【俺とマンガとお前と俺と】第9回:話の意図は構成で決めろ!
アンテナ読者の皆さん、こんにちは。名古屋造形大学マンガコースの石川です。
夏も終わり、時は秋、皆様にはいかなるアヴァンチュールな思い出が残りましたか?
さて、当コラムも前回から「構成」の話に入っております。構成と一言で言っても、マンガにはコマ単位 (画面構成)、ページ単位 (1Pあたりのコマ配置) 、ストーリー単位 (話全体の中でのシーン構成) と構成だらけなんですね。前回はコマ単位を中心にお話ししましたが、今回はもう少し俯瞰してストーリー単位で構成のお話しをしてみたいと思います。
様々なストーリー作りの指南書やwebサイトを見ると「起承転結」や「序破急」といったテンプレートが説明されているのを見た事ある人もいると思います。こうしたテンプレートは確かにストーリー構成の大事な考え方であり、実際作品のほとんどはそれに沿って作られているワケなのですが、逆に最初から意識しすぎるとアイデアの持つ「おもしろさ」を殺し、凡庸なお話しの型にハメてしまう事にもなりかねません。「起承転結」や「序破急」と言ったテンプレートはアイデアをストーリーに落とし込む上で有効なのですが、その結果が面白くなければ何の意味もありません。つまり「構成」とはルールやテクニックである以前に、あくまで思いついたアイデアをどうやったら最大限効果的に面白く伝えられるだろうか?・・という考え方なんですね。
そこでまず出発点としてアイデアの魅力を考える事から始めていきたいと思います。
例えばこんなアイデア (ありがちなヤツ) を持っていたとします。
地味だが厳しいメガネ女子風紀委員と、モテるんだけどちょっとチャラい男の子のラブストーリーです。おもしろさのポイントは何でしょうか?
・風紀委員という真面目なイメージとチャラい男の子とのギャップ
・地味なメガネ女子と実は可愛いというギャップ
・チャラい男子というイメージと実は純情で誠実な一面というギャップ
「ギャップ」ですね、要するに (笑)。さて、ネームに起こすにあたって「構成」をどう考えるか。
1.どんな読者を想定しているか?
まず主人公(主観)をどちらの目線で語るか、男性読者なのか女性読者なのか、まずそこからですね。なぜならお互いのコンプレックスは対照的であり、どっちの目線で描くかで、読者にどんな気持ちに共感してもらいたいか決まるからです。
2.このキャラクターの魅力を伝えるにはどうしたら良いか?
「ギャップ」ですね。読者の先入観を利用して「でも本当はね」という流れで徐々にキャラの深いところを見せていくのがいいですね。
3.この設定を活かすには、情報をどの順番で見せていくのが効果的か?
主人公が「実は美少女」なら、最初に見せたらダメですよね。チャラい男子も然り。本命のネタはここぞというシーンに取っておくにしても、最初っから興味を持たれなくても困る。主人公のダメなところは見せつつ共感や応援させるためには「実は美少女」以外の部分で魅力を作っておく必要があります。
4.このアイデアの盛り上がりはどこか?そこに至るにはどのようなシーンが必要か?
恋愛ストーリーならば、男の子と女の子がお互いの本質的な部分を理解しあうところが盛り上がりであり、そのために何か事件が必要でしょう。理解しあうシーンに至るためには、お互いとことんいがみ合うプロセスを前に入れる事でよりドラマチックな演出が可能になります。
5.作者の意図が伝わるためには、どこを強調すべきか?
同じプロットでも「どこを強調したいか」によって、シーン構成も変わってきます。女の子の可愛さを推したいのならば徹底的に女の子の心情の変化を追うべきだし、二人の恋愛の面白さを強調したいのであれば、二人のやりとりのちぐはぐさやすれ違いを俯瞰して描けば読者もまた二人の感情を俯瞰して楽しむ事ができるでしょう。つまりアイデアを思いついてネームを起こす段階で、まず「この話の面白さは何か?」を考える事。それによって強調すべきポイントが見えてくるし、そのポイントに沿ってシーン構成を考えていけば良いのです。
このようにありがちなプロットでも視点や強調すべきポイントによって、ストーリーが変わってきます。例えば少女マンガでは「恋愛」という限られたモチーフの中で数多くのバリエーションが作られて数多くの傑作が生まれているのは、キャラクターのバリエーションと強調すべきポイントの無限の組み合わせから「新しい」ストーリーが生み出されているからなんですね。
マンガのエッセンスを形作っているのは、コマ単位の構成 (コマの中の構図、強調すべき情報) →ページ単位の構成 (大ゴマと小コマの配置とリズム) →シーン単位の構成 (シーンの位置と意味) →エピソード単位の構成 (ストーリーの意図と読者に与える印象) といった大小様々な「構成」の考え方です。その全てのコントロールの基幹には作者が意図する「そのアイデアの面白さ」があります。そのための起承転結であり序破急なのです。したがって構成の正解はあくまで作者の意図の中にあり、読みやすいかどうかは基本として、そこから先は皆さんが自分で決定していくしかありません。我々が学生に指導している時によく言う「ここをこうするともっと面白くなるよね」というアドバイスは、正解を示しているのではなく、あくまでこちら側からの提案としての構成バリエーションであり、学生の考えたネームよりたまたま面白そうな構成が思いついたので提案しているのにすぎないのです。
「構成」が上手くなる事はイコール「マンガ」が上手くなる事です。そのためには構成を単なるテクニックとしてだけとらえるのではなく、自分の個性の一部としてカスタマイズされたお気に入りの道具のような感覚でどんどん試行錯誤を繰り返していってほしいです。そうすれば貴方はいつか「学校行って帰ってくるだけ」のプロットでも面白いマンガを描けるプロ作家になっているかもしれません!
では今回のレクチャーのまとめ!
どんなネタでも「構成」次第!
それでは次回をお楽しみにー!またねー!
WRITER
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石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo
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