石川県金沢市にて結成・活動しているnoidの3枚目となるアルバム『HUBBLE』。石川県とは言ったものの2017年のナノボロフェスタにも出演、現在はシンガーソングライターゆーきゃんも含む全8名での不定形構成にて活動しているという……いかに京都にも縁の深いバンドであるか、伝えるにはこの2点だけでも十分であろう。
オープニングナンバーはキラキラとしたグロッケンから始まる、中盤に向けて雲を切り払っていくかのように広がって澄み切っていくサウンドたち。”STARS”というタイトルから連想するように、少しずつ空が白んでいくイメージを思い浮かべていたら、案の定MVに思ったとおりの情景が広がっていてホロリときてしまった。でもノスタルジックとかそういう感情とはまた少し違って……明け方の静かな誰もいない街ってなんだか街がキラキラ見えてワクワクしたりすることありませんか? ”STARS”の中盤からだんだんと楽曲の持つエネルギーが加速していく流れも、そのときのワクワク感にすごく似ている。終始流れ続ける5拍子のフレーズと、変拍子だからこそリズミカルなボーカルをBGMに明け方の街を散歩したくなった。終盤はにぎやかに溢れかえるサウンドの中、ひとつ流れ星のように行き交うギターが印象的。
noidらしい素朴さと美しさと透明度を感じるM3 “春”もこのアルバムの印象を司る1曲。”春”とタイトルがつけられているものの胸いっぱいに吸い込みたくなるような澄み切った空気感は、夏の山奥のひんやりとした心地や、秋の朝の降りてくる霜だとか、冬の冷たい耳たぶだとかそんなものを思い出させる。もちろん春の穏やかな風なんかもぴったり。「夏に合う曲」「冬に染みる曲」とかは数えだしたらキリがないほどポンポンと挙げられるのだが、どの季節感もこんなにフィットするバンドっていうのは意外と今まで考えたことなかったなと少しハッとした。
M4 ”already”では何重にも重なるコーラスで耳の中をいっぱいにさせられる。豊かなコーラスとバックでリフレインしている揺れるようなギターリフの2要素が、大阪のバンドCARDとかなり共通しているような気がする。終始一貫して流れ続けるギターリフ。しかし飽きるどころか頭から離れなくなってしまう。M5 “めざめ”からはさらに落ち着いた流れになっていく。しんみりとさせるような乾いたエレキギターのコードに単音でポロポロと鳴り続けるピアノ。そこへ優しいホーンとここまで影を潜めていた歪んだギターが重なっていき感傷をくすぐってくる。サビではこれまでよりグッと力を入れたボーカルに合わせて、胸を詰められるかのようにそれぞれの楽器がエモーショナルな表情を見せる。<それでも進め 夜になる前に><迷わずに進め>と言い聞かせるように歌われる歌詞が耳に残る。
アルバムも終盤に差し掛かってくるM9 “BOB”ではまさに日常を切り取ったような歌詞に心を揺さぶられる。<カフェの女の子に手紙を書きたいけれど 日本語が下手くそでとても困っていたんだ><今日の気分だとか天気の話だとかそれから 「おすすめは?」なんていつも尋ねてきて>なんて歌詞から感じる何気なく聞いたもの、見たもの、そこにあったものをどうして伝えようかと、小さなコミュニケーションにもどかしく葛藤する姿は、誰しもに重なるものがあるのではないか。
アルバムを締めくくる”SUNDAY”はゆったりとして穏やかなナンバー。空気を震わせて遠くから響いてくるようなドラムにノスタルジックさを演出するホーン。アルバム幕開けの”STARS”とはまた異なって少し切なく可愛らしい表情を見せるグロッケン。そんなサウンドに乗せられる歌詞も相まって、なんとなく夕焼けのオレンジが瞼の裏に浮かぶ。でもその柔らかさや多幸感は真昼間の角が丸くて穏やかな太陽みたいでもあるし、夜中に飲むホットミルクのように甘くもある。耳ざわりのよい暖かさと心地よさが、そっと毛布のようにアルバムの終わりを包み込んでくれる1曲。<さよなら さよなら>とラストにのびやかに歌う瞬間には、何かが静かに終わってまた次の何かへとそっと移り変わっていく、そんな示唆を含んでいるような気がした。”SUNDAY”というタイトルからも終わりと始まりみたいなものを感じる。
“STARS”、”SUNDAY”という始まりと終わりの大名曲。それぞれのタイトルから想起するものが大きかった一方、”旧字体(INDIA)”、”生中”と曲を聴いた上でも「ど、どういう意味だろう……」と一瞬頭を悩ませてしまったりして。でもその悩んでる時間ってすごく楽しくって、音楽を聞くうえで一つのイベントだと個人的には思っている。シンプルに言うと、この人たちの日本語とても好きだ。
また全12曲収録の『HUBBLE』からなんと”STARS”、”otouto”、”春”、”雲雀”の4曲がMVとして公開されているのも要チェック。是非noid公式HPにてご覧ください。
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思ったことをオブラートに包まず言ってしまうし書いてしまう故の、他称「めたくそライター」。遠慮がなく隙のあるだらしのない文章を好みます。音楽はアメリカのハゲorヒゲがやっているバンド、映画はしとやかなエロと爽やかなゴアが好きです。
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