REVIEW
HUBBLE
noid
MUSIC 2017.11.20 Written By 山田 和季

石川県金沢市にて結成・活動しているnoidの3枚目となるアルバム『HUBBLE』。石川県とは言ったものの2017年のナノボロフェスタにも出演、現在はシンガーソングライターゆーきゃんも含む全8名での不定形構成にて活動しているという……いかに京都にも縁の深いバンドであるか、伝えるにはこの2点だけでも十分であろう。

オープニングナンバーはキラキラとしたグロッケンから始まる、中盤に向けて雲を切り払っていくかのように広がって澄み切っていくサウンドたち。”STARS”というタイトルから連想するように、少しずつ空が白んでいくイメージを思い浮かべていたら、案の定MVに思ったとおりの情景が広がっていてホロリときてしまった。でもノスタルジックとかそういう感情とはまた少し違って……明け方の静かな誰もいない街ってなんだか街がキラキラ見えてワクワクしたりすることありませんか? ”STARS”の中盤からだんだんと楽曲の持つエネルギーが加速していく流れも、そのときのワクワク感にすごく似ている。終始流れ続ける5拍子のフレーズと、変拍子だからこそリズミカルなボーカルをBGMに明け方の街を散歩したくなった。終盤はにぎやかに溢れかえるサウンドの中、ひとつ流れ星のように行き交うギターが印象的。

 

noidらしい素朴さと美しさと透明度を感じるM3 “春”もこのアルバムの印象を司る1曲。”春”とタイトルがつけられているものの胸いっぱいに吸い込みたくなるような澄み切った空気感は、夏の山奥のひんやりとした心地や、秋の朝の降りてくる霜だとか、冬の冷たい耳たぶだとかそんなものを思い出させる。もちろん春の穏やかな風なんかもぴったり。「夏に合う曲」「冬に染みる曲」とかは数えだしたらキリがないほどポンポンと挙げられるのだが、どの季節感もこんなにフィットするバンドっていうのは意外と今まで考えたことなかったなと少しハッとした。

 

M4 ”already”では何重にも重なるコーラスで耳の中をいっぱいにさせられる。豊かなコーラスとバックでリフレインしている揺れるようなギターリフの2要素が、大阪のバンドCARDとかなり共通しているような気がする。終始一貫して流れ続けるギターリフ。しかし飽きるどころか頭から離れなくなってしまう。M5 “めざめ”からはさらに落ち着いた流れになっていく。しんみりとさせるような乾いたエレキギターのコードに単音でポロポロと鳴り続けるピアノ。そこへ優しいホーンとここまで影を潜めていた歪んだギターが重なっていき感傷をくすぐってくる。サビではこれまでよりグッと力を入れたボーカルに合わせて、胸を詰められるかのようにそれぞれの楽器がエモーショナルな表情を見せる。<それでも進め 夜になる前に><迷わずに進め>と言い聞かせるように歌われる歌詞が耳に残る。

 

アルバムも終盤に差し掛かってくるM9 “BOB”ではまさに日常を切り取ったような歌詞に心を揺さぶられる。<カフェの女の子に手紙を書きたいけれど 日本語が下手くそでとても困っていたんだ><今日の気分だとか天気の話だとかそれから 「おすすめは?」なんていつも尋ねてきて>なんて歌詞から感じる何気なく聞いたもの、見たもの、そこにあったものをどうして伝えようかと、小さなコミュニケーションにもどかしく葛藤する姿は、誰しもに重なるものがあるのではないか。

 

アルバムを締めくくる”SUNDAY”はゆったりとして穏やかなナンバー。空気を震わせて遠くから響いてくるようなドラムにノスタルジックさを演出するホーン。アルバム幕開けの”STARS”とはまた異なって少し切なく可愛らしい表情を見せるグロッケン。そんなサウンドに乗せられる歌詞も相まって、なんとなく夕焼けのオレンジが瞼の裏に浮かぶ。でもその柔らかさや多幸感は真昼間の角が丸くて穏やかな太陽みたいでもあるし、夜中に飲むホットミルクのように甘くもある。耳ざわりのよい暖かさと心地よさが、そっと毛布のようにアルバムの終わりを包み込んでくれる1曲。<さよなら さよなら>とラストにのびやかに歌う瞬間には、何かが静かに終わってまた次の何かへとそっと移り変わっていく、そんな示唆を含んでいるような気がした。”SUNDAY”というタイトルからも終わりと始まりみたいなものを感じる。

 

“STARS”、”SUNDAY”という始まりと終わりの大名曲。それぞれのタイトルから想起するものが大きかった一方、”旧字体(INDIA)”、”生中”と曲を聴いた上でも「ど、どういう意味だろう……」と一瞬頭を悩ませてしまったりして。でもその悩んでる時間ってすごく楽しくって、音楽を聞くうえで一つのイベントだと個人的には思っている。シンプルに言うと、この人たちの日本語とても好きだ。

 

また全12曲収録の『HUBBLE』からなんと”STARS”、”otouto”、”春”、”雲雀”の4曲がMVとして公開されているのも要チェック。是非noid公式HPにてご覧ください。

noid - STARS

WRITER

RECENT POST

REVIEW
フラッシュフィクション – Ribet towns
INTERVIEW
ー僕らにとってのシューゲイズー ART-SCHOOL木下理樹×blgtz田村昭太のルーツに触れる対談
REPORT
【山田和季の見たボロフェスタ2017 / Day3】バレーボウイズ / unizzz… …
REPORT
【山田和季の見たボロフェスタ2017 / Day2】BRADIO / カネコアヤノ / WONK /…
REVIEW
ある日気がつく、同じ顔の奴ら – キツネの嫁入り
REPORT
三者三様のウェットなアツさに満ちた夜。CARD企画 “PICK ME UP vol.7&…
INTERVIEW
私たちがアンテナをやる理由。【ライター小倉・齋藤編】
REPORT
【座談会】働きながら音楽活動をする<京都編>  開催レポート・後編
REPORT
【座談会】働きながら音楽活動をする<京都編>  開催レポート・前編
REPORT
『果て』という極限を見据え続ける4バンドが集結。bed現体制でのラスト京都企画”turn…
INTERVIEW
music studio SIMPO
REPORT
THROAT RECORDS大忘年会―LOSTAGEが1年かけて作り上げたものを最後の最後まで見せつ…
INTERVIEW
Live House nano
REPORT
bedが歌う「僕ら」の話は、今ここにいる内向的な僕らの話
INTERVIEW
『4WD』発売企画 フラットライナーズ石川 / bed山口対談【後編】
INTERVIEW
『4WD』発売企画 フラットライナーズ石川 / bed山口対談【前編】
REPORT
【山田和季の見たボロフェスタ2016 / Day2】FUCKER / Doit Science / …
REVIEW
Kind of Blue – イツキライカ
REPORT
【山田和季の見たボロフェスタ2016 / Day1】渡辺シュンスケ / jizue / ゆーきゃん …
INTERVIEW
bed 4thアルバム『via nowhere』特別1万字インタビュー!彼らが考える「bedらしさ」…
INTERVIEW
bed 4thアルバム『via nowhere』特別1万字インタビュー!彼らの考える「bedらしさ」…
REVIEW
PAGETHERM – SPANK PAGE
INTERVIEW
宅録・サイドプロジェクト限定?そ―名古屋発コンピ『ナゴミハイツ』
REPORT
ナノボロフェスタ2014 2014.08.31 ライブレポート
REPORT
mothercoat @ 京都GROWLY
REPORT
カングルワングル @ 京都GROWLY
REPORT
ウサギバニーボーイ@ 京都GROWLY
REPORT
メシアと人人 @ 京都GROWLY ライブレポート
REPORT
ナノボロフェスタ2014 -day.1- 2014.08.30

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …