COLUMN

【俺とマンガとお前と俺と】第4回:マンガを描くなら神となれ!

BOOKS 2015.08.07 Written By 石川 俊樹

アンテナ読者の皆さん、こんにちは!名古屋造形大学マンガコースの石川です。 このコラムが出る頃には大学は夏休み、読者の皆さんも海へ、山へ、自宅でふて寝、等いろいろあるかと思いますが、マンガ家への道を志す者は何時何処にいようと常に頭の片隅でマンガのネタを考えていなければなりません!というワケで第4回、いよいよストーリー作りの森へ深く入っていきましょう。

 

前回キャラクターこそがストーリーの入口である、という話をしました。しかしながらストーリーには「設定」も必要です。では「設定」とは何か?それはキャラクターが生きる世界、運命そのものなんですね。好きな娘に告白する、甲子園を目指す、宿命の敵と闘う、世界を救う……現代劇、時代劇、SF、ファンタジー……あなたの考えたキャラクターをどんな環境に置くのも自由自在、そんな「設定」の中にキャラを放り込んで始めて、あなたのキャラクターはその世界の運命に巻き込まれていくのです。架空のキャラクターとは言え、その人の生きる世界を創るのみならず人生まで左右してしまうマンガ家は、いわばキャラクターの世界にとっては「神」にも等しい創造主なんです!

ストーリーを作る時、ほとんどの人はまずキャラクターを描いて考えますが、そのプロセスにおいては同時に様々な「設定」も生まれています。学生服を着ていれば学生だし、剣を持っていれば剣士的ななにかですよね (笑) 。髪型や体型、表情等からもある程度の性格が設定されます。それとは別になんとなく世界観、テーマ、やりたいムード等もぼんやり考えるワケですが、そこでキャラクターとの組み合わせで「やりたいカンジ」のチョイスが出来たらなんとなくあらすじが出来そうなフィーリングが生まれてきます。例えば「正義感の強い、やたらケンカの強いキャラクター」を考えたとします。

 

そんな彼を「学校」「会社」「戦国時代」「未来社会」「剣と魔法の世界」それぞれに置いてみて下さい。腕っぷしの強さがそのまま活躍に活かせる環境もあれば、正義感がドラマを生み出しそうな環境もありますね。そこで大事なのが、置く環境によって「力」や「正義」の概念が変わってくる事です。戦国時代では「力」こそが立身出世の鍵だったりしますが、学校や会社においては、そんなに単純ではありません。「正義」の概念も極道と警察官では180°違うし、未来やファンタジーの世界では独自の解釈になっているかもしれません。

 

つまり「設定」によって主人公の住む世界の常識や状況が変わり、性格をどう活かすかが変わってくるのですね。敢えて主人公を女子高生にして戦国時代へタイムスリップさせ、その価値観のギャップでおもしろさを狙う、という手もありますよ!

では早速主人公を自分の考えた設定世界にぶち込んでみましょう。その時点で作者である貴方には主人公に「活躍」してもらいたいという思惑があるはずです。想いを寄せてる相手とは両想いになってもらいたいし、悪い奴がいるなら倒して欲しい。主人公が(これまた作者である貴方が用意した様々な障害を乗り越えて)なんとか人として一回り成長をする、もしくは目的を全うする、そんな流れを意識してまずは簡単な「流れ」を作ってみましょう。この段階の作業を「プロット」と言います。

 

プロットとは本来粗筋を指すものですが、イメージ画やセリフ、設定のメモ程度でも自分がわかっていれば大丈夫です。いわばストーリーの初期設計図を考えていく作業ですね。作り込んでいく段階で主人公がうまく動いてくれなかったり、行動や設定に矛盾が生じたり、新たな設定が必要になったり、一筋縄じゃいかない事も多々あるでしょう。それでもなんとかまとまって仮にあなたが一本のストーリーを作りあげたとします。そこには同時に3つのストーリーラインが誕生している事を示すのが以下の図です。

一番上のラインはこの世界の全てを把握している作者のストーリーライン。当たり前の事ですが、このラインでは最初からオチも結末も予想されています。ここは読者におもしろおかしく見せる構成がされていないアイデアのみの世界なので、このラインを見せられても読者にはおもしろくもなんともないところです。

 

このアイデアのラインから読者に読んでもらいたいエピソードの順番や隠しておきたい伏線ネタ、思いもよらないクライマックスの展開から感動のラストまで、読む者のために構成された商品としてのストーリーライン、すなわち作品本編が真ん中のラインになります。ここには作者のプロットのラインから、いわば様々な「神の見えざる手」によってドラマが構成されています。それを読みながら読者の中に生まれるのが一番下の「読者の思うストーリー解釈」のライン、つまりページを追うごとに読者が予想していく「先読みストーリーライン」です。

 

それではこの図が示している事は何か?……作者はプロットという初期設計図で作りあげたキャラクターの設定や運命を、本編の作品の中で時にやさしく、時に冷酷に、ある時はミスリードしながら結末を導く作業をする事で、そのキャラクターのストーリーを読む読者自身 (先読みストーリーライン) を翻弄し、ハラハラさせ、怒らせたり悲しませたりしながら、最後には感動へ導いているのですね。

 

つまりキャラクターの運命を左右しながら読者の感情をもコントロールしているというワケです!さすが神様だ!すごいや! というわけで今回のレクチャーのポイント!

 

世界を見せる、人生を見せる、それがマンガ!

 

え?いきなりストーリーが出来上がってるって?……そうですね (笑) 、では次回は最初の1Pから考える「構成」の話です!よい夏休みを~!

【今までの授業】

第1回:俺のマンガ道

第2回:最後の個人芸、マンガ!

第3回:キャラが歩けばストーリーが始まる!

第4回:マンガを描くなら神となれ!

第5回:ネームはマンガの設計図 その1

第6回:ネームはマンガの設計図 その2

第7回:ネームはマンガの設計図 その3

第8回:コマで読ませろ!メリとハリ!

第9回:話の意図は構成で決めろ!

第10回:編集者は敵か?味方か?

第11回:井の中から大海に出でよ!

第12回:モチベーションは遠く、深く!

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【カルト映画研究会:第11回】サイレント・ランニング(Silent Running)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第11話】『ミステリと言う勿れ』に見る謎解きの延長にあるもの
COLUMN
【カルト映画研究会:第10回】ブリグズビー・ベアー(Brigsby Bear)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第10話】『茄子』に見る会話の技術
COLUMN
【カルト映画研究会:第9回】華氏451(Fahrenheit 451)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第9話】『最後の遊覧船』に見るマンガと映画の関係性
COLUMN
【カルト映画研究会:第8回】オンリー・ゴッド(Only God Forgives)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第8話】 『エアマスター』に見る決めゼリフの哲学
COLUMN
【カルト映画研究会:第7回】デュエリスト/決闘者(The Duellists)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第7話】『夢中さ、きみに。』に見る同人誌マンガの可能性
COLUMN
【カルト映画研究会:第6回】ベニスに死す(Death in Venice)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第6話】『坂道のアポロン』に見るすれ違いの美学
COLUMN
【カルト映画研究会:第5回】断絶(Two-Lane Blacktop)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第5話】『チェンソーマン』に見る読者との現代性の共有
COLUMN
【カルト映画研究会:第4回】エクス・マキナ(Ex Machina)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第4話】『筆とあいつがいればいい。』に見る新人作家の育て方
COLUMN
【カルト映画研究会:第3回】ライフ・アクアティック(The Life Aquatic with St…
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第3話】『AKIRA』に見るディテールの描き方
COLUMN
【カルト映画研究会:第2回】ドニー・ダーコ(Donnie Darko)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第2話】『のだめカンタービレ』に見る才能の描き方
COLUMN
【カルト映画研究会:第1回】2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)
COLUMN
【漫画で読み解くストーリー:第1話】『鋼の錬金術師』に見るファンタジーのリアリティ
COLUMN
『ブレードランナー』解析講座:過去からの影響と、未来への影響を8本の映画から探る – 後…
COLUMN
『ブレードランナー』解析講座:過去からの影響と、未来への影響を8本の映画から探る – 中…
COLUMN
『ブレードランナー』解析講座:過去からの影響と、未来への影響を8本の映画から探る – 前…
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】最終回:モチベーションは遠く、深く!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第11回:井の中から大海に出でよ!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第10回:編集者は敵か?味方か?
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第9回:話の意図は構成で決めろ!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第8回:コマで読ませろ!メリとハリ!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第7回:ネームはマンガの設計図 その3
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第6回:ネームはマンガの設計図 その2
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第5回:ネームはマンガの設計図 その1
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第3回:キャラが歩けばストーリーが始まる!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第2回:最後の個人芸、マンガ!
COLUMN
【俺とマンガとお前と俺と】第1回:俺のマンガ道

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…

INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催者・老諾さんインタビュー

2024年2月24,25日の土日に、台中〈清水鰲峰山運動公園〉で音楽フェス『浮現祭 Emerge F…