『ウサギバニーボーイさん』祝賀会 @ 京都GROWLY ライブレポート
器用に生きられない僕らのスーパーアンセム、ウサギバニーボーイ
誰しも、この音楽に出会ってまるで生まれ変わったかのように目覚めたり鼓舞した、というような音楽があるのではないだろうか。私にとってそのひとつがウサギバニーボーイなのである。
「またまた広島からやってきました」というコピーとともに全国リリースされた、アンテナでもおなじみの広島バンド、ウサギバニーボーイ(以下、ウサギ)の新譜『ウサギバニーボーイさん』のレコ発京都編が、2016年10月23日に京都GROWLYで行われた。 以前インタビューも公開されているように、広島産の音楽は、自身もきってのウサギバニーボーイフリークであるという、京都のKANDATA RECORDS安齋氏が西日本フェスを通じて交流を深めたことにより、京都からリリースされることになった。そして京都のライブハウスで開催された『ウサギバニーボーイさん祝賀会』。この新譜レコ発ツアーは既に地元広島はもちろん、東京や山口、大阪と開催されているが「祝賀会」という名目がついているのはこの京都でのイベントだけである。ウサギバニーボーイの新譜を祝う8組のオルタナティブなバンドによる祝い合戦に、私も出陣してきた。
ミスタニスタ
祝賀会をトップバッターで切り込んでいくのは京都のミスタニスタ。少年のようなフレッシュで勢いのあるパフォーマンスながらも、3人のグルーヴは仕上がっていて息の合った演奏がとても、気持ちいい。豊かに色を変えていくリズム隊と、力強く伸びやかなギターボーカルで、楽曲ごとにもセットリストの中にもドラマをつくっていく。 Ba ジョーザキ・フィリップはイベントのフードも担当するとのことで、観客出演者ともに長いイベントをゆったり楽しめるようにと、食事からも盛り上げる。
Emu sickS
タイトで斬れ味鋭いクールなダンスグルーヴを武器としながらも、その愛すべきキャラクターでウェルカムな空気を醸し出し、確実に踊らせてくれるのは大阪のEmu sickSだ。
彼らのウサギへの敬愛は度々の対バンで披露してきたウサギの“素敵な生活”をリハーサルで鳴らすところからもヒシヒシ感じる。そして彼らの楽曲の中でも比較的珍しくまっすぐ心情を綴った“ファイアーバード”には社会人を続けながらもバンドを終わらせない夢と再生が描かれているが、ウサギの背中を見ている彼らだからこその深い思いが伝わり、この日の演奏は格別感慨深いものがあった。
Gue
「気の利いたことは言えませんが……」と遠慮がちなMCと、歌詞に載せられた言葉からも不器用ながらやさしくて熱い世界が伝わる京都のGue。きっと今までに音楽に救われてきた、それを音楽で返そうとしているかのように聴こえる真摯な楽曲たち。Gueのバンドサウンドが客席を広く大きな海のように包み込むと、あまりにも心地よくてただただ身を任せ漂っていた。
atuiso
今イベント唯一のインストバンドatuisoは言葉は無くとも情景を色を熱っぽく伝えてくる。ドラムのアベがウサギをとても好きなのが伝わってくる微笑ましいMC。ゆるりとした空気をまた一変するように、芳醇なギターの音色と豊かなリズムだけで叙情的な世界を見せつける。 ウサギバニーボーイをはじめ、音楽において歌詞の持つメッセージ性や言葉の響きの破壊力にしばしば私たちは救われるが、音だけだからこそ感じるドラムやベースのダイナミズムやギターの高鳴りの中に新鮮な感情を発見する。
踏み絵サンダルス
東京からやってきた踏み絵サンダルス。不安で狂気じみたツインギターの絡み合いが心をざわつかせ、時々ひょっこり顔を出すポップさと懐メロっぽいコーラスワークに心がなごむ。殴りかかっては肩を透かすような調子についついのめりこんでしまう、クセになる曲者だ。私たちから見た東京というのは日本の中央であり全ての中心であるように思うが、初めて東京を出ての、京都でのライブであるという彼らはひとつの東京という地方都市代表だという親近感のある空気であった。
unizzz…
りんご音楽祭に出演するなど、その活動にも注目が集まるunizzz…だが、余裕のようにも見えるその佇まい、ヒーロー感あるギタープレイと一筋縄ではいかないリフのフレーズ、気持ち良く力の抜けるゆるいエレクトロサウンド、キュートな男女ツインボーカル、その全てが色とりどりで、ポップなようなハードボイルドなような、スペイシーで浮遊感漂うような、不思議な魅力で会場を圧倒していく。どこにも媚びない、カテゴリーすら軽くかわしていくような独自の世界がとても小気味良い。
FINLANDS
「ウサギバニーボーイを祝い勝ちしにきましたよろしく!」と誰よりも闘志を見せるのは神奈川からやってきたFINLANDSだ。
その言葉通りウサギへの祝福熱を溢れかえらせ爆発させる。客席を煽るパフォーマンスは決して自らの欲を満たす為ではない。もっと正しい音楽に身を委ねて、思い切り祝えよ!と言わんばかり。ギターロック然としたそのサウンドと、ボーカル塩入のギターみたいでチャーミングな歌声が清々しい。もはやライブハウスに収まりきらないといった彼女たちの音は、完全に会場の温度を上げた。圧倒的な祝い勝ちだった。
母の鳴く家
いよいよウサギへバトンをつなぐ、母の鳴く家。客席からステージを見つめるウサギのGt / Vo 高宮に、母の鳴く家Gt / Vo 植田が、前に対バンしたの覚えていますか?と聞くと、頷く高宮に照れ笑い。あどけなくまっすぐに、だけど切なさと焦燥を携えた植田の歌声とストイックな演奏陣の調和が、オルタナティブロック然としていて誇り高くすら感じる。最後の曲“操作の「はい」”でジリジリと鼓動の奥が焦がされていく。幾度かのメンバーチェンジを経ながらも鳴らすことを辞めなかった母の鳴く家の音が、ウサギバニーボーイの背負う覚悟に共鳴していく。
ウサギバニーボーイ
いよいよ本日の主役、ウサギバニーボーイの登場だ。ところで今更とは思いながら、ウサギの特徴のひとつに「メンバーが約20人」というのがある。知らない人はそれだけを聞くとひしめき合うステージを想像するかもしれないが、現れたのは高宮を始めGt 南、Ba 上杉、Dr サキチヨの4人。約20人のメンバーから出演メンバーを選抜するシフト制を採用する稀有なバンドだが、バンドを存続するために編み出されたその稀有なスタイルながら、どのメンバーが舞台に立っても、ちゃんと「ウサギバニーボーイ」なのだから、まず本当にそれだけでも驚きが大きい。
『ウサギバニーボーイさん』から“太鼓ポップ”を皮切りに収録順通り、ほぼ全曲を旧曲を挟みながらたっぷり披露する。『ウサギバニーボーイさん』の収録曲たちは、それぞれの楽曲が各々の人生のシーンのどこかで寄り添ってくれるような、優しさと強さがある。音源はいつもどこかに持ち歩きたいのはもちろん、それを今、生で目の前でまるで走馬灯のように体感する。
ローファイな不器用さと、上手く生きられず人知れず涙したり、ささやかでありながら誰かと心を通わせて幸せに震えたり。そんな誰にでもある日常に、ウサギの音楽はこれからも鳴り続けるに違いない。
アンコールでは彼らのキラーチューン“素敵な生活”で会場全体がこれでもかと拳を振り上げ、“干からびる寸前の焦燥”で全ての魂を音に捧げる。
この日そこにいた全ての人が祝っていたのは新譜の発売でありながら、ウサギバニーボーイというバンドそのものの存続であり、誕生への祝福のような気がした。
You May Also Like
WRITER
-
滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
OTHER POSTS