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【俺とマンガとお前と俺と】第3回:キャラが歩けばストーリーが始まる!

BOOKS 2015.05.13 Written By 石川 俊樹

アンテナ読者の皆さん、こんにちは!名古屋造形大学マンガコースの石川です。この連載コラムも3回目、いよいよ実践的マンガ理論のお話に入っていきたいと思います。このコラムを読んでいる貴方、マンガを描く人も、マンガを描いてみたい人も、描かない人もとりあえず描く方向で (笑) 興味を持って読んでいただければ幸いです。ではレクチャースタート!

マンガは画力もさる事ながらストーリーが大事、という話は前にも言ったような気がしますが、ではその「ストーリー」はどのように作るのか?マンガコースに入学したての学生でも「アイデアはたくさんあるのに話がまとまらない」「キャラクターを描くのは好きだけどお話が作れない」等と悩む人は必ずいます。そんな時にはストーリーの大前提として「誰が」「何して」「どうなった」という流れを考えろと言います。

そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれませんが、いざマンガを描こうとするとコレがなかなか難しい。盛り込みたいアイデアが多すぎて舞台設定が複雑になりすぎ誰が主人公なのかわからなくなったり、話の展開を考えたつもりでも実は劇中で主人公は何もしてない、といったケースが学生のネームにも多々あります。そんな時いつでもこのシンプルな公式に立ち返ってプロットを考え直して欲しいんですね。そして今から特にお話したいのは「誰が」の部分。なぜならそこにマンガというメディアの特性があるからなんです。その特性とは……一般的なマンガ読者は誰も「ストーリーを追う」事なんかしないという傾向です。

 

皆さんはマンガを読む時「これはどんなストーリーなんだろう?」と思って読み始めますか?もしそういう姿勢で読む方がいたら、その人はかなりマンガに対して親切か、マニアな人ですよ! (自分もそうですが……笑) 。多くの読者はマンガを学校の休み時間や仕事のスキマ時間、家に帰ってくつろぐひとときに「楽しみ」として読むわけです。そんな時にいきなりストーリーを追う事はせず、まずは主人公に注目しそこに感情移入しながら、主人公を通してストーリーを「体験」するんですね。マンガは国語の教科書じゃなくて基本的に娯楽なんだから、とりあえず見てすぐ出てきたキャラクターに感情移入して読むのがラクだし、おもしろければその分感動を味わえ る……マンガとはそういったメディアなのです。

 

ゆえにマンガではなによりまず主人公を始めとした登場人物「キャラクター」が大事。極端に言えばこの「キャラクター」こそが読者が最初に出会うあなた (作者) の「アイデア」であり、この先ページをめくってくれるかのカギとなる要素なんです!ここまでオーケー?……ちょっとわかりにくい?じゃあこんな例えはどうかな?

 

「こないだすげえ事あってさ……あそこの港町あるじゃん、そこで会ったヤツなんだけど、そいつ麦わらにシャツ1枚でいつも短パンでさ、冬でもそのカッコで腹出してんの。そう、とにかくテンション高いヤツで……んで、すげえのはある時そいつの腕がさ……」

 

ONE PIECE

 

なにかおもしろい事を人に伝えようとする時、えてしてその話の当事者の事をまず説明しませんか?それは聞いてる人にその話のおもしろさを伝えるために、まずキャラクターから興味を持ってもらう必要があるからなんですね。マンガも全く同様で読者は常に作者から「すげえ事」を期待して話に耳を傾けます。そういったワケで図1における「誰が」の部分が非常に重要なんです。学生がキャラを考えて例え口頭でのみ説明しても、上記のような理由で「そいつおもしろそうじゃん」と思えたらそのプロットは成功の可能性が高いと言えるでしょう。

 

そうなると問題は「おもしろいとは何か?」という事になってくると思います。「それが出来たら苦労しないよ!」という学生諸君の声が聞こえてくるような気がしますが (笑) 、言うまでもなく人が「おもしろい」と思う要素は人それぞれ、立場や年齢によって様々なので、万人に受けるキャラクターを考えるのは至難の技である事は確かです。マンガ雑誌にはある程度読者層によるジャンル分けがあって、大雑把に言うと「幼年誌」「少年誌」「少女誌」「青年誌」「女性誌」の括りがあります。低年齢層では比較的ストレートで容姿もキャッチーなキャラクターが好まれ、大人の読者になるともう少し複雑な内面とリアリティがないと共感は得られにくいでしょう。小学生には島耕作のどこがカッコいいのか、わかりづらいと思います。 (島耕作に憧れる小学生がいたらちょっとヤですよね (笑) )。

 


課長島耕作

 

ただ、マンガのキャラクターが読者の興味を惹かなければならない宿命を背負っている以上、全てのマンガのキャラクターにはある共通点を見い出す事が出来ます。

それが「共感」「憧れ」「好奇心」の3つです。ストーリー構成における「誰が」の部分でこの3つの要素のうち1つでもヒットすれば読者はとりあえずストーリーの世界に入ってきてくれるでしょう。じゃあ入って来たら後どうすればいいか?…… (キーコーンカーン……) はい、丁度時間となりましたのでその話はまた次回。では本日のレクチャーのポイントです。

 

マンガの入口はキャラクターから!

 

それでは皆さんまた次回お会いしましょう!ばいちゃー!

【今までの授業】

第1回:俺のマンガ道

第2回:最後の個人芸、マンガ!

第3回:キャラが歩けばストーリーが始まる!

第4回:マンガを描くなら神となれ!

第5回:ネームはマンガの設計図 その1

第6回:ネームはマンガの設計図 その2

第7回:ネームはマンガの設計図 その3

第8回:コマで読ませろ!メリとハリ!

第9回:話の意図は構成で決めろ!

第10回:編集者は敵か?味方か?

第11回:井の中から大海に出でよ!

第12回:モチベーションは遠く、深く!

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