【俺とマンガとお前と俺と】最終回:モチベーションは遠く、深く!
アンテナ読者の皆さんこんにちは、名古屋造形大学マンガコースの石川です。
いよいよ当コラムも最終回です。今までマンガについて思うところをつらつらと書き綴ったコラムも12回目。マンガ家を目指している人の役に立ったかはわかりませんが、読者の皆さんのマンガに対する興味や関心が少しでも高まったなら、自分としては嬉しい限りです。それでは最後!行ったります!
題して「モチベーションは遠く、深く!」
さて、自分は仕事柄高校の進路相談会に行ったりするのですが、最近特に思う傾向として「なんとなく絵に関わる仕事がしたい」と思っている若い人がとても多いという事です。この「なんとなく」というニュアンスがキモで、かつてはそういった「絵に関わる仕事がしたい」と思ってる人も画家なら画家、イラストレーターならイラストレーター、マンガ家ならマンガ家とある程度関わりたい仕事のイメージを持っていたのに対し、今の若い人にはその境界が曖昧になっており、その根本には「マンガ的なキャラ絵」、いわゆるコミックイラストレーションをベースにした創作意欲があるような気がします。
それは自分の働く美大でもここ5~6年顕著な傾向であり、洋画・日本画からグラフィック・イラストレーションに至るまで「キャラ絵」に対するモチベーションが往々にして共通しています。もちろんそれがダメだとか間違っているという話ではなく、美術も含む現状のポップカルチャーがクロスメディア化し、最もとっつきやすい入り口として「マンガっぽいキャラ絵」があったのだろうと推測しています。それはそれで様々な可能性があるとも思うのですが、こと将来「絵に関わる仕事」として「マンガ」をチョイスする場合、この「マンガっぽいキャラ絵」を入り口にする事の誤解があると思います。
実は「キャラ絵」が描ける技術はマンガ家として必要な才能の2~3割程度であり、当ブログでも主にそれ以外の7~8割の部分の「考え方」について論じてきたつもりです。自分がなぜ最終回にこんな話をするかというと、今時のマンガ家志望者の多くの動機もこの「キャラ絵」であり、最も大事なストーリーや構成のところまでモチベーションが届かないケースが増えているような気がするからです。例えばヒットしたマンガのキャラクターの絵を単体で見た場合、いわゆるコミックイラストレーションの専門家に較べて必ずしも上手いとは言えないと思います。それでもマンガのキャラクターがここまで浸透しているのは、表情や佇まいにストーリーに裏打ちされた魅力が宿っているからだと思うのです。つまりマンガのキャラクターにはそれぞれがストーリーの中で生きた証としての魅力が「深み」として見えてくるからなんですね。
マンガに限らず音楽でも映像でも作者の深度が、そのまま読者が受け取る作品の深度と比例していると思います。長く愛される作品には深度があり、自分がこの世界に入るにあたって影響を受けた作品もまたそうでした。エンターテイメントとして様々な楽しみ方があり、必ずしも「深み」こそが作品の価値であるなどと言うつもりはありません。しかしながら「キャラ絵」に固執し、その先のストーリー作りの楽しさや演出の醍醐味にまでモチベーションが達しないままマンガを描き続けるには正直限界があると思います。かつてのマンガ家にとっては「絵」は自己実現のツールであり、だからこそ逆説的に自己を投影する鏡としての「凄み」と「深み」があったように思います。マンガが日本の誇る文化として認められ、そのイメージもどんどん一般化していくにつれてマンガの本来持つ「深み」から「キャラ絵」の部分だけがどんどん一人歩きしているような気がしてならないのです。
今の世の中にはこういった考え方がたくさんあります。男の子の格好良さも女の子の可愛さも1元的情報で判断されがちなのはSNSが浸透した時代だからこそなのかもしれません。すぐにわかりすぐに好きか嫌いか判断できる・・・音楽も漫画も映像も、求められているのはそんな1元的な情報で、結論出るまでに時間のかかる「深み」はあまり歓迎されていないようにも思えます。だけどそれでいいのでしょうか?
かつてある編集者の方が安いギャラで多忙な中時間を割いてわざわざ大学の授業を引き受けていただいている事に対しこう言われました。
「これはマンガへの恩返しだから」
昨今の即物的な流れの中で自分がマンガを教える、ストーリーの作り方を教えるのは、自分がかつてマンガから教えてもらった「人生の深み」に対する恩返しなのかもしれません……。
高校生が「絵に関わる仕事」を夢見てノートに鉛筆でキャラを描く、そこが全ての始まりです。そこからもしそのキャラクターが頭から離れず、頭の中でいろんなシーンを演じたり、しゃべり出したり、挙げ句の果てに運命を背負って冒険を始めるようになったら次に貴方のやるべきは「マンガを描く」事なのです!そこには「コマ割り」や「背景」といった壁が立ちはだかる事でしょう。もちろん「演出」や「構成」も考えなければなりません。それでも貴方の中のキャラクターがストーリーを求め続けているならば、貴方にはそれを作品として世に出すだけのモチベーションがあるのです。そうして生み出された作品がまた誰かの人生に影響を与えていく・・マンガの素晴らしさとはそういう事であり、そういう素晴らしさを目指してマンガ家を目指してくれるならば自分としてもそれほど嬉しい事はありません。
12回に渡って極私的なマンガ論にお付き合いいただいたアンテナ読者の皆様、本当にありがとうございました!
では最後のレクチャーのまとめ!
そんなわけで君もマンガ家を目指そうじゃないか!
それではまたどこかでお会いしましょう!バイバイベイビー!
今までの授業
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WRITER
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石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo
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