がると、「僕らがGROWLYでやる曲といえば“ハルカゼ”だと思うので」と渾身の2回目を演奏。長丁場のイベント終盤で体力がなくなってきた人々も少なくなかったと思われるが、それでも会場の熱気は最後まで一向に冷める様子がなかった。
ありがとう、GROWLY
正直なところ、筆者は『FOREVER』開演のギリギリまで迷っていた。自分は、一体どのような顔で〈GROWLY〉のフロアに立っていればいいのだろう?
中村響太郎のnoteをはじめ、京都の若手ミュージシャンたちと顔を合わせるたびに聞いた〈GROWLY〉への想い、毎日SNSに流れてくる投稿の端々に感じられる本音……。『FOREVER』までに、出演者や関係者のいろいろな言葉に触れてきたからこそ、筆者は純粋にイベントを楽しむべきなのか、出演者たちの想いを受け取りながら静かに見守るべきなのかを迷っていた。
しかし、そんな迷いは杞憂に終わった。THE HAMIDA SHE’Sの演奏が始まった瞬間、「彼らは今日も、本気で〈GROWLY〉での最高の時間を作ろうとしている」とダイレクトに感じた。気が付けば、筆者はステージの彼らに向かって笑顔で拳をあげていた。これは、他の9組も同じだ。
「僕らは歌で恩返しするだけ」と、愛のこもった演奏を誰よりも楽しくやり遂げ歌い上げたTo Be Honest。最後まで〈GROWLY〉閉店の話題を出さずに、今の自分たちが鳴らす最高の音楽を届けたコロブチカ。素直な気持ちを認めながらでも踊れることを教えてくれたサリバーン。ライブハウスに大空を創るような壮大な演奏で魅了し、そのカリスマ性で会場の心を一つにしたモラトリアム。戸惑う気持ちに着地点を与え、まずは生きていこうと音楽で背中を押してくれたオートコード。今までに積み上げたバンドとしての実力と、積み上がった〈GROWLY〉への想いの両方をパフォーマンスに詰め込んだ降之鳥。ハイクオリティな胸躍る演奏を見せ、バンドが歩む未来への希望まで感じさせてくれたAkane Streaking Crowd。誠実さを感じるブレのない演奏で、大切な居場所への最大の敬愛を示したサブマリン。そして、最年少ながら貫禄ある迫力満点の演奏で観客のボルテージをMAXにし、10組のトリを務め上げたZOO KEEPER。
この日ステージに立ったGROWLY childrenは、フロアいっぱいの観客を楽しませ、今できる最高の演奏を思い切り披露することで、〈GROWLY〉への最大の感謝を体現していた。「自分たちはこんなに素晴らしい空間を作れるミュージシャンに育った。まだまだ先へ進んでいくから見ていてほしい」と、育てのライブハウスに向かって胸を張るように。
We are GROWLY children.
GROWLY is forever with us.
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2001年梅雨生まれ。音楽の流れる景色を描くようなことばを紡ぎたい。ただいま、京都。
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