ジャンルという言葉を簡単に越境するWhy?という体験 WHY? Japan Tour @UrBANGUILD 2017.05.16
私がWHY?を知ったのはごく最近だが、非常に豊かなルーツが垣間見えるだけでなく、その深いノスタルジックなVo. Yoni Wolfの歌声に一瞬で引き込まれた。何か新しい音楽に出会いたい……そんな気持ちだった私にとって、WHY?の音楽は充分に新鮮で刺激的だったのは言うまでもなく、聴けば聴くほどその飾らない人肌の温かみに心地良さを感じていた。
今年、2017年3月に約4年半振りのアルバム『Moh Lhean』を発表したWHY?。出会ってすぐのタイミングで来日ライブを見られるなんて、私にとって幸運でしかない。約7年振りとなったジャパンツアーの京都編を、待ち望んでいたであろう熱狂的なファンと一緒に堪能してきた。
一曲目の“Easy”から、ビリビリと床を震わせる低音のベース音の上、軽やかな鉄琴の音とYoni wolfの優しい歌声が乗っかって胸を打つ。“This Ole King” “Proactive Evolution”と『Moh Lhean』の前半に収録された楽曲が温く滑らかな質感で続いていく。Yoniの歌声はまるで肉厚で温もりのある大きな両手で受け止められるような安心感を得られるのだが、それと同時に奥底ではどことなく冷んやりとした憂鬱さも感じる。「きれいなだけが世界ではない」と、子どもの自分に優しくも現実の厳しさや理不尽さを教えられているようで、そんなところで私はこのバンドに身を預けたくなってしまうのだ。
一聴しただけではなかなか理解できない、複雑かつ緻密なリズムワークにも耳が離せない。それが独特の全てを飲み込むようなグルーヴを生み、全ての音が各々の意志と鼓動を持って共存しているようにも感じられた。お客さんを圧倒するような迫力あるライブをしているにも関わらず、キュートで茶目っ気たっぷりなメンバーの表情や言動、その手足から隠し切れない音の幸溢れる空気感のせいか、とても自然にリラックスして全ての音を受け取ることが出来る。
その後いくつか旧譜の曲を挟み、Yoniが楽器をパーカッション&キーボードからベースに持ち替えた。より太く鼓動を煽るようなベースラインで始まる“The Vowels Pt.2”は、WHY?のルーツとして外すことの出来ないヒップホップの色がより濃厚に出ている楽曲で、今までとはまた少し違ったビートを感じられる。実兄であるDr.のJosiahとYoniのWolf兄弟が繰り出す多彩なグルーヴに、お客さんは心を鷲掴みにされっぱなしだ。さらに“White English”ではイントロからボイスパーカッションに引き込まれ、美しいコーラスワークが内臓を揺らす。一度のライブで音楽の色々な側面を経験させてくれるのは、Why?の大きな魅力だろう。
再び新譜から“George Washington” “The Water” “The Barely Blur”と、『Moh Lhean』の楽曲を演奏。一瞬深く深く気持ちが沈み込んでいくような感覚を覚えたが、どこかで救いを感じるのはメランコリックなYoniの歌声と、どこかコミカルなコーラスワークのせいかもしれない。“The Barely Blur”の最後に繰り返される「Hold on」というワードが、シンセサイザーの残響の中に溶けていき、奮い立たせるでもなく、悲観するでもなく、生温い爪痕を残し私たちを日常に返していった。
60分というあっと言う間のライブを終え、一度はステージを降りたメンバーだがお客さんの熱い拍手に応えアンコールのためにすぐに戻ってきてくれた。先程までのひとりひとりに距離があるようなステージセットではなく、1本のマイクの周りに4人がぎゅっと集まり、ミニマムなアコースティックスタイルで3曲を披露した。
緊張感があり縦横無尽の広がりを持って音を発していた先ほどとは打って変わり、家に友達を呼んで適当に一曲歌うような、リラックスした空気になった。音数がシンプルな分コーラスワークが際立つことで、最後にぐっと彼らの人間味に触れられた気がする。WHY?からの「手土産」みたいなアンコールで気持ちが温かに満たされた。
私たちは毎日笑顔で幸せを感じて生きていられる訳ではない。もちろん、毎日憂鬱で逃げたくて泣き出したい訳でもない。失ったり蘇ったりしながら誰もに訪れる幸福と憂鬱の両方がWHY?の音楽の中には存在し、それが聴く私たちを濡らしたり乾かしたりして細胞に沁み込んでくる。お客さんのこの上ない幸福に満ちた表情から、音楽そのものの持つ大きなエネルギーを感じた。ライブ会場では当たり前の、だが実はとても尊いものをWhy?のライブでは確実に体験できる。
願わくば、また早く彼らの音に会いたい。そして私のようにWHY?を知ったばかりのリスナーにもまだ知らないリスナーにも、ライブならではの安心とざわめきを届けたいと思った。7年という待ち遠しかったWHY?来日までの時間。再会を待ち焦がれていたお客さんも、その音に出会ってからライブで体感する機会を待ち望んでいたお客さんも、等しく幸福な時間であった。
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滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
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