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【漫画で読み解くストーリー:第八話】 『エアマスター』に見る決めゼリフの哲学

イラスト提供:中田アミノ

マンガの王道コンテンツに「バトルマンガ」があります。

 

バトルマンガと言えば『ドラゴンボール』を代表に、「ジャンプ・闘う」というキーワードだけでもみなさんも思いつくものがたくさんあるはずです。

 

アクションシーンをクライマックスに持ってくるバトルマンガは、アクション描写そのものに関しては動画である映画やアニメを超える事は出来ません。にもかかわらずバトルマンガがマンガの王道たり得ている理由は、バトル中にもかかわらず心情をセリフで明確に示すことができるばかりか、闘っている相手と会話の駆け引きも表現できるというマンガ独特の演出があるからなんですね。つまりバトルは人間関係の究極の形態で、ライバルとの会話の間にパンチやキックが入っている(笑)と考えると分かりやすいかもしれません。

 

マンガのストーリーはキャラクター同士の関係性を描いたものがほとんどで、それが格闘か恋愛か、どちらで描かれるか次第で少年マンガか少女マンガに分かれるとも考えられます。キャラクター同士がお互いの想いをかけてぶつかり合う、その最も高まった瞬間に最もディープな部分から吐き出されるキャラクターの気持ち、それが決めゼリフです。

エアマスター

 

 

作者:柴田ヨクサル

連載期間: 1996年 – 2006年

掲載誌:ヤングアニマル

主人公が強いキャラクターたちと闘いを繰り広げるシンプルなストーリーのバトルマンガ

今回取り上げる『エアマスター』は1996年から2006年にかけて白泉社「ヤングアニマル」で連載された柴田ヨクサル先生のバトルマンガです。将棋を題材にした『ハチワンダイバー』(2006年)、アイドルをモチーフにした『プリマックス』(原作・2015年)、特撮愛をモチーフにした『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』(2018年)と現在も活躍中のヨクサル先生ですが、いずれの作品でも独特の個性を持ったキャラクターの掛け合わせの痛快さが魅力であり、その原点(1992年にデビュー連載『谷仮面』がありますが)を確立した作品が『エアマスター』だったと思います。

 

ストーリーはいたってシンプル。体操選手になる夢を挫折した女子高生・相川摩季が失意の中でストリートファイトの世界に自分を見出し、強いキャラクターたちと闘いを繰り広げるトーナメント形式のバトルマンガです。

 

20年以上前の連載作品ということで『エアマスター』は今の表現としてはあまりに無邪気な部分があったり、当初はコメディだったり絵柄が不安定だったり、リアリティの面でもいろいろ突っ込みどころの多い作品と思われるかもしれません。

 

自分が初めてこの作品に出会ったのは大須賀めぐみ先生の仕事場だったのですが、正直最初は絵柄が馴染めなかった記憶があります。それが全く気にならなくなるほどに、ストリートファイトに舵を切った4巻あたりの展開からぐんぐん引き込まれていきます。当時『魔王』を少年サンデーで連載されていた大須賀先生のお仕事を手伝う中で『エアマスター』の面白さを同時に理解していった部分もあり、お勧めしていただいた大須賀先生には今でも感謝しております。

 

余談ですが大須賀めぐみ先生の作品の写植のデカさもまたヨクサル先生の影響が大いにあると思われます(笑)。

ストリートファイトの瞬間にのみ輝くことができる人たち

そんなわけで今では自分にとって最も好きなバトルマンガである『エアマスター』ですが、その理由は大きく2つあります。

 

1つはルールのないストリートファイトの世界における「強さ」の表現。

 

多くのバトルマンガではルールやフェアネスが示されることで逆にそこを破る卑怯さや、闘いの動機の邪悪さで悪役である根拠が示されます。しかし『エアマスター』の世界では複数で闘おうが武器を使おうが勝てばいいシンプルさで、「弱さ」という概念はそこに挑む精神性のみでジャッジされます。またキャラクターは善悪でカテゴライズされず、あらゆるキャラクターがフラットに参戦してくる展開が、モラルによるジャッジを徹底的に排する状況を生み出している点も他のバトルマンガと一線を画すアツさの理由です。

 

もう一つが、いかにもマンガ的な「しょうもなさ」や「くだらなさ」を抱えたキャラクターたちの闘いに賭ける一点突破力が、我々凡人の常識を突き抜けて普遍的な勇気を与えてくれる点。

 

悪役が存在しないどころか、ここに出てくるキャラクターはストリートファイトでしか自己を表現できないような人間的に偏ったヤツばかり。一見リアリティのないようなキャラばかりですが、彼らの生き様の頂点は全てストリートファイトの瞬間に凝縮されており、その一点において人生を賭ける潔さはどんなに利己的であろうが変態的であろうが、人は人生において等しく輝く瞬間があるという哲学の上で語られており我々読者の胸をアツくさせます。

善悪を人間のモラルに頼らないことで生まれるキャラクターの「強度」

この2つの点を如実に示す共通点が作中でバカでかい写植で語られるキャラクター達の「決めゼリフ」なんです!

 

ルールや善悪に寄りかからずに勝敗を決め、その結果を読者に納得させるのは至難の技です。いかにかっこいいセリフを言ったところで、キャラクターの生き様に感情移入出来なければ綺麗事にしか響かないでしょう。バトルマンガにおける勧善懲悪の構図は手っ取り早い読者への感情移入の装置として有効ですが、ヨクサル先生が描きたいのは人間をモラルでジャッジしない「強度」なので、そのような安易な二項対立は描かない。そこでは「ありがちな悪役」はすでに「悪役」である点において「負け」であり、闘いの舞台にすら上がれません。

 

ヨクサル先生のキャラクターが闘いの場において吐くセリフは、その者の人生が凝縮されたエッセンスであり、存在理由を賭けた決意表明なのです。闘うことしか出来ないフリークだからこそ、それ以外のセリフはないというゆるぎないシンプルさが「生きる」という行為への示唆に富んだ金言となって説得力を持って僕を感動させます。

 

もうおわかりですね。『エアマスター』における闘いとは人生のメタファーであり、そこで語られる決めゼリフは人生を生き抜く哲学を語っているのです!

 

このマンガは主人公に感情移入してそのモラルに引っ張られる作品ではありません。あらゆるダメ人間が、変態が、求道者が、愛に生きる者が、一様に輝く瞬間なにを語るのか。

 

そこにみなさんの人生にフィットする金言、もとい「決めゼリフ」が見つかるかもしれません。

「どんな人間でも”安いプライド”があれば”戦える”んだ 何とだって!」

byジョンス・リー

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