INTERVIEW

Live House nano

MUSIC 2016.12.23 Written By 山田 和季

38歳まで生きられないって言われて、やりたいことを全部やろうって思った

――

アンテナが京都の媒体として発信していくにあたって、まぁこさんのことを取り上げたいとずっと思っていました。一般的なイメージで言えばまぁこさんのような年齢層の方はライブハウスとは縁遠いかと思うのですが、何故nanoを始めようと思ったんでしょうか?

まぁこ

私、昔からすごく虚弱体質で、どのお医者さんに診てもらっても30歳まで持つかなって言われてたの。ある日河原町を歩いていたら、易者さんに「お代もいらないんで見させて下さい」って呼び止められて。そしたら「普通の人間が考えないようなことを考える人で、それは全部プラスになるけども、38歳までしか生きられない」って言われたの。で、そのあとも2回違う易者さんに声をかけられて、全員「短命」「38歳まで」って口を揃えていうのよ。それで「38歳まで人一倍、やりたいこと全部やって死のう」って思った。

――

すごい話ですね!(笑)

まぁこ

それでも38歳になる誕生日に、一晩中怖くて眠れなくて……でも、真夜中過ぎて空が白けても生きてるし、きっとこれは「死ぬ気でなんかせぇ!」って言われてるのかなって。だから誕生日の次の日に、今までずっとやりたくてもやってなかった3つのことをしに行ったの。そしたらその日を境に元気になったのよ。もともと肺が普通の成人女性の半分くらいしかなかったし、胃も2/3しかないし内臓全部がちいさいのよ。長生きできないって言われてた私だったけど、これからは人の喜ぶことをしようって外側にエネルギーを向けられるようになった。

――

それでなんでライブハウスを始めようと思ったんですか?

まぁこ

最初は私、下宿屋さんをやりたかったのよ。京都の母親になりたかったんよね、お料理して洗濯して……。そのために一生懸命お金も貯めてたんだけど、息子が大学生になって「おかんが言うてるような下宿屋は無理やで。ご飯ができたよって言っても、大学生はみんなアルバイトしたり遊んだりで誰も部屋にいーひんと思うわ」って言うのよ。下宿屋さん、できないのか……と思ってた時に甥の加藤隆生がバンドを始めてライブハウスに出るようになったの。うち親戚が仲良くて隆生がライブするっていうと、10人くらいでどーっと見に行くのよ。

加藤隆生:SCRAP(代表取締役)/ ロボピッチャー(バンド)/ ボロフェスタスタートメンバー

――

すごく素敵なご家族ですね……!

まぁこ

そうそう。みんな遊ぶのが好きで、SCRAPで隆生がやってる脱出ゲームも、初めは私たちが実際に遊んでたゲームやからね。

――

そうなんですか!?

まぁこ

お正月の行事で、京都中走り回って謎解きや宝探しをするゲームがあったのよ(笑)

「日本で一番小さいけど、あそこの音は素晴らしいな」って言っててもらえるライブハウスを作りたかった

まぁこ

そんな仲良い親戚やから、ライブハウスにもみんなで顔出しに行って、それで……私のターニングポイントが来るの。私、音のことはわからないけど行った先のライブハウスが汚くて「ここでお金取るのは失礼」って思ったのよ!ごめんなさいね。シートはボロボロだし、木の椅子は割れてるし、トイレは汚いし……。でも本当にそう思って「そんなに偉そうに言うんやったら、自分で綺麗なライブハウスを作ろう」って、フッと思ったのよ。

 

早速土地を探しに京都中を歩いた。でもこんなおばさんがライブハウスをしたいって言っても、取り合ってくれる人が一人もいないのよね。大きな借金も抱えるつもりのことも話して、「頭金は少ないけどお金も借りられる算段はしてるし、だからアクセスは良くてある程度の土地がいい」っていう条件出しても誰も取り合ってくれない。予算が少ないからっていうのはわかるけど「まぁこのへんやろ?」みたいな感じで真剣味が全然ないの。ほんとに駐車スペースもない鍵のような袋小路のとこの突き当りやったりとか。

――

それは、なかなか慣れていない人が来れないですね。

まぁこ

そうでしょ?それで1年8か月探し続けて出会った不動産屋の担当の男の子がすごーくいい子で、ものすごく一生懸命探してくれたの。すごく不思議で「何で私の話そんな一生懸命聞いてくれるの?」って聞いたらね、その子軽音部やったのよ

――

音楽好きの人だったんですね。

まぁこ

「すごく言ってることわかります」って言ってくれて。でも結局予算もなくて土地もなくて、諦めかけてた時、たまたま実家に帰ったら不動産屋さんのチラシが郵便受けに一枚だけ入ってて。今nanoがある場所の売り出しチラシで、すぐ電話したの。むこうも物件を売り急いでたみたいで、あたしがローン組めるぐらいの値段までまけてもらって……いい出会いがあってここを買うことが出来たの。

――

やっとライブハウスづくりに着手できるわけですね。

まぁこ

これだけ狭いスペースで一体何を売りに出来るかって、もう「音」しかないと思ったのよ。だからデザイナーの人に「日本で一番小さいライブハウスやけどあそこの音は素晴らしいな」って言うてもらえるライブハウスを作りたいってとにかくお願いしたの。そしたらすごく研究してくれはって。

 

音っていうのはやっぱり広がりがあって、空間が大きくなければいい音が出ないの。他にも騒音防音の問題とか、車いすの人も観に来れるようにしたりとかも考えて。ああでもない、こうでもないって大変だった。やっと完成して隆生に「できた!他に何が必要?」って聞いたらPAが要るって言うのよ。「……PAって何?」みたいな。それで雇ったのが土龍くん。本当はお酒つくる人も必要って言われたんだけど、もう雇えないから私がいそいで勉強したんよ (笑)。これで晴れて私は楽しむだけ!それがnanoを作った経緯かな。

――

nanoはまぁこさんの生き様がそのまま現れているんですね。ライブハウスをいいハコにする何よりの秘訣かもしれません。

まぁこ

そうでしょ。最初は店さえ作ればあとは丸投げして私は口を出さないって決めてたのに、土龍くんってミュージシャンに言いたいこと我慢できない人やろ?それを聞くのが初めは辛い部分もあって。でも彼は熱い男やから「言ってやらないと相手もわからない」って言うの。でも私の気持ちも理解してくれたんやろうね。そういう子達の為にホールレンタルを始めたの。それならコピーであっても下手くそであっても楽しんでもらえて、「バンドをやってる」っていう自覚も芽生えさせられる。それで音楽を続けてくれる子を増やすような手伝いをするのも仕事やと思うで、って。それから土龍くんも丸くなった (笑)。歳のせいもあるだろうけどね。

――

nanoはやっぱりまぁこさんと土龍さん、二人のものなんだなって強く思いました。まぁこさんはきっちりお仕事も子育てもされて、その上で自分の人生をプラスに向けて……さらにそこから若い子のために何かしようっていうのは本当にエネルギッシュで真似できないですね。僕がその年で同じことができるかと言うと自信ないなあ(笑)

まぁこ

私も身体が弱くて、色んな人のお世話になってきたから。今の身体からは想像出来ないだろうけど、小学校に自力でかばんを持って行ったことないのよ。それで周りがかばんを持ってくれたり体操袋持ってくれたり、30歳まで生きられへんやろなって言われるのも当然やった。

――

それが今や、大きな音の中で……!

まぁこ

だから覚えておいてね。自分の為に生きるなんて大それたことは間違いやと思う。人の為に生きる……まぁそれも大それてるか。でもね、人が喜んでくれるって考えたらちょっと無理出来るやん。反対に「おいしいご飯作って待ってるよ」って言ってくれるような誰かがいたら、こっちも会いに行きたくなるでしょ。そういうことよ。人の為が自分に返ってくる。それで今まで頑張ってこれたんやなぁ。nanoはね、私の生きがいとかじゃなくって本当に楽しめる場所。毎晩ワクワクして来るのよ。

――

nanoでライブするとき、いつもステージからまぁこさん見えてますよ。いつも歌っていて、誰よりも楽しんでいますよね。

まぁこ

楽しそうやろ?ほんまに楽しいねん!

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