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【川端安里人のシネマジプシー】vol.5 最後のサムライ ザ・チャレンジ

アメリカ映画の中の京都-『最後のサムライ ザ・チャレンジ』

映画のことを書き始める前にですね、ちょっと画面の上の方を見て下さい。「京都のカル チャーを発信するウェブマガジン」って書いてありますよね。で、今まで自分が紹介して きた映画は全く京都に関係のない映画ばっかりだったので、今回はちょっと京都が舞台の映画、それも『祇園の姉妹』や『炎上』、『狂った野獣』みたいな名作日本映画ではなく、 ちょっとツイストを利かして海外から見た京都が舞台の『最後のサムライ ザ・チャレン ジ』という映画を紹介しようと思います。

この『最後のサムライ ザ・チャレンジ』、当時劇場未公開でビデオスルーされただけでなく、今現在 Blu-ray はおろか DVD すら発売されていない作品でして、見るには中古 VHS を探し出すかここ (http://www.fantasium.com/detail.phtml?ID=ACT116413) とかで輸入 盤を買うしか見る方法がない映画です (まぁ、なんとか tube で原題を入れて検索したら 見れるかもしれませんが) 。でもただの B 級映画と決めつけないでください。この映画の監督ジョン・フランケインハイマーは傑作『ブラック・サンデー』や『フレンチ・コネク ション 2』を監督したモダンアクション映画のパイオニア的存在で、しかもソ連崩壊後の 行き場をなくしたスパイたちを RONIN と名付ける映画を撮ったり、『グラン・プリ』というカーレース映画で三船敏郎を主要キャラに起用して国際俳優にした人なんです。そんなフランケンハイマーの日本愛が炸裂したのがこの『最後のサムライ ザ・チャレンジ』なんです。

『ライトスタッフ』とか『バックドラフト』とか『羊たちの沈黙』とかで渋い脇役をよくやっているスコット・グレンという俳優さんご存知ですか? 自分にとっては中学の時にレンタルビデオで観たこの『最後のサムライ ザ・チャレンジ』の三船敏郎から鍛えられるという主人公役で強烈に印象に残っている俳優さんです。 今 Netflix 限定で『デアデビル』というアメコミのドラマシリーズが見れるんですが、そこにデアデビルの師匠役で出演されていて、『あぁこの人も師匠役を演じるような歳なん だなぁ』とちょっとしみじみした思いになった結果、京都に関する映画でこんなマイナー でそれも決して評価が高いわけでもない怪作を紹介しようと思い立ったわけです。

 

それで、この『最後のサムライ ザ・チャレンジ』はいわゆるジャンル映画なので、LA に 住む貧乏ボクサーのリックが刀を日本に運ぶという怪しい仕事に手を出した結果、名刀を巡る兄弟の抗争に巻き込まれるというあらすじ自体はどうでもよくて、それよりもロケ場 所やスタッフ・キャスト、そしてディテールを見て欲しいんですね。

 

例えば、主人公の師匠役に三船敏郎、その門下には宮口精二や稲葉義男といった『七人の侍』キャスト陣を集め、殺陣師には『用心棒』や『椿三十郎』の名殺陣師、久世竜を配し (この時点でもう黒澤明リスペクト感満載な面子なんですが) 敵役には中村敦夫 (『木枯し紋次郎』と言っても自分の同世代でもピンとこないかもしれませんが……) 、さらに当時映画界ではまだ無名だった (十三で道場を開いていた頃の) スティーブン・セガールが 武術コーディネートとして参加してます。 つまり、この時点でアクションのクオリティーは約束されているようなもので、実際終盤 での対決シーンでは三船敏郎のシーンでは正当な剣劇を、スコット・グレンのシーンでは地の利やホッチキスを使ったいかにもアメリカ的と言える現代におけるチャンバラを見せてくれます。

ここで一旦この話は置いておいて、次にロケ地の話に移りましょう。この映画、アメリカ映画なのに映画の95%くらいを京都ロケで撮っています。フランケンハイマーという監督は先出した『フレンチコネクション 2』ではアメリカ映画なのに全編フランスでロケを行い主役のジーン・ハックマン以外全員ヨーロッパの俳優を使って作品を仕上げたような 人なので、海外ロケの融通には慣れていたのかロケには厳しいことで有名な京都で大規模 な撮影が行われています。映画内でいうと開始10分以降ずっと京都が舞台です。伊丹空 港到着早々に主人公のリックは敵サイドに拉致されるんですが、その後川端通りぞいを走るバンの中で恐喝されながらたどり着いた敵のアジトは宝ヶ池にある京都国際会議場というハリウッド 映画とは思えないローカル具合でして、地上駅時代の三条京阪駅前での会話シーンなどではおそらくある程度の世代より上の人には懐かしい京都の姿が収められているはずです。

さて、海外が撮った日本というとなんだか怪しい JAPAN 描写がふんだんにあるんじゃない かと危惧する人がいるかもしれませんね。実際監督が時代的に間違ってるのはわかってい るけどどうしても撮りたいという理由で忍者が出てくる『ラストサムライ』くらいならわかりますが、現代日本の新幹線内で忍者が乗客を虐殺して回るというシーンだけが伝説になっている『ハンテッド』という怪作 (トミー・リー・ジョーンズ主演のやつとは別) や、頭に闘魂ハチマキで黒い羽織を着たドルフ・ラングレンがマシンガンで大暴れする『リトルトーキョー殺人課』という珍作などいろいろあります。

 

『最後のサムライ ザ・チャレンジ』でも敵のアジト (京都国際会議場) には堂々とマシンガンを持った警備員がいたり、中村敦夫氏の自伝によると嫌気がさして帰ろうとした三 船敏郎を中村敦夫が「これはコメディなんだから」と説得した話が書いてあったりします。 それでも自分はこの映画が日本を馬鹿にしてるとか、馬鹿みたいな映画とはどうしても思えないんですね。むしろ純朴なまでに日本映画や侍文化、日本の風景への憧れのようなものを感じるんです。

確かに生きたドジョウを酒に入れて丸呑みするシーンがあったりはしますよ、でもそのシーンではこれは珍味だからと説明されるし、その次のカットではどぜう鍋が出てくるので違和感がないようになっています。敵が銃を持っているのだってジャンル映画として成立 させるための必要な嘘だと思うんですよね。実際、監督のフランケンハイマーは日本にロケで来た時にわざわざジョン・セイルズ (傑作『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』の監督/脚本が有名) を日本に呼んで文化的に間違っているところなどを手直しさせたそうです。それよりももっと地元 LA で少年のゴミ出しを手伝ったリックが少年から『生きるには忍耐がいるんだよ』と聞いていたのを修行で心折れそうな日本の少年に同じ言葉で励ますといったさりげない伏線回収描写や、車椅子の中に分解した刀の刀身を隠すといったジャンル映画的なお約束を丁寧な描写で守りつつもフレッシュなアイデアに満ちた演出とかを見て欲しいです。

どうでしょう?先に書いたようにロケ場所やスタッフ・キャスト、そしてディテールに目を向けるとタイトルやポスターから想像される怪しい雰囲気とは裏腹に意外とまともな映画だというのが伝わっていると嬉しいんですが……。 近年渡辺謙を始めとした日本人俳優がハリウッド映画に進出したり、中国映画とハリウッ ドが製作面で接近したりしている中、国内だけで採算がとれるようなコンテンツ (TV ド ラマの劇場版なんかがいい例ですね) を乱立させてガラパゴス化が進んでいる日本映画で すが、『最後のサムライ ザ・チャレンジ』の逆パターンで主役級の役で海外の俳優を呼んできて映画を作るというのもガラパゴス化を止める手段の一つじゃないかと思うんですが どうですかね?

 

ちなみに、簡単に DVD で見れて日本映画愛に満ちている京都ロケもしている映画として 『ザ・ヤクザ』というロバート・ミッチャム&高倉健主演の映画もオススメです。ごりごりの日本映画愛好家として知られるポール・シュレイダー(『タクシー・ドライバー』脚本)が脚本を手がけた一本で、京都国際会議場が出てきたり岡崎宏三が撮影をしていたりとこの映画と共通点があるので面白いですよ。

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