企画屋UTAGEが冬の京都にぶち込む「遅れてきた夏フェス」ことパニックバカンスとは?イベントメンバーのプッシュアーティストのライブから徹底検証
パニックバカンス2016
@Livehouse nano 2016.11.26
@GROWLY 2016.11.27
2日間で33アーティストが出演する『パニックバカンス2016』が11月26日(土)nano、27日(日)GROWLYにて行われた。このイベントの首謀者は京都のイベント集団『企画屋UTAGE』。5人のイベントメンバーはもちろん色々な想いで全てのアーティストをブッキングしたに違いないが、敢えてこのパニックバカンスを初めて体験する観客のために「パニックバカンス2016、このアーティストを見逃すな!」という一押しアーティストを紹介して欲しいと依頼した。このイベントの愛と目論見を、アーティストの好演を通じて検証してみた。
11月26日。少し早いのではと思いながらも急な冷え込みに耐えられず、思わず冬のコートとマフラーを取り出して京都へと向かう。パニックバカンス2016一日目の会場であるnanoに辿り着くと、アロハシャツのスタッフとケバブの香りが出迎えてくれた。一瞬「ドレスコード間違えた!?」「温度差!!」という気持ちになったが、その温度差違和感こそ企画屋UTAGEの術中。代表のミノウラヒロキは自由にお楽しみ下さいというような笑顔で人々を会場へ導く。そんなイベントは企画屋UTAGEメンバーも在籍の西向いて北風からスタート。
おすすめバンド①nayuta
nayuta
2003年に宝塚にて結成 偉大な音楽に敬意を払いながら独自の音楽を追求。 度々のメンバーチェンジを経て現在のかたちへ。 アメリカ、カナダ、台湾、日本全国とライブ活動を行う。 オリジナリティ、 自由度の高さと洗練された演奏は国内外問わず評価されている。
企画屋UTAGEがnayutaを推す理由は?
■推薦者:ミノウラ( 企画屋UTAGE代表 )
「出会いは2014年のナノボロフェスタ。圧倒的なライブに衝撃を受けてその年初開催だったパニックバカンスにオファーし、それから3年連続出演してもらっている。 彼らは色んな音楽を取り込み現在のルーツミュージックを奏でるバンド。オルタナティブ、ジャム、サイケデリック、ジャズ、アフロビート……etcそれぞれへの尊敬を昇華している彼ら自体が音楽である事は間違い無い。 他のアーティストと一線を画すのはやはりライブパフォーマンス。自然体でのアプローチはどこまでを目指して船を漕ぎ出したのか、こちらが勝手に想像してしまいそして裏切られる。そこにあざとさは一切無い、ただただ圧巻である。 いや、音楽への尊敬とか他のバンドもそうやろ!って思う方にこそ見て欲しいです。」
パニックバカンスのドレスコードに則った夏っぽい出で立ちで現れたnayutaが奏でる音は、一曲目からアイリッシュぽくも響くキリッとしたギターの音とアフリカをも感じる軽快なドラムで多国籍感。色んな民族の歌声や音やリズムを感じるのに、nayuta色に染め上げていて、ただ自然に気持ち良く酔うことが出来た。緻密で技巧的で複雑な音がちっとも嫌味でないのは、ゆるりとアドリブ感のある3人の雰囲気が本当に自由で穏やかなのもあるだろう。気が付けば野生の、古来の、そもそもの音に合わせて自ずと体が揺れる。確かに、彼ら自体が音楽というのが伝わる。「音楽とは音を楽しむから音楽」とはよく用いられるフレーズだが、nayutaはそれを超越して「音が楽しい!が音になって、そこに鳴って」いる、とても愛あるサウンドだった。
パニックバカンス二日目は場所をGROWLYに移して、1階フロアから2階スタジオ、3階食堂まで隈なくライブが行われた。
二日目のトップバッター、注目度も高い4人組のニュー・エキサイト・オンナバンドCHAIからイベントが始まると早くも観客が溢れていた。彼女たちのライブが終わると、対面するようにフロアには同じく女性4人組の姿が。そう、タイムテーブルにシークレットアーティストと記載されていたのは京都のおとぼけビ~バ~だった。
おすすめバンド②おとぼけビ~バ~
おとぼけビ~バ~
http://otobokebeaver-kyoto.jimdo.com/
2009年京都で結成されたガールズバンドと一口に言えないガールズバンド。 これまでに十代暴動社より2枚のミニアルバム、JET SET100枚限定のシングル、エジプトレコードより1枚のライブアルバム、2015年4月のレコードストアデイに50枚限定7インチレコードをリリース。 拠点地の関西のみならず、全国各地、また台湾での海外遠征ライブ、そしてNHKライブビートやボロフェスタ出演など精力的に活動をこなす。 2016年3月イギリス編集盤『Okoshiyasu!! Otoboke Beaver』をDamnablyからリリース、同月行われた磔磔ワンマンは平日にもかかわらず満員御礼! 4月にはシングル『愛の暴露本~bakuro book~』を全世界リリースし5月のイギリスツアーも大成功! もう 4人の未知なる化学反応は止められない! どこまでもあなたのハートをかけぬける ラブ・イズ・ショートパンク?
企画屋UTAGEがおとぼけビ~バ~を推す理由は?
「おとぼけビ~バ~は立命館大学の音楽サークルで結成された4人組。女の子のひねくれた気持ちを歌ったポップでキャッチーな歌詞とキュートなコーラスワークを激しい演奏にに乗せてガレージロックを奏でるバンドだ。 関西を中心にライブ活動を展開しており、透明雑誌やBO NINGEN、JUICEBOXXXの来日公演や、赤い公園、きのこ帝国らのライブにも出演している。 ステージでは収まりきらない彼女たちのパフォーマンスは客席をも巻き込み演奏を作り出す。 その究極のグルーヴを体感せよ‼︎」
CHAIの余裕さえ感じるファンクサウンドと「太め短め」のコンプレックスを許容するNEOかわいいゆるさに対峙する、おとぼけビ~バ~の暴力的でトゲトゲしたロックサウンドと、ちょっとエッチでキュートな見た目。この演出、この構図にパニックバカンスのおもてなしを感じた。憎い。振り返っておとぼけビ~バ~が居た瞬間ワクワクして鳥肌が立った。
シークレットのフロアライブはまさにステージの境界線をぶっ壊して客席を巻き込んでいた。ジャリジャリの爆音と、観客の中に切り込んでいくおとぼけビ~バ~に恐れと快感を同時に感じる。小気味良く「悪い男たち」(時には敵視する女の子)を斬っていく歌詞と「関西弁」の耳触りの良さが心地良い。総じて清々しい。“おとぼけビ~バ~のテーマ”から始まり“ぶりっこ撲滅”などいわゆる初期のセットリストを楽しむことが出来た。
一方本編のスタジオライブでは“愛の暴露本”など今年リリースの曲たちを堪能。こちらのおとぼけビ~バ~はフロアと変わらないじゃじゃ馬感がありながらも、はみ出しまくった彼女たちのパフォーマンスにもサウンドにも、どことなく洗練された心地良い加減の輪郭を感じることが出来た。おとぼけビ~バ~の歴史をワンマンではなくこういうサーキットイベントで感じることが出来るという贅沢な体験だった。
おすすめバンド③Pororoca Lindo
Pororoca Lindo
2013年春に大阪で結成されたジプシー&アイリッシュ・パンク・バンド。 “パチャンガ”、“ゴーゴーコンビ”などで活躍してきたボーカル&ギターのゴーゴー木村を中心に、オリエンタルバンド“蛇道-JADOH”のアコーディオン奏者の筒井進吾、ジプシージャズ・バンド“MonDieu”などで活躍するヴァイオリニストの奈倉翔、元パチャンガのリーダーでベースの高橋つね、ロックバンドTam Tamsで活躍するドラムのKOUSUKE とギターのTAMROCK ら、それぞれが違ったジャンルで活躍してきた6人のツワモノ達が集結した強力バンド。 2013年7月ミニアルバム『まかりとおす』でCDデビュー! 2014年5月には初のフルアルバム『酔っぱらいのカーニヴァル』を、 2016年3月には3枚目となる『ポロロッカランド』をリリース。
企画屋UTAGEがPororoca Lindoを推す理由は?
■推薦者:あさき ( 企画屋UTAGE )
「初めてライブを見たのは1月、別のバンドを見に行った時の対バンでした。転換でフロントに並んだ3人が手にしていたのはガットギター、バイオリン、アコーディオン。見たことない類の音楽が始まりそう…ライブ前に初見のバンドに興味を持ったのは初めてでした、 音が鳴り出したら圧倒的な演奏力とパフォーマンス、勝手に目が奪われていました。バイオリンとアコーディオンが華やかでとにかく目立つんですけど、動き回る2人の音をドラムとベースがしっかり受け止めてて決して後ろに下がってない。そこにガットギターの渋い色気とボーカルの熱量。5人それぞれのでっかいエネルギーがステージ上でドカーン!って爆発音がしそうな勢いで融合してるんです。 今回パニックバカンス出演者の中ではやや異色の音楽性で年齢層も少し上のバンドですが、新しいジャンルの「かっこいい」に出会ってもらえればと思います。」
GROWLYのフロアがお酒を酌み交わし陽気に踊り狂えるアイリッシュの酒場に変身、と言ったようなガラリと異色の空気を見せつけるPororoca Lindo。音楽性も楽器も、普段のライブハウス通いの流れでは中々出会えないような感じで、パニックバカンスの色を感じる。アロハシャツに身を包んだ彼らは、若いスタッフのそれとは趣きも違って鯔背で好色。バイオリン奈倉翔とアコーディオン筒井進吾が代わる代わるぐいぐい煽ってきてフロアが色めき立つ。筒井がVo/Gt.ゴーゴー木村のマイクを奪ってボーカルを取るシーンもあったりして5人ともが「俺が一番」と言わんばかりの容赦ない全力プレイでぶつかっていて、それがPororoca Lindoの音になり観客の心を引っ張っていく。アイリッシュ&ジプシーと聞いてちょっと身構えてしまったけど、とてもパンクロックの血が通っていて魂のままに拳を突き上げてしまう。彼らが奏でているものは確かにロックンロールミュージックだった。
おすすめバンド④soratobiwo
soratobiwo
ロック、ポップ、アンビエントを基軸に時にエレクトロニカ、フォークと拘っていない事に拘る音楽を奏でる集合体。 十代が多分に抱えるセンチメンタリズムを未だに引きずる大人になりきれない二十代達。 海を飛んだり空を泳いだり鳥でも良いし魚でも良いし。 水陸両用、変幻自在のsoratobiwoです。
企画屋UTAGEがsoratobiwoを推す理由は?
「soratobiwoを初めて見たのはnanoで対バンさせてもらった時。もーなんか仕事もだるいしバンドもあんまり上手くいってない時期で、その日の自分のライブも良くなくて、あーあって思ってたその日のラストがsoratobiwoでした。 もー凄くキラキラしてるバンドで、音楽って楽しいんやったなー、楽しいから音楽してんのやったなー、とかバンドしてたら当たり前の事なんだろうけど、そんな当たり前をまざまざと見せつけられた感覚になりました。曲も良ければ演奏も上手い。喉元過ぎ去った自分の青春時代をその時の感覚でなく、今の脳みそ、フィルターで再現してくれる、郷愁に似た感覚を覚えるバンドです。“うつせみ”は僕の通勤ミュージック。「みたされないなーなにをやっても、どこまできてもさ」」
スタートから既に観客がひしめき合うスタジオ。酸素も薄く温度も幾度が高い、そんな会場で聴くsoratobiwoの音楽は、そもそも青春と海と空を掲げるバンドなのもあってか、どのバンドよりもどことなく夏を想起させてパニックバカンスにハマっていた。ギターの高鳴りがとても煌めいていて、駆け出すようなハイハットに導かれる“シャンハイミー”で会場は夏の太陽みたいに一気にギラつく。“うつせみ”で気だるく身体を揺らすとちょっと夏の終わりの寂しさを感じたり“kiss”で下手っぴな恋を思い浮かべて甘酸っぱくなったり。パニックバカンスが提唱する「夏休みの初期衝動」と共通する「何かが始まるワクワク」が、例えばバンドマンだったらバンドを始めたときの初期衝動を思い出させるのではないだろうか。みんなで堂々と青春時代に戻れる音楽を、soratobiwoがパニックバカンスにもたらしていた。
おすすめアーティスト⑤ わたなべよしくに(ソロ)
わたなべよしくに
ポエトリー、フォーク、ポップスを絶妙なバランスで繊細に紡ぎあげ、少しずつその活動の幅を広げている。
企画屋UTAGEがわたなべよしくに(ソロ)を推す理由は?
トリ前の1階フロアに現れたのはわたなべよしくに(ソロ)。佐々木とともに自身も西向いて北風のバンドメンバーでもあるごっつのチョイスである。
「美しいフォルムのマッシュルームヘアーと、どこか超越したような物腰の柔らかさから「さては宇宙人だな?」と思わせる風格。 知らぬ間に彼の一挙一動に魅力されている。サッカー部だった訳でもない、川だった記憶もない、カブに乗ったこともないんだけれど、誰しも彼の歌をきけば、涙がでるという。心が洗われるという。誰かのことを歌っているようで、自分のことを歌っているような、寄り添う言葉たちが彼の楽曲にある。 “8月の始め、南の夜空”たった1人地球を飛び出した彼がうたう歌。そこで私たちは気付くんです。彼が地球人代表だと。」
1曲目と2曲目、3曲目……どこが曲の継ぎ目なのか分からないように次々紡がれていくわたなべの音楽は物語のよう。第1章、第2章と進む内に不思議な感覚に陥っていく。今わたしは何をしてるんだっけ?まわりの観客たちはライブと同じく身体を揺らしてわたなべのグルーヴに身を任せていたり、紙芝居を観る子どもみたいにじっと自分の膝を抱えて集中していたり。ポエトリーリーディングのような、フリースタイルのような、絵本読み聞かせのような。不思議なわたなべの世界に引き込まれ、足に根が生えたようにその場に引き止められる。”カッパへ”は川の視点から河童に宛てて書かれた手紙を歌っているが、一見川と河童と私たちに関係性はないようにみえて、そこに歌われているのは確かに私たちの歌なのだ。何故だかいつの間にか涙がじんわり滲んで、本を一冊読み終わった後のように頭がぼんやりしていた。読書感想文を書かなくっちゃ。そんな風に考えると少し憂鬱だが、今読み終わった物語の余韻は重く心地よくいつまでも残っていた。
「遅れてきた夏フェス」って一体何なんだろう……?それは、それぞれ出演者のMCでも幾度も疑問にあがり、出演者自身もそれぞれの解釈と接点でこのパニックバカンス2016を謳歌していたように思う。もちろん、演者はいつも通りのことをするまでという姿勢も、企画屋UTAGEによって綿密に組まれたタイムテーブルによって観客には意味のあるアクトになっている。この2日間は紛れもなく「凝縮した夏休み」。そこにはドラマチックな高揚と何でもない幸せがあった。そして冬の京都に突如現れた夏休みは、楽しくも切ない夏の終わりとともに間違いなく終幕したのだった。
photo:岡安いつ美
WRITER
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滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
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