REPORT

【山田和季の見たボロフェスタ2016 / Day1】渡辺シュンスケ / jizue / ゆーきゃん 明るい部屋バンド / Gateballers / DENIMS

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アンテナでは今年のボロフェスタのレポートを、ステージごとにアップするのではなくライブを見たライター別にアーティストをまとめています。少々探しにくいかもしれませんが、これはボロフェスタの掲げる”あなたの好きな音楽”と”私の好きな音楽”を繋げるというテーマを、ライブレポートでもなんとか再現したいと思ったからです。
各ライターのシフトは本人たちに決めてもらっていて、個人の趣味や趣向を反映させました。この記事を見る人が「このライターの趣味は自分に似ているから、レポートに載っている見れなかったバンドをチェックしてみよう」と、ライターというフィルターを通して新しい音楽との出会いの場所にしていただけたら幸いです。

 

 

 

山田和季のボロフェスタ一日目

渡辺シュンスケ (Schroeder Headz,cafelon) ⇒ jizue ⇒ ゆーきゃん 明るい部屋バンド ⇒ Gateballers ⇒ DENIMS

 

今年のボロフェスタは15周年。15年もの間ボロフェスタは一体何をしていたのか。何を求めて何に辿り着くのか。もちろん今年もボロフェスタの歴史に縁の深いアーティストから、意外なチョイスのアーティスト、ボロフェスタじゃないときっと出会うことがなかったであろうアーティストなどがそろい踏みな訳だが、毎年変わらないのは「音楽の根源的な楽しさ」を提示してくれることだと思っている。思い入れの深さ、ボロフェスタへの愛、かわいいアイドル、なんか良くわかんねぇおっさんアーティスト、京都の大御所、若手アーティスト、ぜーんぶ「音楽」という偉大な素晴らしさの前では一蹴されちゃう。それぐらい、音楽のエネルギーってすごいんです。だからこそ成り立つ、ちょっぴりカオティックでDIYなボロフェスタ!プレイバック!

 

 

 

■渡辺シュンスケ (Schroeder Headz,cafelon)

 

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2016年ボロフェスタ、どすこいステージのトップバッターをつとめるのは自身のソロユニットSchroeder-Headzとバンドcafelonの名を掲げてやってきたキーボディスト、渡辺シュンスケ。1曲目からいきなりの名曲カバー!ボ・ガンボスの”魚ごっこ”!原曲に引けをとらないぐらいの音数の豊かさを鍵盤と歌声だけで奏でていく。そして自身の敬愛するピーナッツ (Schroeder-Headzの名もピーナッツから取ったとのこと) から、きっと皆さんご存じのあの曲”Linus & Lucy”の演奏が始まると渡辺だけでなく観客の目にもキラキラが増す。カバーがどうとかアレンジがどうとかは一切関係なく、擦れずに音楽そのものの楽しさを実演してくれる渡辺の姿。そこに音楽が奏でられるという事実だけで、その場がなんと多幸感に満ち溢れる場所になるのか。このボロフェスタど頭で、そんな根源的な「音楽」の在り方を見せてくれた。そこに温かいコーヒーやお茶があるだけでほっとするように、そこ音楽が満ちているだけで私たちは幸せになれるのだ!

 

 

“背番号””コーヒー”といったcafelonの楽曲でも、渡辺は日常的で自然体な風景を歌う。でもより一層こまかくて丁寧で、限りなく「なんでもないこと」に焦点を当てているように感じた。「何でもないようなことが幸せだったと思う」なんて怖そうなおじさんも言っていたけど、渡辺の歌を聞いていると「そうだな、幸せって飛び抜けて特別なことなんじゃなくて、毎日そこに有り得るなんでもないことなんだ!」という気にもなってきた。そしてそうやって気づけたこと自体もまた、幸せであると感じるのである。

 

 

 

■jizue

 

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激しく波打つようなピアノのフレーズから幕を開けるは”atom”。恍惚の表情を浮かべながらも今か今かと、各メンバーの様子を笑いながら跳ねながら伺うkey.片木。Gt.井上が「調子はどうですかー?!」とフロアへ一声放つと、そこからの音のテンションの上がり方が格段に変化した!各々の楽器のアタックの圧の上がり方がえげつない。その熱の違いはもちろんフロアの観客も一瞬で感じ取ったのか、自然と手拍子が沸き起こる。

 

 

jizueがインストバンドとして何が最高かって、期待を遙かに超えてメンバーの熱量が見てとれるところ。片木とDr.粉川がグイグイとステージの端同士で引っ張りあいっこをしているのが、メンバーの躍動感からも曲のテンションからも伝わってくる。そうやって演奏はもちろん表情やアイコンタクトですら利用して場の空気をメイキングしているのが明白なのである。それに対してまた各々のメンバーがアプローチを返して応え合っている。なるほど、これがライブ感というやつだな!

 

 

そんな生生しさを前に観客が踊り出すのは当たり前なのだが、観客以上に踊ってしまうのがプレイヤーである彼ら。みんな観客はライブが終わったあと「最高!」って口ぐちに言うと思うけど、プレイヤーはまじでその気持ちの何百倍か気持ちいいいはずだから!jizueはその気持ち良さっていうものを自ら体現して、バンドで呼応しあって、それをフロアに伝染させてしまっている。まるでパンデミックみたいなライブを見せてくれた。顕著にプレイヤーのボルテージがライブに投影されるのがjizueの最高かつ根源的な魅力です。

 

 

 

■ゆーきゃん 明るい部屋バンド

 

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2ndステージの上方にある大きなスクリーン。足田メロウのライブペインティングがゆーきゃんの歌声と並走して映し出されていく。最初のMCでゆーきゃんは「不完全なものを完全に見せられるのはみんなの力があるからだ。馬鹿馬鹿しいものを本気で楽しむということをボロフェスタはずっと追い求めてきた」と先立ってのライブでスギム (クリトリック・リス) が熱弁していた言葉を引用した。ゆーきゃんの不完全さとは?むしろ完全なものとは一体何なのだろうか。

 

 

ボロフェスタ2年目、まだ西部講堂で開催されていたときに事務所で3分半程で書き上げたという曲”明けない夜”。マイクから遠く口を離し、まっすぐに歌うゆーきゃん。声は遠く遠く、しかし透明度ばかりが染み渡るようにホール中に降り注ぐ。なんだか届きそうで届かないような距離に歌声だけが存在していて、そのぼんやりとした曖昧感に人々は心を思わず歩み寄せてしまう。ゆーきゃんが音楽を奏でているというよりは (もちろん奏でているんだけれども)「音楽」という抗えない大きな存在の中に、たしかにゆーきゃんの声が存在しているという感覚。その声をみつけたときに「やっと会えたね」とほっとすると同時に、そのバックに潜む「音楽」という存在への畏怖に震えてしまう。そんな恐ろしいことを思わせるゆーきゃん、もはや音楽の使徒ですよね。

 

 

もちろんゆーきゃんにとっても、完全になるなんて一生ありえないことは自明なのであろう。でも、こうやってひとりひとりに語りかけることで、少しだけどこかで何かが完結に近づくのかもしれない。ギターを置いて直立しながら最後の曲”太陽”を歌うゆーきゃんの手は虚空を切りながらも確かに何かを描こうとしている。「明日がいい日になるとは限らないけど、未来は明るいんだって言い続けないといけない」彼はMCでそう言っていたけど、じゃあその明るい未来はいつ来るの?っていう話。完全になることなんてない、でもあなたと居ればそれだけで明るい未来が見えるかもしれないし完全のかけらも見えるかもしれないってことを語りかけてもらえた気がした。ああ、ボロフェスタはなんと血の通っている場所なんだろう。

 

 

 

■Gateballers

 

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地下ステージが少しムンっとしだす時間帯。ノスタルジックなギターをつま弾く音が響き渡る。その上にぽつぽつと溢すように紡がれるメロディー。ふむふむ、なんて思ってゆったりと体を揺らしていたら、そこからサビに入ると同時に気が狂れたかのようにギターとベースが掻き鳴らされて思わず脳みそに血がのぼった。3人のビジュアルとは裏腹に泥臭くて青臭くて、それでいて地団駄を踏みながら全てをなぎ倒していくようなエネルギーが満ち満ちている!それに気づいた瞬間、私はまるで恋に落ちたかのように膝から崩れ落ちた……やられたー!はちきれんばかりに目を見開いて弾くベース、小刻みに震えながら大口を開けて歌うギター、まったく前を見ることのないドラム。ボロフェスタ地下ステージに一番似合うものをGateballersは持ち合わせている、それは「剥き出し感」!

 

 

オクターバーエフェクトをかけた声をさらに多重ループさせるという轟音イントロの中で始まる”BAGDAD CAFE”でも、サビになるとさらに轟音は増しまるで悲鳴みたいなコーラスギターが泣き喚く。音がデカいというだけで気持ちいいアドレナリンが出る系の皆様、こちら間違いなく轟音系名曲です。続く”レモンソング”もポップなコード進行で良い意味でとても邦楽っぽいAメロから、爆発し散らかすような轟音のサビへと展開する様がグッとくる名曲。どの曲も暴力的なまでにエネルギーを発散していて、かつライブならではの生の姿が視覚的にも尖っている。なんだか胸を殴打され続けている気分。見ていて息苦しくなるバンドだ。久しぶりにちゃんと音楽で「キレる若者」を見た気がする。

 

 

 

■DENIMS

 

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地下ステージ1日目のトリを務めるのは今や関西のライブハウスでその名を知らない人はいないのではないか……そんな気がする大阪の4人組バンドDENIMS!1曲目からアッパーチューン”たりらりら”のファンキーでアツすぎるカッティングにフロアは跳ねまくり!Vo./Gt.のカマチューがカッティングも弾くし、がつがつソロフレーズも弾いちゃう独壇場スタイルもシビれる……!続いての”DAME NA OTONA”が始まるとともに、メンバーが一斉に横ステップを踏み始めるとフロアも全員右~左~♪と踊り始める。地下がダンスフロアになるまでのスピード感、間違いなく今年のボロでの最短記録。

 

 

自分たちのことを「4人とも天才が揃った集団」と声を大にして胸を張っていた彼ら。自称するだけあって観客を踊らせてくれる、ステップを踏ませてくれるのはもちろん大前提。ただ「踊れる」とか安易に言っちゃうと四つ打ちツッチーツッチー&シンコペずべずべーなイメージが浮かんじゃうからよろしくなーい!あくまでDENIMSはそうじゃないギミックが曲中に散りばめられていて、どの曲でもたまらず飛び跳ねてしまう。ビートだけで踊らせるのではなくて、ボーカルのメロディとバンドアンサンブルでしっかり観客のテンションをアップダウンさせてくれる。アップダウンというよりは天井知らずのアップ&アップなのだが!ラストソングはドライブ感MAXの”Alternative”。このサビでの爽快感といったら……これこそライブの醍醐味ですよね。観客たちは手を高く上げてアンコールを叫び、再び彼らを迎い撃つのであった。

 

 

 

【Day1】

▼山田和季:渡辺シュンスケ / jizue / ゆーきゃん 明るい部屋バンド / Gateballers / DENIMS

▼小倉陽子:台風クラブ / あっこゴリラ / CHAI / 夜の本気ダンス / クラムボン

▼山田克基:BiS / 立川吉笑 / ときめき☆ジャンボジャンボ / 井出ちよの (3776) / 花泥棒

▼稲本百合香:never young beach / 空きっ腹に酒 / 中村佳穗 / 3776

▼則松弘二: And summer club / 岡崎体育  / クリトリック・リス / tofubeats

▼森下優月:TheSpringSummer / bed / サニーデイ・サービス / スカート

 

 

【夜露死苦】

山田克基:mogran’BAR / YeYe / ナカシマセイジ (Alffo Records)  / Seuss / PARKGOLF / 踊ってばかりの国 / HALFBY / どついたるねん / DJ言うこと聞くよな奴らじゃないぞズ / メシアと人人

 

 

【Day2】

▼山田和季:渡辺シュンスケ / jizue / ゆーきゃん 明るい部屋バンド / Gateballers / DENIMS

▼小倉陽子:Limited Express (has gone?) / 女王蜂 / グッドモーニングアメリカ / ナードマグネット / ワンダフルボーイズ

▼山田克基:BiSH / チプルソ / 加藤隆生 (ロボピッチャー) / 渡辺シュンスケ (Shroeder-Headz、cafelon)

▼稲本百合香:生ハムと焼うどん / 愛はズボーン / manchester school≡ / yonige

▼則松弘二: ミノウラヒロキマジックショー / POLYSICS / MOROHA / eastern youth / THE FULLTEENZ

▼森下優月:天才バンド / 忘れらんねえよ / Have a nice day! / nim / 銀杏BOYZ (弾き語り)

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