【小倉陽子の見たボロフェスタ2016 / Day1】台風クラブ / あっこゴリラ / CHAI / 夜の本気ダンス / クラムボン
アンテナでは今年のボロフェスタのレポートを、ステージごとにアップするのではなくライブを見たライター別にアーティストをまとめています。少々探しにくいかもしれませんが、これはボロフェスタの掲げる”あなたの好きな音楽”と”私の好きな音楽”を繋げるというテーマを、ライブレポートでもなんとか再現したいと思ったからです。
各ライターのシフトは本人たちに決めてもらっていて、個人の趣味や趣向を反映させました。この記事を見る人が「このライターの趣味は自分に似ているから、レポートに載っている見れなかったバンドをチェックしてみよう」と、ライターというフィルターを通して新しい音楽との出会いの場所にしていただけたら幸いです。
小倉陽子のボロフェスタ一日目 :台風クラブ ⇒ あっこゴリラ ⇒ CHAI ⇒ あっこゴリラ ⇒ 夜の本気ダンス ⇒ クラムボン
長らく気になっていたのに、なかなか一歩を踏み出すことが出来なかった『ボロフェスタ』。大好きなあの音楽も、噂に振り回されていたあのバンドも、ノーチェックだったアーティストも全部一度に観られるフェス。持ち前の人見知りを克服して、ジャンルレスに気になるものを観てみよう。地下へ地上へと冒険してみることにした。
台風クラブ
開演前から熱気高まるUnderground STAGE一番最初のアクトは台風クラブ。簡単なあいさつ程度、ほとんどMCを挟むことなく演奏をたたみかける。懐かしいような青くさくて、味わい深いバンドサウンドにカラダを揺らしてのめりこんでしまう。魂のこもった全力の演奏が醸し出すけだるげな台風クラブの世界に夢中だ。地下に居るのに青空へと切り開いてしまいそうな熱量。”台風銀座“の怪しい高まりでまだまだ知りたい聴いていたいと思った頃に「今日の帰りのうたをやります」と“まつりのあと“。わざわざ言葉を発さなくても30分8曲に込められたトキメキとざわつきが全てを雄弁に語っていた。冬の近づいた京都に「台風」がきて、夏を思い出した。ボロフェスタの始まりに相応しい、熱い熱い時間だった。
CHAI
演奏はもちろんのこと、言葉遊びやパフォーマンスのリズム感にセンスの高さを感じる、ニュー・エキサイト・オンナ・バンドとはCHAI、彼女たちのこと。そんなセンスを崇高だとか難解に感じさせない彼女たちの提唱する新しい価値観「NEOかわいい」は本当に既成の可愛いを軽々しく超えていて本当に可愛い。とにかく可愛い。時々気が触れたかと思うテンションも秀逸で愛おしい。ライブ中、何度も吹き出してしまうような、ほんわかした本気の遊び心と、クールに洗練された楽曲に会場は夢中になる。CHAI的「ゲロッパ」を感じるナンバーも、ヘンテコな言葉センスに脱力しながらそのグルーヴにノるしかない。もうCHAI無しでは生きていけないかもしれない、と思うような強烈な中毒音楽に出逢ってしまった。
あっこゴリラ
「先週アフリカから帰ってきました、3回死にかけたので今”生”の悦びをラップに載せます」と言うのはあっこゴリラ。恐らく、地下ステージにはHIP HOPにそんなに明るくないであろう観衆もいたように思うが、もうもはや人間忘れてラップのリズムで野生に帰ればいいと言わんばかりの清々しいアクト。そして、そんなアフリカで死にかけたときに出来たという”遺書”という新曲を披露。”ドンキーコング”で会場は最高潮に。生死を飛び越え、人間をも飛び越え、自らのスタイルを突き進むあっこゴリラは只の美人ラッパーじゃない、ホンモノのエンターテイナーだ。
地下とロビーに2回現れたあっこゴリラだが、ロビーでは客席からクリトリック・リスのスギムと空きっ腹に酒の田中幸輝をステージに呼び込み、ボロフェスタでしか見られない夢のMCバトルが繰り広げられた。
夜の本気ダンス
「踊れる準備は出来てますか?」夜の本気ダンスを好きなオーディエンスなら、このお決まりのセリフだけで充分スイッチが入るだろう。初めて観る人でも大丈夫、夜の本気ダンスは間違いなく躍らせてくれる。1曲目”Crazy Dancer”が鳴り始めると早やる鼓動に4つ打ちのキックが厚く響いて、ベースラインが高揚へと導いていく。
同い年の同じ京都出身の岡崎体育のパフォーマンスを引き合いに「僕たちざまあ見られてる方ですけど」と会場を笑いに包みながらも、新しくGt 西田一紀を迎えてのバンドサウンドはとても煌めいていてバンドであることの喜びを感じる。夜の本気ダンスに加入するために京都に引っ越してきたという西田の話で、会場が温かく歓迎した。
“Dance in the rain”で横に揺れながらVo / Gt 米田貴紀のノスタルジック且つ色っぽい身体性にもうっとりする。迷うことなく踊り狂うフロアに”WHERE?”をお見舞いして京都を背負う「本気の」ダンスビートをしかと体感した、幸福な時間だった。
クラムボン
photo:井上 嘉和(http://www.photoinoue.com/)
15年前の第1回目、そして2003年第2回目にもトリを務めたクラムボンが、2016年1日目のトリを飾る。おかえりなさいの気持ちで期待を高め待つ観客たち。サウンドチェックで”波よせて”が鳴ると早くも会場が口ずさみだす。Ba ミトが自身のベースを調整しながら「リハーサルだけど、オーディエンスももう少し大き目で下さい!」と声をかけると抑えきれずシンガロングが始まる。それを見守りながらKey / Vo 原田郁子も笑顔で「はじけちゃえよ!」と煽る。幸せな空気のまま”THE NEW SONG”が始まり、続けて「京都に所縁のある曲を」と、けいおん挿入歌の”U&I”カバーを披露。そしてメンバー紹介から高らかな鍵盤で”シカゴ”のイントロが始まると会場の興奮はこれでもかと渦巻く。13年振りのボロフェスタと約20年振りだというKBSホールの思い出で懐かしさが溢れると、1stシングル”はなればなれ”で会場は最高潮。何となく自分の1999年のことを思い出してひとしきりセンチメンタルになったりしながらも、20年もの間色褪せないで鳴り続けるクラムボンの音が幸せで、ボロフェスタも同じく15年歩み続けたからこそここでこうしてまた幸せな時間が実現したのだと、思わず泣き笑いながら手拍子をする。
昨年メジャーレーベルを離れたというクラムボンだが、全国流通大手を使わずクラムボンの活動に賛同するジャンルレスな店舗に委託販売しているというミニアルバム『モメント e.p.』から”slight slight”を披露。KBSホールステージに現れた圧巻のステンドグラスに照らされて、キラキラ光る音の粒がそこに居るオーディエンス一人一人に届いて染み込んでいくような空間だ。
アンコールでは原田の提案でステンドグラスの灯りのみになった会場で”ナイトクルージング”。本当に良い音楽は待っていては届かない。自分の目と耳と、五感でフルに嗅ぎ分けて選びとっていかねばならない。そんな中、ボロフェスタというフェスは本当にボーダーレスに「良い音楽」との出会いを後押ししてくれると心から感じた私のボロフェスタ1日目だった。
ステンドグラスにうっすらとオーディエンスだけが照らされ、クラムボンの3人が去った後の会場に音の余韻だけが心地良く残った。
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WRITER
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滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
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