【俺とマンガとお前と俺と】第2回:最後の個人芸、マンガ!
https://antenna-mag.com/column/series/ore-to-manga_vol1/
アンテナ読者の皆さん、こんにちは!再び名古屋造形大学マンガコースの石川です。連載第2回の今回は、前回最後に「次回からいよいよマンガの作り方に入ります」と言ったのですが、その前提を書いているうちに「個人芸としてのマンガ」という1回分のコラムになってしましました。今回はちょっと理屈っぽいよ~ (笑)
さて、突然ですがみなさんはマンガのおもしろさって何だと思いますか?絵の上手さ?読みやすさ?キャラが好き?……どれも正解だしマンガの大事な要素です!ただ、それだけだったら分析・研究すれば作れそうだし、同時にマンガという文化もすぐ飽きられてしまうような気がしませんか?マンガというメディアが誕生して約80年近く、ほぼ基本的フォーマットを変えずに飽きられず、常にフレッシュな話題を提供出来ているその最大の要因は、その市場規模にもかかわらず未だに「個人芸」であり続けているメディアだから、だと自分は考えます。
言い換えれば、出版社の編集側は未だに「ヒットの法則」を完全にコントロール出来ておらず、経済効果何十億という市場自体がまだまだ「個人の発想」に依存せざるを得ない、という痛快な構図が残っている希有な業態なんですね。いくら業界側がヒットを仕掛けてもハズす事はしばしば、逆にひっそりとデビューした新人がいつの間にか業界を刷新するブームを興したりする、ドリーミーなミラクルがゴロゴロしているという事です。紙とペンだけで田園調布に家が建つ!これをドリームと呼ばすしてなんとする!?エブリバディ・レッツ・マンガ!(笑)
……マンガ家志望者が人生一発逆転の一攫千金を夢見がちなのは、業界のそうしたギャンブル性の高い業態ゆえなんですね。「当たればデカい」のは、少し前の音楽業界もそうだったような気がしますが、音楽業界が「ヒットの法則」をコントロールしようとしてコンテンツに頼らず、マスマーケット狙いの代理店的イメージ戦略に終始して衰退していったのに対し、マンガ業界のクオリティジャッジメントはまだまだ読者の手にあるという健全さが素晴らしいんですね。
とは言え、編集者はその知識と経験からある程度「ヒット作のノウハウ」をそれぞれが持っていますし、それはそれで個人芸でもあります。さらに通常マンガ家志望者はその編集者のゲートをクリアしなければデビュー出来ず、個人で全国に自分のマンガを流通させる事は難しいでしょう (最近はネットからヒット作が生まれたり、いろいろな新しい試みが始まっていますが、まだまだマンガは出版社の流通に依存しているのが実情です) 。
ではマンガ家を目指す我々 (仮に皆さんもそうだとして) は一体どうすればいいのか?……正解は「個人芸」を磨く事なんですね!業界がヒット作をコントロール出来ずいまだ「個人芸」に依存しているのであれば、業界が新人に最も期待するのもその「個人芸」の部分であって、じゃあそもそもマンガの「個人芸」って何だ?と問われれば、それが「ストーリー」だったり「キャラクター」だったりするのです。
マンガのストーリーについては次回からお話したいと思うのですが、個人芸としてのストーリーは単なるあらすじだけ指しているのではありません。よく言われる事に「あらゆる物語のパターンはすでにギリシャ神話の時代から完成している」、「もうオリジナルなストーリーは出尽くして生まれる余地はない」という意見がありますが、これまたある意味正しく、同時に間違っています。マンガのストーリーは (多く読まれようとするほど) ある型 (パターン) に乗って語られる事がほとんどで、そこに斬新さはあまり求められません。
では何故多くの人々は飽きもせず同じようなパターンを支持し続けるのか?それは、人々が夢中になるのがそのパターンに乗っかった作者 (キャラクター) 個人の「想い」や「センス」だからなのです。「ドラゴンボール」「NARUTO」「ONE PIECE」「進撃の巨人」……いずれの大ヒット作品のパターンをなぞって描いたところで、編集者は例えば「ワンピースみたいなマンガはワンピースがあるから要らないよ」と言うでしょう。それこそが編集者自身があらすじや絵柄のパターンにだけとらわれる事なく、ヒット作品における作者自身の個性を高く評価している事に他なりません。
個人の「想い」や「センス」は教えられる事ではなく、その人の経験や生きざま、人生観から産まれるものです。ウチの大学でもたまーにマンガの学校に入れば、まるでそこがマンガ家養成ブラックボックスのように、卒業したらマンガ家になっている (笑) みたいなイメージを持ってる子がいます。しかしいくら絵が上手くても「語りたいテーマ」、「見せたいアイデア」を持っていなければプロにはなれないし、我々講師も指導のしようがありません。持っているアイデアをマンガの物語構造に載せて具現化して、初めて読者にアイデアを伝える事が出来ます。自分の考えをただ声高に主張しているだけでは演説と変わりません。いかに読んでもらう……マンガがエンターテインメント産業である以上そこには「読みやすい」、「読ませる」テクニックが必要であり、我々が大学で教えている多くの部分もそこなのです。
というワケで今回のレクチャーのポイントです。
マンガは誤摩化しの効かない、最後は自分勝負の個人芸
さて前提が終わったところで次回からマジで (笑) ストーリー作りの話に入りたいと思います!今日の講義はここまで!チャンネルはそのままで!
【今までの授業】
第1回:俺のマンガ道
第2回:最後の個人芸、マンガ!
第3回:キャラが歩けばストーリーが始まる!
第4回:マンガを描くなら神となれ!
第5回:ネームはマンガの設計図 その1
第6回:ネームはマンガの設計図 その2
第7回:ネームはマンガの設計図 その3
第8回:コマで読ませろ!メリとハリ!
第9回:話の意図は構成で決めろ!
第10回:編集者は敵か?味方か?
第11回:井の中から大海に出でよ!
第12回:モチベーションは遠く、深く!
WRITER
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石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo
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