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【カルト映画研究会:第2回】ドニー・ダーコ(Donnie Darko)

映画のあらすじと評価

2001年のアメリカ映画。保守中流の家庭で暮らす不安定な精神を抱えた高校生ドニーは、ある時ウサギの着ぐるみを着た謎の存在に世界の終わりへのカウントダウンを告げられる。直後に航空機のエンジン落下事故が起こり、その日からドニーの世界に不思議な現象が起こり始めるのだが、それはセラピストの指示で処方された安定剤が見せる幻覚か、それとも……。

 

難解な設定を持ちながら青春映画としての敷居の低さももつリチャード・ケリー監督デビュー作。円環構造のストーリーは「リヴァース・ムービー」と銘打たれカルト映画ファンの話題となった。主人公ドニーを演じたジェイク・ジレンホールはこの映画でインディペンデント・スピリット賞主演男優賞候補となり注目の若手俳優となる。

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ドニー・ダーコの魅力はSF・青春ドラマがかけ合わさった「厨ニ感」

夢遊病の高校生ドニーが山の中の路上で目覚め自転車で街に帰ってくる。中流の家庭が立ち並ぶサバービア(郊外)の平和でありふれた朝。ここでかかるのがエコー&・ザ・バニーメン “キリング・ムーン”!

80年代(劇中の時代設定は1988年)のロックが多くかかるこの映画の中で、このイントロの印象はひときわワクワクする。それは自分の青春時代、父ちゃん母ちゃんと差し障りのない会話をこなしながら頭の中で鳴っていたのはザ・スミスみたいな日常との乖離と反抗心を呼び覚ますからなのかもしれない。そういうのをなんと呼んだらいいのだろう?思春期?厨二病?

 

タイムトラベルを扱ったこの映画は、その理論においては難解だが、この映画の主人公を中心とした青春ドラマはわかりやすく、その二つが融合して醸し出すなんとも言えない「厨二感」が魅力だと思う。

 

正直に言うと主人公のドニーはそれほど厨二的ではない。屈折してはいるが感性はまともだし男気もある。日本人のオタクである自分からしたら十分リア充の資質もありだ。そんな彼が超常現象に巻き込まれたとも見て取れる序盤から中盤。だからこそ自分はドニーがかっこいいと思えたし、特に冴えない女の子のシェリータに見せる優しさは、薄っぺらい大人の社会と対比して見せる純粋な正しさであって自分が憧れる部分でもある。一見したところでは厨二感の薄い主演のジェイク・ジレンホールが演じるナイーブな面を持つティーンエイジャーのキャラクターが健康的で素晴らしく、つまりはこの映画における厨二感は監督リチャード・ケリーの感性であって、そのアンバランスさがドニーをヒーローたらしめているのかもしれない。リチャード・ケリーの演出はジェイク・ジレンホールと言う俳優の個性を借りて、密かに世の破滅を願うようなナイーブな十代の感性をピュアな正義感とともに瑞々しく描いているとも言える。

ティーンエイジャーからの成長を拒んだドニーと、その結末

退屈な授業時間に突然学校がテロリストに占拠され、自分の隠れた戦闘能力が覚醒する夢想。あるいは突然世界が崩壊し、斜め前のあの娘と自分だけが生き残る夢想。馬鹿げた、意味のない、ただの暇つぶしの夢想。

 

我々は十代のどこかでこの世の欺瞞と退屈に気づき、破壊を望む一方で汚れることのない純粋な恋愛を夢見る。その葛藤はそのまま現実との軋轢で擦り切れ、それが大人への通過儀礼となっていくわけだが、もしそれが時間の円環に閉じ込められ破滅を約束された環境だったらどうなるだろう?

 

そんな青春の儚い夢想をSFの構造を借りて(少々強引に)作り出してしまったこの映画は、タイムトラベルの理論はさっぱりわからなくてもそんな「厨二」気分は十分に伝わってくるゆえのカルト映画だと言えよう。ブッシュとデュカキスが大統領選を争う1980年代という微妙な時代設定には建前と欺瞞が全面的に露出した時代であったことを示し、それは主人公たちの高校においても自己啓発カウンセラーに乗せられた偽善的な教師が登場し、カウンセラー自身はドニーに幼児性愛癖を暴かれ破滅する。

 

そんな汚れた大人の偽善的世界観を箱庭のように時間の中に閉じ込め、ピュアな魂の昇華と世界の再生を示唆するこの物語は、日常が平凡である事に対するフラストレーションを映画として具現化している。所詮はどんな意見・主張とも接続する事のない十代の夢想であり、その意味や解釈を探る事自体無意味であり、ひいては青春とはそう言うものなのかもしれない。

 

多くの青春ドラマは現実や理屈を受け入れた主人公を描きつつ、青春時代の終わりを示唆する。しかしこの『ドニー・ダーコ』でリチャード・ケリー監督が描きたかったのはティーンエイジャーからの成長を拒んだままのドニーをパッケージする事。

 

わかる・わからないではない厨二の夢想、それこそが究極の青春ドラマであることをこの映画は教えてくれるのだ。

 

ドニー・ダーコ

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