INTERVIEW

『4WD』発売企画 フラットライナーズ石川 / bed山口対談【前編】

MUSIC 2016.11.28 Written By 山田 和季

名古屋のフラットライナーズが2016.11.30に、前作から4年ぶりとなる2ndアルバムとなる『4WD』を発売する。それに伴いアンテナではBa./Vo.石川の希望で、京都を代表するロックバンドbedのGt./Vo.山口との対談を行った。

 

当日は京都の居酒屋でお酒を飲みながらざっくばらんに対談を決行。話はアルバム”4WD”のことだけに留まらず、楽曲の制作からバンドとしてのあり方にまで及んだ。活動歴も10年を超え、ますます円熟味が増してきた両バンド。2人の生き方には、これから音楽とどう向き合うか悩んでいる人たちへのヒントがあるかもしれません。

フラットライナーズ

 

 

2001年頃東京で結成、メンバーチェンジを経て2006年に現在の石川俊樹 (Ba/Vo)、佐藤誠司 (Gt) 、井上雄介 (Gt)、磯たか子 (Dr) に固まる。

メンバーそれぞれ音楽的趣向は微妙に違うが、全員ピクシーズやペイヴメントに代表されるUSインディーロックを愛するところで団結。コードオンリーのベースと控えたドラムのリズム隊に乗っかるツインリードの分厚いギターアンサンブルが特徴。

石川と佐藤は元浦沢直樹氏のアシスタント。井上はtoddleの小林愛さんとswarms armで活動していた。磯は自分のメインバンドsweetsunshineでも活動、シティポップ、AORがメインで本職は鍵盤である。

2008年石川と磯が名古屋へ引っ越し、東京と東海圏でマイペースに活動する事となる。2012年YOUTHレーベルから1stアルバム「不運な人」を発売。エンジニアは柏井日向氏。その後も主に東京、名古屋、京都で地道なライブ活動を続けて2016年11月30日POWER EREPHANT !レーベルよりエンジニアに岩谷啓士郎氏を迎え2stアルバム「4WD」を発売するに至る。

 

公式サイト:https://flattliners.jimdofree.com/

bed

 

 

2005年夏、京都にて結成。以来着実かつ地道な活動を続ける。

これまでに4枚のアルバム、2枚のEPを発表。多数のコンピレーションに参加。

京都での自主企画や、全国各地へのツアーなどライブを活動の軸にしながら、コンスタントなリリースを重ね、時に「京都の雄」、「京都の至宝」などと呼ばれることに多少のこそばゆさを覚えながらも、世代を越えた支持を受け続けている。

2本のギターが織り成すアンサンブルと、シンプルな日本語によるメロディー、ハンマービートとうねるベースによって紡がれる特異な音像はますます磨きをかけ、やるせなさと力強さの同居する音世界が時に熱狂を生み、じわりじわりとその音の虜となる者を増やしながら活動中。

 

公式サイト:http://bedfromkyoto.sub.jp/official/

フラットライナーズとbed、共通する「裸の不器用さ」

──

今回、石川さんにリリースにあたって誰と対談してみたいかを尋ねたら「bedの山口さんがよい」と即座にご指名をいただきました。bedとフラットライナーズが今まで接点がないのは意外だったんですが、面と向かってお話されるのは初めてなんですよね?

山口(bed Gt/Vo)(以下、山口)

そうですね。もちろん存じ上げていて、共通の知り合いだとか繋がるものはたくさんあったと思うんですけど。

──

お互いようやく繋がったんですね!個人的にはbedとフラットライナーズは共通する点も多いんじゃないかと思っていて。例えば、前に山口さんにインタビューさせていただいた際に「パーソナルな部分を歌詞に落とし込んでる」って仰ってましたよね。そういうある種の「不器用さ」が表れているのはフラットライナーズもbedも共通する所だと感じています。

山口

なるほど。フラットライナーズの「不器用さ」ってどんなものですか?

──

すごく失礼な話なんですけど、ライブは決してうまくない。でもこの人たちの不器用な生き方がこんなに歌と曲に出るのかって、初めて聞いたときは衝撃だったんです。普通は自分のださい部分を隠したり取り繕おうと必死になるのに、フラットライナーズはそうじゃない。そこが本当に好きですね。

石川(フラットライナーズ Ba/Vo)(以下、石川)

もしかして……山口さん、うちの音源聞いていただいてますか?

山口

もちろんです!11月リリースの新譜、聞かせていただきました。

石川

どういう印象でした?

山口

RECのサウンド感がめちゃめちゃいいなと思いました。あとはさっきも言っていたような不器用さ・剥き出し感っていうのが伝わってくるから、耳に入ってくる歌を聞いて「この人は一体なんでこんなことを歌ってるんだろうな」って背景をすごく考えちゃうんですよね。それがとても「バンド」っぽいですね。サウンドとしてはバキッとした良い音が鳴っているんだけど、その中で何か程良い違和感があるというか。それが癖になるところはあります。

石川

ありがとうございます!それにしても新譜は本当に歌詞ができなくて、結構苦労したんですよ。前の音源とかは僕が東京にいる時に作った曲が主なんですけど、その時すっごく貧乏で。だからこそボンボン曲書ける、みたいなのあるじゃないですか。

──

そういったハングリー精神や負の感情をエネルギーに歌詞を作っていたんですか?

石川

日記みたいな気分なんだよね。「もうツラい……」みたいなのをつらつら書いていく。でも東京から名古屋に来てからはある程度気持ちが安定してきて、そしたら本当に歌詞書けなくなっちゃった。僕は学校で働いているんですけど、マンガを勉強している生徒と話をすることが多くて、まさにツラい相談とかも聞くんですよ。なので11月リリース予定の新譜は「自分に向けて」というよりは生徒たちみたいな悩める人々に向けてっていうところはあるかも。

山口

聞いていて「君」っていうフレーズがやけに耳に入ってくるなって思ってたんですよ。そうゆうことだったんですね。

石川

そうですね。今までは自分のことを歌うことが多かったんですけど。

山口

bedは「君」の歌がないんですよね。基本的に「僕」「僕等」の歌ばっかり。歌詞の目線が他人に向かないで、内省的な自分たちを歌うことが多い。

石川

僕も前はそうだったんですけどね。おっさんになったのかも。上からモノ言っちゃう的なね。

フラットライナーズ 石川(Ba/Vo)
──

石川さん自身はなぜ第三者に向けて歌うことに対して「上から言ってるみたいで嫌だな」とか思ったりするんでしょうか?

石川

ちょっと違和感はあるよね。学校で若い生徒たちと関わることが多いので「この子の人生を背負っている」っていう気持ちが生まれてきちゃうんです。「僕、才能無いんです。」って相談されても「そんなことないよ!お前だって頑張れば!」って言えばいいんですけど、それは嘘になる場合もある訳じゃないですか。反面「確かに才能は無いかもしれないよ。でもな……」って言ってやるやり方もある訳で、そういう気持ちに日々揉まれているととてつもなくやり切れない気持ちになる時があります。しかし、そういう時の方が歌詞がするするっと書けるんです……。

──

歌詞を書く人って自分目線で自分のことを書くタイプと、第三者の目線で見たものを書くタイプの人がいますよね。

山口

いますね。他人の視点でものごとを書けるタイプの人はすごいなって思います。

石川

山口さんは自分のことを書くタイプですよね。

山口

そうですね。僕も次こそは違うやり方にトライしてみようとは思うんですけど。それこそ歌詞ありきで曲を書いてみるとかやってみたいですね……。模索はしているんですけど、一人で全部曲を作っている訳ではないのでなかなか難しいです。

──

歌詞を書くときは自分の中の出来事、例えば嫌なことだったり幸せなことだったりそういった要素から生まれることが多いんですか?

山口

いや、そういった長い線状の要素ではなくてもっともっと点状の要素から書くことが多いですね。例えば本当に「歌詞書くぞ」ってなったその瞬間に何を考えているか、みたいな。そこからブワーっと広げていくことが多いですね。僕の場合はいち情景から広げていくことが多いです。例えば京都駅の改札を抜ける瞬間のイメージとか、その一瞬を5分の曲に引きのばす感覚です。

石川

へえー!

山口

その一瞬に感じたことを言葉を尽くして曲にすることが多い。「何かを感じた瞬間」っていうのがとても大事ですね。それが嬉しさの一瞬なのか、やるせなさの一瞬なのかはよりけりですけど。

自分の「生活」と「社会」と「音楽」、それぞれがもたらす影響とは

──

石川さんは1stの音源は日記みたいな気持ちで曲を書いていたと仰っていましたけど、どういった内容だったか改めてお聞きしてもいいですか?

石川

本当に日記というか、あれ全部実話だから。まじで家賃も払えなかったし。”トゥルーラブストーリー”(1stアルバム『不運な人』収録)だって当時やってたギャルゲーのタイトルだからね (笑)。あのときに比べたら最近の自分の作る歌はちょっとだけ社会性を帯びてきたかなぁ。昔は歌詞とかに社会性を持たせるのが嫌だなって気持ちがあったんですよ。

──

それはなぜですか?

石川

うーん、やっぱそういうのって外に出してしまうと「オピニオン」として他人から見られちゃうじゃないですか。そうじゃなくってもっと個人的というか、自分に一番近いところだけで歌いたい気持ちがあった。3.11とか原発とか、いろいろあるじゃないですか。そういうのにも極力関与しないようにっていう気持ちもありましたね。

──

それはあくまで石川さんの「制作」がそこに介入しないようにってことですよね。

石川

そうそう。そういうことを考えちゃったときの自分の無力感っていうのがすごくて、できるだけ考えたくないっていうのはあったかな。でも、僕の奥さん(※フラットライナーズ / Dr 磯たか子)って僕と真逆でそういうのをガンガン話題に出していくタイプなんですよ。女性ってすごいよね、社会的な問題にも変なバイアスがかかってなくてストレートに言えるんだよ。まあそういう奥さんと一緒にいるから、今まで遠くにいた社会的な話題が自分に近づいてきたような気がします。

──

奥さんの影響が大きいんですね。

石川

大きいですね。奥さんが全く気にせず社会的な話題に触れているのを見ると、うまく言えないんですけど……やっぱり羨ましいなって思っちゃいます。そういうのありません?

山口

ありますね。特にここ5年くらいって社会的にならざるを得ない風潮とか状況が少なからずあったと思うんです。友達と話していてもそういう話題が出てきたり。僕はどうしてもそこで一歩引こうとしてしまうというか、中庸であろうとしてしまう人間だったんです。でもそういう中で思ったことを切り込んでいくのって今や当たり前というか、何も恥ずかしいことではないんですよね。「社会性を帯びていくことは当たり前でしょ」っていう周りの空気を目の当たりにしたときにハッとするものがあって、それからは社会的な話をする機会も増えてきました。まぁ家とかでは普段そんな話しないですけどね。

──

今後楽曲にもそういった影響が出てくる可能性はあるかもしれないですね。

山口

でもそこは切り離していたいって気持ちはありますね。そもそも僕たちって社会人として生きているわけで、その時点で社会性っていうものは帯びざるを得ないんですよ。日々生活のことや、自分が暮らしていく国のことを考えるのは当たり前。だから殊更にそういうことは歌わなくてもいいんじゃないかと。純粋に自分が思ったこと、考えていることを歌った結果、その言葉がたまたま社会性とか政治性みたいなものを獲得してみんなに伝わることだってあるかもしれないし。それを否定する気は全くないので、そういうスタンスですよね。

石川

すごくよく分かります。僕の歌のテーマのひとつに「家賃」っていうのがあって、家賃の歌がめっちゃ多いんですよ。家賃って日々払わなければいけないもので、その延長上にはまさに「社会」が存在している訳です。東京に居た時は本当に家賃が高くて「なんだよ!」って思うこともあったんですけど、そこから社会と細く細く繋がって曲になっていたんだなって思うところはあります。日々流れてくるニュースや政治に対してどう思うかみたいな難しいことよりも、家賃を払うその瞬間にこそ社会性が宿っていた。

──

その感じ非常にアーティスト然としていますよね。石川さん、バンドは今回リリースがされるわけですが最近はマンガは描いてないんですか?

石川

描きたい気持ちはあるんですけど、なかなか忙しくて。

──

マンガも音楽も、制作する人間としてバランスが難しいところですね。

石川

僕、知り合いに「石川さんのマンガより全然音楽の方がいいっすね!」って言われたことがあって。当時はマジでマンガで食っていこうと思ってたからすごいショックで。言い方は悪いけどあくまでバンドは息抜きっていう考えだったし。だったら「良いね」って言ってくれる方に比重を置いてやればいいんだろうけど……無理じゃんそんなの!気を抜いてるからバンドはそれなりに上手くいっているのであって、本気でやっちゃうと話が違う。だから「これを本気でやるんだ!」って言って、それでちゃんと狙って当てるっていうのはすごいことだなぁと思う。世の中のプロフェッショナルって大体そうでしょ。

──

山口さんは結構狙って当てているんじゃないんですか?イベントとかも全部自分たちで決めてらっしゃいますし。

山口

そうかもしれないですね。

石川

やっぱり。だから僕はプロフェッショナルだとかミュージシャンっていう人たちをすごくリスペクトしているし、自分はやっぱりそういうタイプじゃないんだなって思いますね。

後編はこちら

“4WD”発売企画 フラットライナーズ石川 / bed山口対談 -後編-

4WD

 

 

2012年の1st「不運な人」から4年ぶりの2stアルバム。前回のUSパワーポップ的サウンドから今回エンジニアにLOSTAGEの録音等で活躍中の岩谷啓士郎氏を迎え、よりPOPで繊細さも垣間見せる親しみやすいサウンドへ進化を見せる。

PavmentやPixiesはもとより、The Breeders、Guided By Voices、Superchunk、Buit To SpillからMac DemarcoやUnknown Mortal Orchestraといったインディーロックに影響を受けつつ、邦楽ロックでもTheピーズ、ナンバーガールはもとよりmoools、toddle、CARD、キツネの嫁入り、bed、メシアと人人などといったバンドにシンパシーを感じている。

身の回りの感情を脱力と逆ギレを繰り返しつつ綴る石川の日本語歌詞10曲。前回「不運な人」のジャケイラストが佐藤だったのに対し、今回磯の愛車「ジムニー」をモチーフにしたイラストは石川が担当。豪華12Pのブックレット付き。デザインワークはSuchmos、キセルなどを手がけたステンスキが担当した。

 

 

2016年11月30日 (水) 発売

POWER ELEPHANT ! POW-13

¥1800+税

 

『4WD』

  1. 4WD
  2. 君は悪くない
  3. 都落ち
  4. ホライズン
  5. ただの星屑
  6. おかいもの
  7. スプリングソング
  8. ボーイズ&ガールズ世界大会
  9. 思い出
  10. ワイルドライフ

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