このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューのひとつです。
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あの頃からの手紙
ナードマグネットは、2017年にはゴーイング・アンダー・グラウンドを呼んで〈渡り廊下で先輩殴るツーマン〉を開催しているし、アルバム『MISS YOU』ではゴーイングの代表曲のひとつ、「グラフィティー」をカバーしている。だがその背後で両者を結び付けているのは、Weezerをはじめとする音楽的ルーツ、そしてキャッチーなメロをもつゼロ年代Jロックという豊かな土壌である。この土壌とは、言い換えると、『かよわきエナジー』(2001年)、『ホーム』(2002年)、『ハートビート』(2003年)の3作が属する、ゴーイング・アンダー・グラウンドの初期黄金期でもある。
今回のアルバムでゴーイング・アンダー・グラウンドはまさにこのゼロ年代を再解釈している。ラップ調の部分や曲の展開にはもちろん目を見張る新しさもあるが、端々ににじみ出ているのは“あの頃”への強烈なノスタルジーである。両A面シングルで先行発売されていた2曲目のアンセム、「よそもの」では「叶わなかった旅の計画を思い出して窓を見てたふたり」が描かれるし、3曲目「夏が僕らに嫉妬する」ではより直接的に、「連れていってくれよあの夏へ」と切実な思いが聞こえる。そこに垣間見えるのはかつてと同じ、センチメンタルで期待を裏切らない今回のアルバムでそのものの姿だ。だが、それはあたらしい日々へと自分の背中を押すための追憶でもある。2015年の河野丈洋(Dr)脱退を経て、CDデビュー20周年を迎えたいまも、「もう一度デビューした感じ」[1]だと言える彼らはいつも前を向いている。彼らにデッドエンドなんてないのだ。
[1]http://www.billboard-japan.com/special/detail/2285
第二回【3×3 DISCS】:ナードマグネット『MISS YOU』を中心とした9枚のアルバム
選定:ki-ft・アンテナ
WRITER
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神戸の片隅で育った根暗な文学青年が、大学を期に京都に出奔。
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