INTERVIEW

キツネの嫁入りGt./Vo.マドナシ×音楽ライター岡村詩野に聞く – 京都のインディーシーンがもっと面白くなるには –

MUSIC 2018.01.24 Written By キャシー

“音楽イベントをする”ということに対して、それぞれが思うこと

マドナシ

なるほど。いくら文章力・表現力のあるライターさんやメディアが存在してても、そもそもいい歌や、いい音楽がないと意味ないっすよね。なので、俺、本心は、そういうのってバンドマンがやるものじゃないと思うんですよ。バンドマンって自分のバンドが一番で、音楽作るのが最優先事項であるべきじゃないですか。だから、イベントとかメディアに注力し過ぎると、目的がだんだん歪んでくるんですよね。詩野さんみたいに”バンドをやっていない人”がメディアやイベントをやってくれる機会が増えたらいいなと思います。

詩野

実は私もちょくちょくイベントをやっているんです。今年の9月に磔磔でやったイベントはスカートとサニーデイ・サービスの曽我部くんと台風クラブに出て貰って、その時、そこに来ていたいくつかの大手イベント関係者の方が京都の面白さを感じてくださって私に声を掛けてくれて、「京都で一緒にイベントをやりましょう」っていう話になったんです。

マドナシ

その人たちは、磔磔で詩野さんのイベントを見て何を思ったんですかね?どうしてそれで「京都が面白い」っていう発想に繋がるのかがわからなくて。台風クラブは確かに京都のバンドだけど、他のアーティストも言わば近いカテゴリーのバンドだし、それで「京都が面白い」にはつながらないと思うんですよね。

詩野

だから、そういうことなんですよ。京都でそういうイベントをやっている、という事実には意味があっても、京都らしさは別に要らない。“京都らしさ”とか“京都独自”って打ち出し方にこだわると、「京野菜のおばんざい」を売りにした料理屋みたいに、観光客は行くけど地元の人は行かない店と同じになる。東京でやってるイベントのほとんどは別に“東京らしさ”にこだわってやってるわけではないでしょう?でも、優れたイベントや現場には東京の現在がある。それでいいんです。キュレーションさえしっかりしていれば、おのずと今、京都ではこういう感じです、という気風が出る。そこに東京のバンドが出ても、絶対にそうなる。それが、「京都が面白い」ってことに最終的になっていくんじゃないかなと思いますね。面白いことが起こっている町は面白い、というただそれだけですよ。それをコツコツやってきているのが、これまでの『ボロフェスタ』であり『スキマアワー』じゃないですか。

 

ただ、そのためには、ある程度、行政や企業の協力がないと状況はなかなか変わらないかもしれない。それが今まで京都にはなさすぎた。だからこそ逆にハンドメイドでインディペンデントなイベントが面白がられたっていう良さはあるんだけど、やっぱり経済を回さなきゃだめですよ。ちょっとでもお金を発生させる形にしないと緊張感が生まれない。

──

”文化に対してお金を払う”ってことが忘れられてはいけませんよね。ユーザーもミュージシャンもイベンターもメディアもきちんとした対価を払い、受け取ってこそ、自分たちのバリューをきちんと理解出来るんだと思います。

詩野

マドナシさんは、次のスキマアワーはいつやるんですか?

マドナシ

決まってないですね。俺はバンドマンで、バンドありきの主催イベントなんで、ちょっと優先度が違うんですよね。

詩野

イベントはしばらくお休みだと?

マドナシ

さっき言ってた「バンドがイベント主催を主軸に活動するべきじゃない」って話にも繋がるんですが。この10年間バンドマンがすごく頑張っていいイベントを始めて、何回も継続して開催されるイベントもありました。でも見てきた限りは、地道にいい音楽を追求するより“何かやった感”があるんもんだから、「イベント運営」に必死になっているうちに、気がつけばCDや作品は作ってないし、メンバーは辞めて、サポートだけ。仕事はバイトだし、知らない間に歳食ってる。そしたら、だんだん疲弊してきて音楽自体辞めるパターンが多いんですよ。それって本末転倒じゃないですか。

──

なるほど。

マドナシ

だから「目的意識が不明瞭なまま無理するんならイベントなんかしなくていいんじゃないの」って思ってしまう。キツネの嫁入りは、自分達の納得する音楽を作るってのがはっきりと目的にあります。その次に、それをもっと聞いてもらうため、自分達のモチベーションを維持するためにどうしたらいいか考えて、毎年目標を変えて年間計画をたてて活動している。本来バンドマンは良い音楽を作ることに集中するべきで、選択肢を増やすためのイベントやメディアは、もっとバンドマン以外の人に頑張って貰いたいんですよね。って言うと、他力本願みたいですが。

 

たまにGROWLYとかで個人でイベントを主催してる子たちがいるんですけど、「何でこんなご時世にイベントやったん?」って聞くと、意外とそういう子らは、まっすぐに「このバンドとこのバンドが見たかったんです!」って純粋な動機を返してくれて、そういう子らがもっと増えたらいいなぁと思います。

詩野

それが結局もっとも大きな動機だし最終的にもそこが全てですよね。

マドナシ

私はそもそもが、自分の嗜好としても、規格外の音楽が好きで、そういうバンドが増えたり、そういう音楽をもっと色んな人に知ってもらう事にウエイトを置いているんです。台風クラブさんらがやるのと、Club Metroあたりでポストロックの子らがめっちゃ頑張って東京とか広島、徳島とかからバンドを呼んでイベントしたりしてるのって全然意味合いが違うと思うんですけど、後者の子らが成功するにはどうしたらいいと思いますか?

詩野

なんでもそうですけど、ターゲットを明確にする必要はあるかもしれないですね。どういう人に観てほしいのか、どういう人たちと繋がりたいのか。そこがハッキリあれば、時間がかかっても届くと思いますよ。

──

我々も音楽シーンを伝えるメディアとして、痛切に考えさせられるお話でした。お二人ともありがとうございました。

キツネの嫁入り

 

 

マドナシ、秋窪尚代、鍵澤学、西崎毅、松原明音、猿田健一、佐藤香

 

2006年より活動開始。純粋に自分達の音楽を追求するために日々の時間を削る事をいとわない人と、それを昇華しなるべく多くの人に聞いてもらいたいと思うメンバーにより構成された音楽集団。gyuune casetteより1st Album「いつも通りの世界の終わり」。2ndAlbum「俯瞰せよ、月曜日」、P-VINE RECORDSより3rdAlbum「死にたくない」、2016年に活動10周年を記念して会場限定シングルをリリース。プログレ・ジャズ・ロック・フォーク・パンク、ごちゃ混ぜになった音塊は、変拍子を基軸に、文字通りジャンルを超え幾層にもなって複雑な世界を構築する。その上に朗々と置かれる言葉の数々は、毎日のふとした瞬間に、突き刺さる、気づかされる歌。その音楽性に加え、主催イベント「スキマ産業/スキマアワー」では、廃校・ライブハウスなどで、UA、ジム・オルーク、THA BLUE HERB、山本精一、大友良英、向井秀徳、トクマルシューゴ、高野寛、二階堂和美、キセル、石橋英子、タテタカコ、predawn、テニスコーツ、コトリンゴ、MUSIC FROM THE MARSといった多種多様なアーティストを招聘し“独自”な活動を続けている。2017年9月、前作から4年ぶり、待望の4thAlbum「ある日気がつく、同じ顔の奴ら」をP-VINE RECORDSよりリリース。レコ発ツアーにて東京・青山月見ル君想フ、京都・木屋町UrBANGUILDではワンマンショウ、梅田シャングリラではdownyと2マンなど盛況に終える。2018年、新たに新メンバービブラフォン奏者佐藤香を迎えて新たなフェーズへ突入。

岡村詩野

 

東京生まれ京都育ちの音楽評論家。

京都精華大学ポピュラーカルチャー学部非常勤講師。FM京都(α-STATION)『Imaginary Line』(日曜21時)パーソナリティ。『ミュージック・マガジン』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』『The Sign Magazine』『CDジャーナル』など多数のメディアで執筆中。昨年ウェブメディア『TURN』( turntokyo.com )をスタートさせた。Helga Press名義でイベント企画をしている他、2016年には京都の若手音楽家を集めたコンピレーションCDもリリース。

音楽ライター講座を東京(オトトイの学校)で定期的に、京都でも不定期に開催している(次は大幅に展開を変えて今春開催予定)。

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