REVIEW
Kind of Blue
イツキライカ
MUSIC 2016.11.01 Written By 山田 和季

「京都の至宝」なんてそんな言葉は、これまで幾度彼のことを形容してきたのだろう。また、彼は幾度その形容詞を体現してきたのだろうか。スーパーノアのフロントマンとしても活動を続ける井戸健人のソロプロジェクト、イツキライカ。ついに1st full albumが11月2日にリリースされる。イツキライカ名義では4年ぶりのリリースとなる今作、参加ミュージシャンのラインナップにも要注目だ。京都の音楽シーンを生活音として過ごしてきた方なら、きっと親しみと愛着を持てる作り手たちが集結しているだろう。参加アーティストの詳細については下方記載のリリース情報にて。

 

全11曲だが、2~3分のコンパクトな曲が多く、それゆえに1曲1曲がパラパラとめくられていく童話のように思わせてくれる。M1”おきざりの庭で”は軽快に鳴るグロッケンやホーンに目覚めさせられて、M2”Kind of Lou”でのんびりとしたリズムで水たまりを避けながら外に出て、M3”こどもたち”の70’sブリティッシュ感のあるメロディとコーラスで、懐かしいような都会的なような空気を感じて……という完全に聴き手のストーリーを巡らせたくなるような要素ばかり。ひとつひとつのサウンドがすっと入ってきて、それが風の音に聞こえたり足音に聞こえたり。

 

そもそも一体、私たちは何を以って音楽を「ポップサウンド」だと感じるのか。ひとつはどれだけ多くの他人の心にシンクロできる普遍性を孕んでいるかで、それはみんながみんな、同じ気持ちになれるということ。もうひとつは聴き手のそれぞれにフィットできる多様性をどれだけ孕んでいるかで、つまり同じものを聞いても、人によってそれぞれ違ったどツボにハマってしまうということ。そうだとすると、イツキライカは間違いなく多様性のポップの使い手である。「誰が聞いても分かりやすい(見えるものが同じ)」のもひとつのポップネスなのだが、井戸が生み出しているものは「誰が聞いても何かが見える(ただ見えるものは個人によって違う)」というポップネスで、それはなんと尊いことだろうか。

 

今作はそんな「ポップの多様性」の素晴らしさを存分に感じることができる1枚だ。 そういったポップサウンドの裏で、ちょっとした諦めや、もの寂しさも多く歌われているのも印象的だ。そのギャップがまた聴き手にとって「ちいさな幸せ」と「少しの悲しみ」の隙間を曖昧にさせていて、どちらにも心を囚われてしまう。どちらに転んでも音楽が与えてくれる至上の喜びに辿りつけるのだから、まるで魔法のようである。イツキライカのポップサウンドが「ぬるい温かさ」だとすると、井戸の歌う歌詞は「冷めてしまった温かさ」。その温度の狭間に気づいてしまうと胸がむずがゆくなったりもする。M10” (sweet) here after”で是非是非そんな温度に気づいてしまってほしい。

 

聴き手によってイツキライカのポップネスは悲しみにも見えるかもしれないし、幸福にも見えるかもしれない。優しさかも、厳しさかも、寂しさかも。もちろんそれは聞く人によって異なるし、あなたの心の在り所が変わってしまったときや、求めるものが変わってしまったときによっても異なるものが見えてくるだろう。ひとつの音源から無限の感情を呼び起こすことができるなんて、リスナーにとってもアーティストにとってもこれこそがまさに「音楽の醍醐味」であろう。ひねくれているようだが、イツキライカの持つ「多様性」こそが人間にとって王道のポップネスなのかもしれない。そんな風に感じさせる懐の深い1枚である。

 

『Kind of Blue』リリースに際して、下記ライブが決定している。11月5日の京都公演では9人編成でのイツキライカ+スーパーノアを迎えての2部制ということで、どっぷりと井戸健人のサウンドに浸かるにはこれ以上はないシチュエーションでしょ。

『Kind of Blue』

 

スーパーノアのGt / Vo としても活動する井戸健人によるソロ・ユニット、4年ぶりのリリースであり、初のフル・アルバム。ソロ活動開始まもない2011年末にはCOUNTDOWN JAPANに出演。2012年にミニ・アルバム『ピンホール透過光』でデビュー。それから4年、バンドでもソロでもマイペースにライヴを繰り返しつつ、関西の仲間たちとじっくり練り上げた本作は、The Magnetic Fields『69 Love Songs』、Devendra Banhart『Cripple Crow』、Belle and Sebastian『Tigermilk』、kings of convenience『Quiet Is the New Loud』等に影響を受けつつ、良い旋律を作ること、そして日本語で歌うことにこだわったという、まさにポップ・マエストロの面目躍如たる、まばゆいばかりのポップネスに溢れた傑作アルバムに。さらりと軽やかに深淵にタッチするかのような普遍性をもったポップ・ソング11編による物語。アートワークは、シャムキャッツ、Homecomings 、秦基博などでおなじみのサヌキナオヤによる描き下ろし。

 

01. おきざりの庭で
02. Kind of Lou
03. こどもたち
04. 早春散歩
05. ときが滲む朝に
06. 白線の内側から
07. 高い窓
08. フィルムのすきま
09. ノーカントリー
10. (sweet) here after
11. まだ手探りを

 

●ハイレゾ・ファイル (24bit/96kHz) のDLコード封入
Release ‘16,11,02 Format ALBUM Price 2,000円 (税抜)
and records

 

【参加ミュージシャン】

石渡新平 (LLama) drums / percussion
岡村寛子 (ときめき☆ジャンボジャンボ / スーパーノア) piano / melodion / chorus
甲田徹 (白黒ミドリ) electric bass / handclap / recording / mix
Dino Markouizos (Baa Baa Blacksheeps) electric bass
日下部 裕一 (4 bonjour’s parties / LLama) cornet
福島明彦 electric Mandolin
今村達紀 tuba
土龍 (livehouse nano / ボロフェスタ) alto saxophone
大村みさこ chorus
間瀬聡 (サルバ通り) chorus
ノリナオ (白黒ミドリ) chorus
山口実紗 (ANATAKIKOU) chorus
 

イツキライカ

  

関西在住のシンガー・ソングライター。2004 年に結成された京都のバンド、スーパーノアのGt / Voとして、現在も活動を続ける。2011 年ロッキング・オン社が主催するコンテストRO69JACK に、優勝者に渡される制作費100 万目当てに始めたばかりのソロ・ユニット、イツキライカとして応募。見事優勝し、同社が主催するフェスティヴァルCOUNTDOWN JAPANに出演。2012年同社主宰のレーベルJACKMAN RECORDSより、1stミニ・アルバム『ピンホール透過光』にてデビュ ー。以後、関西を中心に、弾き語りやバンド・セットでライヴを行っている。スウェーデンの天才ポップ職人MARCHING BAND の初来日ツアーの京都公演、ROTH BART BARON のサポート・アクトも務める。2016 年には MARCHING BAND の再来日ツアーにおいて、名古屋、大阪、東京 (東京のみデュオ編成。あとはバンド・セット) 3カ所でサポートを務める。

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