INTERVIEW

Live House nano

MUSIC 2016.12.23 Written By 山田 和季

京都市内には所せましと沢山のライブハウスが存在しています。その中でも異色の存在であるのがここLive House nano。キャパは約80人、大所帯のバンドや機材の多いバンドではステージに乗り切らないのでは……?と心配になるぐらいこじんまりとしたライブハウスです。しかし、これまでにもクリープハイプ・SEBASTIAN X・オワリカラなど名だたるアーティストたちがnanoをフェイバリットな場所として公言しており、京都内外問わず多くのアーティストにとって特別なライブハウスとなっています。

 

アーティストにとって愛される場所であることはもちろん、お客さんにとっても居心地の良い場所です。フロアを完全分煙にしたり、入口からステージまでフラットにすることでバリアフリー化もなされているなど、ライブハウスらしからぬ配慮が随所に見られます。なにより居心地を良くしているのは、出演者・お客さん関わらずニコニコ気さくに声をかけてくれるオーナーまぁこさんの存在でしょう。

 

nanoはオープンから13年間ずっと、オーナーのまぁこさんと店長の土龍さんが二人三脚で運営してきました。人の入れ替わりが流動的なライブハウスという現場で、長年かけて作り上げたステージはもはや二人の歴史とも言えるはず。だからこそ、愛を寄せるアーティスト・お客さんがたくさんいるのです。nanoに行くなら、音楽への愛に溢れた夜が約束されています。

Live House nano

住所

〒604-0041

京都市中京区押小路通西洞院東入ル二条西洞院町632-3

定休日

不定休

営業時間

イベントによる

電話番号

 075-254-1930

HP

http://livehouse-nano.com/

土龍編

「好きにやっていいよ」って、まぁこおばちゃんは全部預けてくれた

――

まずはじめにnanoを始めた経緯を教えていただいてもよろしいでしょうか?

土龍

まぁこおばちゃんに誘われて。当時大学8年生で焼き鳥屋でほぼフルで働いていて、そのまま焼き鳥屋の社員になるのも悪くないなと漠然と思っていたりしたときだね。でもバンドもやってたしボロフェスタにも携わっていたから、焼き鳥屋の店長には「お前はやりたいことが他にあるんちゃう?」って言われていた。そんなタイミングで、知り合いだったまぁこおばちゃんが「ライブハウス作るねん。11月にオープンやねん。工事ほぼ終わってんねん」みたいな話を持ちかけてくれて、二つ返事でやるよって答えた。できることなら音楽に携わって生きていきたいなって思ってはいたけども、なんとなく自分がミュージシャンになって食っていくぞ!っていうビジョンは持っていなかったしね。

――

それは何故ですか?

土龍

裏方の味を知ってしまっていたからかな。ボロフェスタ以外にもイベントのMCとかしていたし、「もしかしたら出演するよりも目立てるんじゃないの?」ってちょっと思ってた。だからまぁこおばちゃんからnanoの話が出た時も「え?!ライブハウス仕切れるの?!」って追い風が吹いてるなって思った。それで焼き鳥屋の店長に「就職決まりました」つって (笑) 。そこから焼き鳥屋の引き継ぎとか諸々を終わらせて 2004年3月からnanoの店長に就任しました。当たり前のことなんだけどちゃんと「いろいろ引き継ぎとかあるので3月まで待ってください。」って俺がお願いしたのを聞いて、「ちゃんと自分の仕事に責任もって取り組んでくれる人なんやな」ってまあこおばちゃんに信頼して貰えたみたい。

――

もともと2003年11月オープン予定だったのを、土龍さんを待って2004年3月にオープンをずらしたということですか。

土龍

いやいや、それがまぁこおばちゃん11月にオープンしてんねん! (笑)

――

ええ?!その間どうやってお店を回していたんですか?(笑)

土龍

俺も焼き鳥屋が休みの日にちょくちょく手伝ったり、知り合いのバンドに声かけて出演してもらってたりプレオープン的な手伝いはしていたんだけど。そもそもまぁこおばちゃんは「どうやらPAって人が必要らしいねぇ」ぐらいのレベルやったからね、最初どうやってたんだろう……。

――

まぁこさんはどういった形でボロフェスタに携わっていたんでしょうか?

土龍

まぁこおばちゃんは加藤さん (ロボピッチャー / SCRAP代表 / ボロフェスタ立ち上げメンバー) の叔母さんなんだよ。もともとお祭りごとが好きな人だったんだけど、ボロフェスタやるぞ!ってなったときに加藤さんから「うちの親戚にうってつけの人がおるぞ」という話になりまして。それで屋台をまぁこおばちゃんに出してもらって、そのときのフードまわりの担当が俺だった訳。それで連絡を取り合うように。

――

土龍さんの現在のnanoでの肩書は「店長」という立場になるんでしょうか。

土龍

書類上ではそうだね。でも一回何の気なしに「俺は雇われ店長やからな~」って言ったら「そんなつもりでやってない!」ってお客さんもいる前で怒られたことはある。始めたときから「好きにやってくれたらいいから」っていうのは言われていて、全部俺に預けてくれているんだなっていう信頼はずっと感じているね。

――

お互い音楽の話や、その日のライブについて話合ったりするんですか。

土龍

するね。良いものに対する感覚、例えば「今日あの子たちのライブなんかめっちゃよかったね」とか「何が悪いのかわからんけど、今日はいまいちやったね」みたいなところは本当に俺と一緒。もちろんまぁこおばちゃんは俺より受け皿が広いし、俺のほうがもっとピンポイントでどうこう言えるけど。感覚的な一致っていうのは、もう昔っからだね。

「音楽を演奏する」とは、お前らにとってどういうことなのか?

――

土龍さんはnanoを始める前にPAとか音響のライブハウススタッフとしての経験はあったんでしょうか。

土龍

いや、学生時代のサークルでちょっと触ってたぐらい。俺らがメインでサークルを仕切っていた時代が97年ぐらいだけど、そのときもうデジ卓だったんだよな。でもズブの素人がEQの波形なんか見ても何もわからないし、ただなんとなく触ってただけ。

――

nanoを始めることになって、特別な勉強などはされたということですね。

土龍

「PA初心者講座」みたいなうっすい本とかは読んだけど…習うより慣れろって感じで最初は出演者に聞いてたよ。あと、乗り込みのPAさんとかマネージャーさんがついてるバンドのときは、その人たちの指示とか仕事を必死に見てた。本当にゼロからのスタートだったから、逆に毎日絶対「音が良くなっている!」っていう実感があって面白かったなぁ。だからあまり音響面については苦労したって気持ちはない。苦労してたんだろうけど、それより日々日々得る喜びの方が大きかったね。ブッキングとか、対バンドマンっていう面の方が苦労したかも。

――

人とのネットワークですね。どのように広げていったんでしょうか。

土龍

広げていったというか、まぁ自然と広がってはいったよね (笑)。当時はもうインターネットが普及していて、バンド掲示板に「音源聞いてください!」みたいな書き込みがあった。なのでそれを聞いて、好きだったら「好きっす!」ってメールして。シゼンカイノオキテなんかまさにそうやってこっちからアプローチしていったなぁ。

――

ブッキングに対するこだわりなどはありましたか。

土龍

新しくできたハコだからこそ、「他のハコでバンバン出てるようなバンドばっか誘っても面白くないなー」とは思ってた。意地になってたんだろうね。そもそもnanoはコンプレックスから始まっていて。キャパもちっちゃい、PAも素人、システムも揃ってない、ブッキングもこれから……nanoを「ライブハウス」って呼べる場所にしていくためにできることって、新しく出てきたバンドたちに愛情を注いで一緒に歩んでいくことなんだって考えていた。始めたころのブッキングはそういう気持ちでやっていた。

――

nanoの特徴はただライブをするだけの場所じゃなくて、バンドも一緒に成長していける場所であるということなんですね。今もスタンスとしては最初の頃とは変わらないでしょうか。

土龍

そうだね。でも10年以上経ってちょっと変わってきたかな?今も一緒に成長していくって点は変わらないけど、コンプレックスは無くなってきたからか、出たてのバンドを見る目は鋭くなってきた。「お前にとって音楽を演奏するということはどういうことなのか?」っていうのを演者に求めている。そこは他のライブハウスのブッキングに比べても、うちが圧倒的に重きを置いていると自負しているよね。それが結果、かっこいい奴としか繋がらないよ!っていうウリにもなっている。

――

この記事を見たらnanoに出ている若い子たちは自信が持てるでしょうね。

土龍

まあ、それかより一層近寄りがたくなるか (笑)。最近の若い子って完成してからnanoに来るんだよね。他のライブハウスに一通り出た後にnanoに来て「めっちゃええやん!今まで何してたん!」「いやー、なかなか自信なくて……」みたいな。で、その頃にはもう大学4年生で就職決まってます……馬鹿野郎か!でも初めて出たバンドマンたちが「めっちゃよかったです。また出たいです」って言ってくれる度に、これまで自分がやってきたやり方で正しかったんだなって思えるから嬉しい。自分がやったことがちゃんと返ってきて確認できる瞬間がある。

――

バンドマンへの接し方として気を使っていることはありますか。

土龍

うーん、リハの時の伝え方かな。中音を調整させたいときに、いかにそいつのテンションは下げさせずにうまく調整させるか……みたいな (笑)。例えば、 普通に「中音あげてもらっていい?」って言えば済むだけの話なのに、「もっと馬鹿になれよ!(=音大きくしろ!)」みたいな言い方をする。でもテンションあがるでしょ?そっちの方が (笑)

――

さきほど土龍さんは「バンドマンからのレスポンスで自分のやってきたことを確認できる」って仰ってましたけど、バンドマンにとっても一緒なんですよね。リハでのやり取りが演者にとっても確認の場になる。「あ、これでいいんだな」っていう。

土龍

そうかもしれないね。

――

これからnanoをどういう場所にしていきたいですか。

土龍

お客さんにとって「いろんなライブハウスがあるけど、このバンドはnanoで観たい!」って思って貰えるようなハコになればいいな。そういうバンドをnanoで増やしていきたい。そのためにはミュージシャンがnanoに絶対的な信頼を置いてくれるような関係性を創らないといけないと思っている。そうなれば、「ライブ見るならnanoでしょ!ちょっと狭いけどさ、それがまた良いんだよ」ってなっていくと思うし。それで音楽が一層カッコよく見えるハコに出来れば、初めて見るバンドでも「カッコよかった!CD買おう!」って次へ繋がっていく。nanoでやっているバンドなら、土龍が推しているバンドなら間違いないって思わせる影響力を培っていきたいな。

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