Post Modern Team 3rdアルバム『COME ON OVER NOW』リリースインタビュー – 岸田剛の音楽制作原体験に影響を与えたこの4枚 –
12月13日に3rdアルバムとなる『COME ON OVER NOW』をリリースしたPost Modern Team。突き抜けるようにポップでロックなギターサウンドが印象的な今作ですが、今回アンテナでは岸田剛さんに自らのルーツとなるアルバムを4枚選んでいただき、岸田さんのこれまでの音楽遍歴を紐解いてみました。サウンド面の影響のみならず、ルーツとなるミュージシャンに対するいちリスナーとしての強い好奇心も、岸田さんの音楽活動を突き動かす原動力になっているようです。
インタビュアー:堤 大樹
まずはじめに岸田さんが音楽を始める、きっかけは何だったのか教えていただけますでしょうか。
オリジナルのバンドをやろうと思ったのは大学卒業してからなので遅かったんですけど、ギターをやり始めたのは中学生ぐらいなんです。世代的にX JAPANとかLUNA SEAがど真ん中だったから、当時はビジュアル系ばっかり聞いていましたね。それで高校生のときにNirvanaとかOasisに触れて、UKのバンドに興味を持ちました。
じゃあバンド自体はその頃から始めたんですか?
友達とコピーバンドをやって、ノリで文化祭に出るぐらいですけど。大学生になってもサークルには入らないで、自分たちでコピーバンドをやっていました。大学生になるとThe WhoとかThe Kinksみたいな60年代UKロックが好きだったんですけど、そういうの好きそうな人が大学のサークルにはいなかったんで。みんななんか、メタル系だったんですよね(笑)
それは見学に行ったサークルのカラーがたまたまメタル系だったんじゃないですか(笑)
そう思って他のサークルも見学したんですけど、全部メタルかハードロックだったんですよね(笑)
どんなバンドのコピーをされていたんですか?
The WhoとかThe Strokes、Iggy Pop辺りの洋楽ばっかりですね。コピーバンドって仲間内でライブハウスを借り切ってライブをする感じだったんで、ブッキングっていうシステムも全然分かっていなかったんですよ。
それがどういうきっかけでオリジナルに踏み切ろうと思ったんでしょう?
普通はまずバンドを組んで、ライブが決まるからオリジナル曲をつくるっていう流れなんだと思うんですけど、僕は「自分で納得のいく曲が出来ないとバンドも組めないし、ライブは出来ない」って思っていたんですよ。曲づくりに対する理想が高かったんですよね。大学を卒業してからようやく自分の納得いく曲がつくれたので、NINGENCLUBというバンドを組んでライブを始めました。
じゃあ卒業まではとにかく曲を磨き上げていく時間で、曲をつくる=ライブに直結していなかったんですね。
そうですね。宅録ばっかりしていたので、バンドを始めたときからスタジオでセッションするっていうやり方もやったことがなくて。自分が自宅で形にしてきたものをバンドで再現するっていう感じでずっとやってきました。だからスタイルはバンドなんですけど、作るのはいつも一人なんですよね。
1枚目 『Oasis(Definitely Maybe)』/ Oasis
選んできていただいた4枚のアルバムについて順番にお伺いしながら、岸田さんの音楽遍歴を紐解いていきたいなと思います。
時系列で言うと『Oasis』が最初ですかね。
Oasisを聴くきっかけは何だったんですか?
高校生のときに先輩がコピーしていたのを聴いて、いいなと思ってCDを聴いた感じですね。プロミュージシャンじゃなくても、高校生が弾いていてもポップでキャッチ―ですぐ覚えられるところが好きです。
シンガロング出来る感じがありますもんね。岸田さんの作品がポップでキャッチ―と評されるのはこの辺りから影響を受けているんですかね。
日本人が英語を分からなくても歌える曲をつくる、っていうのは大前提ですね。
他にOasisを参考にしているところってあります?
ノエル・ギャラガーも割と全部ひとりでつくっているんですけど、そういうところも影響されているんだろうなとは思いますね。
ノエルが好きなんですね。
いやー、難しいんですけどやっぱりリアムが好きなんですよ。ノエルの作ったソロの曲とかすごくいいんですけど、「あーこれがリアムの歌声だったらな……」って思ってしまいます。リアムの声が好きなんですね。
ノエルかリアム、なれるならどっちになりたいですか?
自分がなるなら、ノエルですかね。リアムはもう、なろうと思ってなれる存在じゃないっていうか、天然でカリスマ性があって、育ちからもうあんな感じだし。
2枚目 『Is This It』/ The Strokes
2枚目がThe Strokesの『Is This It』。Oasisの次がもうThe Strokesなんですね。少し時間的に空いている印象もありますが。
もちろん、この間にRadioheadとかBlur、Coldplay、Museなんかは聴いていて。アメリカだとBeckが好きだったんですけど『Mellow Gold』からローファイなものがすごく好きになって、そこからBeat Happeningとか、ローファイばっかり聴いていましたね。
それらを聴いてきた上でThe Strokesを選んだっていうのはなぜなんでしょう?
同じときに他にもThe Velvet UndergroundやTelevisionとか60~70年代のNYパンクを聴いていたんですけど、The Strokesを最初に聴いたときにTelevisionぽいなって思ったんです。音も歪んでなくてクリアでシンプルなTelevision、っていう感じで一番新鮮で印象的な存在だったんですよね。Oasisも結構歪んだ感じの音だったし。
Post Modern Teamの音も割と歪んでいなくてカラッとしている印象なんですけど、その辺りはThe Strokesの影響もあるんですか?
フレーズの手癖とかはかなりThe Strokesから影響を受けていると思いますよ。あんまり歪んでいないのがThe Strokesの影響……というのは実は後付けで。元々My Bloody Valentineみたいにぐしゃぐしゃに踏みまくるシューゲイザーみたいなバンドをやっていたんですけど、その時エフェクターケースを2回電車に置き忘れたことがあるんですよね。だから、僕はエフェクターを持ったらアカン人間なんだと思って(笑)。極力エフェクターは繋がないようにしています。
今でいくつくらい繋いでいるんですか?
やっと4つになりました!しかも2つは踏みっぱなしのやつで。
それは少ないですね(笑)
あと、今回選んだ4バンドともそうなんですけど、まずメンバーのキャラが立っていて見ためがかっこいいっていうのがあって、The Strokesなんかルックスが完璧なんですよね。それなのに急にニック・ヴァレンシがキリストみたいに髪を伸ばし始めてなんでや!?って思ったり。まあこれは腐女子みたいな視点なんですけど(笑)。The Strokesは知れば知るほど色んなことが計算されていないというか、奇跡的なバンドなんですよね。本人達はそれほどTelevisionのこと知らないらしいですし。
ええー!?本当ですか(笑)。それにしても色んな方にインタビューさせてもらっていて、アーティストの見た目のこと話す方って初めてです。
以前は見た目関係なく音楽が良ければ響くだろう、って思っていたんですけど、30歳を過ぎてからバンドって見た目も含めてトータルだよな、って思うようになりましたね。そこだけ注目するのはどうかと思うけど、リスナーの入り口としては大切だと思います。Post Modern Teamはルックス重視していないですけどね。
ルックスで思い出したんですが、アルバムのジャケットについてもお伺いしたいです。1stや2ndはジャケットも女性の写真でしたけど、今回の『COME ON OVER NOW』のジャケットはどんな風に決まっていったんでしょう。
このジャケット、実はよく行くお店に飾ってあった絵だったんですけど、直感的にいいなと思って。今回は女性のジャケットはやめようというのも思っていましたし、その場でお店に交渉して、絵の作者の方とコンタクトを取って、ジャケットになったという感じですね。そのお店自体のプレイリストも割とUKの音楽が多くて、気に入って通っていた場所だったんですよね。
色々緩やかに繋がっているんですね。今回のジャケットを見たときに、岸田さんのピュアなところに戻ったなって感じていたんです。Post Modern Teamは2枚目のアルバムまでNINGENCLUBとは違う音楽をやるバンドとしているのかなと思っていたんですけど、「やっぱり岸田さんのやりたいことはこれじゃないか!」と思って。
1stや2ndの感じは、自分が好きでやっている部分ももちろんあるんですけど、ジャケットの雰囲気も含めて当時のシーンに合わせていたっていうところが大きいですね。インディーではああいうジャケットが流行っていたし、音楽も1stだったらドリームポップとかネオアコ、2ndだったらシンセ・ポップとか四つ打ちが時代に合っていたんですよね。でも去年ぐらいからもうジャンル問わず色んな音楽が流行り出した気がしていて、どんなジャンルをやってもいいっていう土壌が出来たと思うので、それなら自分は元々好きだったルーツのところに戻ろうって思ったのがこのアルバムですね。
僕としては帰ってきた感じがして嬉しかったです。
NINGENCLUBを知っている人からはそう言われますね。
3枚目 『Up The Bracket』/ The Libertines
持ってきたアルバムの話に戻りましょうか。3枚目はThe Libertinesの1st『Up The Bracket』ですね。これはいつ頃聴いていましたか?
これも大学生の頃ですね。日本に来てライブを20分で終わったっていう話を聞いて、そのエピソードがすごいなと思って。The Strokesは割と音源通りにライブをするんですけど、The Libertinesはけっこう荒っぽいライブをするし、スキャンダル的なところも含めてそのやんちゃさがかっこよかったですよね。
パンクとかメロコアから影響を受けた系譜のバンドって、実はそこまでぶっとんでないケースも多いと思うんですけど、The Libertinesはメンタリティを含めてリバイバルでしたよね。他には影響を受けているところはありますか?
あとThe Libertinesぐらいからネット上に音源をアップするっていうのが出だして、その後Arctic Monkeysとかが本格的にやりだしたと思うんですけど。そういう自由な活動の仕方にも影響を受けていますね。
4枚目 『things left behind...』/ My Bloody Valentine
ありがとうございます。そして四枚目についても教えてください。最後はMy Bloody Valentineで、しかも『things left behind…』で、時代が少し戻る感じですね。
『Loveless』と迷ったんですけど、こっちの方が『Isn’t Anything』 よりも前の楽曲が編集されていて、めちゃくちゃパンクでメロディアスで、1曲1曲が短くて速いんですよね。
これはいつ頃聴いていたんですか?
これも時期的には大学生のときですかね。やっぱりMy Bloody Valentineって80年代のギターポップとパンクから発展したバンドっていう感じなので、あらためてシューゲイザーってパンクからの進化を感じられます。今回のアルバムというよりNINGENCLUBとかは影響受けていて、僕のルーツというか。
こうして拝見すると、岸田さんを構成する4枚は全部大学生時代に影響を受けたものになるんですね。やっぱり血肉になっているものって何年経ってもそんなに変わらないというか。
そうですね。30歳過ぎると、曲単位でいいなと思うものはあってもアルバム1枚通して聴いて良かったっていうものも減ってきますよね。
じゃあちなみに、今年一番良かったアルバムを挙げるとしたら何ですか?
Alvvaysの『Antisocialites』ですね。1stのときは普通にいい感じのドリーム・ポップだなって思っていたんですけど、今回はリード曲が切なくて、全体的にキャッチ―で歌える感じが良かったんですよね。
その辺りも岸田さんの原点に繋がっていますね。
ずっと変わらないんですよね。
根っからのミーハーだからこそ、追い続けられるピュアさ
岸田さんのルーツを紐解いた上で、オリジナリティの話を伺いたいなと思っていた理由に、別の媒体さんの記事で岸田さんがご自身の音楽を「オリジナリティがない」って語っていたのが気になっていて。何故そう思われるんでしょうか。
音楽をつくるときに「オリジナリティのある音楽をつくろう」と思って作れないんですよね。Oasisみたいな曲を作ろうとか、いつもお手本となる音楽がある。「ポップでキャッチ―な作品ですね」って言われてもそれは結果的にそうなったっていうだけで。
僕はそれが不思議な感覚だなって思うんです。お手本があったとしても自分の解釈が加われば「オリジナリティがない」とまで言い切れないと思います。
だから僕は「俺はOasisだ、Oasisのこの作品の続きをつくるんだ」ぐらいの気持ちで曲を作ってるんです。ゴーストライターみたいな感覚ですかね。お手本としている音楽があって、突き詰めていくともちろん似てくるから、自分の色を出していこうって普通はなると思うんですけど、全くそうは思わなくて。「ノエルならこう弾くだろう」と思って作っているんです。出来たものは結局違うものなんですけど (笑)
なるほど、面白い作り方ですね。それはやっぱり「俺がこの作品の続きを聴きたい!」っていう気持ちがあるからですか?
それもあるけど、「ノエルになりたい!」んですよね。
岸田さんって、音楽に対していい意味でミーハーですね (笑)
僕、めちゃくちゃミーハーですよ!
岸田さん自身が一番リスナーに近い感覚のミュージシャンだから、結果的にポップでキャッチ―で聴きやすい音楽が出来るのかなと感じました。ミュージシャンって自分のミーハーさを隠そうとしちゃいがちじゃないですか。
分かります、僕も昔はそうでしたもん。でも、それは歳のせいだと思うんですけど、全部言っちゃった方が生きやすいなって今は思います。
最後にPost Modern Teamの目標というか、岸田さんのミュージシャンとしてこうなりたいっていう欲求はありますか?
30歳過ぎた頃から本当にそういうの全然ないんですよね。NINGENCLUBのときはそういう、売れたいみたいな欲求もあったと思うんですけど、今はとにかく自分の好きな曲をつくりたい、ただそれだけです。作った音楽を聴いてもらえた上でライブにも誘ってもらえているのでありがたい限りです。働きながら音楽やるっていうのが当たり前だし、いつか仕事を辞めたい、っていうのもないんですよね。
そう言い切れる岸田さんは本当に潔い、アーティストだなと思いますよ (笑) 。ありがとうございました!
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滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
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