COLUMN

【俺とマンガとお前と俺と】第1回:俺のマンガ道

BOOKS 2015.01.25 Written By 石川 俊樹

「アンテナ」読者の皆さん、初めまして!

 

名古屋造形大学マンガコースでマンガの授業をしている石川俊樹と申します。ついでに言うとフラットライナーズというバンドもやっております。このたび御縁があってこれから数回にわたってマンガについてのコラムを書かせていただく事になりました。よろしくお願いいたします。

 

これを読む皆さんがどれくらいマンガに興味をお持ちかわかりませんが、もしかして中にはマンガを描いてみたい、すでにマンガを描いているという方もおられるかもしれませんね。そんな方も含め、普段自分が大学で学生に話しているような割と生々しい「マンガの作り方」の話を書いていきたいと思っておりますので、興味を持っていただけたら嬉しいなあ。

 

さて、第一回のテーマは「俺のマンガ道」と題して自己紹介も兼ねて1人の名も無き男がマンガに翻弄される半生を語って行きたいと思います。ヒァウィーゴー!

実は自分は高校・大学に至るまでいわゆる「少年ジャンプ」に代表される少年マンガをほとんど読んでこなかったし、特にマンガ家を目指してたわけでもなかったんです。どちらかと言えば「映画」と「ロック」に夢中で、特に映画はいつの日にか自分の映画を撮ってみたい等と漠然と憧れておりました。当時はまだDVDも無く、テレビでも深夜を含めると毎日どこかしらのチャンネルで映画をやっていた時代。それらを (ジャンル問わず) 片っ端から観て、休みには池袋の文芸座で (昼も食べずに) 3本立てを観に行ったりしてたもんです。

 

そんなだから彼女は出来ず、そのこともそれほど苦じゃなかった (笑) 。オタクですよ、要するに (笑) 。その頃マンガに対して思っていたのは「マンガってマンガっぽいなあ」という身も蓋もない感想で、自分にとっては映画の方が格段にリアルでシビれる世界だったんですね。

 

そんなある日調布のラーメン屋でふと手に取った雑誌「漫画アクション」によって、自分の中のマンガに対する価値観の革命的な変化が起きてしまいます。

気分はもう戦争

そこに掲載されていた「気分はもう戦争」というマンガ、まるで映画のフレームのようなコマ割りの中で確かな人物デッサン、パースの取れた正確な背景、まるでマンガっぽくないリアルなドラマで、あたかも映画を観ているような作品だったんですね。その作者こそがかの大友克洋先生 (原作は小説家の矢作俊彦さん) 、皆さんは「童夢」「アキラ」で御存知かもしれませんね。それからは猛烈に大友作品を買いあさり、擦り切れるほど読み込みました。だって1人の人間が紙とペンだけで「映画」を作ってるんですよ!これはもうワンマン映画だ!……と興奮した大学生の石川は一気にマンガの世界に魅せられて行きます。

AKIRA

大学卒業後就職した文房具メーカーも2年で辞め、いよいよ本格的にマンガ業界へ身を投じます。小学館「スピリッツ」で入賞したのをキッカケに当時「YAMARA!」「マスターキートン」を連載中だった浦沢直樹先生のスタッフとして働き始めますが、あまりにマンガのことを知らなかった自分はそこで徹底的に商業マンガのノウハウを勉強させてもらいます。現在自分が大学で教えていることの多くはこの頃の経験が大きいことは言うまでもありません。ちなみにその時のアシスタント同僚だったサトー君は現在フラットライナーズのギター (太ってる方) です。浦沢先生の職場を2年ほど勤めたあたりで自分はヘルニアになり、退職後1年間のリハビリを経て、バイトしたりアシスタントしたり読み切りマンガを描いたり結婚したり (笑) という、マンガ業界を低空飛行し続ける日々でした。

MASTERキートン

まあ、アシスタントについてはいずれ別の機会にじっくりお話したいと思います。自分は主に青年誌の作家さんのアシ中心だったので描いてるマンガも青年誌向けのみだったのですが、大学の職に就く前に最後の最後でついに少年誌「少年サンデー」の大須賀めぐみ先生のスタッフをやらせていただくことになりました。

魔王 JUVENILE REMIX

当時新人だった大須賀先生の「魔王」 (伊坂幸太郎さん原作) の立ち上げスタッフとして入った自分は、そこで初めて少年誌の連載がいかに読者の反応に敏感に反応して作られていくか、そのストーリーテリングと演出を新鮮な思いで大いに勉強させていただいたんです。ここでの経験が自分のマンガ人生にとっていかにエポックであったか、約20年に渡るマンガ勉強人生の仕上げにふさわしい「目からウロコ」の毎日でした。ここにきてやっと「マンガのマンガっぽい素晴らしさ」を理解するという壮大な回り道人生だったんですね。

映画ファンから始まった自分とマンガの闘いは、結局マンガというメディアと正面切って向き合うまでの価値転換の闘いでした。

 

ストーリーを至上とし、映画と較べてマンガを一段下に見ていた自分はとどのつまりマンガの一部分しか理解していなかった。サブカルチャーとしてスタートした大友克洋先生に代表される「ニューウェーブ世代」のマンガは、メジャー系マンガに対するカウンターであり、「マンガはもっと新しい表現が出来るはずだ」というフラストレーションの現れであったことは事実だと思います。ただその気分だけ引きずってマンガというものを語っていては、常に新陳代謝を繰り返すマンガの流れに取り残されていくでしょう。そういう意味ではカウンター意識から入った自分のマンガ観を業界の具体的な仕事の中で変える事が出来たのは、後に大学でマンガを教える上ではラッキーだったと言えるのではないでしょうか?ラッキーだったんです! (笑)

今でも自分は映画が大好きです。そして相変わらず大友先生の作品を読めばいつだってモチベーションを上げる事が出来ます。大友先生は一時期自分にとってまさに「マンガの神様」でしたが、その大友先生もまた脈々と流れるマンガの世界に属していた、という事を20年かけて知ったのが「俺のマンガ人生」でした。そこで今回のレクチャーのポイントです。

「マンガは伝統と革新を呑み込んで進化し続ける」

次回からいよいよマンガの作り方の話に入ります。今日の講義はここまで!またお会いしましょう!

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