【俺とマンガとお前と俺と】第6回:ネームはマンガの設計図 その2
アンテナ読者の皆さん、こんにちは。もうすっかり冬本番で、休日は引きこもりがちな名古屋造形大学マンガコースの石川です。名古屋はわりと雪が降らないようですが、京都はいかがなんでしょうか?冬の京都も素敵ですよねえ…… (想像)
さて今回は前回サンプルで出した拙作16Pマンガを参考に、特に冒頭部分のツカミを中心にお話していきたいと思います。
※サンプル作「ヴァーチャルレスキュー・マーク7」全編は第5回コラムを参照して下さい
以前にコラムでも書きましたが、読者はマンガを見ながら常に先の展開を無意識に先読みしていきます。その上で本筋の展開が自分の予想通りだったり、それ以下だったり、自分の気に入らない展開だったり、展開のスピードが遅すぎたりするとそこで興味を失い、読むのをやめてしまいます。
そしてそんな作者と読者の闘いは1P目 (ヘタしたら表紙から) 始まっているのです。ただある程度最初で読者を掴む事ができれば、読む側にもハズミが付き読者の自意識が後退してストーリーに没頭してくれます。そうなれば第1関門クリアですね。最近のマンガは表紙前からコマページが始まっているケースが多いですが、これもいかに早く読者にハズミを付けさせるかの一つの策だと言えるでしょう。
では具体的にどれくらいのページ数が勝負の分かれ目なのか?……マンガにおいて読者がその作品を読むか・止めるかジャッジするのは、だいたい冒頭の4Pくらいです (全体のページ数に関係なくです!) 。あとにどんなにおもしろい展開が待っていても、そこでトバされたら元も子もありません。そんなワケでマンガにおける最初の4Pには読者に伝えなくてはならない以下の情報が必要となってくるのです。
A:時代・場所・状況の説明
B:主要人物紹介・それぞれのキャラクター性の説明
C:どんな話なのか、ある程度わかるイメージ
D:おもしろそう?
最後のヤツがもっともハードル高そうですが (笑) 、たった4Pでこれだけの情報を説明に頼らず無理なく入れ込んでいくにはある程度テクニックが必要です。ではさっそく見ていきましょう (本来ネーム段階で考える事ですが、わかりやすいので原稿で説明していきます) 。
A:時代・場所・状況の説明
まずは背景ですね。キャラクターも大事ですが、まずは4P以内に舞台がどこなのかハッキリわかる背景を描く必要があります。学園ものなら校舎を描いて制服のキャラクターを出せばすぐにわかりますが、ファンタジーやSFの場合この部分をいかに無駄なく見せるかが難しいところです。そういった場合一番読者がイメージしやすいアイコン (城、塔、戦場、宇宙船、ロボット等) をズバリ出して行った方がわかりやすいと思います。サンプル作は現代ではありますが、ヴァーチャルリアリティを扱うSF的な要素もあるので、ズバリ一コマ目で小さいですが「電脳研究所」という看板描いちゃってます(笑)。2コマ目ではオフィスの様子、先端技術者をイメージさせるためにIDタグと白衣です。背景では外観から内部描写に行くのは一つのセオリーですね。
B:主要人物紹介・それぞれのキャラクター性の説明
キャラクターはストーリーの中で変化します。主人公は成長するし、悪そうなヤツは実はいいヤツだったりする。ストーリーはその変化のダイナミズムを楽しむものなので、ここではまず登場人物の初期設定をハッキリ示す必要があります。ちなみに読み切り作品で扱える主要人物 (サブキャラではない) は45Pでも多くて4人くらいですよ~。サンプル作は16Pなので主要人物は2人だし、ドラマも大したダイナミズムは望めませんが、とりあえず「セクハラ気味なうっとおしいオッサン」と「それが迷惑そうなおねえさん」がどのような関係なのか、1Pと2Pで説明しています。
C:どんな話なのか、ある程度わかるイメージ
「ある程度」と書いたのは、ストーリーもまた転がって変化していくダイナミズムがおもしろさでもあるので、最後には読者が思いもよらなかったところまで連れていってくれたりするといいですね。最初の4Pではそもそものスタート地点での話のイメージを示します。
例えば「恋愛もの」なのか「ヒーローバトルもの」なのか「ギャグ」なのか「怖い話」なのか、後の展開次第ではどう転んでも可ですが、とりあえず「どんな話」なのか早々にイメージ出来ないマンガは、案外飽きっぽい読者はついてきてくれないもんです。サンプル作は16Pという限られたページ数なので、なおさらスピーディーにタイトに展開してどんな話か見せています。1~2pでキャラクターの性格を見せ、3P目にバーチャルリアリティ装置を使って、このオッサンがよこしまな事を考えるんだろう、くらいの状況説明になっています。
D:おもしろそう?
こればっかりは読者の主観なので難しいところなんですが、少なくとも届いて欲しい読者層にはツカミの時点で引っかかってくれないと困ります。まず上記の「どんな話か?」の部分である程度期待される「おもしろさ」も予想する事が出来るのです。サンプル作で言うと……
①うざ絡みのオッサンとセクシー美女 → ギャグとお色気
②ヴァーチャルリアリティ → SF的コメディ要素となんでもアリな展開への可能性
③キャラクター2人の性格 → 容易に落ちなそうなヒロインに話がエスカレートしそうな予感
……といったところで読者が期待してくれたら、このマンガの「ツカミ」は成功したと言えるでしょう。
今回はマンガのスタートダッシュとも言える「ツカミの4P(サンプルでは3P)」について見てきました。読者がそこで乗ってきてくれたらコッチのもん!次にやるべき事は「いかに飽きさせないか」です!
というわけで今回のレクチャーのポイント。
マンガ最初の4Pは出し惜しみ無しで読者にアピール!
次回も引き続きコマ構成について見ていきまーす!
WRITER
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石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo
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