REVIEW
HANA
CIFIKA
MUSIC 2021.05.07 Written By 小倉 陽子

動き続けて、自分の在りかを射止めた第1章

生まれは韓国だが思春期から社会人として働くまでの約10年を過ごしたのはアメリカ。そこから音楽を始めるためにあらためて韓国に移る。そんなエレクトロニック・ミュージシャンCIFIKAが、2016年のデビュー後初のフルアルバム『HANA』を2020年8月にリリースした。

 

2018年にはSXSWの韓国音楽ショーケース『Korea Spotlight』に出演し、2020年にもSXSWへの出演が決定していた彼女は、イギリスやアメリカで韓国の音楽家として注目されている。一方韓国では、かつて2NE1やBrown Eyed Girlsなども受賞した韓国大衆音楽賞で最優秀ダンス&エレクトロニックソングを受賞したかと思えば、ソウル・弘大のインディーバンドHYUKOH(ヒョゴ)のOHHYUKとのコラボレーション“MOMOM”が話題になった。CIFIKAの音楽に出会うきっかけは韓国の一シーンにはとどまらず、そのことが彼女の活動を拡張するとともに、その音楽性を独自のものにしている。

今作が、自分という存在をマクロな大陸や気象と相対させることと、自分の心の中のミクロな感情を描き出すことを行ったり来たりしているのは、CIFIKAのこれまでの動きと無関係ではないだろう。ある種の心許なさを感じるほど壮大なイメージの打ち込みが近未来的でもあるM1“Solar”と、CIFIKAの伸びやかな歌声が拡がりを見せ、過去へも想い馳せるようなM8“Grow”。ただただダンスしたくなるようなM3“DéjàVu”やM6“Give me time”があるかと思えば、多様なリズムを取り入れつつ歌の表現力に魅了されるM7“Hexagon”やM9“Kill me with your love”など、収録曲に関してもエレクトロニックと一言で言うのが口惜しくなる。CIFIKAの韓国名유선は英語で「You Sun」と表記するのだが、1曲目の“Solar”では自分の名前にちなんだ太陽を題材にしたかったとも言っている。太陽が個人的なモチーフとしても存在していて、楽曲を通じて歌われる愛の話も、極めて個人的な感情に基づいたものが元になっている。

人の外側を取り囲む環境と内側で起こる感情を相対させて、自分という存在を確かめていくこと。それは自分を認めて欲しいと思うと同時に、他人という無数の個人を受け入れていくことにもなる。どこにいても音楽ができる時代に、ましてや歌から作詞・作曲、プロデュースまでを自身でつとめれば、外側から受ける影響が限られてくるだろう。そのことをもう一度実感し制作に取り入れるために拠点を選び直したのかもしれない。環境の変化に影響を受ける自分とそれでも変わらない自分を捉え直した創作の集大成とも言える今作。韓国語で“1”を表す『HANA』というタイトルが示すように、ここまでがCIFIKAの第1章だ。自分の在りかを射止めた後の第2章が、これから外側とどんな関係性を築いていくのか、見つめ続けたい。

HANA

 

 

アーティスト:CIFIKA

仕様:デジタル

発売:2020年8月31日

購入リンク:bandcamp

 

収録曲

 

1.Solar
2.Gaze
3.Déjà Vu
4.Reborn
5.Came to tell
6.기분탓 (Give me time) 
7.Hexagon
8.Grow
9.Kill me with your love
10.Waterfall

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