【俺とマンガとお前と俺と】第5回:ネームはマンガの設計図 その1
アンテナ読者の皆さんご無沙汰しております、名古屋造形大学マンガコースの石川です。前回は「マンガ描きは神にも等しい」などとついつい吹き上がってしまいましたが、時はすでに秋、自分の頭もクールダウンしたところで今回は自分のマンガを晒しつつ (笑) 堅実に進めていきたいと思います。題して……。
マンガ好きの皆さんはすでに御存知かもしれませんが、一般的にマンガ制作のプロセスはアイデア→プロット→ネーム→原稿下描き→ペン入れ→仕上げという流れがあり、今まで当コラムでは主に理論的なとこからアイデア出しの部分を語ってきました。そこまで来たらプロットを元にネームを描いて行くのですが、実は全工程で最も重要なのがこの「ネーム」なんですね。
ネームとは何か?簡単に言うと「プロット」がアイデアやストーリーやキャラクターのメモ書きだとすると、「ネーム」とはマンガの設計図であり、コマ割りから構図、セリフ、キャラクターの表情までほぼ原稿と同じ状態で決定していく作業です。編集者との打ち合わせにおいても、この「ネーム」をもとにあーだこーだと話し合い、ネームがOKとなると (「ネームが通る」と言います) ほぼ確実に掲載が決まります。ただし、新人の場合はネームが担当編集者を通っても掲載会議でボツになる事もままありますが、いずれにしても編集者はこのネームの出来によって完成原稿を掲載するかどうか判断しているのは間違いないところでしょう。
ではここで10年くらい前の拙作「バーチャルレスキュー・マーク7」をサンプルに、ネームと原稿の違いを見てみましょう。あ、そうだ!簡単にストーリーを紹介しますと、セクハラ気味の天才科学者が作ったバーチャルリアリティ装置にお気に入りの女子社員を巻き込み、あの手この手で口説くという……くだらない事この上ない (笑) シンプルな16P読み切りマンガです。
上の画像が完成原稿、下がネームでどちらも同じ1P目 (表紙) です。表紙からいきなりコマ割ってストーリー始まってるのは16Pというボリュームだし、わざわざ表紙絵つけるほどでもないアレな話なんで (笑) さっさと始めた方がいいかな、という判断です。較べていただいていかがでしょうか?ほとんど同じですね。違いは1コマ目の建物と女の子の髪型くらいです。自分のネームはかなり描き込む方なんですが、1コマ目はネームでは適当に描いた研究所の建物を原稿では一応資料見て描き直しています。あと女の子はネームの段階では髪型含めなんとなく野暮ったかったので、原稿下描きの段階でキャラデザインし直しました。後は基本的にネームの通りセリフ、コマ割り、構図を変えずに描いています。設計図ですからね。
では細かい変更点とは他にどんなのがあるか、9P目を比較してみましょう。まず1コマ目、「すっごくおいしい!」と言いながら下のネームでは鍋の中身が見えず、これではダメですね。ゆえに上の原稿では雑炊とわかる絵に変更しています。次に6コマ目、下のネームでは左寄りのコマが縦に人物のアップが続いて少々気になるのと、本棚の大きさを強調するために上の原稿では人物に対するカメラを引いてメリハリをつけています。大学における学生へのネーム指導ではストーリー全体の事だけではなく、このようなシーンごとの細かい見せ方や演出効果についても細かく直していくのが通常です。
さて、ここまで見てきた皆さんは「ネームさえ出来ればマンガは7割出来たようなもんなんだな」と思われているかもしれません。それは正しいのですが、言い換えさせてもらうと「ネームさえ通ればマンガは7割出来たようなもんだ」がより正確な表現で、まあ実際一度ではそう簡単にネームは通らないわけです。3~5回直しが入るのは普通で、直しが入れば入るほど、作者が当初考えてたストーリーとは違ったものになって行きます。逆に直しが少ないネームほど当初の完成度が高いという事になるでしょう。この「バーチャルレスキュー・マーク7」という作品も何度もの紆余曲折を経たわけですが、ここでネーム第1稿の1P目 (表紙) を見てみましょう。
タイトルからして違う!これ、ストーリーも全然違うんですよね……表紙もなんとなく説明的だし勢いも感じられない。でもこれはこれで今でも嫌いじゃないw!…… (マンガ描きって自分好きだから……) 。今回アンテナ編集部の粋なはからいでマンガ本編とこの第1稿ネーム全ページを冒頭に掲載していただいたので、比較していただくと、どのアイデアを捨ててどこを膨らませたかわかっていただけると思います。その辺りは続編「ネームはマンガの設計図 その2」で細かくお話していきましょう!
さて、今回のレクチャーのポイントです。
ネームは通ればコッチのもん (通らない) !
次回はさらに細かく「コマ割り」を見ていきまっしょい!
WRITER
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石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo
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