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【俺とマンガとお前と俺と】第10回:編集者は敵か?味方か?

BOOKS 2017.02.01 Written By 石川 俊樹

アンテナ読者の皆さん、ご無沙汰しております、名古屋造形大学マンガコースの石川です。

 

自分達のバンド、フラットライナーズのCDリリースを挟み、すっかり間があいてしまいましたが、当コラムもついに10回目!ここまで続けさせていただいたアンテナ編集部と、もちろんいつも読んでいただいてるみなさまのおかげです。ありがとうございます!

 

さて、今まではHow to的な視点でお話してきましたが、10回目の節目というところで今回から少し違う視点からのお話をしたいと思います。題して「編集者は敵か?味方か?」!

マンガは自由に描いているうちはとても楽しい。自分が面白ければいいし、特に締め切りもなければマイペースでやれる。ただその「面白さ」を多くの人と共有したい、マンガを本屋さんで単行本として売りたい、あわよくば仕事としてお金を稼ぎたい、と欲が出てきたら貴方には担当編集者が必要です。マンガに詳しい人なら誰でも「担当編集者」というワードを聞いたことあるかと思いますが、改めて簡単に説明すると担当編集者というのはそんな欲が出てきた貴方のためのビジネスの窓口となる人です。そんな「編集者」に皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?作家さんとケンカしたり感謝されたり、「窓口」というにはずいぶん立ち入った印象を持つ方も多いかもしれません。そこで質問!

 

「(マンガ家を目指す) 貴方のデビュー作 (掲載作品) が、どのような作品か想像できますか?」

 

そんなの想像出来るに決まってるじゃん!今一生懸命描いてるこの作品だよ!……確かにその通りかもしれません。そのつもりで書いてもらわないと困るし、掲載される事にモチベーションを持たなければ商業作品は作れません。ただデビュー作を目指すとなると、大抵そこには編集者の介在なくして成しえないし、その結果貴方の予想もしなかった「紆余曲折」があるんですね。

 

マンガ家を目指す学生にとってこの「紆余曲折」が大きなハードルになります。なぜなら学生にありがちな甘い考えの一つに「編集者は自分の才能に気づいてくれて、それを売り出してくれる人」という大いなる誤解があるからなんですね。編集者は味方、どころか自分のマネージャーくらいの考え方です (笑)。まあ、大きく言えば間違ってないのかもしれませんが、デビュー前の新人である学生と編集者の根底には以下のような意識の違いがあります。

学生 → 編集が今描いているこの作品を商品として売り出してくれる!

 

編集者 → この学生の作品をたたき台にして商品になりそうな部分を育てていく……

おわかりですか?この違い……学生は作品そのものを「商品」として認識しているのに対し、編集者は「商品になりそうな部分」と思っています。この認識の違いのせいで編集者とのミーティング、そこで指摘される「直し」に対する考え方にズレが出てくるのです。編集者がネームを直すのは、その先に「商品化」というビジョンを持っているからで、そこで作者と作品について対話しながら商品化へのブラッシュアップをしていきます。それに対し「商品化へのビジョン」を持っていないか、持っていると勘違いしている学生はその「直し」に対しなんとなく、せっかく形にした自分のアイデアの出鼻をくじかれるというか、出る杭が打たれるような気持ちになる人が多いのではないでしょうか?

 

よくある「直し」に対する間違った対応として、編集者がダメ出しした部分を直さず、勝手に全体的にリニューアルしてしまうケースがありますが、これは編集者の目指す商品化へのプロセスを自らリセットする考え方です。リニューアルしたネームが面白ければそれはそれで編集者は進める場合もありますがゼロベースからのスタートになる点では同じです。

 

我々教員も学生作品を直しますが、ビジネスが絡んでいない立場なので編集者とは違います。その違いは以下の通り。

ヒット作のノウハウを持つ編集者に対し、20歳前後の学生が同じくその意識を持つのは無理な相談、むしろ新人 (学生) はそんな事考えずに伸び伸びと面白いアイデアを作品にしていく事の方がよっぽど大事だし、そこの部分こそが編集者に出せない魅力です。編集者がその魅力を商品として前面に押し出しべく「直し」をするのは当然だし、そこを絞らないとヒット作としてのエッジも立てにくい。それは1回や2回の打ち合わせで絞れるもんじゃないし、その方向性に関して学生は信頼して委ねるしかないと思います。

 

結果うまくいかなかったり、センスの面でどうしても編集者を信頼できないならば相性のいい新たな編集者を探すしかないのですが、単純にマンガを描いて面白ければデビューできると思って入ってくるマンガコース学生が往々にしてくじけやすいポイントがその「紆余曲折」なんですね!

 

マンガが現代に残された最後の個人芸である、というお話をこのコラムの第2回でしました。しかしながらその「個人芸」の部分をどう解釈するか・・それはマンガに限らず音楽でも映画でも、クリエイターはすべからくビジネスという「紆余曲折」に耐えうるタフな精神性があって初めて自分の個人芸を世に出す力を得る事ができると思うのです。

 

それでは編集者は敵なのか?味方なのか?……答えはそのどちらでもありません!編集者はあなたのビジネスパートナーですから。しいて言えば編集者は「マンガの味方」です!

 

では今回のレクチャーのまとめ!

 

マンガは編集者との紆余曲折に耐えてこその個人芸!

 

それでは次回をお楽しみにー!バイバイキーン!

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